39 帝国審問官ラニサヴ・ドスタルの想定
俺の名前はラニサヴ・ドスタル。
すべては想定の上になりたっている。
そして俺は今、何故か連邦にいる。
帝国の審問官なのにだ。
だから連邦のレギーナ・スタルチュコフなる人物も素通りさせてやったし、その前の被り物集団にも一切関与しなかった。
当たり前だ。
ここは帝国じゃない。
俺は帝国審問官、ラニサヴ・ドスタル。
二度目の自己紹介を終えたところで早速本題に入ろうと思う。
俺は実のところすべてを知っている。
だからこの場に集まった全員が気の毒で仕方ないのだ。
だから俺は仕方なく教えてやることにする。
『俺の名はラニサヴ・ドスタル。帝国で審問官をやっている』
三度目の自己紹介を華麗に終えたところでそろそろ気の毒な奴らを紹介しよう。
主犯の王国。共犯の連合国。それからついでに被害者の連邦――。
しかし最近は帝国に対する風当たりもきつくなっている。
『そんなわけあるか!』『ばかなの?』『クズ!』『ゴミ!』『カス!』『帝国審問官!』
はい。私がラニサヴ・ドスタルです。
想定の中でも名指しでいうと反発がすごい。
その理由も一緒に説明しなければ相手が気の毒だ。
『戦力の分断こそがこの会議の本質』
ニヒルに決めた俺はそこで言ってやる。
『俺の名はラニサヴ・ドスタル』『うるさい!』『バカ!』『だまれ!』『どうでもいいでしょそんなこと!』
四度目の自己紹介も難なく終えたところで二度目の反発を買う。
最近の聞き手は結論ありきの含んだ語り口がどうにもお気に召さないらしい。
王国には冒険者がいるというので俺は仕方なくその期待に応えることにする。
『各地から流れ込む民衆。王都の冒険者は戦うまでもなく自滅する』
『うるさい!』『バカ!』『だまれ!』『どうでもいいでしょそんなこと!』
俺は五度目の自己紹介を始めようとして、三度目の反発に思わず顔をしかめる。
『偽物だよ。本隊は海上から王国本土に侵入。北上する南の戦力を待ち伏せし、これを殲滅。王国は王都での籠城戦に突入ラニサヴ・ドスタルです』
避けられない運命の五度目の自己紹介。
今度は気の毒な奴らが思わず顔をしかめる番だ。
勢いに乗った俺はその饒舌に拍車をかける。
『宣戦布告と同時に越境を開始した帝国軍は国境沿いの砦を容易く攻略する。時を同じくして王国・共和国国境線に共和国軍が北の兵をその場に釘付けにすべく集結。戦力の集中運用に活路を見出す王国は、これに南の戦力を充当すべく画策。帝国軍相手に時間稼ぎを強いられる西の王国軍は、戦力の合流を待ちながら王都へと徐々に後退することになる・ドスタルです』
最早世界の一部と化したドスタル。
俺はもうただのラニサヴ・ドスタルではいられない。
『しかしそれすらも偽物。本命は王国南西部に位置する大森林から、すでに王国本土へと浸透済み。帝国軍の足止めを図る王国軍を横目に、速度を重視した電撃的な奇襲ですぐに王国は白旗を上げることになる』
『そんなわけない!』『王国は負けないわ!』『連合国もだぞ!』『連邦も怒ったぞ!』
「むごむごむごっ!」
油断しているとすぐに調子づく気の毒な奴ら。
「むごむごむごむご。むごむごむごむご」
「いや何言ってっか分かんねぇよ……」
横から同じく帝国審問官の女が何故か口を縫い合わされた俺にそういった。
「むごむごむごむご?」
「いや何言ってっか分かんねえから……」
「むごむごむごむご。むごむごむごむご」
「いや何言ってっか分かんねえから!」
各国の代表団が控える大広間にキレのある女性の叫び声が響く。
「むごむごむごむご。むごむごむごむご」
「いやしつこい!?」
俺の名はラニサヴ・ドスタル。
すべては想定の上に成り立っているといっても過言ではない。




