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勇者パーティーはクビになりましたが、どうやらマスコットはやめられないようです!  作者: れんこんのきんぴら和風パスタ
夢見る少女は相容れない2
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37 王フレデリック・イッポリト・ドゥ・ブロイの堅実

 詰めかけた民衆。異様な雰囲気に包まれた王都。その外周に沿うようにして外から囲い込むように広がる天幕の数々。王城の窓辺から見下ろす王都の街並みの今は、まるで以前とは別物の様相を呈していた。


「エヴラール殿下は失敗なされたのか……?」


 王城の大会議室。その片隅に囁かれるある一つの可能性。主導者なき場に投下されたその一言は――正に内側から王国を(むしば)む秩序なき理性――感情という毒そのものだった。


「残念だがそうとしか考えられないだろう」

「そもそも連合国との同盟など成立するはずがなかったのだ」

「自国の命運を他国に託したその末路がこれか……」

「それよりもこのような時に王族の方々は一体どこへ行かれてしまったのだ」

「逃げたんだろ?」

「オイッ」

「何だ。身をお隠しになられたとでもいえばいいのか? どうせお前も思ってるんだろう? 都合が()()()()ってな」


 男は自嘲(じちょう)気味に、そしてどこか諦めたように笑う。


「王族はこうなることを知っていたのか……?」

「やはり王はそれでエヴラール様を……」


 会議室に蔓延(まんえん)する王族への不信感。それを拭い去るように開け放たれる会議室の扉。姿を見せた王国の頂点フレデリック・イッポリト・ドゥ・ブロイはその場で簡単に集まった顔ぶれを確かめた後、静けさの中に持ち前の重苦しい声を響かせる。


「エヴラールとの連絡はついたか」

「未だ……」

「そうか」


 入口で止めた足をおもむろに会議室の奥へと向かわせる王。


「やはりこちらからお迎えに向かうべきでは……」

「よい。連絡がつかないということが必ずしも悲観的な未来を示唆するものではない。信じて待つさ」


 そうして用意されたいつもの定位置へと腰を下ろす王。会議室に立ち込める厳かな雰囲気の中、その会議は始まった――。


 ♦


「ロレーナ砦陥落。パブロ侯率いる王国軍は後退。現在二次防衛線であるイレーナ砦に集結中とのことです」


 王城の会議室に流れる、その場に集まった中では比較的若い部類に入る男の淡々とした報告。中央に据えられた円卓を囲む、白髪交じり、あるいはその頭髪を真っ白に染めた男たちによって、すぐさま会議は紛糾(ふんきゅう)の気配を帯び始める。


「王都に到達するのも時間の問題ですな」

「言ってる場合か。帝国からの宣戦布告(・・・・)からまだ半日と経っていないんだぞ?」

「それは越境を許し、あまつさえロレーナ領まで失ったパブロ侯への当てつけですかな?」

「違う。今はそんなことを言っている場合ではないとそう言っているんだ。ともかくこうなってしまった以上は、早急に戦力を西へと集中させる必要がある」

「おや、その戦力がないからこそ我々がこうして顔を突き合わせていることを貴殿はお忘れのようだ」

「落ち着け。身内で争ったとてなんの解決にもなりはしない。それよりも南の戦力を西へ動員する話はどうなった」

「正気ですかな? 連合国とは同盟関係にあるとはいえ、潜在的な脅威(・・)であることには変わりはないのですよ?」

「結論の出ている話を蒸し返すな。今更結ばれた関係を前提に行動しないことのほうがどうかしている」

「なるほど。ではその同盟が衝突を回避するために作られた重要な舞台装置であったことも当然ご存じのはず。帝国から布告がなされた今、その前提としての意味はすでに失われたと考えるのがごく自然なのでは?」

「それは……」


 痛いところを突かれたように、苦い顔を浮かべる白髪交じりの男。


「落ち着け。そもそも連携すら困難な協力関係を同盟とは呼ばない。誰もが分かっていたことだ」

「では南の戦力は遊ばせておくのか?」

「落ち着けと言っている。いま議論しなければならないのは、いかにして西の戦況を覆すのかというその一点のみだ」

「だから南の戦力をだな――」

「連合国を無視するのか?」

「連合国とは同盟がある」

「だからその前提が間違っていると言っているのが分からないのか!」

「西を見捨てる気か!? この臆病者が!」

「何ッ!?」

「静まれ」


 王の声にピタリと水を打ったようになる会議室。


「連合国との同盟はなされた。ならば潜在的な脅威よりも現実の敵に目を向けるべきだ。南の戦力は西の砦に展開する」

「王よ」


 その場では比較的若い部類に入る男は勇ましくも進言する。


「南の兵を西へ動員するのには時間がかかります。戦況も刻一刻と変化していくことでしょう。ここは現時点ではなく、その時点での状況に合わせて兵の展開先を決められるよう、一度この王都に集結させてみてはいかがでしょうか」

「それでは西はどうなる!」

「しばらく口を閉じていろ」


 王は感情的な男に対してどこまでも冷静に告げる。


「西はどうするつもりだ」

「応戦しつつ後退させます。南の兵が王都に到着し次第、戦力を整えたのち反転攻勢に出るべきかと愚考します」

「それを帝国が見逃すかな?」

「危険は承知の上です。最悪後退した先で王都が戦場になることもありうるでしょう」

「そうなれば我々は攻勢に出るどころではないな? レオナール。お前はどう考える?」


 王に名指しで意見を求めらる男――レオナール・シュナル。臆病を絵に描いたようなぎこちない動作でその額に浮かぶ汗を拭っては、あくまでも私見としてある一つの可能性を述べていく。


「い、今の王都を見れば一目瞭然です。これだけの民衆を抱えての戦闘は現実的に不可能でしょう。籠城戦、あるいは市街戦にでもなれば敗北は時間の問題かと……」

「ではそうならないようにすればよいと言ったら?」

「王は先ほど仰られました。それを帝国が見逃すかと。答えは簡単です。見逃すはずがありません」

「では南の兵は西へ直接展開すべきだと、レオナール。お前もそう考えているのか?」

「その場合最も危惧すべきは西に展開する帝国軍との遭遇戦です。西へ動員した挙句に味方と合流することも叶わなければ、移動で消耗した集団はただの的でしかありません」

「しかしそれは相手にも言えることではないのかな?」

「消耗はしているでしょう。しかし何の勝算もなしに国が国へと攻め入るでしょうか?」

「当然だな。だからこそ王国はそれを避けるべく行動してきた。しかし現実はそうではない。お前ならこの局面どう乗り切る?」

「得るもののない闘争ほど無益なものはありません。相手も勝算があると踏んでいる以上、簡単には引かないでしょう。しかし出来ることはあります。その闘争自体が相手にとって無為で無価値なものだと気付かせてやればよいのです」

「ほう?」

「そのためには王国は勝利を捨てるべきです。帝国相手に生き残るには、勝ちを目指して負けるのではなく、負ける前提で引き分けに持ち込むべきです」

「正気か……?」

「いかれてる」

「黙っておれ」


 顎へと手を当てては思索に(ふけ)る王。ほどなくして一つの結論に辿り着く。


「誰が出来る?」


 まじまじとその場に居る全員へと視線を送る王。しかし誰もがその期待に応えられないまま、ただ無為に時間だけが過ぎていく。


「レオナール。お前が言い出したことだぞ?」

「私にはとても……現状をいくら整理したところでその制御までは……」

「お前はどうだ。アートゥロ」


 王は勇ましくも進言して見せた男へと目を向ける。


「分かりません。しかし手順だけなら……」

「話してみろ」

「まず南の戦力は王都へ。同時に西は後退しつつ、戦力の消耗を出来るだけ抑制します。その際道中の砦を使い捨てる形で活用すれば、戦力的に不利な帝国相手にもある程度の時間は稼げるかと考えます。その(かん)に王都の民衆を今後想定される戦地から遠ざけます。西と北を避ける形で具体的な候補地としては南部の海沿いがその一つとして挙げられるでしょうか」

「レオナール」

「貴重な砦と人員を合流までにかかる時間のためだけに使い潰すというのは、決して賢い選択ではありません。しかしそれ以上の案があるのかと言われますと……思い浮かびません」


 レオナールは申し訳なさそうにその場で目を伏せる。


「共和国の方はどうなっている」

「北の国境線に集結。いつ越境を開始してもおかしくはない状況です」


 アートゥロは努めて簡潔に答える。


「少しずつ見えて来たな」

「元より北の国境線は南と比べてその距離に開きがあります。帝国との内通が疑われる共和国との国境線を手薄にすればこちらの目論見が帝国に露見することにもつながるでしょう。戦力として当てにするには不適当かと……」

「当然だな」

「共和国の動きはあくまでも戦力の分散を目的とした陽動であると考えます。しかし分かっていたところで無視することはできません。共和国は待っているのです。帝国が勝利を確実にするその瞬間を――」

「待ってください」


 そこでレオナールはアートゥロの立てた仮説(・・)に食いつく。


「それが本当なら共和国はこちらの籠城戦を見据えているのかもしれません。当然帝国とも打ち合わせ済みでしょう。つまりこちらが王都に戦力を集中させることこそが帝国の狙いとは考えられませんか?」

「その饒舌(じょうぜつ)……やはり帝国に組していたか! レオナール!」

「この裏切り者が!」

「よさぬか」


 王は荒れ始めた場に自制を求める。


「しかし――!」

「どちらにせよ南の戦力を西へ直接向けるのは名案ではない。今は確度を優先して一度王都に集結させるほかないだろう。例えそれが帝国の狙いであったとしてもな」

「し、しかし!」

「仮に帝国の狙いが戦力の集中にあるのならば順調に進んでいると、そう思わせておけばよい。油断というものは総じて勝ちを確信したときにこそ生まれるものと相場は決まっておる。その上で王国はただ時間稼ぎに邁進(まいしん)すればよい」


 席からおもむろに立ち上がる王。


「目的を見誤るな。我々の目指すべきは帝国を力で打ち負かすことではない。王国を攻めるには高くつくと、そう思わせることにある。あくまでも戦力の集中は反転攻勢のための一手。その偽装として籠城戦に備えるのであれば、例えどちらに転ぼうとも王国に無駄(・・)はない」


 王は目だけで全員を制し、最後に分かりやすくレオナールとアートゥロに視線を向ける。


「一人で出来ないのなら二人でやってみせろ。諸君の働きが王国の明日を創ると期待する」


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