35 それはどこまでも真っすぐな妹の拳だった
「アリアーヌ……?」
エヴラールの目に映る予期せぬ光景。明らかに場違いな登場を果たした妹の姿にその兄エヴラールは、それまで装っていた平静が崩れかけていることにも気づけない。
自然と熱を帯び始める室内。そしてその背後から不意に歩み出る誰の目から見ても"そうである"と分かる一人の亜人に高貴さの塊のような女性――。
「私の名前はヤナ・エルサ! 連合国代表として正式にこの会議への参加を表明するわ!」
それは正にエヴラールが待ちわびていた宣言そのものだった。
「やはり第六王女が裏で糸を引いていたか……」
「まぁ、予想通りだけど?」
しかしエヴラールの前で繰り広げられるのは、どこかその認識にズレを感じさせる帝国代表団のやり取り。
連邦の会議室に連合国の亜人が顔を見せたというのに、その話題の中心は何故か妹のアリアーヌが独占している。
「それで? 私の参加は認めてくれるのかしら?」
ヤナ・エルサなる連合国の代表はどこかそう挑発的に告げる。
「私は連合国の本会議への参加を歓迎します」
エヴラールはそれにすかさず用意していた言葉を投入する。
「例え思想やその種族が違おうとも、この場が中立である以上、そこで行われる会議もまた開かれたものであるべきだと考えますが、皆さんはどうお考えでしょうか」
「ふっ。来てしまったものは仕方がないだろう?」
「まぁ、こなきゃ話にならないんだけどね」
帝国はそれに渋々といった様子で賛同する。
「ここは連邦です。あくまでも連邦のルールに従うべきでしょう」
共和国はしかし同調しない。独自の目線から一歩引いた立ち位置で、その判断を開催国である連邦へと託す。
「なるほど。では我々はあくまでも中立に徹するまで。どうぞお座りください」
当然のように着席を促す連邦の立会人。ここまではエヴラールの想定通りだ。しかし――。
「亜人が人の領域にこうも堂々と踏み入るとはな」
どこまでも額面通りの反発を見せる皇国。明確な敵意をその目に浮かべながらも、この場でことを起こす気もなければ自ら退室しようという気もないらしい。
皇国の気まぐれに心底エヴラールは安堵する。どうやら本日最大の難関を乗り切ったようだ……。
「では――」
その場の主導権を握るべく、努めて冷静な声を上げるエヴラール。しかしその意に反してまたしても周囲の注目を集めたのは、どこまでも真っすぐな妹のその"拳"だった。
「あんたらはクズよ! でも殴ったことは謝るわ!」




