25 開かれる航路
朝日にきらめく水面。驚くほど透き通っているというのに底が見えない水深。青さを増す緑。降り注ぐ光の中心から不意に頭上へと影を落としたのは、驚くほど巨大な一羽の猛禽だった。
「王国の魔女……」
誰かがそう口走るのを聞いた。
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用もないのに山に登る者の気が知れない――。
男はずっとそう思っていた。
しかし男は今山を登っている。
何かに導かれるようにして目の前の山を駆け登っている。
理由はない。
用もない。
ただひたすらに気力の続く限り男は目の前の斜面を登り続けた。
そして遂には見えてくる山頂――。
佇んでいたのは驚くほど澄んだ瞳を携えた一羽の猛禽だった。
彼はこちらを真っ直ぐに見据えては、どこか手招きするようにその翼を広げる。
偶然であるものか――。男は応えるようにその小さな羽を広げた。
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渓谷、草原、岩山、砂地。愛馬と共に駆け巡った大地は数知れない。
しかし男はまだ空を駆けたことはなかった。
始まりはほんの小さな憧れ。
それがいつからだろうか。
男はただそこにある空を駆けるためだけに大地を駆けるようになっていた。
男は願った。
空に、大地に。
そしてその日もまたいつものように変わらない夜を愛馬と明かす。
日の出と共に目を覚ました男の目に飛び込んできたのは、自慢の愛馬と並んでも遜色ない。
正しく空を駆ける馬のように逞しい猛禽だった。
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「勇者パーティーのクロナに第六王女……か」
男は深い暗闇の中、迎え入れた一羽の猛禽を前にただ決断を迫られていた。
「元です。拳王」
横から訂正されては暗闇に浮かぶ笑み。それは気心の知れた間柄だからこそ繰り返された一種の決まり事、遊びのようなものだった。
「それを言うなら私もだろう?」
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くだらない喧騒に生産性のないやり取り。意見の交換は永遠に平行線を描き、絶え間ない意思の疎通はいつしか強者が弱者へと押し付けるだけの一方的なものへと変わっていた。
いくら解決方法を考案しようとも、いくら献身的に尽くそうともそれ自体が進展することはない。しかし――。
「行くところがある」
どちらかを選ばなくてはならないとなった時。それは驚くほどの団結を生んだ。
私は今、奇跡の中心にいる。
それだけは確かだ。




