19 窓辺におけるクロナの考察
わずかに白みがかった空。冷ややかな風。クロナはあえて確かめるように口にする。
「連合と連合……」
突発的な戦端は果たして帝国有利に働いているだろうか。皇国の北方における衝突は、あくまでも皇国と魔族間におけるいわば一つの既定路線でしかない。
「皇国の要請に帝国の提示……」
皇国における帝国の役割とその意味するところ。そしてその逆――。連合国との国境線を抱える帝国が、その対亜人戦略において専門家であり同時によき隣国でもある皇国をそこに組み込もうと考えるのは至って当然の流れと言える。
「見据えるのはあくまでもその先……」
開戦をチラつかせていた帝国が今更皇国相手にその対価を支払う段階にあるとは思えない。過去に遡るとしてもそこにあるのは常にその後というそう遠くない未来だ。
「その前提としての参戦……」
開いた時間軸が示唆するもの――。遅延、遅滞。貸し借りに似た信用。それに付随する取引。ものを得るにはまず支払いを済ませなければならない。
開きは線。もしくはそれ自体が大きな枠組みにおいては点を意味しているのか。
「帝国の享受する利益に皇国の与える恩恵……」
具体的な推測――まるで及ばない。現時点における要求。なされていないのかもしれない。仮説としての逆説……要求そのものはなされているのかもしれない。
では対価は? 生じたはずの一がその時期を見計らわせているということは考えられないだろうか。
「参戦と参戦……」
一見して釣り合いは取れている。一方で最も危惧すべき状態として、すでに帝国が皇国に対してその対価を支払い終えているという可能性――。
「権利の不行使……?」
それは異例であり変則。握った以上、振るう先は元より矛先がどこを向いているかでその事情も異なってくる。
「いや……」
エヴァからして連合国行きは既定路線だったはずだ。しかし現に入国は見送られた。帝国からして戦う姿勢は出来ていたはずなのに。
「偶発的な衝突……?」
まさか。単純明快ゆえに隠しきれるものではない。ただしそれがいつであるかは当事者なら選べたはずだ。
特に王国を失えば後のない連合国と、王国戦を控えた帝国間においてはなおのこと。それが何故か今、王国の手の内にあるという事実――。
流れは帝国から。その方向性が意味するのは故意。帝国は連合国との接触を知りたがっている?
「あるはずのない猶予に情報の確度……」
帝国の策略。エヴァの見る真偽。衝突という段階にとどめた連続性。連合国と帝国。王国の立ち位置。そこから生まれる影響の度合い。
「情報はもたらされたものではない……?」
アリアと連合国。推し進めた張本人。そして自ら崩した盤上の積み木。ありえないという違和感。偶然。その確率――意図的であれば頷ける辻褄。そこにたまたま居合わせたのだとしたら――辿ってきたその経路が問題だ。
「帝国は王国を締め出しているはず……」
北方へ抜けるならそれしかない。――"共和国経由"――もしくは東の海上からその後方への迂回。後者は現実に即していない。なら前者なら――。
「共和国の差し金……?」
王国は情報を得た。では共和国は――?
「まさか――」
共和国はその後を見据えて――と、不意に部屋の扉を叩く音がしては壁にかけられた時計に目が移る。どうやら急いだほうがよさそうだ。




