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勇者パーティーはクビになりましたが、どうやらマスコットはやめられないようです!  作者: れんこんのきんぴら和風パスタ
第一章 夢見る少女は相容れない
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17 捩じられた鎖

 王国でも有数の観光地として知られる王国最南端の港町、ギメ。その理由の一つとして挙げられるあくまでも物流の拠点としての町の大通りはもちろんのこと、抜けた先でのぞむ大海をその眼前で塗りつぶすように停泊する――大小さまざまな船舶の群れは、正に港町を象徴する光景として圧巻そのものだった。

 そしてその圧巻(・・)の中にあって尚、その異色さから周囲を圧倒(・・)する一隻の船。頭上に第二王女の旗を掲げた大型船ヴァン・パレスは、今か今かと出航の(その)時を待ちながらも、ただ今は眠り続けるように静かに異彩を放ち続けていた。

 朝焼けと共に徐々に賑わいを見せる町――。

 海風に乗せた巨体は得物を見つけたようにただ遥か高見から見下ろし、波間を鳴らす影は見上げた先の精悍(せいかん)さに古い友人との再会を想起する。

 甲板に舞い降りた風の便りは、一羽の猛禽(もうきん)だった。


 ♦


「それで!?」


 大型船といえど、二十五名も勢揃(せいぞろ)いすると流石に手狭に感じられる船内の一室。

 エルフのアリスンは目の前でクロナへと詰め寄ったアリアーヌの後ろ姿を見て、ただ驚くよりも先に自分でも驚くような笑顔をこぼしていた。


「アリア。落ち着いて」

「うっさい!」


 アリアーヌ様になされるがままのクロナさん。感情任せに掴んだのであろうその胸元。アリアーヌ様はクロナさんを締め上げようと意気込むも、うまく力が入りきらないといった様子で募った苛立ちを更に募らせている。

 それもそのはず、アリアーヌ様の姉であり、同時に師である第二王女エヴァ・クラーリ殿下からもたらされた知らせは、誰が聞いてもそうするしかないと――そう思わされる、もしくはそう思うしかないものだった。

 だからだろうか。他ならぬ私を――私たちを差し置いて(・・・・・)踏み出したその背中が、どうしようもなく愛しくて、嬉しくて……。誇らしくて仕方ないのは、アリアーヌ様がそれでもと一度向けた背中を未だ私たちに見せ続けているからだった。


「アンタがなんと言おうと私はみんなを故郷(こきょう)に帰す! それだけは絶対よ! もし仮に出来ないっていうならそれを何とかするのがアンタでしょ!?」


 アリアーヌ様の強い口調、強引な物言い。それだけでどうしようもなく満たされてしまう自分。ただそれでも事後という名の報告は残酷で……。

 一度方向を定めた濁流は、もはやアリアーヌ様の意思を尊重できないほどに、そこにある選択肢を名ばかりの決定事項へと変えてしまっていた。


「アリア。彼女たちは必ず故郷に帰す。でも今は危険なんだ」


 クロナさんから漏れる真摯(しんし)な声。アリアーヌ様はその(たぎ)った血を落ち着かせるように、自らの意思でクロナさんから距離を取る。


「分かってる……分かってるわよ……」

「アリア……」

「師匠のことは私が一番良く分かってる。だって、弟子なんだもん……」


 落胆しながらも、自身を納得させようとしては必死に言葉を紡ぐアリアーヌ様。見ているだけで胸が痛くなるようなその姿に、せめて目だけは逸らさまいと奥歯を強く噛みしめた。

 私にもっと力があったなら――。その肩に優しく手を差し伸べられるだけの何かがあったなら……そんなないものねだりばかりの夢物語が具現化したかのように――それは前触れもなく、私たち(・・)の予想を超えた場所からこぼされた。


「心配するな」


 初めて耳にしたならば威圧的にも聞こえるであろう――。重い低音ながらも酷く慈愛(じあい)を内包したその一声は、自然と(うつむ)くしかなかったアリアーヌ様の表情を気のせいではなく、実際にほんの少しだけ明るくした。


「あんたの声、初めて聴いた」


 上目遣いにアーノルド(・・・・・)さんを見つめるアリアーヌ様。そして応えるように首を縦に振るアーノルドさん。

 そんな二人のやり取りはどこか印象的を越えて現実ではないかのようで、まるでここにはない幻想をほんのわずかな間、垣間見たかのようだった。


「ヒヒーン?」


 (はた)から二人を茶化すようなサラブレッドさんの嘶きが上がる。ただアーノルドさんもアリアーヌ様も反応しなかったがために、結局それが何だったのか、すぐに分からなくなってしまった。

 それでもアーノルドさんを執拗(・・)にのぞき込むサラブレッドさんのおかげで、明らかに軽くなった雰囲気を率先して引き取ったのは、クロナさん――ではなく、その横のおまわりさんだった。


「ワンッ! クロナ殿、アリアーヌ様。一度現状を整理してもよろしいですワン?」

「うん」

「お願いできるかな」


 二人の後押しを受けては、その場から一歩進み出るおまわりさん。それからまた仕切りなおすように「ワンッ!」と控えめに吠えては、それとなく室内を見回す。


「それでは……まずは現状を整理する上で一つ。確定させておかなければならないことがあります。これは足並みを揃えるのと同時、認識の齟齬を無くす意味もあります。クロナ殿」

「うん」


 おまわりさんに促されてはクロナさんから手渡される、一見して紙切れのような書簡(・・)


「ここに第二王女エヴァ・クラーリ殿下からお預かりした書簡があります。記されている内容は北方での衝突(・・)。皇国がまた(・・)ことを起こしたとみて間違いないでしょう。そして例年通り(・・・・)であれば、それが意味するのは帝国と共和国の参戦(・・)。北の魔族(・・)との間にどの程度の着地点を設けているかは分かりませんが――これも例年通りであれば、すぐにわかることでしょう。アリアーヌ様」

「うん。師匠は思わせぶりだったり嘘もつくけど、それ(・・)については私が保証するわ。師匠は面倒くさがりで無駄を嫌うもの。仮にこれが嘘だったとしてもたぶん近いうちにそうなるってことだと私は思う」

「うん。僕もアリアの言う通りだと思う。密か(・・)に船まで用意しておきながら、ここまでこちらの動向を静観するにとどめていたエヴァが、ここにきて間接的とはいえ接触してきた。それは少なくともそうせざるを得ない状況なりつつあると、そう考えるべきだろうね」

「ワンッ! お二人のお墨付きもいただいたところで現状を語る上での前提につきましては、この場に居る全員で共有できたと考えます。何かここまでで分からないことなどありますか?」


 またそれとなく室内を見回すおまわりさん。最後にクロナさんを一瞥しては、二人して示し合わせたようにアリアーヌ様へと目を向ける。


「何よ」

「アリアが怒りっぽいから気にしてるんだよ」

「うっさい」


 クロナさんに視線だけ鋭いものを向けるアリアーヌ様。ただそこにはどこか(たわむ)れのような無邪気さがいつになく見え隠れしていた。


「いいからっ。別に私ももう怒ったりしないから。それで?」


 わかりやすくクロナさんからおまわりさんへと移されるアリアーヌ様の視線。


「ワンッ! 現状を整理し、前提から今後を推察する上で――私もクロナ殿の意見(・・)に賛成です」

「怒らないって言ったけど、ほんとなんていうか、自分で自分が嫌になりそう」

「これもエルフの皆さんを第一に考えればこそ(・・)です」

「そのエルフのため(・・)ってのが私には良く分からないんだけど」

「おそらくクロナ殿も同じ見立てでしょうが……私の予想では、連合国が帝国南部に侵攻――あるいは浸透する恐れがあります」

「連合国が帝国に? なんでまた」

「帝国は公式には認めていませんが……帝国の南部には――」

「特区です。アリアーヌ様」


 私の言葉に一斉に集まる視線。ちょうどいい……。ここから先は私たち(・・)もの(・・)なのだから。


「特区……?」


 アリアーヌ様は疑問符を頭上に、少しだけ首を傾げる。よかった――。そう思えたのなら私はまだ大丈夫だ。


亜人(・・)の収容所です」

「しゅ――収容所!?」


 努めて平然を装ったつもりだったが、それが逆にアリアーヌ様には冷たい印象を与えてしまったかもしれない。ただ目を見開いては、その場で固まるアリアーヌ様を見て、ほんの少し――ほんの少しだけ寂しさを感じた。


「っ……」

「あ……」


 アリアーヌ様――。そう言葉にしようとしては開けた口をそのままに、目の前で流れ落ちた一筋の怒りは私から呼吸すら忘れさせた。

 本来あるべき場所にない自由奔放。あるのは熱く煮えたぎりながらもその実冷めきっているような、そんな崩れた均衡からくる強い衝動だけ。


「私が……私が何とかするから……絶対、何とかするから……」


 体の両側で握られた半ば凶器と化した拳。小刻みに揺れては端から滲み出る鮮血――。もう息など出来なくてもいい……。私はただ彼女の下へと倒れ込むようにして近づいた(・・・・)


「だから……だから――!」

「「「アリアーヌ様――!」」」


 ()は一人じゃなかった。本来ならばそれは届かぬはずの距離。足をもつれさせた私はそれでも別の私に支えられながら、ようやく彼女を抱きしめる。そして彼女を抱きしめる私をさらに私ごとまた別の私が抱きしめる。


「大丈夫、大丈夫だから……」


 何度も耳元で繰り返される言葉。いつしか私は忘れていたはずの呼吸を思い出していた。そして私もまた重ねるようにその言葉を口にする。


「大丈夫です……大丈夫ですから……」


 それからいったいどれほどの時間が経っただろうか――。黙って見守り続けてくれたクロナさんたちを前に、アリアーヌ様はただ一言ありがとうと、囁くような声でそう言った。


「ねえ……牛頭」


 私は息をのむ。そして自然と二人の間に開く道。帰ってきた奔放(・・)なアリアーヌ様はその両手を血に濡らしたまま、そして口元に一筋の赤い跡を残しては、決意したようにほんの数歩で距離を詰める。


「お願いがあるんだけど」

「いいよ」


 しかし間髪入れず出鼻を(くじ)くように返されたクロナさんの二つ返事は……それまでに固めたであろうアリアーヌ様の何か(・・)を正面からことごとく突き崩した。


「あ……」

「あ?」

「あ、あー……もうっ! ほんっと! 締まらない奴よね……アンタってやつはさ」

「そう?」

「私がそうだって言ったらそうなのよ! まったく……」

「まったく?」

「いいからっ。もう分かったから。連合国への入国は見送る。それがみんなにとって一番だって言うんならそうなんでしょ。私はもうちょっと疲れたから……少し寝るわ。後で色々決まったことだけ教えてくれればいいから。それから――」

「それから?」

「……やっぱりアンタには謝ってやらない。でもありがと」


 アリアーヌ様はどこか大袈裟に二ッと笑っては、言ってから恥ずかしくなってきたのか。ずかずかとわざとらしく足を踏み鳴らしては、すぐに扉の向こうへと消えて行ってしまった。

 アリアーヌ様……。

 アリスンたちはあえて目を見合わせるようなことはしない。ただ今はその意思を尊重するように、そっとアリアーヌの背中を信じて見送った。


皇国=帝国の西に位置する国家

共和国=王国の北に位置する国家

魔族=生まれつき魔力を内包する存在(・・)の総称

魔族連合=組織的に北方をその活動の領域として定める魔族たち(・・)の総称

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