15 高みの見物
第六王女アリアーヌ・デュムーリエ率いる視察団が、エルフと接触してから早三日。王都へと馳せ参じた王国の有力貴族を含む、軍事と政治の頂点――。
フレデリック・イッポリト・ドゥ・ブロイ王、以下王族に名を連ねる者たちは、王城の大会議室、その円卓にて思い思いの渋面を突き合わせていた。
「まずは帝国に使者を送り、その真偽のほどを確かめるのが先決ではないか?」
「しかしエルフの越境は確実だそうではないか」
「この場合は使者を送るということそれ自体に意味があるかと思いますが」
「それでどうなる? 使者を送ったところで問題の解決は愚か、ただの時間稼ぎにもなりはしない」
「だからといってこれだけの重要事項――何の確認もなしに取り扱うべきではないと思いますが……」
「では聞くがレオナール侯爵。貴公の言う、取り扱うとは一体どういう意味なのだね?」
「そ、それは……」
他の貴族からの追及に、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるレオナール。答えるのは簡単だが、目下彼が気になるのはピクリともしない王の顔色だ。
「もし帝国に越境の意思があるとするならば、帝国との交渉に使えるかと……」
「ほう? 中々興味深いご意見ですな? レオナール侯爵は帝国が王国に攻めてくると、そうお思いで?」
「あ、あくまでも仮定の話ですが」
「ではお聞きしましょう。レオナール侯爵。仮に貴公の言うように帝国が王国に攻めてきたとして……その際にエルフが何の役に立つと?」
「そ、それは……」
「まさか貴公は攻め入る帝国軍を前に、たかだか数名のエルフを立たせて帝国の非でも訴えるおつもりですかな? 確かにそういうことなら肉の壁として一秒、いや二秒は持つかもしれませんがね?」
悔しそうに顔を俯けるレオナール。最早涙目の彼に侯爵としての威厳はない。
「くだらんな」
そんな貴族同士のやり取りに一言で終止符を打つのは、尊大な顔つきが見せかけだけではない男。王の隣に腰を下ろす皇太子、エヴラール・ラ・フォンテーヌ・ドゥ・ブロイだ。
「殿下……」
「くだらない、くだらなすぎる。これが危機に瀕した王国貴族の姿か。呆れる、呆れ果てるぞ。帝国が責めてくるというのであればこれを迎え撃つ。帝国が非礼な行いをしたならばこれを糾弾する。これぞ国の在り方。これぞ王国のやり方。そのような及び腰では民はついてこぬぞ」
「これは失礼いたしました。殿下。正に殿下の仰られる通りにございます」
「よい。それでよい――。お前たちはただ余に付き従い、余の後をついてくればよいのだ。何を恐れることがある。何も恐れることなど無い。余にとってはお前たちもまた、王国の民に他ならないのだから。余の背中を守れ。余の勤めはその陣頭に立ち、民の盾となることなのだから」
「殿下……!」
次々とその場に立ち上がっては、感涙するように深々と頭を下げる貴族たち。それまで静観するのみだった王の顔にも、心なしか子の成長を喜ぶように微かな笑みが浮かび上がっている。
何ともおめでたい光景か……。
会議室の壁際。直立不動で控える王国の情報統括部長ライナスは、しきりに痛んでならない胃を前に奥歯を強く噛みしめる。
これが王国の行く末を決める会議なのかと――。そうしてライナスは同時に思う。円卓の端で微動だにしない――黒い帽子を目深にかぶった――あの頭だけの白い猛禽類は一体何なのかと……。
ライナスは現実を疑う。自身がこの場で最も当てにしている女性がまさかあんな猛禽頭なわけがない。しかしあの席は……。
ライナスは誰も触れないことをいいことにそっと視線を逸らしては、また一段と強く奥歯を噛みしめた。
頼むから一秒でも早く終わってくれ――。
王国の未来を憂いながらライナスは静かにそう願った。
フレデリック・イッポリト・ドゥ・ブロイ=王、王国の最高権力者
エヴラール・ラ・フォンテーヌ・ドゥ・ブロイ=皇太子、次期王
レオナール・シュナル=侯爵




