6.おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!
『おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!』
どっかで聞いたようなセリフが、つい最近聞いた声で聞こえた気がして目が覚めた。
今度こそ知らない天井だ。
「気がついたのですね」
横から声がしてそちらへ目を向けると、ドラゴンに襲われてた少女がいた。
「身支度が必要でしょう、人を呼んできます」
そう言うと、少女は部屋から出て行った。
ひとりになった部屋で、俺は確信をもって呼びかける。
「出てきたらどうだ」
『はあ~い、呼んだ?』
俺の腕に絡みつきながら登場した絶世の美女に、胡散臭いものを見る目をむける。
「説明しろ」
『つれないわね~』
美女はくすくすと笑いながらも、答える気はあるようでこう問いかけてきた。
『いいわ。何が訊きたいの?』
「……まず、あんたは何だ?」
『女神。人が神とよぶ存在よ』
「……。……俺はトラックに轢かれて――」
『死んだわ。死んで、わたしの下へ来た』
「……こ――」
『ここは、わたしが創った世界。あなたはこの世界に生まれ変わったの。前の生での記憶を保持したまま』
まるで、これが訊きたいんでしょ、とでも言うように、先回りして答えられる。
そして答え終わったあとは、もう用はないばかりにサッと離れて、こちらに背を向けた。
どんどん薄くなっていき、向こう側が透けて見え始める後ろ姿に、慌てて声をかける。
「おい、まだ――」
『これ以上のことは彼女に聞くといいわ』
「彼女って――」
『わたしの愛し子よ』
だから誰だよ! と訊こうとしてやめた。
これ以上は答える気はないんだろう、無駄だと思って。
ただ――
「子供はどうなった?」
俺がトラックから助けようとした子のことを訊くと、「女神」がこちらをふり返った。
『無事よ』
そう答える顔は、いままでのお気に入りのおもちゃで遊んでいるときのような笑顔ではなく、慈愛のにじむ微笑みに見えた。
次回「王女を仲間にする」