5.勇者と聖女2(sideシャルリーヌ)
伝承によれば、聖なる御印をもつ者は、一目でお互いのことがわかるのだという。
理屈でなく、感じた。
いま目の前にいる彼こそが勇者だと。
おそらく彼も同じなのだろう、目を見開いたまま微動だにしない。
わたくしたちはしばしの間、瞬きすら忘れて見つめ合った。
「殿下!」
呼ばれて我にかえった。
声が聞こえたほうに顔を向けると、ともにきた騎士の一人がこちらへ駆けてくるところだった――が、様子がおかしい。
なにかを訴えかけているような――と思ったところで、横から突き飛ばされた。
気づいたら、禍々しい魔力に絡みつかれた勇者が倒れていた。
ハッとして周囲に視線をはしらせると、竜種の胴体についたままの片翼に「魔印」が浮かびあがっているのが見える。
彼はわたくしをかばって倒れたのだ。
体内の魔力を紡ぎながら、駆けよってきた騎士に尋ねる。
「状況説明を、簡潔に」
「竜種は絶命を確認しました。こちらは死傷者多数、生存確認中です」
「指揮は」
「団長がとっておられます」
「そう。では、わたくしはこれから『魔印』の結実をおこなうと伝えて。それから、この者を保護するようにと」
騎士は返事をしたあと、すぐさま団長のもとへ向かった。
わたくしは紡いだ魔力を「魔印」に注いでいく。
なぜだか、勇者の蒼穹のような瞳と、その後の倒れた彼の苦しげな姿が、ずっと目に焼き付いて離れなかった。
次回「女神様にタメ口」