力を持つ者との出会い
「…今日はおしまい。きっちゃん、次へ行くよ」
立ち上がった木通は桔梗に着いた砂をはたき落とした。
それが終わると、何かを警戒して、その場を離れた。
「いつか遠くへ、誰も知らないところへ行きたいね」
「…お姉ちゃんは遠くを知ってるの?」
手をつなぎ、前を見ていた桔梗に木通は笑った。
「きっちゃんといたからね、あたしも知らない。でも、お話では聞くでしょ?高い山に広い海」
木通にそう言われ、桔梗は頷いた。
その時、木通が誰かにぶつかった。
その拍子に木通は尻もちをついた。
「あら、ごめんなさいね。怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
「はは、ちゃんと見えてんのか?鈴蘭」
笑いながら言う羯鼓草の頭を怒った鈴蘭が小突いた。
「お姉さん、白」
「え、白⁉」
「あ、こらきっちゃん。すみません、なんでもないです」
そう言って木通は桔梗の手を引いてかけて行った。
その時、二人の持っているポシェットから光る羽のようなものが見えた。
「羯鼓草、梔子、見つけたわ。あの子たち、捕まえるわよ」
鈴蘭がそう言うと、二人は頷いた。
子どもを捕まえるのに苦戦し、路地に少し細工をした。
「本当にここに来るんだろうな?」
「あーら、信じてないの?あなたたちだってよく捕まっていたのに」
鈴蘭がそう言った時、木通と桔梗が後ろを気にして、走ってきた。
「はぁ、はぁ、きっちゃん、もう緑ない?」
「…緑、ない。白」
桔梗のその言葉に驚いた木通は、前を向いた。
すると、鈴蘭と羯鼓草、梔子が二人を見ていた。
「さっきぶりね。ちょっと話があるの、良いかしら?」
「…私たちは何もありません。行こう、きっちゃん」
そう言って後ろを向くと、目の前にいきなり小さな生き物が現れた。
「ちょっとお待ちなさい」
「うわぁ、いきなり出てこないでよ」
木通は驚き、そう言い放った。
「…やっぱり。見えてるのね、その子たち」
鈴蘭がそう言うと、木通は口を手で押さえた。
「隠さなくていいわ。その子たちはあたしたちの…そう、クロアエッタと呼ばれていた子よ」
「戻って来いよ。逃げられねーんだから」
羯鼓草がそう言うと、木通は驚き、桔梗のことを‟隠した”。
「お前、さっきの男の子どこにやった」
「関係ないわ。ここから出しなさい。私たちはもう自由なのよ。ロッシェ」
「はい、お任せください」
ポシェットから出てきたクロアエッタのロッシェは出口のほうへ行った。
「いけません、封印が解かれてしまいます」
ベニエがそう言うと、ロッシェのほうから、強い光が放たれた。
「さようなら。人間さん」
光が収まると、姿はどこにもなかった。
「逃げられた…」
「ベニエの封印を解くとはな。鈴蘭の盗むにも物怖じしてなかったな」
羯鼓草の言葉に梔子は頷いた。
逃げ出した木通と桔梗は別の路地に入っていた。
「大丈夫?ごめんね、きっちゃん、いきなり」
「木通さま、ここに気配はないようです」
「木通さま、桔梗さま~。パヴェ、何もできませんでした~」
桔梗のポシェットから出てきた桔梗のクロアエッタのパヴェは、目に涙をためて周りを飛び回っていた。
「パヴェ、危ない。ここ入って」
「うわぁ~ん、桔梗さまぁ~」
パヴェは桔梗に泣きつくも、桔梗の表情は変わらず、パヴェを撫でていた。
「ほらパヴェ、早く戻りなさい。ロッシェもね」
「はい、戻りますよ。パヴェ」
「見つけましたよ、お嬢様、お坊ちゃま」
ロッシェとパヴェが戻ったとき、後ろから声をかけられた。
ハッとした木通は桔梗の手を掴み、走り出した。
逃げ回っていると、木通と桔梗を探していた鈴蘭たちとの挟み撃ちになった。
「…最悪ね」
「帰りますよ、お嬢様」
執事服の男を横目に木通は桔梗の手をしっかり握った。
「あなたたち知り合い?」
「おお、お嬢様たちを捕まえてください」
「お嬢様ぁ?こいつが?」
羯鼓草が笑っていると、鈴蘭が背中を叩いた。
そのすきに逃げようとすると、梔子が木通の手を掴んだ。
木通が焦っていると、梔子が持つスケッチブックが独りでに捲れ、文字が浮かび上がった。
〔君はあの路地に先回りする〕
それを見た瞬間、操られてるかのように男は走り去っていった。
木通は状況が理解できていなかった。
「ちょっとついてきてくれるかしら、お嬢様?」
「ついていくのはいいわ。でも、その呼び方はやめて」
そう言って木通は鈴蘭を睨んだ。
「あーらら、怖い。とりあえず、人気のいないところへ行きましょうか。サバラン、お願いね」
「はい、はい、さっさと行くわよ」
サバランは鈴蘭の眼元を触った。
それから、連れられて薄暗い建物の中に入った。
「いらっしゃい、あたしたちの家へ」
「ここが家…。広いし物も少ない」
「あそこ、物置」
桔梗がそう言うと、木通は笑っていた。
梔子はその間にお茶を入れてきていた。
「ありがとう、梔子。さ、二人もそこに座って」
鈴蘭がそう言うと、悩むように顔を見合わせた。
それから、座った。
「それじゃあ、まずはあたしたちから名乗りましょう。あたしは鈴蘭。この子はサバランよ」
「オレは羯鼓草。こっちはベニエだ」
〔梔子。こっちはリコッタだよ〕
三人のクロアエッタはそれぞれ主人の横でお辞儀をしていた。
それから、木通は困った顔をしたが、桔梗と顔を見合わせ、二人同時にポシェットを開けた。
すると、二匹のクロアエッタがそれぞれ同時に出てきた。
「私は木通よ。この子はロッシェ」
「桔梗、この子、パヴェちゃん」
ロッシェとパヴェはきれいにお辞儀した。
「あら、執事にメイドさん。本当にあなたたち良いところの子なのね」
「違うわ。私たちはあんな人たちの子供じゃないもの。物置で居ないも同然に接してこられて…」
木通は俯いたまま、そう言った。
その時、桔梗が何かに気が付いた。
「お姉ちゃん、あれ、緑」
桔梗は棚の中に大事に終われた何かの欠片を指さした。
「あれ、なんなの?」
「え?あ、クロアエッタの実験をしているというやつの物よ。この間襲ってきたときに落としていったの」
鈴蘭がそう言うと、木通は立ち上がり、棚のほうへ歩いて行った。
桔梗も後を追うように歩いて行ったが、ある距離まで行くと、立ち止まった。
「桔梗くんは色が見えるのね。…笑わないのね」
「あぁ、奪われたのよ。私を庇ってね」
そう言いながら、木通は桔梗の頭を撫でた。
「ところで、鈴蘭さんたちの能力は?」
「あたしは‟盗む”よ。サバランは‟視せる”」
鈴蘭が笑って言うと、木通は不思議そうな顔をしていた。
「オレ様の能力は‟重力”。ベニエのは‟封印”だ。お前たちを閉じ込めたやつ」
羯鼓草が笑って言うと、ベニエは静かに微笑み、羯鼓草の頭を叩いた。
「梔子の代わりにわたしが答えますぅ~。梔子は‟言霊”で、わたしのは‟咲かす”力があるですぅ~」
リコッタは梔子の代わりに笑顔でそう言った。
「あなたたち、よく情報を流せるわね。スパイだったりするかもしれないのに」
「騙しているなら梔子の能力があるし、この子たちは敏感だからね」
鈴蘭がそう言うと、木通は驚いていた。
それからフッと笑った。
「私たちのも教えるわ。私は‟隠す”よ。きっちゃんを見えなくしたやつね。ロッシェのは‟溶かす”。目に見えないものでもね」
木通は、ベニエのほうを向いてニコッとした。
「それと、きっちゃんのは‟色彩”でパヴェは‟固める”。空気も固めるから人間には毒ね」
桔梗の頭を撫でながらそう言った。
「それで、あなたたち、しばらく外に居たようだけど、家は?」
「ないわ。家出してきたもの」
「桔梗くんを連れてるってことは訳ありね。いいわ、あなたたちもここに住みなさい。その代わり、あたしたちの仕事も手伝ってもらうわね。colorful✿としてね」
そう言われ、木通は驚いていた。
それから、木通、桔梗も交えた五人が同じ屋根の下で暮らすことになった。
colorful✿、クロアエッタとともに暮らす少年少女たちの物語が、始まる。