ここにサブタイトルをいれよう-2-
唄う狼のリーダーは資料に目を通して計画をたてながら数時間前を振り返っていた。
酒場を出て直ぐのことである。リーダーはふとあの機密らしい話は他の狩人達に聞かれてしまってよかったのだろうかと振り返った。そして、店内の全ての人物と目が合う。妙なことに巻き込まれてしまったようだとどこか他人事のように思った。つまり、彼女――マリベルを上手く隠しながら仕事をこなせということだろう。
かつて、唄う狼は二人だけの一党だった。そこに若い狩人が参加することになったのは一重に狩人の高齢化が原因だ。若手は育ち切る前に限界を感じて引退するか、胃袋に入るか、飢え死ぬかで大抵長続きしない。暫くはそれでも回っていたが、2年前の戦争が全てを変えてしまった。共通の敵を無視して人同士でつぶしあいを始めた間抜け達は未だに死ぬことすら許されていないと聞くが、それでも失われた若者たちが帰ってくるでもない。引退していた老人たちすら駆り出して外面は取り繕っているがそれもいずれ破綻する。いち早く動き出した町長のお陰で若い狩人は守られ、育てられている。今連れているメンバーもこの2年で大きく成長した。若者とはこうも伸びるものなのかと独り言ち、資料に視線を戻す。
今回の仕事は瓦礫の撤去作業だ。場所が崖ということもあって一部の視界が遮られている。高所に金髪と自分を置いて警戒、赤毛と栗毛とマリベルを作業に回して、副リーダーは既に先行して現場を調査している。
リーダーの背中におやっさんと声がかかる。道具の調達が済んだようだ。赤毛の青年について確認しにいく。食料と水、酒と医療品。猫車にツルハシとスコップと、大きな丈夫な袋がいくつか。そこまで確認してリーダーはいいじゃないかと頷き、念の為ロープも出しておいてくれと注文をつけた。
ガラガラと猫車が街道を行く。押しているのは栗毛とマリベルの二人だ。リーダーは定期的に赤毛金髪ペアと交代させながらマリベルの様子を伺っていた。栗毛が妹よりちっこいのにとんでもない馬鹿力だと笑う。よゆーと返すマリベルに無理をしている様子は見えない。話通りのパワーらしい。その上、疲れも見えないため持久力も相当なものだろう。いくら力自慢でも息切れが早ければリーダーの悩み事が一つ増えていただろう。
都市ベナから南東に伸びるこの街道は王都カヤンにも通じるが都市パライフンと都市マイタナ方面に続いている。崩落が起きたというのはマイタナへ伸びる道の旧道だ。それぞれの縄張りを避けて蛇行する旧道は大回りするルートも多く、戦前であれば殆ど使われていなかった。狩人の減少から新道周辺の狩りが追いついていないために大規模な護衛を雇えない人々は旧道を使うしかない。
2年前は殆ど自然に呑まれかけていたが、今は全盛期のように整備されている道を暫く進むと森へと入り込むことになる。交代して猫車に並び歩くマリベルは目を輝かせて道沿いにある木の実を拾い集めたり、足音に反応した何かが揺らした草むらに耳を傾けたりしている。そういうところは年相応のようだった。森を抜ける頃にはそれなりの数の木の実が集まっていた。あまり美味いものではないがたしかクッキーにできたはずだから後で作ってやるかとリーダーはボンヤリ考えたが、何も食べないという町長の言葉を思い出してなんとも言えない表情になった。