ここにサブタイトルをいれよう-1-
王都カヤンの北西215キロに位置する都市ベナ。
日が落ちて街の灯りも次々と落とされ、静寂と暗闇が満ちていくが反して賑やかさをます場所がある。
狩人が集う酒場、大量の酒や肉を提供するだけでなく、狩人向けの医療スタッフが数名ローテーションでついている。もう少し大きな街であれば査定カウンターが併設されて直接買い取りを行っている場合もあるが、少なくともここではそうではない。武器を背負った狩人たちがよく食べよく飲んでいる中に戦闘員に見えない人物も見かけられるが、彼らは報告待ちのクライアント達だ。大抵は完了報告を受けてから酒場の連絡員がクライアントを呼び出して完了確認の後に精算と流れるが、例えば劣化しやすい物品の調達等では酒場で待っていた方が良いことがある。というのは建前で、酒場側がクライアント向けに飲食の割引をしているために何だかんだと理由にもならない理屈を並べて飲みに来ているのだ。
ふと、ただでさえ喧しい店内が一段と騒がしくなる。騒ぎの中心にいるのは唄う狼の一党。壮年の二人の男を中核として若い衆が3人ついた最近立ち上げられた一党だが、仕事慣れした二人がうまくコントロールして立て続けに実績を上げ、つい先程の完了した精算をもって格上げが決定したのだ。
乾杯を済ませて安酒を飲み干し、一番高い酒をと最年長のリーダーが注文を付る。それをメンバーで順に回し飲みして、そこからはいつもどおりの酒盛りだ。ちなみにこれはなんとなくでこの地域の狩人たちに浸透している習慣の一つで、本当に一番高い酒が出る場合もあるが大抵は事前に話を通してある酒が出てくる。今回は酒のグレードとしては少しいい酒でしかないが口当たりがよく、鮮明なハーブと果実が合わさったような香りが若い衆に人気という酒だ。酒精もさほど強くないため、酒に弱い赤毛の青年でも飲めるだろう。リーダーの口には合わない酒で、含んだ瞬間に難しい表情となったが不透明なカップがそれを覆い隠してくれた。
夜も更けたころ、ようやく唄う狼一党が酔い潰れた青年を担いで酒場を後にした。離れていくさなかも騒々しさは続いていたが、やがてそれも聞こえなくなり、4人の足音と虫の声だけがそこにあった。
十字路の辺りでリーダーが明日からは酒場から紹介のあった人物が増える旨を話すとそれぞれ帰路についた。年長組の二人は拠点としている家屋へ、酔い潰れている赤毛の青年は幼馴染の栗毛の青年に担がれていく。最後に金髪の娘が獲物の短刀を確かめるようになぜ、自宅へと向かった。
翌日、唄う狼の拠点に集った一同は酒場へと向かうと昨晩とはまた違った騒がしさに出迎えられた。酒が並んでいたテーブル上では狩人達が資料を広げてあーでもないこーでもないと議論していたり、仕事を終えて報告をクライアントに済ませている者もいる。
リーダーがカウンター席の様子を見ると狩人にしては小柄過ぎる姿が目に入る。大抵、カウンター席にいるのはクライアントかソロか一般人だ。紹介される人物が座っていると思っての視線だったがそれらしい姿は見えず、カウンターの中で台帳をつけていた初老の男性に手をふる。町長兼狩人の酒場の支配人その人である。
挨拶もそこそこに紹介というのはとリーダーが確認すると町長が振り返ってマリベルと呼びかける。反応したのは例の小柄な人物だ。説明を求める視線を表情でいなした町長が歩いてきたマリベルの肩に両手を載せて孫のように紹介を始めた。
曰く、300キロものお重さを持ち上げる怪力の持ち主。
曰く、ワイバーンに上空から投げ捨てられて生還した。
曰く、言葉も通じなかったが近頃ようやく会話ができる程度にはなった。
また、そっとメイベルの耳を塞いでやや早口に続ける。
曰く、帰そうにも帰れないの一点張りで聞き出そうとすると拗ねてしまう。
曰く、食事も手を付けないがどういうからくりなのか腹をすかせた様子もない。
不思議そうに見上げるマリベルの耳から手をはなし、若い衆を率いて最も活躍している君たちに預けたいと締めくくった。
リーダーは理解し難いがと前置きして力仕事はあるかと尋ねれば、一昨日の雨で南東の崖沿いの街道で落石があったそうだと資料を出す町長。準備がよろしいことでと呆れを返して酒場を後にした。