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敵国のワガママ皇女の従者として仕えた僕は帝国から逃げ出す事にしました 実力を隠して自由都市で悠々自適に生活します

掲載日:2020/04/21

「ブラン!! どこにいるのっ! 早く私の服を持ってきなさい!!」


「は、はい、マリア様!?」


 僕は帝国のお姫様、マリア様の従者の一人として帝国城で働いている。

 戦争孤児であった僕は幼い頃、皇女様の気まぐれで拾われた。

 敵国の孤児であった僕を――


 僕は今日のマリア様の気分に合いそうなドレスを運ぶ。

 マリア様はそれを手に取ると、鼻で笑ってドレスと僕に投げつけた。


「はぁ……、あんた十年従者やってるけど、まだわからないの? 私は赤色の気分なのよ!」


「す、すみません……すぐに……」


「まあいいわ、もう時間も無いし。全く本当に使えない従者ね――早く行くわよ!!」


 マリア様は僕を置いて帝国学園に向かおうとした。

 僕は慌ててマリア様を追いかけることにした。


「ま、待って下さい――」


 これが僕の日常であった。

 わがままお姫様に振り回される毎日。


 それでも僕はマリア様に感謝している。

 敵国の孤児である僕を拾って雇ってくれて――

 奇妙な髪の色をしている気持ち悪い僕を従者にしてくれて――




 学園に着くと、僕は従者として教室の隅で待機をする。

 この学園は貴族しか通えない。

 僕は授業を受けることはできない。

 だけど、勝手に授業を聞くことはできる。


 マリア様の同級生である貴族の従者達も、この広い教室の後ろで姿勢を正して待機をしている。


 ――僕は他の従者達から嫌われていた。


『汚い黒髪のくせに――』

『皇女様の従者としてふさわしくない』

『王国の孤児のくせに』


 貴族様がいない所では僕は陰口と……陰湿ないじめにあっていた。


 殆どの従者は僕を無視する中、一人のメイドさんだけが僕に話しかけてくれる。

 今、僕の隣に立っているロアさんは優しいメイドさんであった。


 貴族様達が騒ぎながら授業を受けている中、ロアさんは僕の方を向いて微笑んでくれた。

 そして、小さな声で僕に囁く。


「――――ブ、ブラン様……きょ、今日のお暇の時間は……いかがですか?」


 僕の事を心配して話しかけてくれるロアさんはとても美しいメイドさんであった。

 実直で公正な公爵令嬢のサキア様にお使えしている。


 普通、従者は交代制で働いていて、自分の時間もちゃんとある。

 ……でも僕は……孤児で拾われた身。

 休みなんてない。一日中仕事をしなければならない。

 マリア様が就寝した後も……大臣に頼まれた……嫌な仕事をしなければならない。


「……ロア様、ごめんなさい。……マリア様のお使えをしなきゃ……」


「……そう」


 僕らの会話はそこで終わった。が、マリア様が鬼のような形相で僕らを見ていた!?

 マリア様は僕が女性と話すのはひどく嫌がる。


 ――ああ、今日は三時間お説教かな?


 僕はマリア様の所有物。

 マリア様の言う事は絶対。


 ……自由ってなんだろう? 


 僕はそんな事を思ってしまった。





 僕の故郷王国は帝国によって滅ぼされた。

 その敵国である王国民の僕は……城内でも嫌われていた。


 マリア様の気まぐれで僕は従者として働いているが、様々な嫌がらせまがいの仕事を押し付けられる。


 庭の掃除から侵入者の掃除。

 そして、意味も分からない魔獣の討伐を命じられる。


 僕は感情を殺して、淡々とそれをこなす。


 それを命令する人達は僕を殺したがっている。

 食事に毒だって盛られる。一晩中苦しんだこともある。

 A級魔獣を討伐しても『役立たずが!!』と言われる。


 この城では僕は異物だ。

 ……わがままなマリア様が一番優しい存在であった。


 ――だって、毒が入ってない食事をくれる。


 ――殺されそうになる命令はしない。


 ――傷付いた僕を心配してくれる時もある。


 だから、僕はこのままで良かった。

 そう思っていた――






 ある朝、僕がいつも通り夜通し魔獣を退治して、身体を清めてマリア様のお世話をしに行くと――


 マリア様は顔を真っ赤にして僕を罵ってきた。


「ブラン!! あんた私が大事にしている杖を折ったでしょ!! お母様の形見の杖よ!!」


 マリア様の手には折れている杖が握られていた。


「ち、違います。ぼ、僕はずっと城を出ていましたので――」


「うそおっしゃい! 大臣が言ってたわよ!! ブランが持ち出して壊したから中庭に捨てたって!」


 マリア様は折れた杖を僕に投げつけてきた。

 杖が僕の顔に当たり、血が流れる。


 僕が何か言おうとした時、大臣が従者を連れ立ってマリア様の部屋に入ってきた。

 痩せ型の冷たい雰囲気がある大臣は眼鏡をくいっと持ち上げて僕らを見た。


「なにやら不穏な音を聞きつけて参りました。――ああ、杖の件ですか」


 ――この嘘つき大臣め。


 王国との戦争で大切な人を殺された大臣は僕を目の敵にしている。

 何度も僕を亡き者にしようとした。

 僕はそれに抗っただけだ。


 大臣は激昂しているマリア様に告げた。


「今は亡き皇后様の形見の杖を……。これは――死罪に値します。マリア様、よろしいでしょうか?」


 死刑と聞いてマリア様は戸惑ってしまった。


「え、あ、そこまではしなくても――」


「なりません! 帝国の誇りを壊されたのですぞ! すぐに引っ捉えろ!!」


 大臣の従者達が僕を取り囲む。

 マリア様は従者に向かって一喝した。


「止めなさい!! ブランは……ブランは私の従者よ!! 杖はいくらでも作れるわ! 死刑は許さないわ!!」


 ――マリア様……こき使われて、蹴られたり殴られたりもしたけど、やっぱり一番優しいですね。


 でも、これ以上はもう駄目みたいです。

 僕がいたらマリア様の身に危険が起きるかも知れない。


 僕は周りの従者を無視してマリア様の手を取った。



「マリア様、嫌われていたかも知れませんが……今までありがとうございました。僕はマリア様にお使えできて幸せでした。またいつの日か――」



 マリア様が呆けた顔をする。


「ちょ、ちょっとブラン!? 何を言っているの!! あんたは私の従者なのよ! 死ぬ事は許さないわよ!!」


 ――本当にありがとうございます。


 だけど、僕は……。



 しびれを切らした大臣は従者達に再び命令をする。

 大臣は捕縛魔法の詠唱をしていた。


「早く捕まえろ! こいつは逆賊だ!! ――マリア様、下がって下さい。――『バインド』!!」


 それでも下がろうとしないマリア様。


「――さよなら」


 僕の身体を拘束しようとする見えない縄が伝う。

 身体に力を入れた。


 ガラスが割れるような音が部屋に鳴り響く。


 大臣は慌てた声を出して、攻撃魔法の準備に入る。


「な、何!? わ、私の魔法はこの帝国で随一の――」


 僕の身体は動き出す。

 何度も死にかけた。僕はずっと戦っていた。

 魔獣と……侵入者と……。


 こんな魔法は効くわけないよ!


「――『密』」


 僕の手の中に魔力が集まる。

 大臣が放とうとした魔法は僕の手の中に吸収された。


 そして、


「――『散』!!」


 大臣に向けて魔力を放出した。


「くっ、『シールド』! うお!? うおぉぉぉ!?」


 大臣はあっけなく吹き飛ばされてしまった。

 従者達はどうしていいか分からない顔をしている。


 僕は城の外を目指して走り出した。



「ブランーー!!! い、行かないで!!!」



 ただマリア様の叫びが僕の胸を痛めた。

 それでも……僕は――








「賊はブランだ!! 見つけ次第殺せ!!」

「やっとあいつを合法的に殺せるぞ!!」

「下に行ったぞ!」

「いたぞ!! うおっ!?」

「は、早い!?」

「ただのガキだろ! 早く捕まえろ!!」




 帝国兵は精強である。

 だけど、本当の死闘を繰り広げた事はある?


 何度も殺されそうになったり、嫌がらせを受けたけど、僕は帝国で……マリア様の下で庇護を受けていた。

 だから慈悲はある。殺しはしないよ。


 城を縦横無尽に駆け回る。

 その速度はS級冒険者しか見えない速度だ。


「――『密』」


 魔力を吸収しながら僕は敵を弱体化する。


「――『散』」


 その魔力の塊をぶつけるように放出する。


 ――マリア様と過ごした帝国。


 僕は城を脱出しながら思い出が頭の中で駆け巡る。


 ――マリア様に魔法の実験台にされた時。

 ――マリア様に裸にされて城を駆け回った時。

 ――マリア様のために一晩中伝説の花を探し回った時。


 いつもマリア様は最後は……こんな僕に向かって「ありがとう」と言ってくれた。


 でもね、やっぱり敵国の孤児が帝国にいちゃいけないんだよ。

 マリア様の足を引っ張っちゃ駄目だ。


 城門の辺りには帝国兵で埋め尽くされている。


「いたぞ!!」

「魔法隊、早く放て!!」

「つ、突っ込んでくるぞ!?」


 僕は足を止めずにそのまま帝国兵の群れの中へと飛び込んだのであった。






 ***************





「兄ちゃん、お疲れ様! りんごでも食うか?」


 僕は帝国を数日かけて脱出した。

 追手の帝国兵を振り切り、検問も突破し……自由都市行きの馬車に乗り込む事ができた。

 途中で魔獣に何度も襲われたけど、そのたびに僕は魔獣を退治した。


 自由都市はその名の通り、国民が貴族に縛られずに自由に生きている国であった。

 そこでは貴族ではなく、国民が決めた議員が国を統治している。


「ありがとうございます――」


 僕はりんごを食べながらこの先の事を考える。

 六才の頃に拾われた僕は、自由という物が分からない。

 一つわかる事がある。


「――お金が必要だ」


 りんごをくれたいかつい男の人が僕の呟きを拾った。


「お、なんだ? にいちゃん仕事がないのか? ……なら自由都市に付いたら俺のギルドに来てみろよ? さっきの動きは素人じゃねえな」


「ギルド?」


 僕は顔を上げた。


「おう! 冒険者ギルドだ!! ――ってお前、若いな……その年だと学校へ行かなきゃ冒険者としての資格があげられねーな」


「……学校」


「お前さっき魔獣退治してくれただろ? 本当は俺が退治する依頼だったけど、お前が飛び出しって行ったからさ。――ギルドは万年人手不足なんだよ! な、俺が手続きをどうにかしてやる!」


 ――ギルド……学校……。


 それは僕にとって未知の物であった。

 だけど……僕は自由だ。

 僕自身が選択を決めなきゃいけない。


 僕が帝国に追われているってバレないようにしないと……。


 僕が考え込んでいると男が僕の肩をバシバシ叩いてきた。


「がははっ! 少しくらい隠し事があっても問題ないぞ! なにせうちのギルドは自由都市にある! お前みたいな奴はごまんといるぜ!」


 ――実力を隠しながら……平和な暮らしを……普通の暮らしを……。


 うん、目指してみよう。


 僕は男を見据えた。


「――よろしくお願いします。僕の名前は――フリン――」


 ――王国の時の本当の名前。僕はブランを捨てる。


「おうよ!! 俺は自由都市の冒険者ギルド長のハッサムだ!!」


 まだ見ぬ自由都市。

 僕は平和な暮らしを目指して生きる。


 そう思ったら心が軽くなってきた。


 馬車は僕らを揺らして自由都市を目指して進んで行った。





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