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Loyal Dragon  作者: 灯成 燐
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第六章〜認可〜

更新が随分遅くなりましたが内容はそんなに多くないですorz

重厚な木製両開きの扉を開けると、ひんやりと心地よい冷気が三人を出迎えてくれた。


「すっずし〜!これでこそついて来たかいがあったってもんね」


キルヴィナを先頭に、吸い込まれるように入ってすぐのホールの中へ入る。


この建物は吹き抜けになっており、大扉側を除く三方に全四階の木でできた足場が突き出ている。

その最上階、四階の中空には巨大な白い光球が銀色の霧を放ちながら浮かんでいて、天窓から降り注ぐ日光に照らされて輝いていた。


「氷魔術か……魔力の無駄使いもいいところだな」


魔術には炎、水、雷、風、地、氷の六属性があり、それぞれが無数に持つ特性を利用して様々な術を行使できる。


恐らくあの光球は氷の特性“冷却”の魔力に、風の特性“拡散”を加えて建物全体に冷気が行き渡るようにしているのだろう。

傭兵ギルドの中には魔術師を上回るような腕を誇る者もいるので、大方そいつに依頼したといったところか。

内容が何であれ、無料で働く傭兵はいないのだ。


「いいじゃない、涼しいんだし。それにあんたにはあんな器用な真似出来ないんだし、偉そうなこと言えた口じゃないじゃん」


そんな傭兵の一人である彼女は、俺をからかうのがとても楽しいらしい。

しかしなかなか痛いところをついてくれるので、反撃もできなかった。


「ぐっ……別にいいだろ、剣技で補えれば」


「え?出来ないんですか?」


見ると横でエメリアが目を丸くしていた。

予想が外れた驚きの中に、かすかに失望が混じっている。

……そんな目で見られると辛いんだが。

別に悪いことはしてないのだが、言い訳するような口調になってしまう。


「いや、俺だって苦手な分野ぐらいあるし……」


弱みを見せると、すかさずキルヴィナが突っ込んできた。

こいつは、口の強さでは敵無しなのだ。


「苦手ってあんた雷しか使えないじゃん」


明らかに状況は劣勢だ。

こうなると、もう守りに入るしかない。


「魔術は全般的に苦手なんだよ……性に合わないというか」


窮地に陥った俺を救ったのは、それほどの声量でもないのによく通る、張りのある低音だった。


「ホールの真ん中に居座られると迷惑なんだが」


すぐ後ろの重く渋い声に振り向くと、見紛うことなきギルドの会長が青く鋭い眼をこちらに向けていた。

狙ったような登場に、ホッと胸をなでおろした。


「ちょうど良かった会長。あなたに話したいことが」


あるんだ、と言う代わりに、手が破裂したような音をホール内に響かせた。

その右手には会長の岩でできたような拳がしっかりと受け止められている。

骨が砕けたんじゃないかと思うぐらいの痛みに顔をしかめはしたが、手をかばうことはしなかった。


「お前も大分強くなっているようだな、サイラス。だが“お話したいことが”だ。言葉遣いには十分気を付けろ」


ぱっと見では判らないような微笑をたたえながら右手をゆっくりと下ろす。

全くもってややこしい男だ。

止めて欲しかったのか?


「お褒めに与り恐悦至極。あまり時間を無駄にしたくないので、本題に移ってもいいですか?」


皮肉っぽいのは勿論わざとだ。


「ふむ。それで話というのは……ああ、聞くまでもないな」


会長はエメリアを一瞥すると俺達の脇をすり抜けホール奥の階段へと向かった。

男にしては長い銀髪を後ろで一つにくくっている。


「ついてこい」


振り返りもせず、他では見たことも無いほど真っ直ぐな背中越しに呼び掛けた。




何度来ても慣れる所じゃないな、と思った。


部屋の壁には彼が収拾した剣、槍、鎧等の武具がところ狭しと掛けられており、それぞれが天井近くに浮いている黄色い光球の光を反射している。

部屋が仄かに鉄錆び臭いのは、いくらか使用済みのものが混じっているからだろう。

部屋にしかれた絨毯も赤でいかにもそれっぽい。

あとは部屋の隅に装飾のない不恰好な椅子が数脚と、奥に書類が敷き詰められた大きな机があるのみ。


落ち着かないことこの上ない部屋だ。

俺の隣のエメリアも、やはり落ち着かない様子で椅子に座ったまま辺りを見回している。

もっとも、その理由は別の所にあったようだ。


「レイ、キルヴィナの姿が見えないのですが……」


「魔術書を漁りに図書館に行ったよ。元々そのつもりだったらしい」


ボソッと耳打ちしてやる。

この建物の一室には膨大な書物が眠っており、貸出し自由となっている。

ただまったく整理されていないので、何処にどんな本があるのかは目の前の管理者すら分かっていない。


「メイビルは少し奔放にすぎる。もう少し周囲に気を配るべきなのだが……」


会長が机につきながらぼやいた。

あすは敵同士かもしれないというこの職業にしては付き合いの長い俺としても、深く同意せざるをえない。

だが俺がそれより気になったのは、彼の常人ならざる聴力だ。


「よく聞きとれますね。小声で喋ってたというのに」


褒めたのだが、彼は散乱している書類を整頓しながら何でもないことのように言った。

もっとも、彼の自画自賛など聞いたことも無いのだが。


「傭兵は自らの身体能力がものを言う。その要である五感を鋭敏に働かせるのは当然のことであろう?」


実績に裏打ちされた的確な助言に、なるほど、と感心させられてしまう。

簡単なことほど気付きにくいものだが、やはり語り継がれるような人物ともなると、大事なことはしっかりと憶えているらしい。


「確かに……さすが“若獅子”と呼ばれるだけはありますね」


純粋にそう思ったのだが、彼は手を止めずにふんと鼻を鳴らしただけだった。

自嘲なのだろうが顔が些か怖いので、怒っているように見えなくもない。


「組合の老いぼれ共と比べるな。私ももう四十二、若くなどない」


組合、とはこの町を動かしている連中のことだ。

ヴァンゲスはディプロの中で唯一自治を認められている都市で、この組合がいわば議会のようなものとなって統治、行政をしている。

会長もその一員として街のために昼夜問わず働いているのだが、この街は何故か大昔から罪人や追放者が集まる悪の吹き溜まりとなっており、現在の権力者も彼のような物騒な人間が多いため民衆から敬遠されがちである。


「それでもどこかの誰かと違って、他人のために一生懸命働くというのは立派じゃないですか?」


会長は口の端をつり上げ、手元の書類の一枚に視線を落とした。


「こんな職では自分のためだけに動くのが一概に悪いとはいえんが……な。反面」


一瞬間をおいてこちらの目を見る。


「お前はもう少し保身に気を配るべきではないか?」


無言で彼と目をあわせると表情はいたって真剣だ。

居住まいを正し、その鋭い視線を正面から受け止める。


「その娘が晒されている危険はとてつもなく大きい。そんな爆弾を義理もなしに抱え込むのは愚行というものだ」


肘をつき、顔の前で両手を組んだ。

その腕や顔の至るところに刻まれた傷は、彼の培った経験の証に見えなくもない。

そんな彼が言うのだから、間違いないだろう。


「今のうちに聞いておく。その娘をギルドに任せればしかるべき対応をとるが、その気はないのだな?」


「……」


もうこの問いにたいしての結論は自分の中でしっかりと考え、導き出した。

迷いはない。


「ありませんね。それがどんなに危険で困難なものであっても、一度受けた依頼は絶対に投げ出さないのが俺の信条ですから」


椅子から立ち上がり、懐から契約書を取り出しながら言い切った。

口元には余裕から来る薄い笑みまで張り付けてやった。


「そうか……ならばこれ以上は何も言うまい」


会長はそれを受けとると、一字一句違わず暗記するように凝視し始めた。

しかし暫く生き物のようにめまぐるしく動いていた目が、ある一点で止まった。


「働かせるのは構わんが……そうなると、彼女には……いや、お前、まさかそのつもりで来たのか?」


思考を巡らせた結果、どうやら会長も同じ結論にたどり着いたようだ。


「ええ。私達を組ませてもらいに」


これは二人で組んで仕事をさせてもらう、という意味だ。

これは傭兵同士なら問題ないのだが、一般人と組むには会長の許可がいる。

俺がここに来たのはそのためだ。


「裏の仕事には危険が付き物。ならば自分がその危険から守ればよい、か。お前らしいな」


呆れたような、愉快そうなよく分からない笑いを漏らしながら、素早くペンを走らせる。


「二人で上手くやっていく自信はあるのか?」


今度は本当に楽しそうにニヤリと笑った。

差し出された二枚の書類にはそれぞれ会長の小綺麗な字でサインがされている。

一枚は、契約の了承。

もう一枚は、協働の許可だ。


「お前はあるか?自信」


振り向いて、今までほったらかしにしていた姫様に聞いてみた。

ここは、力強い返事を期待していたのだが。


「………んぅ?」


可愛らしく小首をかしげながら目をこすっている。

……姫様は今しがた夢の世界から帰還したようだ。


「ご覧の通り、余裕たっぷりのようです」


肩をすくめると、会長は珍しく声をあげて笑った。

正直無礼に対して怒鳴るかと思っていただけに意外な反応だ。


「はっはっは!前途多難だなこれは!さて、依頼のリストももう届いてる頃だろう。二人で初仕事にでも行ってこい!」


スッと席を立ち、エメリアへと歩みよる。

俺より細身で背も低いのに、その背中は大きく見えた。


「くく、ハルギンの子がここまで大物に育っているとはな。私の顔に見覚えは無いか?……まぁ、それも当然か。遠い昔の話だ」


首を振る彼女に、会長は手を差し出しながら自分から名乗る。


私はバイル・ヴォルクラウド。いかんせん名前が長いのでな、呼ぶときは会長でいい。よろしく頼むぞ、ハルギンの世継ぎよ」


ハルギンとは、現クローベル国王のハルギン・マークハントのことだ。

クローベルの王族とも知り合いだったとは、さすがに顔が広い。


「へ?あ、よろしくお願いします。会長」


困惑ぎみに武骨な彼の手を握る。

それで満足したらしく、会長はサッサと部屋をあとにした。

その背中を見つめながら、終始だんまりだった眠り姫はこんなことを言った。


「えぇと、結局どういう話になったのでしょう……?」


その後俺は傭兵の仕事について、一から十まで説明することになった。

随分かかりましたがこれで物語のプロローグ的な部分は終わりです。次回からはやっと仕事に入ります。これからも是非読んでくださいm(__)m

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