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Loyal Dragon  作者: 灯成 燐
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第五章〜談笑〜

一部見苦しい所があるかも知れません(汗)そんな稚拙な文章でもいいぜ!という方はどうぞごゆるりとお楽しみ下さい。


キルヴィナが地下室から出ていった後、俺は居候させてほしいというエメリアの“依頼”に対して契約内容を考えに考えた。

依頼の有効期間、報酬、彼女の背負うリスク等。

全てを考え終えて内容を契約書にまとめ、その後二階の寝室に戻った頃には太陽は既に空高く昇り、エメリアはすっかり落ち着いた様子でベッドに座り、

「考えるのに随分かかったようですね」

と苦笑いを浮かべられるまでに回復していた。


それもあるのだが実はあんまり早めに行くと、もしかしたらまだ泣いているかもしれないと思ってわざと時間を潰しておいたのだが、やはり無用な心配だったようだ。


それを読んだのだろう、エメリアはばつが悪そうに下を向いて少し笑った。

一瞬だけ和やかな空気が部屋を満たしたが、彼女はそこから数瞬の間を置き、目を閉じて大きく深呼吸をした。


本題に話を戻すのだろう。


ゆっくりと開かれた眼に、並々ならぬ覚悟が溢れている。


「それでは、答えを」


表情がすっと引き締まる。

何事にも動じない、という決意が刻まれたそれは、普段の暢気な雰囲気を全て払拭し、大王国の後継者たるに相応しい威厳と誇りを纏っていた。


……すごい奴。


心の奥底で呟いた。

彼女が立たされている境遇は、本当に酷いものだ。

悲嘆に溺れるか、自暴自棄に陥るか。

あるいは現実から目を背ける者が大多数だと思う。


数時間前のエメリアを見ていた時、彼女も同じくこのまま悲しみに囚われるのではと内心不安だった。


だが、どうやら彼女を軽く見ていたようだ。


その苦境に泣きはしても、それをしっかりと理解し、なお未来を見限らずに前へ進む為に足を踏み入れようとしている。

その先にあるはずの、光を信じて。


甘い考えだといえばそれまでだが、きっとこういう奴が最後に笑えるんだろうな、と思った。

実際、俺の右手に握られた羊皮紙には“依頼承諾”と書かれている。


「これが、俺の答えだ」


それだけ言って、契約書を手渡す。

エメリアは緊張した面持ちでそれを受けとると、食い入るように読み始めた。


今まで聞こえなかった外の喧騒がかすかに部屋に流れ始める。

行き交う人たちの楽しそうな喋り声や無数の足音。

昼になり、街もいよいよ活気づいてきたようだ。


窓の外に目をやると、名前も知らない青い鳥が二羽、つがいになって飛んでいた。

彼らが互いを突っつきあったりするのをしばらくの間ぼんやりと眺めていると、いきなりエメリアが立ち上がった。


あまりにもその動作が素早かったのと不意をつかれたのとで、思わず半歩後ろに退がる。

彼女は俺がさっきまでいた場所に、元気よく頭を下げた。

蒼い髪が勢いでふわりと広がる。


「本当に、本当にありがとうございます!」


顔を上げたエメリアは、子供のような満面の笑みを浮かべていた。

そのまま乱れた髪を直そうともせず、今度は俺の手を思いっきり握りブンブン縦に振る。

興奮しているのか、声のトーンが普段より高い。


「あぁ、一時はどうなることかと!貴方に出会えなければ私は死んでいたかもしれません!」


千切れんばかりに腕を振ってはしゃぎ続ける彼女が微笑ましくて、口元が少し緩む。

しかし嬉しいのは分かるのだが、ちょっと喜びすぎだろう?


「お、おい落ち着けって。それに無条件で居候させる訳じゃないんだぞ?家賃や自分の食い扶持は稼いでもらうんだし」


彼女はとりあえず手を離してくれたが、それでもまだ眩しい笑顔は消えない。


「その位は当然のことでしょう。ここにいられるのなら働く位安いものです!」


「働く位、ねぇ……」


そうはいっても、今まで働いた経験は間違いなく無いだろう。

労働は勿論のこと、家事だって使用人たちがやってくれるのだから。

彼らがあくせく働いている間、彼女は勉学や他国の王族や貴族との交友関係に気を使っていたはずだ。

それが生きる職は、その世界にしかない。


今の彼女の職業上役に立ちそうな長所と言えば、性格の良さとその人外的な能力だけ。


しかしそのなりは、人が避けるには十分すぎる。

彼女を雇えるような肝の太い奴が、まともな暮らしをしているとは思えない。

つまり彼女が働けるような職は、総じて社会の裏に通じるような危険なものばかりとなる。

と、なると……。




俺の家から出て裏通りから顔を出すと、ヴァンゲスの中央を貫く大通りがある。

真昼間の人がごった返すその中を、俺とエメリアは人々の好奇の視線をひたすら無視しながら東へと歩き続けていた。

異常なまでの炎天下で、彼女も俺も、額に汗を光らせている。


「あの〜、レイ?一体何処へ向かっているのですか?」


視線の的である隣を歩くエメリアが、頭一つ低い位置から上目づかいにこちらを見る。

時折後ろの翼を羽ばたかせてそよ風を起こしているせいか、俺よりはまだ涼しそうだ。

バサッと音がするたびに誰かがこちらを見るのはうざったいのだが、俺も少しは風に当たれるのでこの際我慢しよう。


「来れば分かるさ」


前を向いたままそっけなく答える。

というのも連れ出しておいて無責任だが、干からびそうな暑さも手伝っていちいち説明するのがとてつもなく面倒くさいからだ。

心を読めば簡単に分かるだろうに、何故聞くのか甚だ疑問だ。

そう思いながらチラリと彼女を一瞥すると、とたんに唇を尖らせた。


「相手と視線を合わせなければ何も読めませんよ。心の奥深くの記憶まで読むならば長い時間見ていなければなりませんし」


俺は前へと向きなおり、目を瞑って微笑する。

人は多いが皆俺たちを少し避けていくので、目隠ししていても人にはぶつからないだろう。


「それはいいことを聞いたな。隠し事も出来ない生活なんて息苦しくてしょうがない」


冗談のような態度と口調ではあるが、半分以上は本気だ。

それがエメリアであろうと無かろうと、考えや過去を覗かれるのは嫌に決まっている。

特に俺の血にまみれた傭兵としての記憶なんて、それこそろくなものじゃない。


ただ、そこは彼女も十分に理解してくれているようで、改めて隣を見ると、真上で己の力を誇示せんとぎらぎら輝く太陽に負けないくらいに明るい笑顔を見せてくれる。


「心配しなくても、貴方の心を土足で踏みにじるようなことはしませんよ。私だって読まれる側ならいい気はしないでしょうしね。勿論貴方がやましいことをしない限りではありますが」


「心を読まずにどうやってやましいことを知るんだ?」


尋ねると、エメリアは表情を呆れたような微笑みに変えて前を向く。


「もう少し自分の表情に気を配ってみてはいかがです?ここ数日間はいつも感情と表情が一致していますよ」


自分なりに表情は隠せるようになってきたと思っていたのだが、彼女の言葉が持つ絶大な説得力に俺の自信の一つはあっさりと崩れ去った。


「……気をつけるよ」


今鏡を見たら、間違いなく苦笑いを浮かべた自分がいるだろう。

肩を落とし、口から溜め息が出かかった時にいきなり背中をバシンと叩かれた。


それが誰かは言うまでもない。


「何落ち込んでるのさ」


キルヴィナだ。


「どうでもいいことだから気にするな。むしろ自分の礼儀のなさを心配しろ」


いくら友人でもいきなり背中をぶっ叩いてくるのはどうかと思う。

彼女には親しき仲にも礼儀あり、という言葉を是非とも知って欲しい。

ものの三分で忘れそうだが。


「ええっと、レイ、この方は?」


エメリアがおずおずと口を開く。

キルヴィナが一方的に部屋を覗いていたことをエメリアが知るはずもないし、彼女からすればまだお互い初対面だったか。


「私はキルヴィナ。こいつの友達で、同じく傭兵をやってるよ。あんたは?」


紹介するまでもなく自ら前に進み出る。

誰に対しても友好的な態度を取れる、その底抜けに明るい性格は正直ちょっと羨ましい。

俺は愛想が悪いとよく言われるのだ。


「エメリアです。初めまして、キルヴィナ」


彼女はにこやかに手を差し出した。

キルヴィナも迷わずその手を取る。

今知り合ったばかりなのに、その様子はどことなく仲の良い友達のように見えた。




挨拶もそこそこに、俺達三人はまた歩を進め始める。


「しかし、礼儀、ねぇ。そんなことぐちぐち言ってくるのはあのオッサンくらいだと思ってたけど。まさかあんたに言われるとは思わなかったよ」


キルヴィナがやれやれとばかりに肩をすくめた。

彼以外でも気にするレベルまで来ていると思うのだが、そこは口にしない。


「そいつに会いに行くから言ってるんだよ。会って早々鉄拳喰らいたくないだろ?」


この割と散々な評価をもらっているオッサンとは、我らが傭兵ギルドの会長のことだ。

やたらと礼節、仁義を重んじる性格で、礼儀知らずには容赦ない鉄拳を見舞ってくれる。

彼自身昔は凄腕の傭兵だったため、その拳は星が飛ぶ程の威力を持つ。

過去四回喰らったことがあるが、いずれも頭骨が砕けたかと思う程だった。


「私はもう慣れちゃったからね。全く怖くない」


……何やら自慢げだが偉そうに胸を張れることか?

そんな傷はなんの武勇伝にもならないぞ……。


「とりあえず、こんなことにならないようにな?」


キルヴィナを親指で指しながらエメリアの方を向き視線を合わせると、次第に表情を曇らせていき、少しの間を置いてからぎこちなく頷いた。

もしかしたら俺がぶん殴られて吹っ飛ばされた記憶を見たのかもしれない。

別に大した記憶ではないからいいのだが、一端の傭兵である自分がだらしなく壁に寄りかかっている様を見たのだろうから、彼女としては相当怖いだろう。


「しかし何故そんなところへ出向くのですか?私としてはあまり気乗りしないのですが……」


案の定、彼女に似つかわしくない後ろ向きな発言をした。

表情にも不安がよく表れているが、これは行かなければどうにもならない。


「俺も行きたくない。が、お前のためだからな」


「……?」


ますます分からない、と表情が言っていた。

これでは他人のことを言えたものじゃないだろう。

俺はさっき向けられたような微笑をそのまま顔に張り付けて言ってやった。


「お前も案外分かりやすいな」


それを聞くとエメリアは反論するでもなく、前を向いたまま目を細めにやりと笑った。


「それもまた私の可愛いところ、でしょう?」


「なっ……」


赤くなった俺を見て、エメリアは楽しそうに尻尾を揺らした。


「冗談ですよ。大体あなたの目も見ていなかったでしょうに」


……言われてみればその通りだ……。

見事なまでにカマかけに引っかかった俺を見て、隣でキルヴィナが腹を抱えて爆笑する。


「あはははっ!あ、あんた、単純すぎ!あはっ、あははははっ!」


……なんだか言い知れない敗北感が体に染み込んでいく。

がっくりと肩を落とす俺に罪悪感を感じたのか、エメリアは努めて明るく声をかけてきた。


「ちょ、ちょっとした悪ふざけですよ。ほらレイ、もしかしてあそこが目的地じゃないですか?」


顔をあげると、彼女は通りに面した建物でも一際大きなものを指さしていた。

遠目からでも見慣れた建物なのですぐにそれと分かる。


「ああ、あそこだ。なあ、キルヴィナ」


幾分低いトーンで相槌を求める。

当のキルヴィナはまだ苦しそうに身を震わせていて、目から涙がこぼれていたがそれでも小さく頷いた。

俺はそのイラッとくる光景から目を引き剥がし、エメリアに教えてやった。


「あそこが、傭兵ギルドの本部だ」

いかがでしたか?もしかしたら誤字、脱字等あるかも知れませんのでその際はご指摘頂けると幸いです。それではまた次話でm(__)m

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