魂が引き寄せられた先は(2)
この世界の名は「フィズラーサヌル」。
その中にある国、「アルドナガン王国」。
自然豊かで広大な土地を有し、農作物や家畜など自国で賄えるだけの生産力を持つ島国だ。
周りは生命溢れる壮大な海が広がり、島の至るところに港があり、多数の船が停泊し、漁業も盛んに行われていることが伺える。
島の中心より東側はこの島を作り上げたであろうアルドア火山がそびえ、島のどこに居ようともその雄大なる姿をみることができる。
すでに活動は停止しているのだろう、人々は信頼と感謝をしアルドア火山の下で生活を営んでいる。
そして、中心より西側にはこの国の首都「アルドール」。
国内の生産品はここを基点に諸外国との貿易を行い、商人や旅行者など広く窓口を開き、人が最も行き交う活気に満ちた都市だ。
中でも目を引くのは、城壁に守られた王城「ラートリー城」だろう。
都市の中心に悠々と聳え、500年の歳月が経とうともその姿は風化せず、本当に石造りの建造物なのかと多くの人々が感嘆する、見るも美しい城だ。
特徴的なのは、城を囲っている城壁の四隅に見張り台に使うであろう塔が立ち、城壁の外側には外敵の侵入を阻むように堀が作られ、用水を引き、堀の中を水で満たしている。
そのラートリー城から、東西南北に向けて大きな石畳道が敷かれ、都市を4分割している。
北西区はいわゆる商業区に該当する、最も活気がある区画だろう。
北東区は、上流階級や城に勤める兵士などが主に住んでいるが、一部は商人など一般でも住むことができる居住区だ。
南側は主に生産系の区画である。
東側3割が農業系の生産品を中心に研究開発など行っており。
残り7割が工業系の生産品を取り扱う工場や、生活必需品の生産を行っている。
国内生産の輸出入を行うため、南西区の端には広く敷地が空けられており、ここには同盟国である2つの国と共同開発を行い、実用化に至った「飛空船」の発着場が置かれている。
他にも特徴的なことは多々あるが、このアルドナガン王国を代表するものがある。
それは、精霊を信仰し、その力を借りての生活利用や、自国の防衛を行うなどの、精霊魔法を扱う魔法国家であるということだろう。
そう、このフィズラーサヌルという世界には魔法が存在する。
通常は、というよりも、他国ではと言えばいいだろうか。
魔法使いと呼ばれる者は魔法を発現する事で、多様な事象を引き起こすことができる。
それは、火や水を操るといったもの、傷を癒すことも可能であり、争いに使われれば恐怖の対象となり得るものだ。
また、魔法意外にも特殊な力を持つ者は多く、各国の特色として様々存在する。
アルドナガン王国では、精霊召喚というこの世界では特殊な部類に入る力を使用する。
それは、この世界に存在する精霊と呼ばれる不可視の精神体と契約をし、その力を借り受けて行使するという「精霊魔導師」を有する国家だ。
精霊魔導師となる為の教育機関を作り、前途ある若者達を育て、国の警護や、あるいは国の内政に採用し、自国の繁栄と維持継続を行なっている。
その育成機関の正式名称は「アルドナガン王立学園」。
精霊魔導師の育成機関ではあるが、基本入学できるのは精霊召喚の適性のある者のみであり、また一般教養も含まれるため、あえて精霊や召喚といった名称を用いず、他国に対しても大っぴらにしないよう配慮されたため、王立学園という呼び方をしている。
かといって、他国には精霊魔導師の育成機関であることは周知の事実なのだが、一応の体裁のようだ。
学園が置かれている場所はというと、居住区の端の端、といえば敷地内にあると思われるが、実際は敷地より馬車で20分ほどかかる、辺境に建てられている。
ラートリー城から見て、北東区の最も奥に辛うじて見えるような場所に位置する。
学園自体が高い塀により囲われ、周りは石畳で舗装された道が通っているが、雑木林に囲まれており、「アルドア火山のお膝下」という言葉がぴったり当てはまるのではなかろうか。
このような場所になったのは至極当然な理由からだ。
それは、学園の生徒が使用する精霊魔法で起こりうる、暴走やミスによる事故など、周りに危険を及ぼす可能性があるからである。
今でこそ、学園内では魔法結界を構築し被害、損害がでないよう配慮されてはいるのだが、学園創設からそれほど経たずして、事故により被害を出してしまったことがあり、万が一を考え郊外に移されたというわけである。
また、移転に伴い、学園に足りなかった施設や訓練場が狭いなどの問題点なども考慮して、敷地面積を大幅に拡張し、現在に至る。
敷地内にある建物は大きく分けて5つの施設に分けられる。
学び舎として座学を中心に授業が行われている本校舎。
ここには、小等部、中等部、高等部と3段階にランク分けされており、各々2学年制となっている。
入学は精霊魔法に適性を持つ12歳を超えた者となっており、卒業まで6年を有する。
各学年100人程在籍しているため、およそ600人ほどの生徒が授業を受けている事になる。
武術や精霊魔法の基礎訓練、実戦訓練を行う、訓練場。
ここでは、基礎体力向上を目指し、基礎体力訓練、武器を使った戦闘訓練、精霊魔法の魔法練習などを行っている。
また、親元を離れて生活しているため、寝泊まりする学生の為の寮、兼食堂も存在する。
食堂は育ち盛りの学生たちが満足できる、ボリュームと品揃え、味を誇り、食事を楽しみに訓練に励んでいるといっても過言ではない。
研究棟と言われている建物では、教師が研究に使用できるよう教師1人に一部屋貸し出されているのだが、どちらかと言えば教材保管室として使用している教師が多い。一部部屋の空きがあるので、生徒に許可制で貸し出していたりもする。
最後に、精霊魔法を扱うために最も重要な施設がある。
それが「召喚の祭壇」と呼ばれる、神殿をモチーフにした建物だ。
実際は神殿のような門構えの、祠である。
ちょうど今、10人ほどの教師が祠に背を向けて一列に並び、教師の前には100人程の生徒が4つのグループに分かれて整列している。
今まさに、彼ら彼女たちは試練に挑もうとしている。
期待と不安に挟まれながら、新たな自分の可能性を信じて、今スタートラインに立とうとしている。