690話 教官1
俺はタキヤシャ、ロキを連れて、町外れに住む教官の元へと急ぎ足で進む。
本当は全速力で駆け抜けたいのだが、流石にそれは悪目立ち過ぎる。
この世界の従属機械種は、人通りが多そうな街中を全速力で走ることはできない。
飛び出してきた人間と衝突し、怪我をさせてしまう危険性があるからだ。
これは『人間を傷つけてはならない』という『白の恩寵』の効果。
ただし、マスターと一緒であれば、マスターを護衛するという名の元に、いつでも急停止できるくらいのスピードで走ることは可能。
だが、それにしても、人々は街中を走るマスター、及び機械種を『何事か?』という目で見てしまう。
だから俺達は周りから不審に思われない程度の速度で早歩き。
それでも明らかに高位と見られる人型機種と歩く俺は、人々から好奇の目で見られるのだけれど。
一応、ロキもタキヤシャも目立たないよう偽装しているものの、人型機種であることは隠せない。
この辺境では人型機種というだけで貴重。
まだ作戦は始まったばかりだと言うのに、ここで俺達が周りの目を引くような行動はできるだけ避けたい。
「陛下は気にし過ぎじゃない? 下々の目なんて放っておけば良いんだよ~」
「うるさい。黙って歩け!」
「は~い。叱られたボクは陛下の言う通り、黙っちゃいま~す! ボクって健気で忠実な従属機械種だよね?」
「黙れと言っただろうが!」
右手に持つカバーをかけたままの瀝泉槍を軽く振り上げて怒鳴りつける。
しかし、俺の怒気にもロキは堪えた様子も無く、ニヤニヤと笑いながら、
「アハハッ! マスターが怒鳴るから周りの人が吃驚してるよ!」
「チィッ! …………お前、もう一度、締め上げられたいか?」
「あ~あ、怒っちゃった。分かったよ。黙りま~す」
周りの視線を気にする俺を、ロキが面白いモノを見るかのように揶揄ってくる。
すぐさま窘めたが、その態度を見るに、効果があるようには思えない。
この、ベリアルからツンツンした所を引いて、開けっ広げな陽気さと悪戯小僧のような雰囲気を足したような性格。
そして、俺から迫られて脅され、命乞いまでしたのを忘れてしまったような脳天気さ。
もちろん、天琉のように素ではなく、この場に至ってはそうならないことを確信しての態度であろう。
確かに今ここでロキを破壊するという選択肢は俺には無い。
すでに作戦は始まってしまっているし、今更ロキの能力無しで一から作戦を立て直すのは不可能。
故にロキは不遜とも言える態度を崩さないのだろうが、それを考慮したとしても腑に落ちないことが多い。
全てが片付いた後、自分の立場がどうなるかを気にしていないのだろうか?
それとも、自身の能力を見せつけた後なら、絶対にそうならないと過信しているのか?
どちらにしても、今はロキの能力に頼らざるを得ない。
些か不安な所もあるが、グッと飲み込むしかない状況。
あのベリアルと信頼関係を築けたように、もっと時間があれば、白兎の力を借りつつ、ロキとの絆を深められただろうが、そんな時間などありはしない。
ぶっつけ本番で行くしかないのだ。
まあ、実際にロキを指揮するのは俺では無く、一番面倒臭そうな所は教官にブン投げようとしているのだけど。
「ここだ。教官はここにいる」
15分程かけて街外れの教官が住む区画に到着。
人気の少ない廃ビルが立ち並ぶエリアを抜けて数分程歩けば、教官の射撃訓練場に辿り着く。
「ふ~ん………、みすぼらしい所だね~、はあ~~~、ボク、こういうとこ、きら~い」
辺りを見渡し、つまらなさそうに感想を述べるロキ。
先ほどまでとは打って変わって気怠けな態度。
肩を落として期待外れとばかりにため息をつき、
唇を尖がらせて不満を言う姿はまるで礼儀のなっていない中学生。
とてもこれからこの先の主に協力要請を行おうとする者の態度ではない。
そんな横柄な態度を隠さないロキに対し、俺は口酸っぱく指導。
「おい、ロキ。何度も言っておくが、教官に失礼な態度を取るなよ。長く稼働している超ベテランなんだ。お前も機械種なら長く稼働している機種に敬意を抱いて接しろ」
「はいはい。何度も聞いたよ~、マスターを守れなかった敗残者で、自分で自分のトドメもさせない惨めな臆病者ってね」
「!!! ………………お前」
ロキから飛び出した暴言に、思わずカッとなり、
一瞬、本当にこの場で破壊してやる………ことはできないにせよ、一発キツイのをお見舞いしてやろうと、瀝泉槍を振り上げた所で、
そっと瀝泉槍を持つ俺の手に自分の手を添えてくるタキヤシャ。
「貴方さま、落ち着かれてください。この者はワザと貴方さまを怒らせようとしております」
着物の袖から伸びる白く美しい繊手はヒヤッとする程に冷たく、
導火線に火が点いた俺の感情へと水を注いだように冷ましてくれる。
「貴方さまを激高させることで、その……教官と言われる方との関係性を探っているのです。また、自機を傷つけさせて、同情を引いたり、あらぬ噂を吹き込むつもりなのかもしれません。このような相手にムキになっては思う壺です。どうかご自重を」
タキヤシャはじっと俺の目を見据えて俺を説得。
感情の色が薄い表情ではあるが、青く輝く瞳には俺を気遣うような光が見える。
普段、言葉の少ないタキヤシャからの制止の声。
ここまで言われてしまっては、俺としても、ロキを捕まえようとしていた手を引っ込めるしかなく、
「…………………ロキ、てめえ。後で覚えてろよ」
それはそうと腹が立ったことは間違いない。
腹に据えかねた怒りを含ませ、ギロッとロキを睨みつけ、軽く脅しておく。
すると、ロキは拍子抜けだとでも言いたげにヒョイッと肩をすくめて、
「駄目だよ~、こんなことくらいで怒っちゃ。何せボクは、ついさっき、ブルーオーダーされて生まれ変わったばかり。言わば生まれたばかりの赤ん坊なんだ。大目に見てやってよ~」
「当の本人がそれを言ってどうする! お前が赤ん坊というには邪気が多過ぎるだろうが!」
「ニシシシッ! 全くそうだね~、こんな赤ちゃん、可愛くないよねえ~、アハハハハッ!」
底抜けに明るい笑顔を見せながら一しきり大笑いした後、
「でも、陛下とその教官って奴の関係は何となく分かったかな~。随分と尊敬している方なんだよね。なら、ボクも襟を正して対応しなきゃ!」
先ほど言っていたことと180度方向転換したセリフを宣うロキ。
ワザとらしく自身が着こむヒラヒラとした道化服の襟を引っ張って、身なりを整える仕草。
「……………」
ロキの急に手の平を返した態度に俺は無言を返す。
これ以上は何を言っても無駄と判断。
とりあえずコイツの言葉にイチイチ反応するのは止めておいた方が良さそうだ。
俺は苦い表情でロキをジロリと一睨みした後、
「行くぞ。教官はここを抜けた先にいる」
ロキに背を向けて先を進むことにした。
「ヒロ………、そこで止まレ」
「あっ! 教官!」
数分進んだ所で教官とバッタリ。
射撃訓練場まではもう少し距離があるのだが、どうやら俺達が来たのを察知して出て来てくれた様子。
「すみません、わざわざ出て来て頂いて………」
「………………」
「んん? 教官…………」
俺から見て30m程先に佇む教官。
テンガロンハットを目深に被り、ヨレヨレのコートのポケットに両手を突っ込んだいつものスタイル。
しかし、いつものスタイルのはずだが、どこかピリピリとした緊張感を纏う。
包帯グルグル巻きの顔から僅かばかり見える蒼光は、
こちらを射抜くかのように強く鋭い輝きを放ち、
だらりと下げられた両手は無防備なように見えて、
一瞬で銃を抜けるような位置を保つ。
まるでこれから戦闘が始まるかのように。
まるで俺達が押し寄せて来た敵であるかのように。
「きょ、教官…………」
現実世界では教官が始めて見せた俺への敵対的な態度。
それは未来視で見たレッドオーダーとなった教官の姿と重なり………
「!!! お、おい、タキヤシャ!」
「貴方さま、お引きください」
俺が酷く動揺しているのを見て、スッと前に出てくるタキヤシャ。
その手にはいつの間にか薙刀が握られている。
「へええ? 面白そうじゃん」
ロキは二ヤァと山猫のような笑みを浮かべてタキヤシャの横に並ぶ。
構えも無く、ただ無造作に立っているようにしか見えないが、その手の爪は短剣のごとく長く伸び、
その両脚には無かったはずのスラスターユニットがいつの間にか装着。
さらに両足の外観が獣のような逆関節に。
いかにも瞬発力が高そうな形へと変形。
これがロキの近接戦闘スタイル。
自身の機体を自由自在に作り変え、千変万化の攻めを見せる戦法。
またタキヤシャも女武芸者のごとく颯爽とした薙刀の構え。
その武勇はヨシツネまでとは届かなくても、剣風、剣雷を上回るモノ。
対する教官は、両足を少し横に広げ、両手の平を内側に向ける。
いつでも銃を引き抜ける神速のクイックドロウ体勢。
引き抜かれる銃の種類は無数。
そして、その銃身に込められる弾丸も。
あらゆる敵に対して、有効な銃と弾丸を備え、
決して的を外さない銃の腕を持つ凄腕ガンマン。
それが教官であり、レジェンドタイプ、機械種カラミティジェーンの真骨頂。
それは一度未来視で戦闘を行った俺が一番良く知っている。
俺を押し退け、教官と対峙するタキヤシャとロキ。
なぜか一触即発の展開となってしまったこの状況。
辺境の街では決してあり得ないはずの超高位機種同士の戦闘が始まりそうな雰囲気。
もちろん、俺にそんなことが耐えられるはずも無く、
「ちょ、ちょっと! …………待ってください! 教官! なんていきなり戦闘をおっぱじめようとするんですか! 俺が何か教官の気に障るようなことをしたなら言ってください!」
タキヤシャとロキの前に出て、悲痛な表情で訴える俺に対し、
「……………私にその能力を知られていない機種を2機連れテ、しかも2機とも超高位機種となれバ、ヒロが卒業を前に心変わりしテ、私を狙いに来たと思っても仕方あるまイ」
教官は感情の乗らない声で淡々と事情を語る。
「現に今までも良くあったのダ。私が銃を教えた教え子達ガ、卒業の直前で私を従属させようと襲いかかってくるのがナ。まア、私を従属させたけれバ、私を倒してみろと普段から言っているせいもあるガ…………」
「いやいやいや! そんなことはしませんよ!」
「そうやって油断させるのも良くある手だナ」
「え………、そんなこと言われても…………、きょ、今日は教官にお願いがありまして…………」
「なんダ? 自分の従属機械種になって欲しいかラ、ブルーオーダーを受けいれてくレ……カ?」
「だから違いますって!」
「でハ、なゼ、わざわざ加害スキル持ちを連れてくル?」
「へ?」
教官の問いに思わず目が点となってしまう俺。
心臓が飛び出るかと思う程の衝撃。
「な、なんで………」
『分かったのか』と俺が続ける前に、教官が答えを述べてくる。
「その2機とも従属契約を結んで間も無いナ? そういった機種は備わったスキルを見抜かれやすイ。上手く馴染んでいないからダ。さらに加害スキル持ちは特に分かりやすイ。白の恩寵下での動き方が全然違うからナ…………、まあ、一ヶ月もすれば分からなくなるんだがナ」
「うう…………」
アカン………
全部が裏目に出てしまっている。
ここまで教官の目が鋭いなんて予想外も良いとこ。
俺はここからどうやって教官に信じてもらえたら良いのだろう?
頑なに俺の言葉を信じようとはしない教官。
じっと俺の真意を探るような目を向けてくる。
きっとこれは俺の配慮不足が招いた結果。
何の打診も無しに、いきなりレジェンドタイプと元緋王を連れて来れば、何事かと思うに決まっている。
さらにはこの、3日後が俺の卒業というタイミング。
街でも慕う者が多い教官を2倍以上の戦力で襲撃を仕掛けて機体を確保。
その3日後には中央の切符を手にして街を出れば、俺は誰からも不義理を追及されることなく、明らかに高位機種である機械種ガンマンを手に入れることができる。
先ほども教官が言っていたように、過去何度もあったことなのであろう。
記憶を掘り起こせば、俺が新しいメンバーを連れて行く度、教官はこちらを警戒するような素振りを見せていた。
秘彗の時も、ヨシツネの時も、浮楽の時も………、
そうして、今回は極め付け。
両者とも法律で禁じられている加害スキル持ち、しかも1機は元緋王。
これで『何も意図はありません』という方が逆に信じられないであろう。
だが、何としても教官に信じてもらう他は無い。
この街を救う為に。
未来視で見た悲劇を二度と起こさない為に。
「教官! 聞いてください! 街の危機が迫っているんです! 俺はそれを何とかする為に教官に協力して欲しくて………、俺の配慮不足は謝罪します! どうか俺の話を聞いてください!」
頭を下げながら、心からの願いを叫ぶ。
信じてもらうにはこちらから誠意を見せるしかない。
俺の言葉が足りなければ、いくらでも繰り返す。
俺の頭を下げるだけで済むなら土下座だってしても良い。
「お願いします!」
「力を貸してください!」
「どうか俺を信じて………」
そんな思いを込めて、ただひたすら言葉を紡ぎ、
そんな思いが通じたのか…………、
教官は少しだけ譲歩を行ってくれて、
「ふム…………、そこまで言うのなラ………、ヒロ、お前1人だけこちらに来イ」
そうぶっきらぼうに投げかけられた言葉に、
「はい!」
俺は即座に返事を返した。
「タキヤシャ! これを預かっといてくれ」
「え? あ、はい…………」
俺のメイン武器である瀝泉槍
サブ武器である『高潔なる獣』をレッグホルスターごと
現代物資召喚の取り出し口である黒のパーカー
左手に嵌めた『幽玄爪』
以上を躊躇いなくタキヤシャへと預け、
「これも頼む!」
「ええっと………」
困惑するタキヤシャにさらに押し付けるのは、
俺が着ていたTシャツ
履いていたスニーカーと靴下
少しヨレ気味のジーパン
「あの~~、陛下? 何のつもり?」
ロキも俺の行動に戸惑う様子を隠せない。
俺の行動が意味不明とでも言うように、大きく目を剥きポカンとした表情。
だが、そんなロキの反応も気にすることなく、
俺はボクサーパンツを除く全ての衣服も脱ぎ捨てる。
最初に俺は下手を打ったのだ。
それを取り返そうとするなら、相手の想定以上の誠意を見せねばならない。
ここに至っては万に一つの失敗もできない。
教官の信用を取り戻すつもりなら、相手が思うよりさらに上を目指さねばなるまい。
「武装解除しました! 今からそちらに行きます!」
俺は真っ裸………、いや、パンツ1丁になって、教官の元へと駆け出した。
「来ました!」
「『来ましタ』じゃなイ。誰が全裸になれと言っタ?」
「一応、パンツ、履いてますよ」
「そういう問題じゃなイ」
俺の返しに教官は片手を額に当てて頭が痛いかのようなポーズ。
そして、少々げんなりとしたような雰囲気を漂わせつつ、
「はア………、お前に私に対する害意が無いのは分かっタ。さっさと服を着て来イ」
「いいんですか?」
「お前のその貧弱な体ハ、見ていて楽しいモノではないナ」
「筋肉、なかなかつかないんですよね~」
「ヒロ。お前、自分が絶対に死なないと思っているんじゃないカ?」
完全武装解除状態のも関わらず、平然とした態度を崩さない俺に対し、教官が呆れたような様子で苦言。
「言っておくガ、たとえヒロが銃に対する耐性や無効化を備えていたとしてモ、私にはそれを貫く手段があるゾ」
俺にお灸を据えるとばかりに、それなりの殺気を込めてそう言い放つ教官。
それは俺が未来視で見た、『味方には勝利を』『敵には災害を』届ける銃、『平原女王』のことであろう。
だが、当然、その言葉でも俺をビビらせることは不可能。
だって、実際に至近距離で撃たれても効かなかったからね。
でも、それを言うことはできないから、半笑いでお茶を濁すような返しに終始。
「ハハハ、それは怖いですねえ……」
「コイツ………、全然信じていない顔だナ。まあ、いイ……」
どうやら俺の話を聞く気になってくれたようで、教官はクルリと後ろへ向き直り、
「その街の危機とやらを聞こうカ。ここでは何だから事務所に来イ………、お前のその物騒な仲間と一緒にナ」
そう言って、射撃訓練場の方へと歩き出す。
「はい! ありがとうございます!」
歓喜の表情でお礼の言葉を述べる俺。
俺の誠意が届いたことを確信。
そして、前を歩く教官の後を付いて行こうとすると、
「………コラッ! ヒロ! パンツ1丁で私の後ろを付いてくるナ! さっさと服を着ろと言っただろうガ!」
「す、すんません!」
めっちゃ教官に怒鳴られた。
射撃訓練場の奥にあるプレハブ小屋。
教官が住む自宅兼事務所。
タキヤシャ、ロキと共に扉を潜ると、そこは16畳程の広さの殺風景な部屋。
招かれたのは初めてだが、その生活感の欠片も無い、まるで倉庫の中のような内装に少しばかり驚く。
「何もありませんね」
「ただ機体を休める為の場所ダ。あト、私の銃弾の作成場でもあル。少し片付けるから待っていてくレ」
教官は俺の感想に答えると、室内に転がる小物を簡単に整理し始める。
床に置かれた段ボールを足で横にどかせ、
辺りに散らばる金属片を磁力操作で一か所に固め、
ある程度話ができるスペースの確保に勤しむ教官。
「ん?」
そんな様子を手持ち無沙汰な感じで待っていると、
ふと、目に留まった机に置かれた写真立てが目に入り………
「あれは…………」
色褪せ具合からかなり古いと思われる写真に写る、10人ぐらいの人影。
パッと見だが、ビックリするほどの美男美女揃い。
中には人間ではあり得ない部位を持つ者が幾人もおり、おそらくその大半は中量級の人型機種だと思われる。
しかし、その中に明らかに人間と見られる狩人風の男性。
そして、その横に寄り添う2人の美女。
1人は白い僧服を着た銀髪の女性。
少女漫画でしか見られないようなクルクルした縦ロールの巻髪……、ドリルヘアとでも言うのだろうか?
写真からも漂って来そうな高貴なオーラ。
見る者を尻込みさせそうなくらいの威厳を持つ美女。
もう1人は、どこかで見たことのあるテンガロンハットにトレンチコート、ポンチョを着こんだ金髪の女性………型機種。
おそらくは教官が、レジェンドタイプ、機械種カラミティジェーンを名乗っていた頃の姿。
その顔には決して未来視で見たモノとは重ならない、幸せそうな笑顔が浮かんでおり………
パタン
「あ………」
俺が視線を向けているのを見て、教官がさっと手を伸ばして写真立てを伏せてしまった。
明らかに教官のプライベートな部分だから当然かもしれない。
だが、今まで教官からはあまり感じたことの無いどこか人間臭い反応。
おそらく、あの写真の人物は、教官にとって忘れられない過去の栄光。
つまり、教官が昔仕えたマスターとその仲間達。
「す、すみません。勝手にプライベートを………」
「構わン。ここに招いたのは私だからナ」
ここは俺が無遠慮だったと思い、謝罪の言葉を口にするも、教官は気にしない様子で返す。
だが、もう一度写真立てを起こすことは流石になかったが………
非常に気になる構図であったが、流石に写真をもう一度見せてくださいとは言い出せない。
そして、これも到底口には出せないものの、聞きたいことが山ほど湧き出てくる。
あの銀髪の女性は鐘守なのか?
教官が仕えたマスターは『打ち手』であったのか?
一体なぜ教官だけがこの街に取り残されているのか?
教官のマスターはどのように亡くなったのか?
しかし、それを質問する状況でもないし、そんな資格は俺には無い。
それよりも俺には優先しないといけないことがあるわけで………
「でハ、ヒロ。話を聞こうカ」
「はい! 実は……………」




