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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
スラム編

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53話 報告2

 

 拠点への帰り道。

 夕方になると、スラムは人通りが多くなってく。



 日が暮れて、こうやって仕事が終わって拠点への帰路についていると、まるで、仕事帰りのサラリーマンの気持ちを思い出してしまう。


 ちょっとだけ、元の世界を思い出して懐かしむ。



 まあ、元の世界で仕事が終わって家に帰られるのは大抵夜だったから、こんな夕方に帰宅できるなんてほとんどないが。


 しかし、周りに歩いているのは若者ばかりだなあ。



 ふと周りの人が気になって、見回していると、歩いている人に大人が1人もいないことに気がつく。

 

 精々二十歳過ぎくらいの人がいる程度で、ほとんどが、十代前半から二十歳前くらいの人しかいない。

 もちろん、制服なんて着ているわけがないから外見からの判断だが。


 服装はだいたいがチンピラスタイルか、擦り切れた古着を着ているくらいだ。

 そう考えると昔漫画であったような不良ばかりが集まっている学園のようなイメージを持ってしまう。



 このスラムは学生しかいないとか? ………いや、学校なんてないだろうし。


 そういえば魔弾の射手の人たちも全員若かったな。

 バランスを考えれば1人くらいオジサンいてもいいだろうに。



 このスラムに来てから5日経つが、街で見かけた20代後半以降の年齢層を、ここのスラムでは全く見かけなかったことに今更気がつく。

 




 隣を歩くジュードにそのことを尋ねてみるとその答えが返ってくる。



 聞くところによると、このスラム、というかこの地区には若者しか入ってこれないようだ。

 若者以外が入ろうとすると、周りの人達が追い出しにかかるらしい。


 そして、スラム内で成長して大人になっても同様。

 普通は20歳までに出ていくのが大半のようだ。



 この仕組みはこの街の支配者層である5大組織が作り上げたそうだ。


 なお、20歳過ぎのスラムにいそうな人達はどこにいるのかというと、街を挟んでこのスラムの反対側にある繁華街に住んでいるそうだ。

 雰囲気はここと似たようなものみたいだけど。



 なぜ、そんな仕組みになっているかについては、ジュードは以前、トールに聞いたことがあるようで、その理由は2つ。



 1つは、このスラムで力をつけ過ぎた人が出ないようにすること。

 優秀な若者が、長く同じ場所にいれば影響力も強くなり、いずれはスラムの勢力を束ねて、5大組織に歯向かうような集団ができるかもしれない。

 それを事前に防ぐ為の仕組みだそうだ。


 2つ目は、このスラムが5大組織の人材の供給源になっていること。

 チームトルネラとバーナー商会との関係のように、スラムチームを卒業した若者は、そのバックの組織に入ることが多いらしい。

 スラムチームでの活躍によって、配属先も考慮されるそうだ。なんか研修期間中のような扱いだな。



 若者たちをスラム内のチーム同士で抗争させて、鍛えていると言えば、聞こえがいいかもしれないが、そこから脱落していく人へのセーフティーネットなんてあるわけないだろうから、悪く言えば蠱毒のようなものといったところか。

 そこまですり減る訳ではないだろうけど。


 街にとっては騒動の種にしかならない孤児の集団が、この地区に固まってくれているから、それで良しとしているのかもしれない。


 俺が街で邪険にされたのも、スラムの孤児が街に出てきたと思われたのか。



「街の大人は、この地区のことを『託児所』って呼んでるんだよ。だから要らない子供達をこの地区に放り込んでいくのさ」



 何の感情も籠らない声でジュードが呟いた。









 いつも通り報告を行う為、応接間のソファに座る俺とジュード。


 目の前には古びたコップに注がれた茶色の水。


 サラヤが上機嫌で俺達にお茶のような飲み物を振る舞ってくれた。


 この世界に来てから水以外の飲み物を飲んだことが無い。


 これはスラムだけのことなのか、それともこの世界にお茶やコーヒーみたいなのは存在しないかと考えていたが、どうやら、この世界にも一応嗜好品の飲み物ようなものが存在しているようだ。



「さあ、どうぞ。今日ね、モウラさんの所へ行ったら、お茶を分けてくれたの。まだ5回しか使ったことがないヤツだそうよ」



 え、5回使ったって。それ、出がらしじゃないの?

 口に出しては言わないけど、ほとんど水じゃないか、それ?



「へえ!凄いね。そんな新しいの貰えるなんて。やっぱりモウラさんには足を向けて寝られないね」


「でしょー。まあ、私の交渉術の効果もあったおかげだからね」


「うん。もちろん分かってるよ。サラヤは凄い。さすがみんなのリーダー」


「えへへ。ジュードにそう言われると、ちょっとくすぐったいな」



 コラ。ナチュラルにイチャイチャトークに突入するな。


 思わず、据わった目でこのバカップルどもを睨みつけてしまう。



「あ、ごめんなさい。ヒロ。さあさあ、飲んで飲んで。危ない所から生還したお祝いも兼ねてのご褒美よ」



 サラヤは俺の視線をお茶を早く飲ませろと受け取ったらしい。


 もういいです。諦めました。




 コップを持ち上げて一口。


 ゴクリ


 うん、微かにお茶のようなフレーバーを感じる水だ。

 これをお茶と表現するのはかなり無理があると思うけど。



 隣を見るとジュードがちびちびをお茶? を味わいながら口に入れている。


 俺達が飲んだのを確認して、サラヤも自分の分を飲む。



「うん。美味しい。久しぶりだよ。こんな美味しいお茶は」


「私も。前に飲んだのって何ヶ月前だっけ?でも、新しいとやっぱり風味が違うね」


「サラヤのお茶の入れ方が上手いからだよ。前に商会で教えてもらったんだよね」


「ありがと。練習した甲斐があったかも。飲んでほしい人がいると練習の力の入り具合が違うから」



 出がらしのお茶に入れ方なんてあるの?


 ジュードはサラヤが入れてくれたから美味しく感じているだけだろう。

 愛情は最高のスパイスですってやつか。ケッ!


 お茶についての感想から、いつの間にかイチャイチャトークにつなげる二人。


 隙あらば甘ったるい空間を作りやがって。

 俺もう帰っていいですか?








 俺にとっては耐えがたいティータイムが終わり、さっそくダンジョン探索の結果報告をサラヤに行う。


 俺が袋からオークの頭を取り出すと、サラヤはピクっと震えたかと思うと、そのまま固まって動かなくなってしまった。


 これから問い詰められる光景を予想して、隣のジュードに話しかける俺。



「今のうちに逃げ出さないか?」


「僕の経験上、その後3倍責められるから、大人しく沙汰を待った方がいいよ」


「お前、昨日機嫌が悪かったサラヤから逃げたろ?」


「ヒロ」



 俺の方を向いてニッコリと微笑むジュード。



「だから、その経験を生かして、忠告しているんじゃないか」


 そっかあ、あの後、やっぱり二人とも会ってたんだな。

 仲のよろしいことで。フン、もう別に嫉妬なんかしないからね。






「ジュード、ヒロ」


「「ハイ」」



 低く抑えたサラヤからの呼びかけに、返事は仲良くハモる俺とジュード。



「どういうこと?これ?」


「えー。それはオークという機械種の頭でして、その……」



 ジュードが役に立たないのが判明しているので、俺が答えるしかない。



「そうなんだ。確かコボルトを狩りに行ったと思ったけど……」


「コボルトを探していたら、オークの頭を拾ったんです。本当です。信じてください!」



 ソファから前のめりになって訴える俺。

 こうなったら勢いで押すしかない。

 多分、サラヤは押しに弱いはず(願望)。



 俺の真剣な顔(嘘)をしばらく眺めていたサラヤは、ついっとジュードに目線を移す。


 視線を合わさないよう、くるっと横を向くジュード。



 おい、ジュード!

 そんな反応をしたらやましいことがあると言っているみたいなものだろ!

 役に立たないばかりか、俺の弁明の邪魔までするのか。

 


 で、サラヤの視線は俺に戻ってくる。



 ほ、本当なんです。拾ったんです………


 とにかく、誠実さを目で訴えよう。



 じっと何の感情も見せない表情で、俺の眼を見つめるサラヤ。


 10秒くらい見つめ合う二人。


 これが映画だったら愛が芽生えてるぞ………、う、心が痛い。







「ヒロ、別に怒っているわけじゃないから安心して」



 今まで無表情だったサラヤが一転、ニコっと俺に微笑みかけてくる。



 え、そうなの。また、危ないことばかりして! って言いそうなのに。



「ヒロにはヒロの事情があるし、チームの為に頑張ってくれてるのは間違いないんだから、怒ったりするわけないでしょ」



 ふう………、何とか乗り切ったようだ。


 安心する俺にサラヤはもう一つ朗報を放り込んでくる。



「ありがとう。これで、ザイードの機械種の完成させる材料がそろったわ」



 え、ということはデップ達が、鎧虫か挟み虫の狩りに成功したのか。

 怪我はなかったのだろうか?



「大丈夫。ヒロに『お見舞い』に行ってもらう必要はなさそうよ」



 おお、ミッションは完璧か。

 イベント達成。損害も無し。ザイード回、ジュード回もクリアできたか。



「よっしゃあ!!」



 思わず立ち上がって、ガッツポーズを取ってしまう俺。

 そんな俺を座ったまま拍手してくるジュードとサラヤ。





 達成感を感じながらも、心のどこかで、何か物事が上手く行き過ぎているんじゃないかという不安が生まれる。


 幸運と不運は本来バランスが取れていて、一方に傾けば、それと同じ分だけもう一方に傾くという。


 元の世界にいた時の経験では、その意味が良く理解できる事案が多かった。

 

 さて、俺のチートスキルはこの幸運と不運のバランス調整をどれだけ跳ねのけられることができるのか。


 せめて自分の手の届く範囲内は、不運を跳ね返せるくらいの期待したいところだ。








 応接間を出た所で、ふと、ジュードに貸してもらっていた鉄パイプを思い出す。



「あ、そうだ。ジュード。鉄パイプを返すよ」



 その途端にジュードは血相を変えて俺に詰め寄ってくる。

 


「何言ってるの! それはヒロの為の鉄パイプだよ。それはもう君の一部って言ってもいいくらいだ」



 勝手に人を無機物と融合させるな。



「僕は自分のがあるから、それはヒロがぜひ使ってほしい。同じ鉄パイプ使いとして」



 勝手に人を妙な職業に転職させるな。



 ………分かった、分かった。


 そんな目で見るなよ。

 これはありがとく頂いておくよ。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] う一ん、なんだかんだ本当に面白いなコレ
[良い点] 鉄パイプ使いとは新しいなw [一言] 更新お疲れ様です
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