339話 姑息
「バイクの調子を見ないといけないから……」
恥ずかしそうに顔を赤らめたエンジュ。
微妙に俺への視線を外しながら、置いてあるバイクへと向かう。
追跡している間に、向こうの銃撃を受けたようで、傷ついていないかどうか心配らしい。
バイク自体に備わった簡易バリアがそのほとんどを弾いたそうだが、弾丸の破片が食い込んでいることもあるから、早い目にその辺りをチェックしたいとのこと。
「ヒロ、ハクトに手伝ってもらってもいいかな?」
「あ、うん。いいよ」
「ありがとう。ほら、ハクト。こっち来てくれる?」
エンジュが呼びかけると、耳をパタパタさせて白兎が駆け出していく。
その姿は友達に誘われて遊びに行く子供のよう。
やっぱり白兎はエンジュが大好きなようだ。
元気の無いエンジュを励まそうと、俺を押し倒してしまうくらいに。
「……まあ、エンジュが元気になったからいいか」
白兎があんな真似をしたのは、余りにも俺が不甲斐なかったからということもあるのだろうけど。
白兎にしてみたら、俺とエンジュはなんでくっつかないのだろうと思っているのかもしれない。
「はあ…、何でなんだろうね。俺も良く分からん」
あの日あの時、ほんの少し違った出会い方をしていたら、多分、今とは違う関係になっていただろうな。
そして、もっと早くにエンジュを鍛え始めていたら、俺は今と違った選択肢を選んだ可能性もある。
もちろん、今からでも選択を覆すことはできるのだけれど……
「止めておこう。俺が旅した2週間で、どれだけの危険に巻き込まれたことか……」
スラムから出たと思ったら、緋王2体と戦闘になり……
中堅規模とはいえ、街を支える商会に喧嘩を売り……
危機的状況にある開拓村に立ち寄って、巣まで攻略して……
道草で堕ちた街に入ってしまい、ウルフの集団に襲われて……
大きな街に来たと思ったら、街中の悪党に狙われて……
猟兵団の団員と諍いを起こして決闘になって……
さらにゴロツキ連中に車で追跡までされて……
「終いには、レジェンドタイプやストロングタイプを有する野賊を相手にドンパチすることになった。おまけにボスが感応士」
あ、まだあったな。
唐突に出てきた、全高40m越えという超超重量級『臙公』。
そして、殺戮機械として有名な機械種マッドピエロの上位種である『橙伯』。
この2機との突然降ってわいたような戦闘。
どう考えても、普通の人間が切り抜けられるような状況ではないイベントが乱発し過ぎだ。
全部が全部、俺のせいだとは言わないけれど、俺がいなければここまでのトラブルに巻き込まれることもなかっただろう。
「エンジュの身の安全を考えるなら、俺と一緒にいない方が良い」
もう何度、俺と一緒にいて、エンジュが不幸になった結末を見てきたことか。
俺が絶対に守ってやるなんて、口が裂けても言うことなんてできない。
「もし……、それを言うことができるとすれば……」
それは、中央に行って更なる戦力を手に入れること。
自分の身を守るだけではない。俺の周りの人間も守ることができる程の巨大な戦力。
「それが手に入った後なら……」
ボルトとディアを近くに置いて、バイクの横に座りこんでいるエンジュ。
伸びてきた赤い髪を後ろで縛って、白兎を助手にタイヤや足回り関係を弄っているようだ。
その目は生き生きと輝き、少女の溌剌としたエネルギーを迸らせている。
テキパキと動く様は、見ていて感心するほど手慣れたもの。
辺境を逞しく生きる少女。
俺が好きになった普通の女の子。
「それまで待っていてくれ……そんなことを言う資格なんてないよな、俺に」
多少自惚れがあるかもしれないが、エンジュが俺に好意を持ってくれているのは間違いないと思う。
しかし、ずっと俺のことを想い続けてくれというのは、あまりにも男の身勝手であろう。
「ふう…、ミレニケさんの様子でも見に行くか……」
エンジュから視線を外し、ミランカさんとミレニケさんがいる方へと向かう。
あまりエンジュのこれからのことを考え過ぎると、『俺の中の内なる咆哮』が出てくる可能性がある。
俺のモノなんてとても言えないのに、そう思ってしまう自分の姑息さに嫌気が湧いてきそうになる。
それでも頭の中に浮かび上がろうとする想像を無理やり押さえつけながら、ミレニケさんが休憩している岩陰へと足を進めた。
俺がミランカさん達に近づくと、傍で伏せって待機中である機械種リュンクスのリンクが、一瞬、警戒するように首を持ち上げ、こちらを一瞥。
当然、俺のことを知っているから、すぐに再びペタンと地面に伏せる。
豹くらいの大きさの猫型機械種の隣で、妹に膝枕をしているミランカさんの姿。
その顔は母性に溢れ、ハッとするような包容力を秘めた美しさ。
話しかけるのを躊躇ってしまう雰囲気だが、ここは確認しておかないといけない。
「ミランカさん、ミレニケさんの様子はどうですか? お怪我とかありませんか?」
眠っているミレニケさんを起こさないよう小声でミランカさんに問いかける。
ミレニケさんの為なら、仙丹を使用したって構わない。
再生剤と偽れば、そこまで不審に思われることもないはずだ。
「お気遣いありがとうございます。おかげさまで、怪我はありません。今はちょっと疲れていて眠っているだけです。さっきまで、ずっと泣いていましたから」
膝の上のミレニケさんの頭を撫でながら、落ち着いた声で応えてくれるミランカさん。
姉の膝の上で眠る妹のミレニケさんは、ミランカさんとよく似ていた。
僅かに茶色が入った短めの黒髪。
ほんの少し姉よりもふっくらとした可愛い系の丸顔。
俺と同じ年くらいの小柄な少女。
裸の上からタオルケットをかけられた状態だから、あまりジロジロ見るわけにはいかないけど、ミランカさんが言うように大きな怪我をしている様子は無い。
「そうですか。それは幸いでした。ちょっと今から着るモノを出しますね。ミレニケさんが起きたら着せてあげてください」
七宝袋経由で胸ポケットから無理やり紫色のジャージを引っ張り出す。
肌着はエンジュが速攻で仕上げてくれたけど、ミランカさんのアウターは未だに俺のジャージ。
図らずも姉妹とも同じ装いになってしまった。
「ありがとうございます。何から何まで。本当にヒロさんがいなければ、ニケを助けることなんてできなかったでしょう。私にできることがあったら何でも言ってください。ヒロさんに恩を返す為ならどんなことだって……」
「いやいや! そこまで大層にされちゃうと……」
真剣な目で俺に礼を言うミランカさん。
本当に何でもしてくれそうだけど、そこまでは求めていない。
だが、欲しいモノがないわけではないので、ここは……
「ん~……、俺が欲しいモノといいますか……。街に着いてからでいいので、俺に何かプレゼントしてくれません?高いモノでなくていいです。心の籠ったモノであれば」
「……プレゼントですか?」
「はい。まあ、記念品みたいなモノです。出会った人との思い出を取っておきたい……そんな感じですね」
ちょっと苦しいかもしれないが、これで新しい宝貝をGETできるかもしれない。
ミレニケさんは会ったばかりだから分からないが、ミランカさんなら絆的にも十分だろう。
「本当に高いモノじゃなくてもいいですからね。手作りとかで構いませんから。むしろそちらの方がいいかも。あと、形に残るモノでお願いします」
「……はい、ご期待に沿えるようなモノを用意しますね」
少し腑に落ちないようではあるが、一応納得してくれたようだ。
「でも、少しだけ時間をいただけますか。今は持ち合わせがありませんので……」
申し訳なさそうな顔をするミランカさん。
そりゃ、野賊に囚われて身ぐるみを剥がされていたのだから、当たり前だ。
俺がマテリアルを融通してもいいんだけど……
真面目そうに見えるミランカさんだから、普通に断ってきそうなんだよなあ。
さて、受け取ってもらうにはどうすればよいか……
考え込みながら、辺りに視線を漂わせた時、ふと俺の目に止まった大型車両。
ボスが死んで、本拠地からトンズラしようとした野賊の残党が乗っていたモノ。
「……あの車の中は調べましたか?」
「いえ、何も手をつけていません」
「……あの車はエンジュとミランカさんが仕留めたんですから、あの中にあるモノは2人で山分けしてください。逃げ出そうとした奴等だからお宝を持ち出したはずです」
2人で追跡して、2人が片づけたのだから、その権利は当然、2人のモノだろう。
厳密に言えば、俺が巣から追い出してやったから、俺の関与もあるだろうが、そこを主張するほど俺も狭量じゃない。
「それは大変ありがたいですが……私達が仕留めることができたのは、ヒロさんのおかげです。一番危険な役目を負われたヒロさんを差し置いて、私達2人だけで山分けというのは……」
俺の提案に逡巡を見せるミランカさん。
しかし、受け取ってもらわないと、俺へのプレゼントの原資が……
ここは強引にでも受け取ってもらわなくては!
「野賊の本拠地まで辿りつけたのは、ミランカさんが導いてくれたという点も大きいですよ。それに命をかけて戦ったという点では俺と同じです」
「……では、ヒロさんがその辺りを差配してもらえますか? 私達の戦果に見合った分の分配をお任せします」
うん、この辺りが妥協点かな。
俺とミランカさんが別々のチームであれば、獲物は仕留めた人のモノ。
しかし、俺とミランカさんが同じチームで動いたと考え、チームで挑んだ戦いなのであれば、リーダーが分配するのが当たり前か。
「じゃあ、それでいきましょう。では、早速車の中を見て来ますね」
元の世界で言えば、大型トレーラーに近い形状。
後ろにコンテナを積んでおり、輸送用によく使われる車両だ。
武装は付いていないが、中量級以下なら10体程度は運べる仕様のモノ。
「戦車とかじゃなくて幸いだったな。いくらあの大型バイクに武装があったとしても、相手が戦車じゃ分が悪い」
確かエンジュが無反動砲とか、連発式バルカン砲とかが付いていると言っていたけど、戦車の装甲を貫けるかどうか。
「まあ、戦車だったら、そこまで速度は出ないだろうし、追いつくのはもっと簡単だっただろうな。さて、お宝を拝見といきますか」
ぐるりと車の周りを一周した後、後部のコンテナを開けて中に入る。
観音開きの扉の中には、予想通りに本拠地から持ち出して来たであろう物資が載せられていた。
4段程に積まれた段ボール。
おそらく食料ブロックが入っているのだろう。
電子レンジから冷蔵庫くらいの大きさの金属製の箱が複数。
これはマテリアル精錬器か。
多分、水を造りだす『水瓶』だったり、食料を作り出す『鍋』だったり・・・
他にも金属製品を生み出す『金型』という可能性もある。
自分達で使っても良いし、処分するにしても、そこそこ値がつくモノのはずだ。
無造作に床に置かれた灰色の袋に入っていたのは、蒼石の数々。
残念ながら大きさから全て5級以下のようだ。
それでも、今の俺にとっては喉から手が出るほど欲しいモノ。
「これは優先的に譲ってもらいたいかも。場合によっては、俺が持っているマテリアルと交換しても良いくらい」
そして、コンテナの一番奥に置かれていた白い棺桶。
「これは・・・」
もう目にするのは3度目。
機械種用保管庫。
しかも数が3つ立ち並んでいる。
大きさ的に軽量級のモノだ。
自分達で従属せず、保管庫に仕舞ったまま。
これの意味するところは、戦力にはなりづらいが、高く売れることができるというモノ。すなわち……
「換金用か? だとしたら入っているのはひょっとして……」
恐る恐る手を伸ばして、白い棺桶の取っ手部分に手を触れる。
プシュー
白い蒸気とともに現れたのは……
小学生程の矮躯。
頭の上から飛び出した犬耳型アタッチメント。
とても戦闘用には見えない愛らしい少女型機械種。
「機械種キキーモラ……」
雪姫のいつも傍に控えていた、同じ機械種キキーモラのモラの名が頭を過る。
真っ白であったモラと違い、薄い茶色の毛並みが柴犬を思い出させる。
「なるほど、確かに換金用だな」
細々とした雑用をこなし、子供のお守りから女性の護衛までできる機械種キキーモラは、どの街に行っても一定の需要がある。
捨て値で捌いても1体50,000M、日本円にして500万円は下らないだろう。
「では、こっちは……」
プシュー
「これもかよ!」
その隣の機械種用保管庫を開ければ、こちらも機械種キキーモラ。
最初のモノとは違い、毛並みの色はこげ茶に近い。
こうして並んでいると毛並みの色以外は全く同じ。
まるで犬耳美少女姉妹のようにも見えてしまう。
「犬耳美少女……か」
思い出してしまうのは、未来視で見た雪姫とのやり取り。
あの幸せだった未来視の中で、雪姫の世話を焼いていたモラの姿が頭にチラつき、心の中をざわつかせる。
「これは、エンジュとミランカさんに渡そう。俺だとどうしても雪姫のことを思い出す」
念願の美少女型機械種ではあるが、コイツが俺の傍にずっといるとなると、俺が落ち着かなくなってしまう。
「これじゃあ、3体目もキキーモラか。3体も集めてどうするんだよ!トリオでも組ませて、アイドルでもやらせるつもりかよ!」
愚痴りながら、最後の保管庫の開閉スイッチを押し込む。
プシュー
いつもの排気音に合わせて、白い蒸気が噴き出す。
そして、ゆっくりと現れる中に収納された機械種。
機械種キキーモラよりほんの少しだけ背の高い少女型。
三角帽子に、身体の線を隠す藍色のローブ。
手には先端が捻じれた杖を持ち、足先は木靴を象った形状。
濃い紫色の髪、透き通るような真珠色の肌、スミレの花の様な可憐さを秘めた美しさ。
「え……これは、ストロングタイプの……」
一瞬目の前にあるモノが信じられなかった。
それくらい一般市場に出回っておらず、希少価値の高い機械種。
「魔法少女系・・・」
自分で呟いておきながら、あまりのネーミングに頬が僅かに紅色。
この歳になって『魔法少女』と呟くのはあまりにも痛い発言。
しかし、冗談ではなく、この機械種の機種名は魔法少女系のストロングタイプの
機械種ミスティックウィッチだ。
俺が破壊したストロングタイプ魔術師系の女性型に当たる機種。
「確か2種類あって、妖艶なスタイル抜群の魔女系と、可憐な容姿の魔法少女系があるんだよな」
魔女系のノービスタイプは機械種ソーサレス、ベテランタイプは機械種ハイソーサレス、ストロングタイプは機械種ワルプルギス。
魔法少女系は、ノービスタイプが機械種プリティウィッチ、ベテランタイプは機械種リトルウィッチ、そして、俺の目の前にあるストロングタイプの機械種ミスティックウィッチだ。
どちらも多彩なマテリアル攻撃を使いこなす遠距離型。
突き詰めていくと、魔女系は攻撃が得意で、魔法少女系は補助が得意というらしいが、特筆するほどの差はないという。
炎や稲妻、重力や空間を自由に操る万能型。
戦場では幾百の機械種を殲滅する広範囲攻撃に長けた砲撃手。
「……しかし、なぜ、従属しなかったんだ?」
コレを保有していた感応士も、コレを持って逃げた奴等も……
ボスである感応士は分からないでもない。
同じストロングタイプの魔術師系を従属していたから。
同タイプ別系統の機種を同じ人物が従属させると、稀に機械種同士が仲違いをすることがあるという。
特に魔術師系は気難しい機種が多く、直接喧嘩する訳ではないが、連携が取りにくくなり、部隊運営に支障が出るケースもあるらしい。
「若しくは、誰かへの贈答品に確保していたのかもしれないな」
国を作ろうとしているのだから、そういった関係各所への賄賂用に置いておいたとしてもおかしくは無い。
「でも、コレを持って逃げた奴等……もし、コレを従属していたら、エンジュ達ではとても敵わなかっただろう」
俺が喰らったみたいな絨毯爆撃で一蹴されてしまったに違いない。
たとえバイクで逃げ回ったとしても、飽和攻撃であっという間だ。
それくらいストロングタイプの力は他の機種と隔絶している。
なぜ、従属しなかったのか?
従属していたら、エンジュやミランカさんにやられることもなかったはず。
ストロングタイプを従属すれば、それだけで有象無象を蹴散らせる……
「うん? ひょっとして、それが原因か? つまり、コレを持って逃げた奴等は仲間じゃなかった?」
持ち逃げした奴等は全員機械種使いだ。
誰であってもストロングタイプを白鐘の恩寵外でも従属できる。
そして、ストロングタイプを従属した人間は、大抵の敵を一瞬で片づけることが可能。
それはつまり、従属した人間が、否応も無く持ち出したお宝を独り占めできるということ。
従属した瞬間、周りの人間を虐殺することだって可能だろう。
「……なるほど。お互いに牽制し合って、とりあえず従属せずに保管せざるを得なかったということか」
これについてはエンジュ達の運が良かったと言うしかない。
彼等の仲が良ければ、機械種ミスティックウィッチが出陣してきたかもしれないのだから。
「エンジュ達が傍目には、大した機械種を従属していないと思われたのも幸いだったな」
見かけはコボルトに、ウルフ、ちょっと大きいだけのキャットだ。
おまけにマスターは若い女2人
これでは油断するなと言う方が難しい。
これ幸いとエンジュ達も戦利品にしてやろうと、車から出てきてやられてしまったのだろう。
欲をかいて自滅する見本みたいだな。
「さて、コレをどうしようか……」
先ほどミランカさんには、この車に乗っているモノはエンジュと山分けして良いと言ったけど……
「このストロングタイプはぜひとも欲しい!」
妖艶なボンッ、キュッ、ボンッな魔女系ではないのが残念だが、俺が血眼になって探していた美少女型の機械種。
凹凸は少なくて、俺の趣味ではないが、それでも美少女型であるのは間違いない。
それに外に出しても問題が無い機種の中で最高峰と言えるストロングタイプ。
コレを俺の護衛にすれば、当面の問題の大半は片付いてしまう。
「コレをミランカさんに見せたら、絶対に欲しいと思うよな……」
エンジュはともかく、狩人で機械種使いでもあるミランカさんなら当たり前だ。
表面は何と言うかはともかく、内心は間違いなく手に入れたいと思うであろう。
なぜなら機械種使いにとって、ストロングタイプのマスターとなるのは悲願だからだ。
これを1体手に入れるだけで、一流の狩人の階段に足を踏み出すことができる。
俺が強引に主張すれば、ミランカさんも引いてくれるだろうが、その場合は彼女からの好感度はガタ落ちだ。
エンジュやユティアさんにも俺がケチだと思われてしまうだろう。
「それは嫌だ。せっかく稼いだ好感度なのに……」
俺がケチと思われず、ミランカさんも納得してくれるような方法は……
ストロングタイプの代わりとして何かを渡すとか……
「ストロングタイプの代わりになるようなモノってなんだよ! 市場価格で1000万Mするような機種だぞ! 日本円にして10億円だ! さらに希少な美少女型の魔法少女系ともなれば……」
その価格はいかほどのモノとなるのやら。
当然、そこまでマテリアルがあるわけないし、俺の七宝袋の中でもそれに代わるモノと言ったら、紅石か緋石くらいしかない。
「しかし、アレを出したとしても、本物と信じてくれるかなあ……」
たとえ本物だとしても、処分できるかどうかも分からないような品物だ。
手持ちの無いミランカさんが今欲しがっているのは、すぐ現金に換えられるようなモノ。
到底引き換えになるようなモノではない。
「いっそ、コレは俺の七宝袋に入れてしまって……」
俺の耳元で囁くのは悪魔のささやき。
「機械種キキーモラを渡すんだから、それで十分のはず……」
エンジュに1体、ミランカさんに1体。
この車にはこの2体しかありませんでしたと言えば……
「…………あははははっ、やっぱり俺は主人公にはなれないな。何処まで行ってもクズで小心者の……姑息な男でしかない」
仲間が頑張って倒した敵のお宝を黙って横取りする主人公。
もう最低だ。こんな奴、主人公でも何でも無い。
「せめて、2人にはできる限りの補償はしよう。理由を話すことはできないけど、それくらいは……」
そっと手を伸ばし、機械種用保管庫に横たわる機械種ミスティックウィッチに触れて、七宝袋へと収納する。
「念願の美少女型機械種を手に入れたと言うのに……あんまりうれしくないな」
実に身勝手な独白が、誰もいない車のコンテナ内に響いた。
次回からエピローグに入ります。




