239話 連戦
白兎が倒した機械種ソルジャーの晶石を回収し、地下への入口へと向かう俺達。
しかし、そんな俺達の前に次々とレッドオーダーの機械種が立ちはだかる。
どうやら先ほどの2連戦が目立ち過ぎたのだろう。
人間が死に絶えた堕ちた街での機械種との連戦。
それに立ち向かうのは、俺が一番に信頼する小さな勇者。
俺の筆頭従属機械種にして宝貝という唯一無二の存在。
宝天月迦獣 白仙兎。通称、白兎。
ここから先は、正しく白兎の独壇場となった。
陣形を組んで向かってくる機械種ケンタウロス4体。
人間の上半身に馬の下半身がくっついた人馬というべき異形。
元はギリシャ神話の怪物だが、野蛮な暴れん坊という者から、賢者ともいうべき知恵者までいる個人差が激しい一族。
機械種ケンタウロスは中量級モンスタータイプに該当し、野外での戦闘力はその機動力も合わさって機械種オーガにも匹敵するほど。
ただし、屋内ではその機動力を活かし切れない為、戦力が激減してしまうし、戦闘以外には伝令か運搬用くらいにしか役に立たない機種でもある。
ランクで言えばワービーストやノーマルエルフと同じカテゴリー。
蒼石では6級でブルーオーダーできる程度。
うーん、機動力は魅力的だが、戦場が限定されるのは困る。
それに俺のメインの戦場は機械種の巣になるだろうし、あまり使い勝手が良いとは言えない。
それに6級でイケるのにわざわざ5級を使うのも勿体なく感じてしまう。
これは……不採用だな。
「白兎、破壊しても良いぞ」
ピョン!
白兎はその場で飛び上がると、今度は横回転で回り始める。
そして、いきなりトップスピードで自らの身体をフリスビーのようにして突撃。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル!!!
白い回転鋸となった白兎は、そのまま機械種ケンタウロスの集団へ飛び込み、まとめてその首を刎ね飛ばす。
おおっ!
こ、これは、絶! 天兎抜刀牙……
……いや、止めておこう。またスキルに入れられてしまうかもしれない。
次は機械種ヒポポタマス。
言ってしまえばカバだ。
全長6mを超える巨体。人間が抱えられない程の太さの四足。
全身黒一色の分厚い装甲。自動車を丸かじりできるほどの巨大な顎。
重量級ビーストタイプにあたる機械種で、主に水辺や沼地での輸送等に使われる運搬力に秀でた機種だ。
この機械種が野生でこの荒野の街にいるのはおかしいから、おそらく誰かが運搬用に従属していた機械種なのだろう。
白鐘が割られた時にたまたまこの街にいて、レッドオーダーされてしまったに違いない。
運搬用としても、防御用としても有用だろうが……
ただのカバだしなあ。
これがサイの機械種ライナサラスだったら一考の余地があったかもしれないが、カバはちょっとありえない。
それにこれも6級でイケる奴だし。
「白兎、やっちゃえ」
俺のGOサインに、待ってましたとばかりに突っ込んでいく白兎。
迫りくる機械種ヒポポタマス相手に、真向から体当たりをしかける。
それは電車相手に真正面からぶつかっていくような自殺行為にしか見えない。
その体重差は間違いなく100倍以上はあったのだろうけど……
ドゴゴゴォォォォォン!!!
トレーラー同士の正面衝突でも起こったのかと思うくらいの爆音が響き、黒い巨体が明後日の方向へ吹っ飛ぶ姿がそこにはあった。
どう考えても物理的におかしい現象を引き起こした白兎は、何十トンもある巨体と正面からぶつかったにもかかわらず、全く平然とした様子。
「白仙兎ぉぉぉ~! ただいまの決まり手は~~、ぶちかましぃぃ~」
前の世界の相撲を思い出して、つい行司と場内アナウンスになりきり四股名と決まり手を宣言。
すると白兎は、俺の悪ふざけに合わせて器用にその場で四股を踏む。
トン、トン、トン、スリ、スリ、スリ……
おい、雲竜型だと……なんで白兎が知っているんだよ!!
最期は機械種ジャイアントバット。
下位機種であるバットを引き連れ、群れでこちらの方にむかってきた。
人間ほどの大きさがある蝙蝠の機械種。
広げた皮翼は5m近くありそうだ。しかし、ただのビーストタイプであるので、マテリアル重力器は積んでおらず、飛行するといっても高い所からの滑空がせいぜい。
その為、自重を軽くする必要があり、装甲が非常に薄い。
その大きさが仇となり、銃があれば的にしかならない機種。
それでもその鋭い爪と、空中からいきなり飛びかかってくる奇襲は人間にとっては脅威であり、夜間の見張りや、夜に敵陣へ奇襲する時などに使われることが多い。
ただ、まあ、それだけだ。
俺が従属するには力不足もはなはだしい。
飛べるというのは利点になるが、すでに俺には空中戦ができるヨシツネがいるし、白兎だって白い流星になって飛行することができる。
それに蝙蝠なんてちょっとカッコ悪い。
どうせ飛行タイプならイーグルとかホークとかの方が俺に相応しいだろう。
さっきからどうも遭遇する機械種がランクダウンしていっているような気がする。
よく考えれば、従属するのは2番目に遭遇した機械種ソルジャーでも良かったかもしれない。
片腕くらいなら予備の腕を付けるという方法もあっただろうし……
いやいや、ここで過去を振り返っても仕方が無い。
もっと先に進めば俺が求める機械種に出会える可能性だってある。
白兎にはさっさと片づけてもらって先へ進むとしよう。
空中を舞う機械種ジャイアントバットとその下位機種バット達は、黒い雲の塊のような状態となり俺達の方に迫ってきている。
虫の大群が襲いかかってくるような光景だ。
その様は人間の生理的な不快感を刺激してくる。
「羽虫め。目障りだな。白兎、薙ぎ払え!」
冷酷な指揮官っぽく、白兎へ掃討を命じる。
『焼き払え!』だったかな? まあ、いいか。
俺の命を受けた白兎はその黒い雲の塊に向け、大きく息を吸い込む仕草。
白兎の全身が徐々に白い輝きに包まれていく。
それは無垢を象徴する純白の輝光。
見ている者の心を浄化し、悪を滅し、俺の前に立ち塞がるモノを討滅する白兎の新たなる力。
その輝きが少しずつ口の方へと収束していく。
凝縮された烈光が、今にもはち切れんばかりに脈動を繰り返す。
え……何、その準備動作?
まるでドラゴンブレスでも吐こうとするかのような体勢。
命令したのは俺だけど、巨〇兵でもあるまいに。
ま、まさか……
そのまさかが白兎の口から放たれた。
それは一条の白い閃光。
白兎が作り出した破壊の吐息
それは白兎から見て右方向へ吸い込まれるように着弾。
さらにその閃光を右から左へ、黒い雲の塊を真一文字に切り裂くように横断させる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
そして、連鎖的に爆発。
爆風がこちらに押し寄せ、俺の髪や服をバタバタと煽ってくる。
まるで戦車砲が続けざまに撃たれたような破壊力。
その爆心地からは濛々と煙が立ち上り、辺りに広がって視界が妨げられる。
その様子に、ただ絶句し、立ち尽くすだけの俺。
しばらく呆然として前を見つめることだけしかできない。
やがて、堕ちた街を通り抜ける風が辺りの煙を押し流していく。
煙が晴れた後、目に入ったのは、爆心地の近いところに転がっている機械種ジャイアントバットの頭部分と……
こちらを振り返って、『褒めて褒めて』と無邪気にこちらにアピールしてくる白兎の姿だった。
白兎を一しきり褒めた後、右手に『宝貝墨子』、左手に『水の入ったコップ』を持ち、地下室への入口へと向かう。
俺の前を歩く白兎は、思いっきり暴れられたせいか、機嫌良さそうにお尻をフリフリしながら進んでいく。
「いや、もう何も言うまい……」
そんなご機嫌さんの白兎を見ながら、口の中だけで呟く。
前から分かっていたことだが、白兎はすでに機械種ラビットの枠を越え、レジェンドタイプに匹敵……若しくはそれを上回る力を備えている。
しかも、俺が望む力を後からドンドンと覚えていくという仕様なのだ。
さらにその習得できる数の限界があるのかどうかさえ現時点では不明。
このまま無限に強くなっていく可能性だってある。
強い上に成長著しいタイプというゲームバランスを壊しかねない存在になってしまっている。
白兎がもし人類の敵になったなら、最終的には最強の魔王となって、人類などあっという間に滅ぼしてしまうに違いない。
まあ、今の白兎からはとても想像できないけど。
……もし、そうなるとすれば、俺が人間に殺されてしまった時だろうな。
もちろん、そんなことはありえないのだろうけど。
復讐鬼となった白兎はどんな手段を使っても、俺を殺した人間を滅ぼすだろうし、その純粋さゆえに、復讐の対象をどんどん広げていくかもしれない。
それを止められるのは……同じ俺の従属機械種であるヨシツネと、車の整備を教えてくれて白兎も懐いているエンジュくらいだろうか?
ヨシツネは白兎の後輩だが、実力的にも近いヨシツネには白兎も一目置いているように思える。
それに白兎がまだただの機械種であった時に、身を挺してヨシツネが俺を守ってくれたことに感謝しており、2人の関係は非常に立場が近い同僚といった感じなのではないだろうか。
エンジュにはなぜか白兎は甘えた態度を見せることが多い。
誰に対しても人懐っこい白兎だが、特にエンジュにはまるで俺に対するかのように気を許している。
多分、教えを乞うたことが原因だと思うが、白兎の中ではエンジュは師匠枠なのかもしれない。
他には……チームトルネラの面々、特にザイードには整備や修理でお世話になったはず。また、ジュードもダンジョンを共に探索した中でもあるし、戦友と言っても良い関係だろう。
あとは……
トン、トン
前を歩く白兎からの合図。
どうやら目的地に着いたようだ。
目の前にあるのは廃墟ビルの1階部分。崩れかけた通路の奥に見える地下への階段。
とりとめのない考えをストップし、気合を入れ直す。
この先は何が居るのか分からないダンジョンに近いモノだ。
隠し倉庫なら番人がいるかもしれないし、罠だって設置されている可能性がある。
右手の持つ『宝貝墨子』から引き出した地図では、目的地まではこの地点から1km程度。
その間、特に神経を張り詰めて慎重に進むことにしよう。
「さあ、行くぞ!」
ピョン
俺と白兎はゆっくりと階段を降りていく。
この先に俺が欲する物があるのは確実だが、当然、求められるだけの価値があるモノは、常に何かに守られていることが多い。
果たして俺達を待ち受けるモノはお宝だけなのか……それとも……




