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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
放浪編

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236話 寄り道


「あれ? そっちに進むの?」


 朝焼けの荒野を進む車の中、後部座席のエンジュから質問が飛ぶ。

 先ほどまで道沿いに走っていたが、突然道を外れ出したから不思議に思ったのだろう。


「ああ、こっちの方が近道だと思ってね」


 ナビの行き先は同じだが、進む方向が少し異なっている。


「大丈夫? 道を外れると揺れも強くなると思うけど……」


 隣に座るユティアさんを気にしているようだ。

 

 朝、ようやく顔色が元に戻り、朝ご飯を食べられるようになったが、まだ本調子ではない様子……というより、車酔いがトラウマとなって車が苦手になってしまったのかもしれない。


「……私のことなら大丈夫です。気になさらないでください……」


 と言いつつ、青い顔のユティアさん。


「早く到着するなら、頑張って耐えてみせます!」


 ……その耐えるって言うのは、車酔いのことなんですかね? それともトイレのこと?

 トイレを耐えるのは勘弁してもらいたいんですけど。


 でもまあ、ユティアさんがそう言ってくれるならありがたい。


 なぜなら進む方向は次の街でもあるのだが、その途中に俺が手に入れたい物がある……予定なのだ。








 昨夜、エンジュが車に戻った後、打神鞭で『最も近くにある所有者のいない水を出すマテリアル錬精器『水瓶』の場所の占いを行った。


 いつものごとく打神鞭の指示に従い、用意させられたのは水の入ったカップ。


 これで何が分かるのかと思いきや、突如、俺の目の前にヒラヒラと花びらが落ちてきてカップの中に入り込む。


 カップの水に浮かぶ花びらの先端の向き。

 

 打神鞭が言うには、方位磁石のごとく、その先に俺の目指すものがあるらしい。



 

 エンジュを見つけた時の様なナビ画面に映してくれたら分かりやすかったのに。


 そう思わないでもないが、なぜか打神鞭は同じ占い方法を取りたがらない。

 それが占いのルールなのか、それとも打神鞭の拘りなのかは分からないが。


 俺達の行き先を示す水面に花びらを浮かべたコップは、助手席の白兎が前脚で抱えてくれている。

 それを横目で見つつ、ナビの設定を変更して車を進めているのだ。

 


 とにかく今はその花びらの向きに向かって進むしかない状況だ。

 幸いその方向は向かおうとしていた街への方角に近い。


 今までは道に沿ってやや遠回りに向かうルートであったが、花びらの先端が指し示す方角は、まっすぐその次の街へと向かっている。





 多分、次の街へとたどり着く途中に、大破した車なんかが放置されているのだろう。


 ……実は次の街に在りましたって言うオチではなかろうな?

 念の為、『所有者がいない』という条件を付けているのだから大丈夫だとは思いたいのだが。





 若干不安になりながらも、道なき道を進むこと2時間少々、そこでまたも問題は発生した。






「ヒロ! ちょっと車を止めて!」


 後部座席からエンジュの鋭い声が飛んでくる。


「え! わ、分かった。46725号、一時停止だ!」


「リョウカイシマシタ」


 俺の指示で緊急停車する車。

 

 そして、車が止まると同時にエンジュがユティアさんを車から引きずり下ろす。


 ユティアさんの顔は油汗まみれの真っ青だ。

 目に一杯の涙を溜め、美女にはあるまじき鼻水まで垂らしている。


 

「ユティア、もう我慢してもしょうがないでしょ!」


「……いや、嫌です……」


 エンジュの諦めを促す言葉に、ユティアさんは壊れた操り人形のごとく、ぎこちなくフルフルと顔を横に振る。

 下唇を噛みしめ、何かに耐えるようなしかめっ面。

 どうやら我慢の限界に近付いている様子。



 男の俺が近くにいたら駄目だろうな。

 ここはエンジュに任せて少し離れた方が良いかもしれない。



 2人の護衛を森羅に任せ、少しだけ車から離れることにする。

 といっても精々数十メートルくらいだ。


 この距離ならいくら何でも、音も臭いも届かないはず。



 周りはほとんど遮るものが無い荒野。

 覆い茂る草むらの上を、そよ風がゆっくりと通り過ぎる。

 アメリカの赤茶けた荒野に、少しばかり緑を増やしたイメージが近い。

 海外旅行なんてしたことがないから、あくまでイメージだけだけど。


 

 そんな中、いつの間にか後ろについてきた白兎と一緒に、目的も無しにウロウロと歩き回る。 

 

 

 はあ…、女の子との旅って楽しいモノだと思っていたけど……

 ここまで色々厄介だとは思わなかった。

 


 そう言えば、ジュードもカランと一緒に狩りをしていた頃は、トイレや着替えにかなり気を遣って大変だったと言っていたな。

 あの猟兵育ちのカランですらそうなんだから、今まで開拓村を出ることなく、村長の家で暮らしてきたユティアさんなら尚更だ。


 何とかしてあげたいけど、流石に俺の部屋の便器は召喚できないし。

 あとは壁を作ってトイレのような空間を作ってあげるくらいだろうか?


 五行の中の土行の術なら簡単に岩壁を作れるとは思うけど、流石にそれを見せるわけにはいかない。


 それとも、ここに壁を立てて偶然見つけたってことにしてみるか……


 

 チョイ、チョイ、チョイ



 んん? なんだ、白兎?



 足元で白兎が前足で俺のジーパンの裾を引っ張っている。

 

 俺が目を向けると、白兎はあっちを見てとばかりに、クルンと首を向こう側へと向けた。



 何か、見つけたのだろうか?

 ひょっとして大破した車か!



 白兎が指し示した方角に見えるモノ……



 それは……









「エンジュ! ユティアさん! 街だ! 街が見える!」


 すぐさま取って引き返した俺は、エンジュ達にそう呼びかける。


 確かに街らしきモノが見えたのだ。


 いくつかの建物が並んでいる光景。

 おそらく数キロ先であろうが、車で行けば10分もかからない。




「え! 本当? こんな所に街なんかあるの?」


「あ……あ、あ、つ、つれ、つれぇってぇくだしゃあいぃぃぃ」


 うわあぁ、ユティアさんの顔は、すでに女の人がしていい顔じゃないぞ。


「早く車に乗って!すぐに出発しよう!」


 エンジュと2人してユティアさんを両側から支えて車に乗せる。


 そっと、優しく……


 そうしないといろいろ大変なことになりそうだったから。







 ゆっくり急いで発進する車。


 そして、予想通り10分もかからずそこに到着する。


 確かにそこは街……であった。


 おそらく何十年も前であれば。




 並ぶ建物は皆崩れかけており、廃墟と化していた。

 当然、人っ子一人存在せず、ただ廃墟を通り抜ける風だけが音を響かせている。



「ここは……堕ちた街」



 車から降り立ったエンジュがポソリと呟いた。








 『堕ちた街』


 それは人類の生存圏ではなくなってしまった街のこと。

 つまり白鐘を無力化、若しくは破壊された街のことだ。


 その原因となりうるのは主に3つ。


 まず一つ目。

 レッドオーダーの機械種により、街の周りに『巣』が作られ、それを長い間攻略できなくて『砦』に成長されてしまったケース。


 二つ目。

 白鐘の効力を維持する為の晶石の確保ができなくなったケース。


 どちらも場合も、ゆっくりと白鐘は効力を失い、じわりじわりとレッドオーダーの機械種が街の中へと侵攻してくることになる。

 もちろん、その前に逃げることも可能だが、街の人間が全員脱出できるわけもなく、残された人たちは犠牲となってしまう。



 そして、最後の三つ目。

 何らかの要因で街の中の白鐘が破壊されたケース。


 この場合は、すぐに白鐘の効力が無くなってしまう為、半日も経たずに街の周りのレッドオーダー達が襲いかかってくるのだ。

 さらに街の中で機械種使いの才能を持たない人間が従属していた機械種達も敵に回ってしまう。


 前の二つなら、それに対処する時間もあるが、最後のケースだとその余裕も無い。

 今まで自分に仕えてくれた機械種達が牙を剥いてくるなんて悪夢以外の何物でもない。


 家で家事をしてくれていたメイド型機械種も、街の道路をいつも掃除していた亜人型機械種も、護衛をしていた戦闘用機械種も……


 今まで人類の良き従者であったはずのブルーオーダーの機械種達が、数十分から数時間の内に人類の敵対者となってしまう。


 最も街の被害が多くなるのがこのケースだ。

 いきなり外と内からレッドオーダーの機械種の脅威に晒されることになる最悪のケースと言える。



「さて、原因はどれなんだろうね?」



 誰に聞くわけでもなく、浮かんできた疑問を口にする。


 すると エンジュと一緒に降りてきた森羅が俺の疑問に答えてくれた。



「おそらく、白鐘を割られたのだと思われます。建物の損傷が大きく、外側からだけでなく内側からも傷ついていますので。これは至る所で戦闘が起こらないとこうはなりません」



 なるほど。

 時間に余裕があるなら、被害が出ないよう街の外側で防衛陣形を整えるだろう。

 防衛陣形が破られたとしたなら、街の中に戦力なんて残っていないはず。

 その場合起こるのは戦闘ではなくレッドオーダーによる虐殺だ。

 ここまで建物が壊れるのは、やはり街の中でも戦闘が起こったと言うことに違いない。


「機械種使いが従属している機械種は、白鐘の効力が無くてもレッドオーダー化しませんので、街の中で機械種同士の戦闘が勃発したのでしょう」


 流石、我が『悠久の刃』の参謀。

 読みが鋭いな。


 つまりこの街は、突然何者かによって日常が破壊され、地獄に突き落とされたということか。


 いくら機械種使いの従属している機械種は無事だとはいえ、機械種使いの才能は貴重なもので、その数は20人に1人くらいの割合でしかない。

 どれだけブルーオーダーの機械種が残ったとしても、その数の差をひっくり返すのは難しいだろう。



 

 白鐘というただ一つの守りが破壊されただけで、一つの街が壊滅してしまう。

 この世界の日常は、俺が思うより薄氷の上に立っているのかもしれない。


 自然と両の拳に力が入る。

 それはこの世界の無常さに対する憤りか?

 それとも、この状況を何とかしたいという義侠心からか。

 



 『もし、俺の力の全てをこの酷薄な世界に生きる人間たちを救う為に捧げたとしたら、一体どれくらいの人達を助けることができるのだろう』




 ふと自分らしくない考えが頭を過る。

 




 ヤメロ!

 自分一人ですら、これだけ迷走しているのに、他人の人生なんて背負えるはずが無い。

 期待に押しつぶされて逃げ出すのが落ちだ。

 開拓村でそれは十分に思い知っただろう!



 即座に降って湧いた甘えた考えを切って捨てる。


 俺は物語の主人公でも、世界に選ばれた勇者でもない……なるつもりもない。

 そのルートはすでに潰えているんだ。


 今の俺はただの異世界に迷い込んだ放浪者。

 そして、俺が守りたいのは自分の手が届く範囲内のみ。


 もうそれでいいじゃないか……



 


「ヒロさん……トイレは……トイレはどこでしゅかあぁぁ」




 俺が自分の進むべき道について自問自答していると、後ろからユティアさんの死にそうな声が聞こえてくる。




 ああ、もう、ちょっとくらいシリアスさせろよ!


 ……しかし、放っておくこともできないし。


 これだけ建物が残っているのだから、トイレが無事な家も一つくらい……




「ユティア! この家にトイレがあるよ!」



 すぐ傍のまだ形が残っている建物のドアからエンジュが顔を出す。

 

 いつの間にかエンジュが近くの家に入りトイレを探してくれていたようだ。

 


「すぐ行きましゅ!」


 ユティアさんはヒョコヒョコと速足で駆けだし、その家の中に飛び込む。




 バタン!!




 扉が閉まる音が廃墟に木霊した。





 




「ふう、これで一安心だね」


 エンジュが俺の近くに来て、安堵の表情。


「でも、良かった。偶然、堕ちた街が見つかるなんて」


「……そうだね。凄い偶然もあったもんだ」


 偶然じゃなくて、打神鞭の占いの成果なんだよなあ。

 おそらくこの堕ちた街に水を作り出すマテリアル精錬器『水瓶』があるのだろう。

 確かにこの誰もいない廃墟にあるのであれば、誰のモノでもないのは間違いない。


 一応エンジュにこの街を探索したいことを話しておいた方が良いだろうな。



「エンジュ、せっかくだから、この街を少し探索したいと思うんだ。構わないかな?」


「ええ! ヒロ、『墓荒らし』をするの? 危険だよ」


 墓荒らし?

 ちょっとその言い方は体裁が悪いぞ……ああ、そうか! この世界の独特の言い回しか。

 堕ちた街ではたくさんの人が亡くなっているから、この街全体が墓標とも言えなくもない。


「この様子だったら『堕ちた』のは何十年も前だったんじゃないかな。『墓荒らし』達に根こそぎ取られていると思うよ」


「まあ、その可能性もあるけど、もしかしたら何か物資が残っているかもしれない」


 残っているのは確実なのだ。

 ここでその機会を逃すわけにはいかない。


「それに、この先ユティアさんを連れて行こうと思ったら、物資は多い方がいいだろう?ほら、あの通り全く旅慣れていないみたいだし」


「うう! それは……そうだね……」


 エンジュも流石にこれはフォローができない様子。

 何とも言えない困った様な表情。

 それを見て俺も少しばかり苦笑を浮かべる。



 しばらく見つめ合う俺とエンジュ。

 


 どちらの目にも映っているのは、苦虫を噛み潰したような困り顔。

 なんとなくお互いが思っていることが、それだけで十分に伝わってしまった。




『ユティア(さん)のポンコツ具合には困ったものだ……』




 …………




「ふふっ」「くすっ」




 それがなぜか可笑しく思えてしまい、どちらからともなく俺もエンジュも軽く噴き出してしまった。

 

 

 そして、向かい合ったまま、お互い破顔する。




「ははははは」「ふふふふふ」





 無人の廃墟で楽し気な笑い声が響く。

 悲劇の舞台に流れるにはまるで似つかわしくないBGMのはず。


 それでも、今、俺は笑いたかったのだ。

 多分、エンジュも同じ気持ちだったのだと思う。


 この時、ほんの少しだけエンジュの心に触れることができた様な気がした。





 そんな時、ユティアさんが飛び込んだ家から、せっぱつまった声が響く。





「エンジュ~、どうしましょう?水が流れませ~ん!!」




「「…………」」




 その声に数秒、固まってしまった後……


 俺とエンジュの口から漏れたものは……




「「はあ…」」




 全く同時に重なった大きなため息だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] d('∀'*)ぐっ [一言] ワァォ…(’∀’*) …イケるか?……イケるな…うん!イケる!!少し大好きだ!どこにも♪出口のない日々が♪
[良い点] ユティアよ、ユティアよ…? 汝は何故に、斯様な愉快キャラへと成り果てたもう……? いや、車にノックダウンして、町でトイレに駆け込んで、これでギャグキャラムーブは打ち止めかと思いきや最後に2…
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