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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
スラム編

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173話 治療


 「招幸運の術」


 適当に名付けたが、文字通り幸運を授ける術だ。

 いきなり大富豪になったり、宝くじに当たったりするわけではないが、前向きな行動への後押しとなるような現象を起こしたり、一定の害意から逃れられるようになったりとする程度ものであろうと思う。

 おそらく術のかかった感触から、効果の及ぶ範囲は数年程度といったところだろう。


 しかし、それでも彼女にとっては十分のはず。

 その年数位がちょうどサラヤにとっての分岐点になるはずだから。

 あとは、ジュードに任せればよい。あの2人ならば、時間さえあれば少々の苦難でも乗り越えてくれるだろう。






「痛いなあ。ああ、やっぱり痛いのは嫌いだ」


 ジクジクと痛む親指を眺めて、そんな呟きが漏れる。

 仙丹で治せば一瞬だが、まだ治すわけにはいかない。

 まだ、この術を使わないといけない相手がいるから。


 触媒たる血は新鮮である必要があるし、手の平に描いた血文字は一度きりの効果しかない。

 再度術を使おうとする度に新鮮な血が必要となる仕組みなのだ。


 もう一度、自分の指の腹を食い千切る勇気は俺にはない。

 それをするくらいなら、ジクジクする痛みを我慢した方がマシだ。


 あと、この術は何回も使えるものではない気がする。

 世界には幸運の量というものが決まっており、無制限に幸運を授けられるわけではない。

 世界中の人にこの術をかけたって、全員が幸運にはなれない。

 なぜならすべての人がその状態なのであれば、それはすでに幸運ではない。


 そんな限られた人しか手に入れることができない幸運を、俺の一存で授ける相手を選ぶことができる。

 正に神か悪魔かのような能力。これこそが、正しくチートと呼べるモノであろう。


 せっかく手に入れたチート能力なんだ。精々、俺の思い描くハッピーエンドになるように利用させてもらう。






 トントントン



「ヒロだよ。お見舞いに来たんだけど……」



 ガチャ


 ドアが開いて、出てきたのは幾分疲れた顔をしたナル。


「ああー、ヒロさん。お見舞いですかー、ありがとうございますー」


 それでもニコッと笑顔を忘れない愛嬌の良さ。

 本当にチームの癒し枠だね、ナルは。


「どうぞー。テルネはちょっと寝ていますけどー」


 ナルに案内されて、テルネが寝ているベットの傍へ。


「まだ少し熱があるみたいなんですー。お薬を飲ませたんですけど、最近あんまり効き目が良くなくてー」


 テルネの顔色は良くない。

 少しやつれたように見える。昨日よりも生気が感じられない。

 もう一刻も猶予がなさそうだ。


 しかし、ナルがこの場にいるから、ここで治療を行う訳にはいかない。

 何とか外に出てもらいたいんだけど……


 あと、テルネの横に鎮座しているラビットも。


 テルネが従属したラビットは、入ってきた俺をじっと見つめている。

 おそらく不審者かどうか見極めているのだろう。




 仕方ない。もう時間も無いのだから、直接言うしかないな。


「ナル、俺さ。テルネの『お見舞い』に来たんだ」


 再度、『お見舞い』の部分を強調する。


「え、それって……デップ君達と同じ『お見舞い』ですかー?」


 ナルの表情に光が差す。

 ほんの少しの希望が見えた表情。


「ああ、俺に任せておいてくれ」


 ドンと自信あり気に自分の胸を叩く。


「分かりましたー。じゃあ、私は水差しに水を入れて行ってきますのでー」


「ああ、それとそのラビットも一緒に席を外してくれると嬉しい」


「え、このテルネのラビットちゃんもですかー」


 俺とナルの視線を受けるテルネのラビット。

 しかし、全く動じる様子は無く、逆に俺達に立ち向かうように顔を向けて、ピンッと耳を立ててくる。


「これはテルネの騎士さんみたいですねー。これを引き剥がすのはちょっと無理そうなんですけどー」


 うーん。これは困った。

 この治療は誰にも見られたくないんだけど。

 たとえしゃべられないラビットとはいえ、万が一のことも考えられるし。


 このラビットも白兎の愛弟子であるから、あんまり無体のことはしたくない……


 お、そうだ。コイツの師匠である白兎の力を借りてみるか。






「頼んだぞ。白兎」


 ロビーに置いてきた白兎を3階まで連れてきて、テルネのラビットの交渉役に充てる。


 師匠と弟子の関係なら、上手く譲歩を引き出してくれると思うのだが。


 白兎は、テルネのラビットと鼻を突き合わせてフンフンしている。

 傍から見ると、兎同士がじゃれ合っているようにしか見えないが、何かしらの交渉を行ってくれているはず。


 俺の目には、お互い刀でつばぜり合いするごとき緊迫感が溢れているように見える……気がする。

 

「何かカワイイですー、兎同士キスしてるみたいー」


 キャハッって感じで目の前の光景の感想を述べてくれるナル。

 

 おい、やめろ。そう言われるとそうとしか見えなくなるだろ!

 





 そして、数分後。

 

「それじゃあー、後はお願いしますねー」


 ナルと一緒に外に出ていくテルネのラビットと白兎。

 

 ネゴシエイター白兎は、無事交渉をまとめることに成功。

 ひょっとしたら、またスキルが増えているかもしれない。

 多分、交渉スキル(ラビット限定)だろうな。


 これでこの部屋には俺とテルネが2人きり。これで準備は整った。


 さて、治療を行うとしよう。



 

 七宝袋から病気を治す仙丹、癒病丹を取り出す。

 もちろん、ぶっつけ本番作成するわけがない。帰路の道中で作成しておいたのだ。

 そして、少し青色がかった球状の丹を、指の間で擦り合わせる。


 ベットで寝ているテルネの顔は発熱で上気していて、時折苦しそうに眉をしかめている。

 呼吸も一定ではなく、不規則に息苦しそうな呼吸音を生じさせており、おそらく呼吸器系の病気も併発しているのだろう。

 この状態では癒病丹を飲み込ますのは難しそうなので、香薬として使用する。


 指の間から生じる青い色をした煙。

 それをテルネに向かって吹き付ける。


 青い煙がテルネの全身に纏わりつくように染み込んでいき……



 





「これでもう大丈夫だろうな」


 テルネの顔に生気が戻り、今までの苦しそうな寝顔は嘘のように消え去った。

 呼吸も正常、体はまだ健康には程遠いかもしれないが、しっかり食べて運動すれば、自然と体力も元に戻るだろう。


 数年後、俺が戻ってきた時には、きっと元気なテルネの姿を見ることができるはず。


 そして、その為にはもう一つやっておかないといけない。


 

 血が止まり、カサブタができつつある親指の腹を、反対側の手の人差し指で突く。



「イテテッ」



 人差し指に流れ出る血を絡ませて、手の平に『幸運』の文字を書く。


 テルネは、このアポカリプス世界で生きていくには、いささか自己主張が弱すぎる。

 絶対に生き抜いてやるという意思も薄いし、引っ込み思案だ。


 そんな彼女がこの世界で幸せに生きる為には、普通の人より恵まれた『幸運』が必要だろう。


 そして、彼女を支えてくれる男性も……




 テルネには悪いが、俺がそれに立候補することは無い。

 控えめな好意は嬉しかったが、俺にはまだ目指す所があるんだ。


 ……ハーレム+ウタヒメとは口が裂けても言えないけど。


 多分、こんな俺は彼女には相応しくないはずだ。

 きっと君には俺よりも素敵な男性が見つかるはず。

 これはその為の、ほんの少しの後押しとなるおまじない。





『テルネの未来に幸運あれ!』



 眩い光が顕現し、ベットに寝たままのテルネの身体が光に包まれる。



 

 そして、俺の目に見えるのは、清楚で可憐、正しくお姫様のように美しく成長したテルネの姿。

 思わず、さっき考えたことを翻してしまいそうになってしまう程の。


 大人になったテルネは、隣に座る男性に微笑みかけている。

 顔は見えないが、彼女の未来の恋人なのであろう。


 ほんの少しだけ、心が痛む。

 彼女の相手に僅かな嫉妬を抱いてしまう。


 もちろん、俺にはそんな資格なんてあるわけないんだが……



「テルネを絶対に幸せにしろよ!」


 

 俺は会ったことも無いテルネの未来の恋人へ、嫉妬交じりの激励を飛ばさずにはいられなかった。

 


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[一言] 主人公自身の可能性微レ存か
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