13話 成果
3人は挟み虫の残骸から価値のありそうな部品を集め終えた。
3対あったハサミの部分、晶石というものが嵌まっていた指輪みたいな金属部品。
それらを俺に向けて差し出してくる。
え。そういうキャラだったの。君たち。
「お前が狩ったんだからお前のものだろう」
「晶石もったいなかったけど」
「次からは加減しろよ」
ごめん。正直、これは指導料だって根こそぎ取られるって思ってた。
「役に立ちそうだし」
「同じチームだろ」
「でも俺らの方が先輩だからな」
うーん。ネット小説では意地悪するキャラへのざまぁ展開の方が人気が出やすいが。
まあ、心温まるハートフル系、諍いから始まった友情系もたまにはいいか。
「これから俺らの狩りを見せてやる」
「かっぽじってよく見ろよ」
「え、えーと。よく見てろよ」
最後の人、無理にセリフをつなげなくてもいいです。
最初にパーカーを取られかけたから印象が悪かったけど………
力を認めて仲間と認識してくれたから態度が変わったのか。
差別するわけではないが、スラム育ちだから部外者から奪うのに抵抗がないんだろう。
あの時はまだチームに入るかどうか分からなかったからな。
しかし、俺もチョロイな。
ちょっとツンデレっぽいことされただけで好感度がこれだけ上がるなんて。
まあ、同じチームなんだから仲良くするのが一番か。
とかなんとか考えている間に3人は獲物を見つけた様子。
「おい、新人!早く来いよ!」
「俵虫発見!」
「早く来いよ!逃げちゃうだろ!」
はいはい。すぐ行きますってば。
一人が俵虫、10cmくらいのカナブンのような機械種を捕まえて、もう一人がナイフを背と腹の境目に突き立てる。
そのまま、パカンと腹の部分をはじき出し、中の米粒くらいの透明な石を抜き出す。もう一人は周囲を警戒している。
「どうだ。これが俵虫のさばき方だ。こうやって晶石を取り出すんだ」
「注意するのは足の動き。先が針みたいだから気を抜くと穴だらけになるぞ」
「穴開けられると2週間くらいはずっと痛いんだよなあ」
「鮮やかなもんですねえ。先輩」
ここは素直にほめておこう。たしかに手際よくさばいていたし。
先輩と呼ばれた3人はちょっとびっくりした感じでアワアワとし出す。
「へ、へへん!どんなもんだい!」
「そりゃ先輩だからな!」
「穴開けられるなんてたまにしか無いぞ!」
ヤバい。コイツラがちょっと面白くなってきた。
そうだ。いまのうちに聞きたいことを聞いておこう。
「ねえ。先輩。晶石ってその透明な石のことですよね。これってどのくらい集めるのがノルマなんですか?」
突然の質問にきょとんとする3名。
顔を合わせた3人はしばらく考え込んでから話し出す。
「俺らのノルマはこの俵虫のだったら一日1人5個だな。3人で15個」
「黒虫のは5個で俵虫1個分だ。丸虫は2個で俵虫1個分。どっちも晶石しか価値無いけど」
「さっきの挟み虫の晶石が取れてたら3日は何もしなくてもいいぞ」
うーん。
1番価値が無いのが黒虫の晶石。次に丸虫で、俵虫、挟み虫ってとこか。
黒虫って俺の体に群がってきたヤツかな。
俵虫を基準とすると
黒虫=1/5
丸虫=1/2
俵虫= 1
挟み虫=15
挟み虫の倍率高いな!そうか挟み虫はハサミや中の部品が売れるからか。
「さっき渡した挟み虫の部品は俵虫5個分くらいだぞ」
「良かったな。ノルマ達成だ」
「でも俺らは残ってるから、もっと探さないと」
これ以上邪魔したら悪いな。質問は別の機会に取っておこう。
「俺は先輩に集めてもらった獲物を持って帰ります。いろいろ教えてもらってありがとうございました」
「おう。気をつけて帰れよ」
「午前中は虫が多いから、足元に気をつけろよ」
「うっかり長虫でも踏んづけたら大変だぞ」
3人は虫を探して離れていく。
そんな3人の背に軽く頭を下げる。
すみません。先輩。結局、誰がデップ、ジップ、ナップなのか分かりませんでした。次会った時はきちんと名前を聞こうと思います。
拠点に戻り、挟み虫の部品をサラヤに渡す。
「え、なんで挟み虫なの?黒虫や丸虫じゃなくて」
びっくりした感じでサラヤが驚く。嘘をついても仕方ないので、正直にいきなり挟み虫を捕まえろと言われた旨を話す。
すると、話を聞いたサラヤは申し訳なさそうに俺に対して謝罪。
「ごめんなさい。入ったばっかりなのに危険な真似をさせて。これは私の人選ミスね。何か見合うだけのお詫びをするわ」
「いや、特に怪我もなかったから、特にお詫びとかもいいんだけど。じゃあ、挟み虫に挑まさせられたのは、サラヤの指示でもなかったってことだね。実は隠れた入団試験なのかなって思っていたんだ。」
「もうヒロはチームの一員だから、試したりなんかはしないわ。でもあの3人、多分ロップの真似で入団試験をしたつもりだったのかも。これはちょっと叱らなきゃいけないわね」
ロップ?
名前からしてあの3人の兄貴かなにかか?
「昔、ここにいたあの3人の兄貴分なの。2年も前にここから出て行ったわ。狩人になるって。それまであの3人に『虫取り』のやり方なんかを教えていたの」
ロップって奴のことを話しているサラヤの顔から、あまり良い印象を持っていないことが分かる。
「随分厳しいやり方で、怪我人をたくさん出したわ。力試しだ、入団試験だなんて、新人には危険なはずの挟み虫や長虫に挑ませて。でも当時の舎弟には慕われていたみたい。出ていくときに何人か付いていったくらいにはね」
「あの3人は付いていかなかったのか」
「まだ小さかったからね。ここを出ていくのは無理だったと思うわ。でも、あの3人はいずれロップの後を追うと思う。なにせロップはあの3人の名づけ親でもあるし」
納得してしまった。
しかし、もうちょいひねってあげても良かったんじゃないですかね? ロップさん。
ああ、そうだサラヤにも質問をしておこう。
「ここを出ていくのは自由なの?それとも一度入ったら二度と抜け出せないとか、抜けたら追手がかかるとか」
俺の突拍子もない冤罪に、サラヤはちょっと困った顔をしながら反論する。
「そんなわけないじゃない。チームの財産を持ち逃げとかしなければ、別に離脱は自由よ。でも、チームを抜けるなら前もって言ってほしいな。こっちも予定とかあるし」
「もう一つ質問。ずっとチームにいることは可能なの?チームを見るとあまり年上の人がいないから、その辺りはどうなっているの?」
「え、えーと」
サラヤは一瞬言葉につまった。え、おれそんなマズイこと聞いたかな?
「うーん。んー。んー」
言いにくそうに何度も小さく唸り声をつぶやきながら、しばらく考え込む。
そして、何かを決心したかのように俺の目を正面から見つめてくる。
「ヒロは頭いいね。チームに入って次の日にそんなこと聞いてきた人は初めてよ」
え、そうなの。自分の将来設計くらい聞きたくなるよね。
「今までこのチームに入ってきた人たちは皆ギリギリの生活を送ってきて、食べ物があるというだけで、満足する人がほとんどだったのに。で、逆にそういう人達にさりげなく将来の話を振っていくのが、私の仕事でもあるの」
フィナンシャルプランナーみたいな仕事もしてるんだ。
「このチームから出ていくパターンはいくつかあるけど、確かに一人で生きていく力があれば、フリーで出ていくのも選択肢の一つよ。大抵が狩人になるみたいだけど。でもよっぽど信頼できる師匠でもつかないと一人前になるのは難しいんじゃないかな。」
狩人? 多分狩るのは動物じゃなくて機械種なんだろうなあ。
「チームのメンバーがある程度の年齢になれば、上部団体であるバーナー商会が雇ってくれるの。男は腕が立つなら護衛や用心棒、頭が良ければ商売関係、力が強いなら荷役夫、鉱夫といった具合よ」
「じゃあ、腕も立たない、頭も良くない、力も弱い人はどうなるの」
思わず反射的に気になった所を聞いてしまう。こういう所がダメだって昔叱られたなあ。
「……そういった人でもバーナー商会は雇うわ。スラムの下部組織にあまり高い年齢の人を置き続けておくのは好ましくないそうなの。どこの仕事を振られるのかは分からないけど」
「いや、だいたい分かってるでしょ。そういった必要のない人の行く先は」
あ、また、つい言ってしまった。
サラヤが悲しそうな顔をしている。
君を攻めたつもりじゃないんだけど。
空気が重くなってしまったことにちょっと後悔。
自分からそう話を振ったくせに。
「じゃ、じゃあ、女の子はどういった進路があるの?」
空気を換えようとして質問し、その直後、自分が何を聞いたのかを悟り、さらに後悔する。
「……女の子はほとんど決まっているわ。バーナー商会経営の娼館よ。運が良くて、バーナー商会の幹部の愛人かな」
「…………」
俺の馬鹿。女の子に何を言わせてるんだ。
自己嫌悪で落ち込んだ俺を見て、サラヤが気を紛らわせるかのように明るい声で、女の子の唯一の希望である将来を教えてくれた。
「将来性のある男の子を見つけて、その人のお嫁さんになること。これがスラムの女の子の一番幸せになる確率が高い方法よ」




