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8/24

8.恋愛は死闘!友人関係なんて戦争の火種だ。

チリリリリリリリリリ!!


オンボロの目覚まし時計が騒がしい音を立てる。

守はそれを右手で止めて布団から体を起こした。左腕にはギブスを巻いており、森川結菜の一件が守にどれ程のダメージを与えたのかは一目見れば明らかだった。


森川結菜が自分の家に帰宅したのが土曜日。

その翌日。流石に守の悲惨な状態を心配した母親が病院に連れて行った。

結果は見えていたが、もちろん骨折していたのだが、生まれて一度も骨を折ったことがない守にとっては新鮮な経験だった。

まぁ、それもおかしな話なのだが………


そして話を戻そう。

この日は月曜日。学校が始まる日だ。

その一週間の始まりと言える日に、守は8時25分になってようやく目を覚ました。


「はぁ。終わった。完全に遅刻だわ、これ。」


いつもなら慌てふためいて家を飛び出すところなのだが、この日は骨折しているためにそのような無茶は出来なかった。


ゆっくりと……というより気だるげに制服に着替えた後、のそのそとリビングに向かう。


「お兄ちゃん!おはよ!」


チコが眩しすぎる笑顔を守に向けてくる。


「おお!チコよ!おはよう!」


自らの妹の可愛い姿に見惚れて、緩み切った顔でチコの頭を撫でながらそう言う。


どれ位緩んでいるかと言うと、ゲゲゲの鬼太郎のねずみ男くらい鼻の下を伸ばしている。

イメージが出来なければそれでいい。

無視してくれて構わない。


「えへへ〜。1ポイントゲット〜。」


チコはそれだけ言ってキッチンの方に走って言った。


「あら〜。まーくん。私には挨拶無しなの〜。」


ロリババアであり守の母親でもある玲奈が守にすり寄ってきた。

この女、守が怪我をして家に帰ってきた日から構ってちゃんみたいに何かあるたびに絡んでくる。


「はいはい。おはようちゃん。…それより、お袋。弁当は?」


守は玲奈のそれを適当にあしらう。


「あらあら〜。今日は学校に行かなくていいわよ〜。ずっとお母さんと一緒にいればいいのよ〜。うふふふふふ。」


「いや。そう言うわけにもいかねぇ。中間考査も近いしな。」


「あらあら〜。勉強熱心だこと。お母さん、鼻が高いわ〜。うふふふふふ。」


「それで?弁当は?」


「チコが用意してるはずよ?今日も早起きして作ってたから。」


どうやら今日もチコの手作り?弁当らしい。

チコが守に朝の挨拶を終えた後すぐにキッチンに向かっていたのもそのためだ。


「おいおい。それ大丈夫か?チコの手料理。

未だに食いもんが出たことねーんだけど。」


守は手を添えて、玲奈の耳元で囁いた。


「心配する事なんてないわよ〜。今日は朝の5時からずっと作ってたから。」


「へぇー。流石にそれは期待できるな。3時間30分くらい時間がかかった手料理かー。楽しみだわ。」


「でもねぇ〜。その時間のほとんどが材料調達で外出してた時間なんだよね〜。3時間くらいかな〜。」


玲奈が不安なことを言った。

守はすかさずその言葉に反応した。


と言うのもおかしな話なのである。

冷蔵庫には森川結菜が買い込んだ食材がまだたんまり残っているはずなのである。

つまり3時間も外出して食材調達に行く必要は無いのでだ。


「ん?お袋。その話詳しく聞かせ……」


「はい!お兄ちゃん!今日のお弁当だよ!」


守が玲奈と話している最中に、チコがキッチンからやって来て守に弁当を差し出す。


「うお、チコ。今日はなにを作ったんだ?」


守は恐る恐る聞いた。


「今日はね!今日はね!お兄ちゃんの大好きなものを作ったの!今日のチコは一味違うよ!」


「お兄ちゃんの好きなもの入れてくれたのか?冷蔵庫にお肉とか色々あったよな?」


「ううん。それじゃぁお兄ちゃんは満足できないの。チコはねお兄ちゃんの事なんでも知ってるんだから!」


今日のチコは本当に自信満々なようだ。


「うし!チコがそこまで言うなら、お兄ちゃん有り難くその弁当を貰おうかな。」


守は"ありがとな"と言いながらチコから弁当を受け取った。


「それじゃあ、学校行くわ。」


「あらあら〜。本当に行っちゃうのね〜。お母さん、悲しいわ〜〜。」


守はそんな玲奈の言葉を無視して、リビングを出て玄関に行ったところで靴に履き替える。


「お兄ちゃん!怪我してるんだから、気を付けてね!」


チコも玄関までお見送りをしてくれる。


「ああ。分かってる。…じゃあ、行って来ます。」


「行ってらっしゃい。」


「ファイトだよ!お兄ちゃん!」


どうやら玲奈は本気で心配しているようで、いつもより元気のない声でそう言った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



結局、守が家を出たのは8時35分くらいの時間帯で遅刻確定となった。


「はぁ。遅刻かー。…これで何度目だろ。」


家を出て登校中にそんな独り言を呟きながら歩みを進める。


その時、守の後方から誰かの声が聞こえる。


「おーーい!守君!守君じゃん!」


守は"誰だ?"と言いながら、気だるげに振り返る。

そこには手を振りながら満面の笑みで走ってくる森川結菜の姿があった。


そして彼女は守に追いつくなり、息を切らしながらこう言った。


「守君、捕まえた。……奇遇だね。こんな所で会うなんて。」


森川結菜は満面のの袖を掴んで"えへへ"と顔を赤らめた。

普通の男子ならこんな事されればノックアウト。

しかしこの男、生粋のシスコンであるので、ただ無表情でそれを見つめるだけであった。


そして森川結菜は左腕を見て表情を曇らせて

「左腕………。この前の時……だよね。」

と呟いた。


「ん?ああ。これか?日曜日に喧嘩してこうなったんだよ。お前とは何の関係もない所で怪我しただけだ。お前が気にする事じゃねーよ。」


守は左腕を少し上げてそう言った。

もちろん嘘である。

しかし守は森川結菜を安心させる為にバレバレの嘘をついたのだった。


「……そっか。守君は優しいんだね。」


森川結菜が小声で呟いた。


「ん?なんか言った?」


「うんん。何でもないよ。ほら遅刻しちゃうよ。歩きながら話そ。」


森川結菜は守の右腕を引っ張り歩くことを促した。

歩いている時、森川結菜は終始守の右腕にくっ付いていた。


「つーかお前なんで遅刻してんだよ。またあのゆで卵になんかされたのか?そして離れろ。」


「ゆで卵って……いや、何もされてないよ。

むしろあれ以来妙に優しいって言うか。なんか優しすぎてキモいんだよね〜。あははは。」


森川結菜は守の右腕から離れるつもりはないようだ。


「へぇー。でもよかったじゃん。そして、離れろ。」


「うん!これも守君のおかげ!本当に感謝してるよ。」


真っ赤に赤面した笑顔を守に向けてくる。

だが、守はドキッとはしない。

むしろ、何故右腕から離れようとしないのか疑問に思っていた。


「ああ、まぁ礼には及ばないんだがな。」


「……あっ。…それでね。守君。私アイドル続ける事にしたんだ。」


「へぇー。いいじゃねーの?ただ、体には気をつけろよ。無茶だけはダメだからな。」


「う、うん。………………。」


森川結菜は俯いてそのように返事した。

その表情は見えないが、どうやら照れているようだ。


そんな時、ようやく校門が見えてきた。

遅刻していると言う事もあって生徒は人っ子一人いない。

はずだった。


「守くーーん!」


校舎内からこちらにものすごい勢いで走ってくる生徒がいた。


その生徒はメアリーだった。


メアリーは守達の目の前まで走ってくるなり守に抱きついた。

その勢いで森川結菜が守の右腕から離れる。


「今日、学校に来るの遅いよ!心配したんだから!……ってその腕!どうしたの!」


メアリーは守に抱きついたままそのように言った。


「ん?ああ、これか。えーと。なんだっけなぁー。……ああそうだ、スカイダイビングでパラシュートが開かなかったんで、この腕を犠牲にして何とか着陸したって感じだ。てゆーか、なんでお前がここに来たんだよ。」


言い訳が先ほどとは変わっていたが、森川結菜はそれを気にしていない。


「守くん。下手な嘘はつかないことだな。

私には守くんが嘘ついてるってわかるんだから!」


「はいはい。分かったから、なんでここにいるのか答えろよ。」


「ふんだ!絶対に守くんがいつもより学校に来るのが遅いから、探しに来たなんて言わないんだから!」


「そうかそうか。俺を探しに来てくれたんだな。ありがとな。よしよし。」


守はメアリーを宥める様に頭を撫でる。

メアリーも満更でもなさそうに"えへへ〜"と照れている。





そして、その一連の流れを見ていた森川結菜は困惑していた。


(な、なんで?メアリー、守君と仲よすぎません?メアリーって彼氏いるんじゃなかったっけ!?……そういえば!ライブの前日のメールでなんか言ってた様な気がする。)

森川結菜は自分のポケットの中に入っている携帯を取り出し、そのメールを確認した。


"どうもー。結菜ちゃんの親友メアリーだよ!久しぶりだねー。私、実は5年くらい前に彼氏ができてて、明日のライブに一緒に行くことになったの!イケメンで〜運動もできちゃう彼氏だよ!羨ましいでしょ!名前はね、小山守って言うの!知ってるかなー?超イケメンだから、見たらびっくりするよ。………ということで、明日のライブ楽しみにしてまーす。じゃあねー"


(付き合ってんじゃん!?!?この2人、付き合ってんじゃん!?……てか、守君ライブに来てたの!…………もっとちゃんとやっておけばよかったよ。)


森川結菜はメールに驚愕したが、最終的には顔を赤らめて照れていた。


「あれ?結菜ちゃんじゃん。久しぶりだね。」


ようやくメアリーが森川結菜の存在に気づいた。


「あ、メアリー。おはよう。」


森川結菜はぎこちない様子だ。


「そういえば!結菜ちゃん。この前のライブ。楽しかったよ!」


メアリーが満面の笑みを森川結菜に向けた。


「あ、うん。……………」


森川結菜は少し沈んだ表情で答える。


「ん?どうかした?結菜ちゃん。元気ないよ。」


「………………あのさ。…こんなこと聞くのもアレなんだけど、……2人って付き合ってるの?」


森川結菜のその一言でその場がシーンとした。


(はっ!私何て事聞いてるの!ばかばか。)


森川結菜はまたも困惑していた。おそらく反射的に出た言葉なのだろう。

一方で守は "は?何言ってんの、こいつ。" みたいな顔をしており、メアリーは "は!しまった!" みたいな顔をしている。


その中で森川結菜は、

(もう、聞くっきゃない!)

という考えに基づいて、守に向かって例のメールを差し出した。


「守君!コレって本当?」


森川結菜が恐る恐る聞いた。

するとその瞬間、守の周辺の雰囲気が怒りのものとなった。


「あれれ〜。身に覚えがないことがたくさん書かれたメールがあるなぁー。メアリーさーん。コレってどういうことかなぁー。聞きたいことがいっぱいあるんだけど、ちょっと、いいかなぁー?あは、あははははは。」


守がコメカミをグリグリする時の様に手を動かしながら、ジリジリとメアリーに近づく。


「守、くん?私も何のことかさっぱりわからないな〜。メール?何それ?私メールなんて知らないよ?そして、その手を辞めて欲しいな〜?ねぇ守くん!聞いてる?聞いてるの!?私の声!届いてる!?」


結局、メアリーの説得も虚しく、彼女は

"ギャャーーーーーーー!?!?"と断末魔をあげながら地面に伏した。


「はぁ。騒がしい野郎だぜ。」


守は一息ついたかの様にパンパンと手を払う。

その動作はまるで左腕の骨折など無かったかの様なしなやかさがあった。


「ね。ねぇ守君。じゃあ、守君は誰とも付き合ってないって事でいいのかな?」


「前にも言ったろ?俺は妹にしか興味がない。」


守のその言葉に森川結菜は"パァーーー"と笑顔を浮かべた。

まあ、この犯罪者まがいの言葉が良い事なのかどうかはここでは問わない事とする。


「そっかー。だよねー。」


森川結菜はニコニコとしていた。

そして、森川結菜は腰を下ろして、コメカミを抑えて地面に伏しているメアリーの耳元でこう囁いた。


「メアリー()守君の事が好きなんだよね?実は私も好きなの。………私、絶対に負けないから。勝負だね。」


森川結菜は元気よく立ち上がり

「私、そろそろ行くね!守君!私、負けないから。」

とだけ言って駆け足で学校に向かった。


「ん?何に?」


守は疑問に思ったが、その声は森川結菜には届いていない。


その時メアリーがバッと立ち上がり、ドシドシと守の方へ近づいて行き

「私も負けないから!!」

とだけ言い残してプレハブの方へ走って行った。


1人取り残された守は春風にも吹き飛ばされそうなほど小さな声で、

「いやだから、何にだよ。」

とツッコミを入れたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




side 山野愛


時は遡り土曜日の夕方の事。

山野愛は森川結菜に学校の便りを届ける為にとある住宅街を歩いていた。

と言うのも、森川結菜は守の家に居候していた期間一度も学校に通っていなかったからだ。


「森川さん。大丈夫かしら。」


山野愛は独り言を呟く。

その表情には悲しげな雰囲気がある。


常に凛々しく、そして自分よりレートの低い生徒に対して冷淡な態度をとる山野愛には想像もつかない表情だ。

どうやら、同レートの生徒に対しては思いやりがあるらしい。


それから数分歩いたところで、ようやく森川結菜の家が山野愛の視界に入った。


玄関の前で男女が1人づつおり、何かを話しているようだった。

遠目でよく見えないが、男の人の方はボロボロで傷ついている。


「何かあったのかしら。」


山野愛は自分の好奇心を抑えることができず、密かに森川結菜の家に近づいた。

そしてその様子を覗き見ようと隠れていたブロック塀から顔を少し出した時、彼女は驚きのあまり目を見開いた。


「!?!?」


何故なら、その男の人が山野愛の愛しの人である小山守で、森川結菜がその彼の頬にキスをしていたからだ。


「!?!?!?」


山野愛は口をあわあわとさせ、全身を震わせた。


(dddddddど、どうしてkkkkkkkkキ、キスしてるのー!?!?)


山野愛が心の中で叫び、さらに続けて妄想が彼女の心の中で渦巻く。


(あの2人付き合ってるの!?ありえない。ありえないはず!?確かに、守様はイケメンで優しいくて強くて凄すぎるけど……でもでも、レート10の人と関係持ってるはずもないし、それもあんまり学校に通ってなかったアイドルとだなんて、それこそあり得ないよ!?そもそも私がお慕いしてるお方で、誰にも独占されたくないっていうか、私だけのものになってほしいっていうか……って私!何考えているのよ!キャーー!守様が私のものだなんて…………)


長々とした心の叫びが続いていたが、守が帰宅し森川結菜が家に入り玄関の戸を閉めた所でハッと我に帰った。


そして、山野愛はまるでアメリカの新聞配達員のように、森川結菜の玄関の手前に学校の便りを投げ捨て一言呟いた。


「これは宣戦布告。まさかあなたが守様と関係を持っていただなんて。許せないわ!私はあなたが付き合っているなんて認めない!覚悟しなさい!守様を最後に勝ち取るのはこの私よ!」


山野愛は森川結菜の家門の手前で決めポーズをキメる。


"カァーカァー。"


春の夕暮れの時間帯。まるでカラスが山野愛をバカにしているかのような泣き声をあげ、その場に沈黙が訪れる。


その後、赤面した山野愛は帰路に着いたのだった。








アイドル回

終わりです。


読んでくださりありがとうございました。

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