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カースト最下位の少年のバイト事情



「ふぅ。…だが、本当に良かった。

今回のテストは流石に退学を覚悟してたからな。…マジで神様、仏様、芦羽様だわ〜。」


人気のない道を歩く守はブツブツと小言を囁きながら、1人で歩を進めていた。

三条穂鳥と山野愛、森川結菜、それとメアリーと一緒に下校していたが、丁度数分前に別れて今の状況に至る。


一応説明しておくが、この日はテスト最終日の放課後で、時刻はすでに18時を越している。

季節的影響もあって、未だに明るい景色には温かみを感じざるを得ない。


「つーか。3時間くらい遅刻してるな。

こりゃ。残業しないと給料ほとんどねーな。」


守は "とほほ" と乾いた笑みを浮かべ顔を暗くした。


……………………………………………………………


"チリンチリン"


「いらっしゃいませー。…って!先輩!

遅刻ですよ!遅刻!!大遅刻ですよ!」


守がとある喫茶店のドアを開けるなり、その店の制服に身を包んだ店員が声をあげて駆け寄ってきた。

店内には客が1人しかおらず、穏やかな雰囲気が流れていたがその店員の大きな声でそれが壊された。


「うぃーす。遅れた。ごめんな。」


守は軽く挨拶をして駆け寄ってきた少女を無視してカウンターに入る。


「ちょっ!なんですか!

その軽い態度は!!

もっと反省してください!」


「マジでごめんな…でも3時間遅刻なんて四捨五入すれば0じゃん。そんなに怒らなくてもいいんじゃね?」


ゴリラカフェとプリントが施されたエプロンに腕を通しながらそう言った。

守に反省の色は全く伺えない。


「四捨五入しないでくださーい!

分単位ならまだしも、3時間ですよ!

3時間!!私がどれだけ先輩が来るのを待ったと思っているのですか!……!」


店員の少女は数秒後、顔を赤くして守から目を背けた。


「ふーん。俺のこと待ってたんだ〜。

そんなんだ〜。へ〜。かわいいとこあんじゃん。」


守の性格の悪さが身にしみてわかる瞬間だ。

守はここぞとばかりに店員の少女の言動を言及し始めた。


「ち、違います!自意識過剰ですか!

私は、その。……」


「その?…何かな?」


「………先輩の……先輩のブスーーー!!!!」


店員の少女はそう叫んで、カウンターの奥に走って行った。


「!?ブ、ブス!?」


守は予想外の返答に驚きを隠せない。

こう言う時は恥ずかしそうに

"先輩のバカー"

とか言うのが相場ってものだ。

だが店員の少女が発した言葉は

"先輩のブス!"

だったのだ。


自分の見た目をさほど気にしていない守であっても、面と向かってブス宣告されてダメージを受けないほどの強靭やな精神は持ち合わせていないため、ガックリと地面に膝をついた。


「……クッ。俺が……ブス……」


どうやらクリティカルヒットしたらしい。


「あの〜。大丈夫ですか?」


守が精神に大きな傷を受けて病んでいた時、誰かが守に話しかけてきた。


「……あ。常連さんか。…大丈夫ですよ。別にブス呼ばわりされて、落ち込んでたわけじゃありませんよ。」


守は立ち上がりながら、制服についた埃を払う。


この人は守が働く喫茶店 "ゴリラカフェ" の常連さんで、名前は大川美里乃と言う。

身長156センチで豊満な胸とスレンダーな体、童顔の綺麗な顔。

そして、大きなポニーテールが彼女の美貌をさらに誇張している。

出身はうどん県らしく、たまに方言を口走ることがあるのだとか無いのだとか。


「そうですか。……ブスって呼ばれて落ち込んでたんですね。」


「あなたはエスパーですか?……………でも、騒いでしまってすみませんね。

迷惑をおかけしました。」


守は少し頭を下げて謝罪した後、笑顔を大川美里乃に向けた。


「い、いえ。ウチはその。全然気にして無いけん……気にせんといて下さい。」


顔を赤くして先ほどまで座っていた場所に戻りコーヒーをすすり始めた。

時折守の方をチラチラと見て来るが、その鈍感男は彼女の視線に気づくことはない。


守はカウンターに戻り、やるべき事もなく自分の為にコーヒーを注ぎそれを飲み始めた。


その喫茶店に "ご注文はう○ぎですか?" の様な和やか雰囲気は無く、ただ何も無い "無" が続くだけである。



「って!先輩!!何勝手にコーヒー飲んでるんですか!」


カウンターの奥から戻ってきた、先程の店員が守に声をかける。


「おっ。帰ってきたか。お前も飲むか?キリマンジャロ。…うまいぞ?」


「え?いいんですか?……って違う!?

これお店のものですよ!!

しかも、安いコーヒーならまだしも。…キリマンジャロって……

もっと遠慮して下さいよ!!」


「た()の果穂。お前は本当にケチだな。

キリマンジャロくらいいいじゃねーか。」


「た()の果穂!?私の名前は()田野果穂です!イントネーションは前!!

先輩の言い方だと、私がただ者みたいに聞こえるじゃ無いですか!!」


そう叫ぶ "ゴリラカフェ" の店員は多田野果穂と言う名前で、守と同じ高校に通う高校一年生の少女である。

レートは10で勉強は勿論のこと家も金持ちで、まさに人生の勝ち組みたいな人生を送っている。

その為、なぜこんな売れない喫茶店で働いているのかは謎だし、そもそもなぜバイトをしているのか分からない。


ピンクの髪の毛にピンク瞳はその姿を見た男を全て虜にする悪魔の様にさえ感じるほど美しい見た目をしており、学校でもかなりの人気を誇っているのだとか。



「それに、私はケチじゃありませんよ。

去年の先輩のお誕生日のプレゼント。

あれ、600万円もしたんですよ?」


「………!?……ろろろ600万円!?

あのチョコが!?嘘だろ?5個しか入ってなかったぞ?…」


そう。実は守の誕生日(12月12日)の日に多田野果穂は守にプレゼントを送っていたのだ。

綺麗な包装された箱の中身はハートの形をしたチョコが5つ入っており、中には金箔をふりかけられたものまであった。



「本当ですよ。でも。まぁ。

もし先輩が私と結婚したら、あの程度のチョコなら毎日食べれますけどね。」


ーーパキッーー


多田野果穂が顔を赤らめながらそう言った瞬間、大川美里乃の方からコップが割れる音が聞こえた。


「すみません。コップが割れてしまいました。新しいのと取り替えてくれませんか?」


ゴリラカフェの常連さんである大川美里乃がそう言った。

しかし今の彼女の雰囲気はどす黒いオーラに覆われており、物凄い威圧感を放っている。


そんな彼女の手には割れたコップ……というか、粉々に粉砕されたコップが散り散りにされていた。



「しょ、少々お待ちください。」


多田野果穂はその様子を見るなりすぐに新しいコップを用意し始めた。



その時、ーーチリンチリン。ーーと店のドアのベルの音が鳴り響いた。

守は久しぶりの客に少し動揺したが、すぐに

「いらっしゃいませ〜。」

と声をかけた。


!?!?!?!?


そして、目を見開いて仰天した。


「お、お前は!」


「あら、守さん。お客さん相手に"お前"呼ばわりだなんて、礼儀正しい店員さんね。……それとも私を円満な夫婦のように"お前"呼ばわりして、他人にあたしたちの関係をアピールしたかったのかしら?」


守を誘惑するかのごとく舌なめずりをして、こちらを見据えてくる。


その人は朝田栞と言う名前の英語教師で、テスト最終日に守のクラスを監督して、守に婚姻届を書かせようとした張本人である。


「うるせー。……あっ。もうこんな時間か……すみませんお客様。本日はもう閉店でございますのでとっととおかえりください。」


「え?もう閉店時間なのですか?おかしいですね。この店の店頭にかけてあった看板には、閉店時間は10時と書いていましたよ?」


(くそっ。このばばぁ!英語のテストの時といい、クソ邪魔なんだけど!!)


守が不平を心の中で呟いた。

だが、それもそのはずである。

守は朝田栞のことが嫌いなのだ。

理由はごく単純で、この女のせいで退学寸前にまで追い詰められたからだ。


「…今日は大事なお話があってきたの。

とりあえず、ジャコウネコのコーヒーを用意してくれるかしら?」


朝田栞は淡々と言葉を続ける。


「そんな高級なもんはねぇよ。インスタントコーヒーしか置いてねぇ。」


嘘である。先程、キリマンジャロのコーヒーを飲んでいたのがその証拠だ。


「そ。じゃあ、それで。砂糖は6個。ミルクは5個入れてちょうだい。」


「了解しました。閉店までお待ちください。」


「閉店までですか!?4時間も待たされるんですか私!?」

守は朝田栞のツッコミも無視してインスタントコーヒーを注ぎ始めた。


その時、大川美里乃と多田野果穂は朝田栞の存在に気付き声をかけた。

「あっ。先生じゃないですか。珍しいですね。」

「本当だ。朝田先生だ。いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」



「あら。大川さんに多田野さん。

御機嫌よう。注文はもうしてるから大丈夫よ。」

朝田栞は大川美里乃の対面の席に座って会話を始める。



守は女子トークを盗み聞きするのは野暮だと思い、集中をインスタントコーヒーに集中させ、意図的に話の内容が耳に入ってこないように心がけた。


……………………………………………………




「ご注文のインスタントコーヒーです。」


守は大川美里乃の対面に座る女教師の元に、女子トークが盛り上がりを断ち切るかのようごとく、コーヒーを運んだ。


そしてなぜか、勤務中であるはずの多田野果穂も朝田栞の隣に座って会話話楽しんでいた。



「あら。まだ30分しか経ってないわよ?」


「……うるせぇ。早く飲んで早く帰ってください。」


守がそう言ってカウンターに戻ろうと朝田栞に背を向けた時、腕をガシッと掴まれた。


「何ですか?」


「…話があるって言ったよね?」


「今じゃなきゃダメですか?」


「ダメ。…今じゃなきゃダメ。」


「……はぁ。じゃあ早く要件を言ってください。」


その一連の会話の後、守は大川美里乃の隣に座った。

この行動に、大川美里乃は顔笑照らして隣に座る守の顔をガン見し始めた。

朝田栞はその大川美里乃の様子を見て明らかに不機嫌そうな顔をした後、カバンの中から2枚の紙を取り出してきた。


「これ。見覚えありますよね?」


勿論、守にはその紙の見覚えがあった。

というのもそれは、○○○の名前とウン=コジールの名前が書かれた婚姻届だったのだ。


「え?朝田先生。ウン=コジール先生と結婚するんですか?」


多田野果穂がニコニコとした笑みを浮かべ横から割り込んで来る。

女子と言うものは、本当にこう言う色恋沙汰の話には目がない。


「いいえ。私はウ○コ汁先生とは結婚しませんよ。」


はっきりとウ○コ汁と言った朝田栞は、その婚姻届をビリビリと破ら捨てた。

多田野果穂はそれを見て驚きを隠せないでいる。


「私は守さんと結婚がしたいんですよ。

この前は少し強引な形になってしまいました。…本当に申し訳ございません。」


深々と頭を下げて生徒に謝罪する教師。

その姿と言動に、先程まで守をガン見していた大川美里乃も注意を朝田栞に向ける。


「私はあの日から守さんのことがずっと好き。あなたは覚えてなくても、私は覚えています。……だから…その……もし、少しでも。その気があるのなら……………」


朝田栞は2枚目の紙である白紙の婚姻届を守に差し出した。


甘える子猫のような目を向ける朝田栞にはいつものようなクールでカッコいい美人な先生と言うイメージなど皆無だ。

むしろ生まれたての赤ちゃんのような守ってやりたいと思わせるほどの可愛さがある。


「……いやっ。急に言われてもなぁ。…」


守は妹のチコの姿が脳裏にちらつき、思わず頬を綻ばせる。

重度なシスコンとはこう言う人間のことを言うのだろう。



「先輩!ダメです!生徒と先生がそんな関係になって許されるはずがありません!」

「そ、そうですよ!小山さん!冷静になってください!!」

多田野果穂と大川美里乃は慌てて守を制止させる。



「………あら?あなた達。随分と必死ね。

どうしてかしら?」


大川美里乃と多田野果穂はその言葉にカーと顔を赤くする。


「と、とにかく!先輩!ダメったらダメですよ!!」

「そうです!小山さん!わかってますね!」


「ん?お、おう。」


守はチコの妄想から目を覚まし、適当に返事をした。


「ん〜!だったら!こうしましょう!

来月の体育祭で優勝したクラスが守さんと結婚できるってことで!!」


「はぁ!何勝手な…」


「!?それならいいですよ!!

ではもし、一年のレート10が優勝したら、妻になるのはこの私ということでいいんですね!!」


守の言動を遮るようにして、多田野果穂が言葉を放つ。


「ええ。それなら文句はないです。

ただし、私のクラスが優勝した時は、妻になるのは私ですからね?」


「おい、だからちょっとま……」


「朝田先生には申し訳ないのですが、優勝するのはウチらレート6です。そして、妻の立場を得るのもこと私です!」


大川美里乃も守の言動を遮り、大きな声を上げる。


「お前ら俺の意見を……」


ーーーバタン!ーーー


「聞かせてもらいました。私も参加させていただきます。」


守の言葉をかき消して店のドアが開く音が店内に反響し、女性の声が聞こえた。

その正体は、森川結菜。

2年のレート10のリアルアイドルだ。


「守君はあなた達には渡さない!」


「ふっ。いいでしょう。森川さん。ですが、最後に笑うのはこの私です。」


「この中で先輩と関係が一番長いのはこの私ですから!」


「関係が長い?うちは香川県から小山さんを求めてきたんですよ!愛の深さなら誰にも……………と、とにかく、負けません!!」


殺伐とした雰囲気がその喫茶店に広がる。

守はただ、その現場に唖然とすることしかできなかった。




そして、森川結菜が守をストーカーして、この喫茶店にたどり着いたというのはまた別の話である。




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