閑話:オカルティック・フィフス 後編
令和。おめでとうございます!
「部長ー。ところでどうやって、そのバケモノをとっ捕まえるんですか?闇雲に探しても見つけられそうにはありませんよね?」
「うむ。柴犬よ。少し落ち着け。それを今から説明する。……まずはこれを見てくれ。」
私は柴犬を静止して、自分の学生カバンから数束の冊子を取り出し、ジャンボ・岡田・柴犬にそれらを配布した。
「……対バケモノ攻略作戦?」
岡田がその冊子の表紙を声に出して読み上げる。
「そうだ。
これは私が数日間、寝る間も惜しんで作成したとっておきの作戦。あの怪物の正体を見破る事ができる唯一の作戦と言ってもいい。」
「…寝るまま惜しんでって……テスト勉強はどうしたんですか?」
「……?テスト勉強?何それ?
オイシイノ?」
柴犬は予想外の私の返事に対して大きくため息をついて「さすが部長です。」
と一言呟き、その冊子に目を通し始めた。
「それで?作戦ってのはどんな感じになってるんだ?」
「岡田よ。詳細はその冊子を見ろ。全てそこに書いてある。」
「だから俺の名前は岡田じゃなくて…」
「!?部長!!これは本当ですか!!」
岡田が何か言おうとしていたが、柴犬の大きな声に遮られた。
「あぁ。そこに書いているのは全て本当だ。」
「この情報も本当なのですか!?」
柴犬は冊子に記載されているある部分を指し示して私に声を上げた。
そこにはこう記載されていた。
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バケモノの被害者は必ず一週間に1人以上は出てくるが、どの曜日に被害が起こるかは分からない。
しかしある曜日だけ例外がある。
それが金曜日だ。
なぜならここ2ヶ月の被害状況を調査したところ、金曜日には必ず誰かイケメン生徒が行方不明になり、月曜日になると必ずトラウマを抱えた状態で発見されているのだ。
私の見解では、金曜日に連れ出したイケメンを月曜日までじっくり使いこなしていると予想している。
実際、私の初恋の柏木誠先生は金曜日に襲われて、月曜日に全裸の状態で公園のゴミ箱で発見されたのだ。それも直視することができないほどの容姿になってな。…………………
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私は柴犬を見据えて彼の質問に答える。
「あぁ。事実だ。……時間がなかったから2ヶ月分しか調査できなかったが、もう少し調べれば何かもっとヤバい事が分かったかもな………」
「……マジですか……なんか急に怖くなってきましたよ…顔が変わるほどのトラウマって………」
柴犬は青ざめた顔で "とほほ" と嘆く。
「柴犬よ。落ち込むのはまだ早いぞ?………今日がその金曜日だ。…」
私は柴犬の眼前でニヤッと笑みを浮かべる。
自分でもこれに関しては性格の悪い女だと認識せざるを得えない。
「……しかし、部長。学校にはたくさんの生徒が……………」
柴犬は何かを言おうとして動きを止める。
「そうか。…部長。だから今日なのか。」
岡田は何かを思いついた様に冊子から目を離し、私に視線を向けてくる。
「そうだ。岡田。今日は中間テスト最終日。
学校に残っているのは先生達だけだ。」
「いやだから!岡田じゃ……」
「うおおおおお!!!凄いっす!
凄いっす!部長!!……つまり、先生達だけを監視しておけば、必然的にそのバケモノと接触できると言うわけですよね!」
「お前。絶対わざとだろ……」
岡田は柴犬の割り込みに小さな声で不平をもらす。
「そう言う事だ。今、学校に残っている生徒は三条穂鳥とレート1の人達だけ。
しかも三条穂鳥は女だから襲われる可能性はほとんどゼロだし、レート1の生徒に関しても単独じゃなくて集団でいるから襲われる可能性は低い。
…つまり、生徒達の監視をするよりも、先生達の監視をし続けていれば、バケモノとの遭遇できる可能性は高くなるってことだ。」
「す、すげぇな。部長。
…だが、裏を返せば、今日失敗したら次の期末考査までお預けになるってことだよな?」
岡田が重々しく口を開く。
「そう言うことだ。
だから失敗は許されない。一刻も早くバケモノを捕らえないと、次に餌食にされるのはお前らかもしれないからな。……」
「…部長。俺。頑張ります。……」
「……それは勘弁だぜ。…俺には好きな人がいるんだ。…初夜を奪われるわけにはいかねぇな。」
「…………………………」
私は覚悟に満ちた男達の目線を一気に浴びて次の説明を始める。
「…では、監視の方法を説明する。」
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現在の時刻は16時30分。
私は今、校長室のクローゼットの中にいる。
なぜかって?
簡単な話だ。
私が校長先生の監視をしているからだ。
クローゼットのわずかな隙間から校長室の机が見える。
ではどうやって侵入したかって?
それも簡単な話だ。
10分ほど前から校内の全教師は集会のため体育館に集まっている。
だから校長室には誰もいない状態になり、ピッキングで侵入し現在に至ると言うわけだ。
柴犬とジャンボと岡田も同様の方法で職員室の3つの掃除ロッカーの中に1人ずつ入りスタンバイしているはずだ。
彼らには校長以外の教師の監視を任せた。
(それにしても、この校長先生の服。
……臭すぎなんですけど……)
クローゼットの中に収納された服の匂いが私の鼻を突く様に刺激する。
(加齢……と言うより、ドブ?……ホントに…………もう無理なんですけど。)
ーーーガチャーーー
私がそんなくだらないことを考えている最中、校長室の鍵が開かれてだけかが中に入ってきた。
「カンニングペーパー持っていくの忘れた。
証拠がなければ、退学にさせる事は出来ないからな。…グフフフフ。」
(………?校長先生?)
入って来たのはやはり校長先生だったが、私が知っている厳格な校長先生の姿はそこにはなく、不敵な笑みを浮かべてニヤニヤしている性格の悪そうな男がいた。
私は校長先生の裏側の姿に驚きつつも、監視を怠ら事なく警戒を続ける。
「これで……奴らも退学だ。グフフフフ。」
校長先生は自分の机の中から一切れの紙の様なものを取り出して再び笑みを浮かべる。
ーーーガチャンッ!!!ーーー
「!?」(!?)
その瞬間、校長室のドアが乱暴に開けられ、私と校長先生の注意がそちらに集中させられた。
「あら❤︎男が1人もいないともさ思ったら、ダンディーないい男がいるじゃない❤︎」
(………!!……こ、こ、この声……)
ある日の放課後の記憶がフラッシュバックし、自分の顔が青ざめていくのが手に取るようにわかる。
「誰だ。お前。ここが校長室だとわかって入っているのか?」
「うふふふふ❤︎元気ね〜❤︎楽しくなってきちゃった❤︎」
ドスンドスンと大きな音を立てて校長先生に近づき視界に入る。
(…ま、間違いない。こいつは……)
私の瞳にはバケモノが写っていた。
いつかの放課後に見たバケモノと全く同じ形のそれは妙な威圧感を放っている。
「く、来るな。それ以上近づいたら……分かっているんだろうな!」
「あらやだ❤︎お仕置き騙されるのかしら?
うふふふふ❤︎いいわよ❤︎好きにして❤︎」
バケモノは校長先生の目の前にまで迫り舌なめずりをする。
ざわ……
ざわ……
「や、やめろ!来るな!何が目的だ!」
「うふふふふ❤︎目的?そんなの一つしかないわ❤︎……」
バケモノは一言、そう言った後………
………校長先生に熱い口づけをした。
"ズキュュューーン!?" と言う効果音が出てそうな、そんな口づけだ。
「グハッ!」
校長先生は血反吐を吐いて床に倒れ、打ち上げられた魚の様にピクピクと震えだす。
「私の目的は……あなたの心よ。」
(ヒィッ!)
私はクローゼットの中で恐れが思考を先行して身震いする。
ーーーーーードンーーーーーー
「……あら?なんの音かしら❤︎」
バケモノは私が入っているクローゼットの方をぎょろりと見て来る。
(!?しまった!音をたててしまった!
どうしよ!ホントにヤバい!!ヤバいんですけど!!!!)
口を押さえて必死に息を殺すも、バケモノの注意はこちらから他へ向かない。
「そこにいるのは誰かしら❤︎ねぇ❤︎
一緒に、遊ばない?」
ざわ……ざわ……
バケモノはそう言って、大きな足音を立て始め、その音がだんだん近づいて来た。
(いや。無理!…クローゼットに隠れるんじゃなかった!)
必死で嘆いた。
クローゼットに隠れることを選んだ数分前の自分を…
私はクローゼットの隙間から近づいて来るバケモノを見る。
(……○鬼にしか見えない!!
た○しになんてなりたくないよ!!)
今やクローゼットに隠れることをこそが死亡フラグだったのだとさえ感じてしまう。
私は臭い服の臭いも気にならないほどに絶望に身を任せた。
ーーーーカチャリーーーーー
「みーつっけた❤︎」
「ひぃっ!」
初めての対面だ。
赤色の夕日の光バケモノを茜色に照らす。
今の私にはそれが血の色にしか見えない。
「うふふふふ❤︎さぁ。こっちにおいで❤︎
おねぇさんといっぱい楽しいことしましょう❤︎」
「や、やめてください。」
恐怖のあまり力ない声を上げることしかできない。
(助けを……助けを…呼ばなきゃ……)
そう分かっていても、声が出ない。
そんな私はバケモノに腕を掴まれてクローゼットから引き下ろされ床に伏す。
「あらあら❤︎か弱い女の子だこと❤︎」
バケモノは舌なめずりをして私に接近する。
そして
「いただきまーす❤︎」
と言って汚い舌を差し向けて来る。
が、その時!
ーーーーガッチャン!!ーーーーー
「部長!!大丈夫ですか!!」
「助けに来たぞ!!」
「…………………!!」
「……お、お前たち……」
そこに立っていたのは、オカルト部員である柴犬、ジャンボ、そして岡田だった。
「あら❤︎うふふふふ❤︎かわいい男の子がいっぱい❤︎楽しみねぇ❤︎」
バケモノはその男3人組を見て動きを止める。
「ダメだ!逃げろ!お前たち!!」
「……ふっ!部長!冗談はよしてくださいよ!…絶対にあなたを救ってみせますから!……まぁ。久しぶりに、本気。出しちゃおっかな。」
柴犬は "ザッ!" と制服を脱ぎ捨てて指を鳴らし始めた。
ーーーーードクンーーーーーー
(……柴………犬?)
心が張り裂けそうになり、頬が赤く染まるのを感じた。
今までにない感じだ。
まるで胸がときめいているかの様な……
しかし私のときめきは次の瞬間、打ち消された。
「うふふふふ❤︎かっこいいこと言うじゃない❤︎ワンちゃん❤︎…いいわ❤︎
あなたから食べてあ・げ・る❤︎」
バケモノが柴犬に向かって走り出したのだ!
「逃げて!柴犬!!」
「……部長。あなたはそこで静かにしておいてください。あとは俺がなんとかしますから!」
ーーーーーードクンーーーーー
"はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!" と向かって来るバケモノに対して気合いを入れ込む様に強く叫ぶ柴犬の姿に心が熱く震える。
彼の姿には黒いオーラさえ見える。
(…どうしよ……好きになっちゃったかも。)
「かかってこい!!バケモノ!!
必殺!!ブラック・ハリケーン・ジェネラル・スプライト・オーバー・ダイナミッ…」
ズドンッ!?
「グハッ!」
バケモノは柴犬の技の詠唱を無視して、彼の顔を叩き壁に打ち付けた。
「……あら?意外と骨がなかったわね。」
その場にポカンとした空気が訪れる。
予想外の柴犬の弱さに当事者全員が呆気にとられたのだ。
「まぁいいわ❤︎どうせ、私のおもちゃになるんだから❤︎……ところで?あなた達は、どうするのかしら❤︎」
「………い、いえ。俺たちは、いや俺は今日は帰りますよ。…もう夕方なので……それではさようなら。」
岡田はせっせと校長室から出ていこうとするが、その腕をバケモノに掴まれて
「だーめ❤︎あなたも一緒に遊びましょうよ❤︎」と耳で囁かれた。
そして、その次の瞬間校舎中に岡田の叫び声が響いたのであった。
「ぎゃャャャャャャャー!!!やめろぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!……アッ♡」
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その後の展開を知る者は誰もいない。
話し手である私でさえも、気づけば真夜中の校長室に横たわっている状態であり、
辺りを見渡すと、悪夢を見ているかの様に寝苦しそうなオカルト部員が3人いた。
今の状況からして何もされなかった様に思えるが、実際はどうなのかは分からない。
ただ一つだけ分かっていることがある。
それは、校長先生はあのバケモノの餌食になったと言うことだ。
なぜかって?
簡単な話だ。
校長先生の脱ぎ捨てられた服やパンツはあるが、肝心の本人の姿がどこにもない。
私は校長室から見える月を見上げて両手を合わせてこう言った。
………………ご臨終様………と。
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私の名前は大川美里乃。
レート6の普通の女子高生。
少し違うところと言えば、出身が田舎の方だと言うことと、オカルト部に入っていると言うこと。
オカルト部に入ったのはまぁ、簡単に言うと好きな人と結ばれる方法を知りたかったからだ。
呪いとか契約とかそう言う類の方法を使ってでも、私にはどうしても手に入れたい人がいる。
そんな私は今、部活をバイトを名目に休暇を取りある場所に向かっている。
名目に…と言ったのは私はバイトをしていないからだ。
バイトをしているのは彼。
……私の好きな人。
だから私は彼のバイトがある日はいつも部活を休んで、そのお店に行っているのだ。
そして、私は今日も
"ゴリラカフェ"
と言う看板の店の扉を開いた。
次からは本編にもどります。