閑話: オカルティック・フィフス 前編
残酷な描写あり
どうも。
私の名前は円城菜子。
年齢は16歳でレート4のしがない高校二年生女子である。
自分で言うのもアレだけれども、正直言って生徒会長である三条穂鳥やアイドルの森川結菜より可愛いと自負している。
だから私のことをナマズと罵る男子たちの気持ちがわからないわ。
実際問題として、私は近所のおじさん方から
「奈子ちゃんは………か、かわいいねぇ。」
と言われたことがある。
ただまぁ、その時に目が泳いでいたのは気がかりであるが、そんなことはどうでもいい。
とにかくわたしはとても美人なのだと言うことだけ覚えていてほしい。
そんなわたしは今、カーテンによって日差しは遮られ真っ暗闇に支配されている学校のとある教室にいる。
なぜかって?
簡単な話だ。
今現在部活動をしているからだ。
私の所属している部活動はオカルト部。
この世のあらゆるオカルト的な物事を研究しその実態を身を以て解明する部活で私はその部活の部長をしている。
ーーーーーガラガラガラガラーーーー
「部長。遅れてすまない。」
「遅いぞ!岡田!」
静かな教室に扉が開く音が響き、ハードボイルドな声が後から聞こえる。
こいつはオカルト部の部員で本当の名前は知らない。
岡田というのは、なんか岡田っぽい顔をしているからなんとなく勝手にそう呼んでいるのだ。
それと岡田はやけにラスボスっぽいゴツい見た目をしているためBOSSと呼ばれる事もあるが、それはまた別の話である。
「おい、部長。だから俺は岡田じゃないんだって……俺の名前は……」
ーーーーガラガラガラガラーーーー
「部長。遅れましたー。すみませーん。」
「………………」
「おお。柴犬にジャンボか。遅かったな。なんかあったのか?」
岡田の言葉を遮るようにして教室に入ってきたのは、柴犬とジャンボだった。
初めに私に声をかけた明るい性格の男が柴犬で、無言で入室してきた男がジャンボである。
柴犬は本名、司馬拳であだ名通りの犬っぽい見た目をしており、
ジャンボは無口な昭和男子という感じで高校二年生とは思えないほど老けているのが特徴的だ。
ちなみにわがオカルト部は全員高校二年生で、私以外の部員は皆レート6である。
癪に触る事実だが今更どうこう言っても、何の解決にもならないので気にしないように努力している。
「そりゃ。今日、中間テスト最終日だからですよ〜。みんなで自己採点してたんです。
それに今日は部活禁止のはずですよね?」
そう。今日は中間テスト最終日であるのだ。
だから、この日は基本的に部活動をしてはいけないと指示されており、現在の時刻は15時頃のため校舎内にはもうほとんど人がいなくなっていた。
「それもそうだが……仕方ない。緊急事態なんだ。我慢してくれ。」
「まぁ、部長の頼みなら仕方ないな。
手っ取り早くすませようじゃないか。」
「どうせ、またオカルト的な話題でしょ?
で?今回はどんなのもってきたんですか?」
「…………………」
全員席につき、やる気のある眼差しを私に向けてくる。
「まぁ。まて。美里乃の奴はどうしたんだ?」
「あぁ。大川さんなら、今日はバイトの日でしょ?…ほら今日、金曜日ですし……」
大川美里乃と言うのは、もう1人のオカルト部の部員で、私には敵わずとも結構可愛い見た目をしている。
実際、ちょっとしたファンクラブができていると言うのを誰かから聞いたことがあるし、
レート6の生徒たちからは "レート6の奇跡"なんて呼ばれているらしい。
「そうだったな。美里乃は月曜日と木曜日と金曜日はバイトだったな。では、今回は美里乃を除いて活動を始める。」
「おう。早速話してください!それで?今回は何をするんですか?」
「……うむ。柴犬よ。最近学校で何か不思議なことが起こっている事を知っているか?」
「不思議な事?……いや〜。わかんないっす。」
「そうか。では岡田。お前は何か知っているか?」
「だから!岡田じゃなくて、俺のな…」
「ジャンボ。お前は何か知っているか?」
「おい!話聞けよ!!」
私が岡田の話に割り込んで会話を進めようとしたために、岡田は急に騒ぎ出した。
「部長。ジャンボに聞いても無駄ですよ。
さあ。勿体ぶってないで教えてくださいよ。」
「それもそうだな。…ではまずは今日の活動内容を説明する!」
私のその言葉に騒いでいた岡田は静止し生唾を飲むようにゴクリと喉を鳴らす。
「学校の七不思議を解明する!それが今回のミッションだ!」
私はホワイトボードをバンと叩きボード部分を回転させた。
そこには "ドキドキ!学校の七不思議を説き明かせよ!!" と言う文字の羅列が書かれてあった。
「学校の七不思議?……ププッ。…部長〜。
何を言いだすかと思ったら、七不思議ですか?…小学生でもそんな事信じてませんよ。」
柴犬が小馬鹿にしたかのように笑いながら言う。
「ぶ、部長。悪いが柴犬の言うことはもっともだ。それに、俺らの学校にはそもそも七不思議が存在しない。」
岡田は柴犬の意見に賛成のようだ。
どうやら七不思議など信じていないらしい。
「………………」
ジャンボはやはり無言だ。
「まぁ。そう言うだろうともさ思っていたよ。実際、オカルト好きの私でも流石に七不思議は信じていなかったからな。」
「じゃあ、どうして七不思議なんて言い出したんです?」
「うむ。では、そこんところを説明しようではないか……………
あれは、つい最近の話だ。……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある金曜日の放課後、時刻は18時頃。私は夕焼けにさらされた廊下を歩いていた。
手には大量のプリントを持っており、まるでタワーのように積み重ねられたそれは私前方向への視界を遮っている。
「はぁ。ほんとに憂鬱だわ。
日直じゃなければ、こんなことしなくていいのに………。」
独り言を呟きながら愚痴をこぼす。
「ま。
でも、このプリントは生物の柏木誠先生に届けるものだから………柏木誠先生と2人っきりになるチャンスかも…………」
柏木誠先生は学校内で一番イケメンの先生で私の初恋の相手でもある。
さらっとした高身長で、長い黒髮はできる男のようにさえ感じさせる。
だが最近、柏木誠先生はストーカー被害にあっているらしいので少し心配だ。
そう考えているうちに私は生物準備室の手前まで来た。
(……いっぱいアピールするぞ!)
そう心で決心して "コンコン" とノックする。
しかし返事は返ってこない。
(いないのかなぁ。)と思いつつ、私はドアを開き室内に入る。
「やっぱりいないか……ま、仕方ないや。」
机の上にプリントを置いて私は教室を出ようとする。
その時、私はある事に気付いた。
「声が聞こえる。……奥の教室からだ。」
苦痛に満ちた男の人の声がかすかに聞こえる。
まるで助けをも舐めているかのような、そんな声。
私は恐る恐る奥の教室のドアを開き中を覗き見る。
するとそこには………バケモノがいた。
見た目は千と千尋○神隠しにでも出て来そうな温泉宿の女将のような見た目をしており、ぱっと見人間には見えない様な見た目をしている。
(何……アレ……)
私はそのバケモノに呆気を取られ呆然としたが、あるものが目に飛び込んで来てさらに驚愕することになった。
(柏木……誠先生……)
そう。そのバケモノは柏木誠先生を下敷きにしてハッスルしていたのだ。
それを見た私は、自分の顔が青ざめていくのが分かった。
(逃げなきゃ。逃げなきゃ、私まで……)
その瞬間から、ピニック状態に陥り正常な判断を下すことができなくなっていた。
「うっふーん❤︎誠ちゃーん❤︎
もう限界なのかしらー❤︎うふふふふふ❤︎……あら?…そこにいるのは誰かしら?」
その時。バケモノが大きな口を開いて日本語を話した。
(!?バレた!?)
「ヤダ❤︎恥ずかしい❤︎あたしたちの営みを邪魔しないでよね❤︎」
バケモノがこちらに近づいてくる。
ドスンドスンと言う足音がだんだん大きくなっていく。
(…もう。無理……こないで!)
透明な液体が頬を流れる。
ドスン………。
足音が止まり、代わりにバケモノの方が動き出す。
「そこの貴方❤︎息を潜めてないで、でてらっしゃい❤︎」
私は両手で口を押さえて呼吸を止める。
「あら❤︎恥ずかしがり屋さんね❤︎うふふふふふ❤︎」
心臓の鼓動がだんだん加速しはち切れそうになる。
「じゃあ、おねぇさんがそこから出してあげる❤︎うふふふふふ❤︎」
私は恐怖のあまり強く目を閉じて、堪える様に息をひそめる。
そして数秒後…
「キャーーーー離して!」
と言う叫び声が聞こえた。
(………………………え?私、じゃない?)
私は意を決して再びその教室の中を覗く。
すると1人の女の子がバケモノに捕まっていた。
「あら❤︎女の子じゃないの❤︎それもとってもブサイク❤︎うふふふふふ❤︎」
確かにブサイクだった。
動物に例えるならアリクイ……が妥当だ。
だが、なぜこんなところにいるのだろう。
私は必死で抵抗するブサイクの事を見ながら考え、一つの結論を出した。
(ストーカー?)
柏木誠先生はストーカー被害に悩んでいたから、その推測はあながち間違っていないはずだ。
「うふふふふふ❤︎私、女の子でもいけるたちなのよ❤︎うふふふふふ❤︎もう逃さないわよ❤︎」
バケモノが舌なめずりをして、そのブサイクな女の子を見据える。
「キャーーーー!!やめて!!私が悪かったから!!助けてー!!誰か!!誰か!!」
理科準備室に響くその声は悲痛に満ちたものであり残酷なものであった。
私は何もする事が出来ず気づけば理科準備室から出て、茜色の廊下をトボトボ歩いていた。
2日後の日曜日。
近所の公園のゴミ箱の中から柏木誠先生が全裸の状態で発見された。
顔はひどく引きつっており、以前の様なイケメンな姿はそこにはなかった。
その次の日。
私はどうしてもあのバケモノの正体が気になって調べ始めていた。
オカルト好きの職業病の様なものだ。
結局、何も確信を得た情報はなかったのだが、一つだけ分かった事があった。
それは学校のイケメンの生徒が次々と鬱になって登校拒否になっていると言う事だ。
その事実を見つけた私は確信した。
これはあのバケモノの仕業なのだと。
そして高揚した。
オカルト魂が火をつけられたかの様に………
そして私は学校に潜むバケモノとして七不思議に認定して、これを調査し始めたのだ。
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「これが大まかな説明よ。分かったかしら?」
オカルト部の教室内が静寂に包まれる。
「な、なぁ。ソレって……まじか?」
「まじのまじだ。」
柴犬は私の言葉に青ざめる。
「あ!部長!俺今日、バイトあるわ。
すまねぇが、後のことはお前ら…………」
ーーーーガシッ!!ーーーー
私は慌てて教室を出ようとする岡田の腕を握り、彼の耳元で囁いた。
「なぁ。岡田。お前、美里乃の事が好きだったよな?…はぁ。仕方ないなぁ。美里乃には岡田はただの負け犬だったと報告しておこう。」
その囁きに岡田は動きを止め、私は自分の席について"はぁ"とため息をつく。
「おいおい。部長。人の話は最後まで聞くってのが筋じゃねーのか?
俺は "後のことはお前らなんかに頼らなくても、この俺1人さえあれば余裕だぜ!" って言おうとしたんだぜ!
かかかか、勘違いすんじゃねーよ。」
額から大量の汗を流しながらドヤ顔を決め込む岡田。
「さすが!岡田!」
「だから!俺の名前は岡田じゃなくて……」
「ジャンボはどうする?逃げてもいいんだぞ?男子のお前らは特に襲われる可能性が高いからな。」
「………………」
ジャンボは私に真剣な眼差しを送りコクリと頷いた。
どうやら準備万端の様だ。
「柴犬。お前はどうする……」
「……行くよ。……そんなバケモノ。
俺が懲らしめてやりますよ。」
震えた手を上にあげてそのやる気を表現している。
震えた手…と言っても震えすぎてその姿がはっきりと見えないほどにしんどうしている。
「よし。じゃあ。今から作戦を話す!
よく聞けよ!失敗したら……確実に三途の川送りだからな!」
こうして私たちの部活動が始まった。
carol & Tuesday が好き。