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20/24

20.選ばれたのはスタンガンでした。

遅れて申し訳ございません。


ガラガラガラ……


扉が開く音とともに、いかつい男が教室に入って来た。

身体中トリモチとゴミに覆われ、歩くたび臭い匂いを撒き散らしている。


(…さっきの女の子の声は一体なんだったんだ……)


数分前、プレハブの外から女の子の叫び声が聞こえたのだが、その正体をつかむことはできなかったようだ。


前回も話した通りその正体は守達が事前に仕掛けて置いたラジオであるのは言うまでもないだろう。


碇剣道が教室に入ると、黙々とテストに取り組んでいる守達が視界に入る。

ただ、鳳凰院竜司だけはなぜか顔中血だらけで机の上でノックアウトしている。


(ふん!馬鹿め。今更頑張ってテストを解こうとも、お前らの退学は確実なのによ…………クフフフフフ)


心の中で浮かべた気味の悪い笑みは、隠しきれずに表情に現れる。


(だが、滑稽だ。レート1というゴミに等しいレッテルを貼られておきながら、それに気づいていないかの様に楽しそうに生きたいやがる。……)


教卓に向けて歩いている最中、守達を見下す様にそんなことを考えていた碇剣道は教卓の上に何かが置かれているのに気づいた。


(………ん?…バナナ?…)


そう。教卓の上には腐りかけのバナナが置かれていたのだ。

黄色い皮は茶色に侵食されている部分がある。


(こいつら!……いや小山守!また余計なことを企んでいるのか!)


碇剣道はバナナを手に持ち守に目を向ける。


(!?!?)


すると、なんと守は無表情で中指を立てて、それを見せつける様に碇剣道に向けていた。


(あのクソガキャーー!!)


怒りに身を任せて手に力を入れると、バナナの実が "ブリッ" という音を立てて顔を出した。


(っ!!いや!まて。落ち着け碇剣道。

このままじゃ、また奴のペースになってしまう。落ち着け。……奴らの退学はもう決まっている。…このまま冷静を保てば……)


"ペチャ"


碇剣道はその音とともに顔に何かが当たる感触が感じた。


(今度は一体何なんだ!)


好奇心からか、顔にへばりつくその物体を指で取り確認する。



(!?!?これは!?!?)


碇剣道の指には、黄色い何かがこびり付いている。


碇剣道は即座に顔を上げ守を見る。



"ペチャ"



守は中指を立てて鼻くそをほじり、それを碇剣道に投げつけていたのだ。


(あのクソガキャーー!!ぶっ殺してやる!)


冷静さなどどこかに置いて来てしまったかの様に、碇剣道は憎悪に身を任せて、手に握られていたバナナが離散するほどに強く握りしめる。




一方その頃、守は鼻くそをほじりながら冷静に思考してた。


(ふふふ。引っかかったぜ!あの馬鹿め!こんな見え見えの挑発に乗るなんてな……)




……………………………………………………



2分前。



「おい。守。スタンガン使うっていうのは分かったが、どうやってあのクソ教師に近づくんだ?……まさかとは思うが、ゴリ押し……なんてことはないだろ?」


山田山田が素朴な疑問を守にぶつける。


「あぁ。当たり前だ。ゴリ押しして、ボコボコにされたらその時点で終わり。もうチャンスは無いからな。」


「ガハハハハハ!おい守!お前がボコボコにされるなんてありえねぇだろ?」


西野美希は守の背中をバシバシと叩く。


「いや。わからねぇーぞ?この世界には俺より強い奴なんて山ほどいるからなー。」


「守くん………それ本気で言ってる?」


守の発言にメアリーが呆れた様に言葉を返す。


「いや、いるだろ。例えばボクシングの世界チャンピオンとかさ…」



覚えているだろうか?

森川結菜の一件の話を。

守はそこで元ボクシング世界チャンピオンを負かしている。

この男。本当に世界一強いのかもしれない。



「守。その話は後だ。今はどうやってこの状況を乗り切るかを考えるぞ。」


「それもそうだな。…だが、実は一つだけ案を思いついてるんだよ。近づかずとも感電させる方法がな。」


「ほぉー。流石でござるな!守氏。」


「守くーん。どんな作戦にするの?

スタンガンは遠隔操作とかできないよ?

だがら近づかないと無理だと思うんだけど。」


「メアリー。遠隔操作ってのは、いつも無線とか電波で遠くの物を操作するっていうだけじゃ無い。…スタンガン自体の射程距離を長くして手でそれを操作するっていうのも遠隔操作にはいるだろ?…いや、遠隔では無いか。……でも離れた位置からスタンガンを操作することは可能だ。」


守は自分の机の上にテープとスタンガン、そしてピアノ線を並べる。


「どう言うことだ?守。ちゃんと説明してくれ。」


「はぁ。しかたねーなー。…つまりはこうだ。」




まずスタンガンのスイッチを入れてテープで固定し、常に電気が流れている状態を作る。

次にそのスタンガンをピアノ線でくくりつけて、教卓の真上の天井に固定する。

後はウン=コジールのローションの時とほとんど同じだ。

守がピアノ線のあまりの部分を手に握り、離れた位置からスタンガンの高さを調節できる様にする。

そして、タイミングを見計らってスタンガンを碇剣道に接触させると言うわけだ。



「どうだ?完璧だろ?」


ドヤ顔を浮かべて非の打ち所がないと豪語する守に対し、山田山田は不安そうな顔で口を開いた。


「その作戦はまぁ。悪くは無いんじゃないか?…だがな現実的な話、その作戦は失敗するだろ。」


「…そうでござるな…まずスタンガンをずっとonの状態にするとなると、音で気づかれるでござろう。」


「…そうだろうな。…それにもっと追求してしまえば、天井にスタンガンを吊るしている時点でバレるだろうな。」


守は山田山田と鳳凰院竜司の批判を軽く受け止める。


「バレるな、じゃねぇーだろ?どーすんだよ。あいつ、もうそろそろ帰ってくるぞ?」


「守くん。……」


メアリーが涙目になり守に抱きつく。


「大丈夫だ。心配すんな。この作戦にはまだ続きがあるんだよ。」


抱きつくメアリーを慰める様に頭を撫で、慰めてやる。


「続き?どんなんだ?」



山田山田の問いに守はメアリーのバッグからバナナを取り出して話し始めた。



まず教卓にバナナを置いておく事によって天井のスタンガンに注意を引き付けない様にする。

テスト中に教卓にバナナがあるなどあり得ない事である為、自然と視線はそちらに集中すると守は考えており、目視でのスタンガンの発見は極めて確率が低いと予想した。


またこのバナナにはもう一つ役割があって、相手を困惑させ思考を辞めさせないという事にもある。つまり、何故ここにバナナがあるのかを考えさせるという事だ。


人は深く思考する時、周りの声が聞こえなくなる事がある。

勉強している時、周囲がとてもうるさかったとしても、声など聞こえなかったということ経験はした事がないだろうか?


守の狙いはまさにそれである。


碇剣道を思考させる事でスタンガンの電気の音を聞こえなくするのだ。


だが万が一、それでも音に気づかれそうになればもう一つの手段がある。


それは碇剣道をこれまでに無いほど怒らせる事で全神経の集中をこちらに集める事で防ぐことだ。


実際、本当に怒りを感じている時、周りの状況を判断できなくなることはよくある事なので、スタンガンの電気の音など無に等しいほど微量となるはずである。


そこで、どうやって碇剣道を怒らせるかだが、それは挑発によるしか方法はない。



「……と言うわけだ。どうだ?結構考えてるだろ?」


「あぁ。これならいけるかもしれないな。」


「おおー。やっぱり守くんは凄いね!」


「ガハハハハハ!訳わかんねー。全く理解できなかったぜ!!」


どうやら山田山田、メアリー、西野美希は守に賛成のようだ。

だが、鳳凰院竜司だけは不安げな表情である。


「…しかし守氏。作戦の内容は大体わかったでござるが…バナナ一本であやつに思考させる事は出来るでござるか?そのままスルーされる可能性もあるでござろう。」


適切な疑問だった。

デブで馬鹿な鳳凰院竜司にしては珍しい。


「まぁ。普通ならそう考えることもできるのだが、それは問題ない。…考えてみろ。俺は一度あいつに恥をかかせている。

それもゴミをぶっかけられるという最悪なものだ。

じゃあ、そんな相手からバナナが送られてきたらあいつはどう感じると思う?

確実にまた自分をはめに来ているんじゃないかと考えるはずだ。…つまり、信頼が無ければないほど疑心暗鬼になるってことだよ。」


「うむむ。そうでござるか?」


腑に落ちない顔を浮かべる鳳凰院竜司の顔はとてもブサイクである。


「じゃあ、もっとわかりやすく説明してやる。鳳凰院。お前アニメ好きだったよな?」


「うむ。そうでござるが、それがどうしたでござるか?」


「だったら、もしお前がラブ○イブのグッズを注文していたはずなのに、実際に家に来たのがサザ○さん一家のただのエ○同人だったらどうする!それを送って来た相手をお前は信頼できるか!」


「グハッ!!……それは……」


吐血して倒れこむ鳳凰院竜司。


「ドラゴンボ○ルの悟(はん)のフィギュアを注文していたはずなのに、"ごはんで○よ"が家に来たらどうする!それでもお前は送り主を信頼する事ができるか!!」


「グハッ!!!!!…拙者が……間違っていたでござる。」


血反吐を吐きながらばたりと倒れる。

それを見て流石のメアリーも気持ち悪がって守の背中に隠れ、守は乾いた笑みを浮かべる。



「守。行けるかもな。それならワンチャンいけるぞ。」


山田山田は歓喜に声を震わせる。



「あぁ。ま、そうと決まれば早速準備だ。奴の恐怖で顔を歪める姿を想像すれば楽しみで仕方ないぜ。」


枠等のような笑みを浮かべる少年がそこにはいた。



……………………………………………………


時は戻り、今の時刻は10時35分。


(後少し……後少しでチェックメイトだ!)



現在、碇剣道の頭上の天井からスタンガンが少しずつ垂れ下がって来ている。


守が机に隠した骨折している左手で操作しているのだ。


なぜ骨折しているのかと言うと、森川結菜の父親と戦った時の怪我が残っているからだ。


(後10センチくらいか?…)


真剣なことを考えている心境とは正反対に無表情で鼻くそをほじり、それを碇剣道に投げつけ続ける。


投げつけられている碇剣道は鬼の形相で守を睨み続けている。


(あのクソガキ!!退学させたら、絶対にぶっ殺してやる!!)


(…後5センチ……)


無表情の守の表情に汗が溢れる。


(後2センチ…)


(……後1センチ……)


クラスメイト達も顔を上げ固唾を飲んで見守る。



そして…………


「ぎ、ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉああああ!!!!!!!!」



教室の内を響き回るその苦痛に満ちた叫び声は、守達の学校への不満を取り払うように反響し続ける。


「グッドラック!碇剣道!」


山田山田は即座に立ち上がり、電流に身を震わせる男教師に向けて敬礼を取る。


「「………」」


一方で西野美希とメアリーはジト目で守を見つめる。


「し、仕方ないだろ?退学回避の為なんだ。そんな目で俺を見るな。」



その空間に何故か和んだ雰囲気が訪れるのだが、それもつかの間だった。



ボッ…………………


「……ん?」


山田山田は敬礼を崩さずに碇剣道を観察している時、ある事に気付いた。


「んんん!!!」


目を見広げて驚く山田山田。


「おい。山田どうしたんだ?そんなに驚いて……」


「あ、あのー。守?…コレって作戦通りか????………」


山田山田は守の方に振り向き、碇剣道を指差す。

その時の彼の表情は汗でいっぱいだった。


「ん?なんだ?そんなに慌てて………って!!!ええぇぇ!!」


守はそれを見て驚愕した。


何故かって?

それは、碇剣道の頭が火を吹いて燃えていたからだ。

おそらく電流が強すぎたために髪の毛を媒体として火がついたのだろう。


「おい!なんで燃えてんの!やばいやばい!

予想外だ!早く消すぞ!」


「わーすごいねー。守くーん。

ハ○ターハンターのゴン=フ○ークスの制約と誓約みたいになってるよ。」


「やめろ!メアリー!それ以上、口を開くんじゃぁねぇ!」


「ガハハハハハ!!

俺は人間やめるぞ!!j○j「やめろー!!」」


守は西野美希の予想外の発言を慌てて制止する。


「お前ら遊んでないで水持ってくるの、手伝ってくれ。」


「うん!分かったー。」


「ガハハハハハ!仕方ねーな!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ジュワーーーーー


そんな音を立てて水浸しになっている真っ黒焦げの男は、髪の毛を無くし頭皮を丸出しにしていた。


「あちゃー。ちょっと遅かったねー。」


笑顔を浮かべて守にもたれかかるメアリー。


「ガハハハハハ!!やっと教師らしくなったじゃねーか!」


「ふぅ。マジでヤバかった。……」


守は腰を床に落として緊張をほぐす。


「守。…早く、カンペを見つけて処分したほうがいい。」


「そうだな。……んじゃ、探すか…」


年寄りのように"よいしょ" と声をあげて立ち上がり、山田山田の言葉に賛成し、そのまま、碇剣道のポケットを一つ一つ確認し始める。










「ここにもない。……」


「守。こっちにもなかった。」


「……どういう事だ?」


守と山田山田はポケットを隈なくチェックするもカンペどころか何も出てこない。


「おい。メアリー、西野。今からこいつの服をひん剥いて全裸にさせるから少しの間教室を出ててくれ。」


「……うん。分かった。」

「お、おう。…」


守の言葉にメアリーと西野は教室から出て行く。


「おい守。脱がすのか?」


「あぁ。仕方ねーだろ。ポケットには入ってないんだ。なんならパンツの中とかしか隠している場所ねーだろ?」


「まぁ。それもそうだな。」


「教師の服をひん剥くのはこれで2回目だな。」


乾いた笑みを浮かべうんざりする。


「はぁ。女の子ならなぁ。ちょっとは花があるのにな……」


山田山田は犯罪者紛いなことを言いながらおじさんの服を脱がせ始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…………やっぱりない。」


数分間、守と山田山田は服の隅々まで探したがとうとう見つからなかった。


「どうする。守。」


「ど、どういう事だ?何故ない。どこかに隠したのか?」


守は焦りを隠せず、理解できない現状に声を呟くことしかしていない。


「おい!守!どうするんだ。」


「……分からねぇ。流石に想定外だ。」


「……まじか?……じゃあ……」


血反吐を吐いて気絶している鳳凰院と真っ黒焦げの碇剣道、そして守と山田山田だけの教室に静寂が訪れる。


「………俺らは退学……なのか?…守。」


「……すまねぇな。……もう作戦が思いつかねぇわ……」


「……そうか。……いや。守が謝ることじゃねーよ。気に悩むことはねぇ。お前はよくやったよ。」



山田山田は親指を立てそれを守に見せつけ、守は一言だけ言葉を返す。

「………すまねぇな。」




「………う"……ぅぅ。………」


その時、黒焦げの全裸教師がうめき声をあげながら目を覚ました。

山田山田と守はその声を聞き、視線をその一点に集中させる。


「……やっちまったな……レート1のゴミが。……教師に…こんな事して…許して貰えると…思うなよ。」


怒りを露わにしゆっくりと立ち上がる。


「……残念だったな……お前らの退学は確実だ。」


不気味な笑顔を浮かべて守る達を見下すその男教師には、教師のカケラも感じない。


キーンコーンカーン。

キーンコーンカーン。


「テストの終了時間だ。お前らゴミクズのカンニングはしっかりと進言させてもらう。」


その男教師はさらに続けて一言だけ呟き、服を纏いプレハブから出て行った。


「…あ。そうだ。…お前らが探してるカンペは今頃校長室の俺の机の中にある。…女の子の声が聞こえた時に念のために保管しておいたんだよ。……お目当てのものが見つからなくて、残念だったな。」


叩きすぎる笑顔を浮かべた男は "ざまぁ見ろ" とでも言いたげな表情を浮かべていた。






ーーーーー1学期中間テスト終了ーーーーー









読んでくださりありがとうございます!


次回でやっと生徒会長の話が終わりそうです。


それと自分、今便秘です。

ネットで調べていろいろ試したのですが治りそうにありません。

さて、どうしたものでしょうか。


あと、評価つけてくれると嬉しいです!

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