18.バナナはオヤツに入りますか?朝田栞はヒロインに入りますか?
チッ。チッ。チッ。チッ。………
時計の秒針の音が大きな音を立て、守の耳に入り込んでくる。
(考えろ……考えるんだ!
まずは状況の整理だ。机の上にあるものをもう一度よーーく確認するんだ!)
守は婚姻届に目を向け、それをまじまじと見る。
(………どう見ても婚姻届じゃねーかー!!朝田栞の名前が既に書かれている婚姻届じゃねーかー!!!!)
心の中で大きな声で叫ぶ。
顔の前で組んでいる手も汗ばんで来た。
どうやら相当焦っているようだ。
(…ダメだ。訳がわからん。
何故俺だけ婚姻届なんだ?まさか!フラグが立っていたのか!?……いつ!どこで!?
………いや、これは罠だ。"俺のことを好き"と思わせておいて、実はこの婚姻届は俺に欠点を取らせる口実。…だから名前を書いても、問題ない。
…問題ないがダメだ!書けん!!婚姻届などに……あの女!相当のやり手だ!!)
大量の汗が守の頬を通過しポタポタと机にこぼれ落ちる。
その様子を見た朝田栞はニヤッと笑みを浮かべる。
(守さん❤︎貴方はその婚姻届に名前を書くだけでいいの。後の手続きは私がするわ。うふふふふふ。)
ゾワ…………
その時守は何かを感じ取って、朝田栞の方に視線を送る。
(顔を赤らめてこっちを凝視してやがる!
気持ち悪い!
あのババア。……一体何を考えてるんだ!)
(あら!守さんがこちらを見て来ました。
もしかして、守さんも私のこと……好き?
……キャーーーー。どうしましょう!
両思いだったなんて!!嬉しいです!!!
やはり、運命の赤い糸で…繋がってたんですねーーーーーーーーーー!!
守さん!早く結婚しましょう!!!)
(!?また顔が赤くなった!!
湯気まで出てやがる!あいつ……まさか!
俺が困っている姿を見て、楽しんでやがるのか!!この畜生!)
(好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎好き❤︎……あぁぁぁぁぁああ!!!
もう止められなーーい❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎守さん!それ以上、私を見ないで!馬鹿になっちゃうーーーーーー!!!)
(!!!!今度は体をクネクネし始めたぞ!
なんだ!あのババアの心が全く読めない!!
……いや、冷静になれ。今はあいつが何と思っていようが関係ない。
考えるべきはどうやって、欠点を回避するかだ。そして、もし仮に鳳凰院達のテストの問題も変えられていたら、そっちの方が大問題だ。
……考えろ…俺が欠点を回避しつつ、鳳凰院達のテストが変えられていない事を確認する作戦を!)
守は朝田栞から目を離し再び思考を巡らせる。
(堂々とカンニングするのは無理だ。あのババアは常に俺を見ている。そんな隙はない。じゃあどうする?……ローション作戦で行くか?…いや。相手は女だ。年寄りならまだしも、相手は若い。流石に気がひけるな。………じゃあどうする!このままじゃ、教員どもの手の内だ!)
現在の時刻は9時10分。
テスト終了まで、後30分。
守は時計を確認し、朝田栞を一瞥し思考に入ろうとしたその時。
(………………ん?あれは何だ?)
彼は何かを発見した。
それは教卓の上に乗せられており、束になった紙のように見える。
(もしかして、アレって、予備のテスト用紙……なのか?)
(キャッ❤︎守さんったら、またこっち見てる…)
(予備のテスト用紙だとしたら、まだ可能性はある。残り時間は30分だから、何とかしてこの婚姻届と予備のテスト用紙をすりかえることができれば……まだ行けるか…)
(守さん❤︎❤︎❤︎
何てイケメンなのでしょうか❤︎
あの時と何も変わってません❤︎
…やっぱり、好き❤︎)
チッ。チッ。チッ。チッ。………
時計の秒針の音がうるさく音を立てる。
残り時間10分。
守は未だに作戦を思いつかずにいた。
(クソ!どう考えても、あの教卓からテスト用紙をすりかえることができねぇ!不可能なのか?……)
彼の握りこぶしに力が入る。
無力な自分に嫌気をさしているのだろうか。
ーーカチャンーーー
そして、諦めかけている時、誤って机からボールペンを落とした。
「あっ……」
朝田栞もそれに気づいて、コツコツと守の方は歩いてきてそれを拾ってくれる。
テスト中落し物をした場合、カンニングを防止するために教師がそれを拾うことになっているのだ。
「守さん。落としましたよ。気をつけてくださいね。…どうぞ。」
そう言った朝田栞の姿に先ほどの惚気きった彼女はいない。
クールな感じを醸し出している。
「はい。ありがとうございま……ん?」
守が朝田栞からそれを受け取った時、ある違和感に気づいた。
ボールペンと一緒に手紙を渡されたのだ。
(手紙?…)
朝田栞は守にそれを渡してコツコツと教卓に戻る。
(一体なんだ?テスト中だぞ。)
守は困惑を隠せない。
残り時間が少なくなっていることもあって、テンパりを隠せないでいる。
そして、守は恐る恐る手紙を開き目を通した。
そこにはこう書かれていた。
"私はあなたの事が好き❤︎あなたも私のことが好き❤︎だから、結婚したら子供は最低でも3人は欲しいです。女の子2人と、男の子1人。
女の子の名前はチコがいいな。
あ、それだと守さんの妹と同じ名前になっちゃいますね❤︎別の名前を考えておきます❤︎❤︎
結婚した後は毎晩営むの。想像しただけで、今から結婚が楽しみ❤︎
式は外国であげたいな。ハワイかグアム。
それでね。老後までずっと、一生幸せに暮らすの。それでね。…………………"
(はぁ!何やこれ!!………つーーか。
おい!何で妹の名前知ってんだよ!!!
会ったことねーだろ!!!)
まだまだ続く。延々と続く朝田栞の欲望の文章に守は驚きを隠せない。
さらにその手紙はある言葉で括られており、その言葉が彼を一層仰天させた。
その言葉というのが
"そう言えば、昨日は寝るのが遅かったですね。幾ら何でも3時は遅すぎます。
早寝早起きは大事ですよ。"
であった。
(………………なんで、俺の就寝時刻知ってんだよ。………)
彼の頭に入り込んでくる多大すぎる情報量。
それは脳の中でぐるぐると螺旋を描く様に回り続け、パンク寸前にまで追い込まれ、むしろ恐怖さえ感じさせられていた。
その様子を見ている朝田栞はクールな顔に似つかないニマニマとした、だらし無い笑顔を浮かべている。
(……いや待てよ。……だがこれはチャンスと取ることもできるか?もし仮に、あのババアが俺に好意を寄せているのだとしたら、まだ逆転の機会はある…………試してみるか。…)
守は制服のワイシャツのボタンを上から2つほど外して、襟をパタパタとはためかせる。
その際にチラッと胸板が垣間見える。
(さぁ。どうだ!様子見ではあるが、俺のことが好きなら目を話すことは出来まい!)
守はわざと体が見えやすくなる様にその動作を繰り返し、朝田栞に視線を向ける。
ドボドボドボドボドボドボ…………
「!?」
そこにあったのは、血走った目で大量の鼻血を床に溢している女教師の姿だった。
「…ま、守さん。ダメ………それ以上は……私、幸せすぎて死ん……じゃう。」
力無く、途切れ途切れで呟いた朝田栞の目は一度たりとも瞬きをしていない。
(こ、怖ぇぇーー!!!
マジで怖ぇぇぇーーー!!!死ぬほど怖ぇぇぇーーー!!)
守が感じたのは恐怖。
芦羽ダイコと並ぶほどの恐怖に圧倒され、手が止まる。
(だ、ダメだ。あいつはやべー!
ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇ!!)
守は心の中で叫ぶと同時に彼の本能がボタンを閉じさせた。
朝田栞は
「はぁ。はぁ。」
と息を切らしながら物乞いをする猫の様な視線を守に送っている。
(だが。だがしかし。突破口が見えた。
後は賭けになるが……ってまた賭けか。
まぁいい。
失敗すれば俺の貞操が奪われる。
成功すれば、今まで通りの日々だ。)
そして彼は大きく手を挙げこう言った。
「先生!トイレに行きたいです!」
教室中から視線を集める。
だが、彼らは何かを察したかの様に、再び問題を解き始める。
「え。ええ。いいですよ。き、許可します。」
その言葉にガラガラと音を立てて席を立ち、教室の外に出る。
そして、守は少し歩いたところで立ち止まって振り向く。
「……はぁ。先生。なんで付いてきたんですか?」
「い、いゃ。まぁ。つ、妻の務めよ。
それと。それと、せっかく2人っきりになったんだから、栞って呼んでよね。」
そこにいたのは、やはり朝田栞だった。
しかし彼女の仕草はクールさを感じされるものはなく、可愛らしい雰囲気がある。
「先生。まさかトイレにまで付いてくるんですか?」
妻という言葉を敢えてスルーし言葉を続ける。
「栞。……栞って呼んでよ。…守の意地悪。」
「はぁ。じゃあ俺、もうトイレに行きますので……」
守は朝田栞に背を向けて歩き始める。
「ちょっ。ちょっと待ってよー。」
それに続いて朝田栞も守を追いかける様にコツコツと走り出す。
(…………計画通り!)
守の表情は朝田栞から見えない。
彼は頬を引きつらせて笑みを浮かべた。
夜神○ですか?と聞きたくなるがやめておこう。
(やはり、付いてきたか。…まぁ。胸をチラ見させたくらいであのリアクションだ。
トイレに付いてくることは容易に予想できた。だが…問題はここからだ。)
その時、朝田栞が
「まーもーるー❤︎つかまえたー。」
と言って、彼の腕に自分のそこそこある胸を押し付けていた。
いわゆるホールド状態だ。
「先々行かないで、一緒に行こうよ❤︎」
その刹那、守は無表情で腕に張り付く彼女を壁に押し付けて壁ドンをした。
!? 「え?」
流石の朝田栞も何が起こっているのか理解できていない状態だ。
「なぁ。あんた。……もういっそのこと、ここでヤッちまわねーか?」
意外な発言が守の口から飛び出してきた。
「……え?」
顔の赤い朝田栞は困惑している。
さらに守は追い込みをかけるように朝田栞の耳元で囁いた。
「子供……欲しいんだろ?」
朝田栞の顔はさらに真っ赤に赤面し、その場に静寂が訪れる。
(………………言っちまったー!!
チコ以外。チコ以外の女に全く興味ないのに!!
だが、今は仕方ねぇ。演技だ!このまま演技をし続けるんだ!………クッ。チコよ。こんなお兄ちゃんを許してくれ!)
心の中でそう叫ぶ守は、表面上の表情とは裏腹に少し顔が赤くなっている。
彼にも恥ずかしさと言うものがあるらしい。
その時、ある言葉によって静寂が破られた。
「………い………いいですよ。私の初めて……あなたに渡すために守ってきたから……それに今日は子供ができやすい日のはず………だから。……」
朝田栞は自分のくびれのあるお腹を触りながら守から視線を外しながらそう言う。
再び静けさが訪れた。
(………………………………………………………………………………………………………………は?アレ?……………………いやいや。なんで乗り気になってんの?
そこは "きゃー変態!最低ですーー!!もうあなたの事なんて嫌いですーー!!" とか言いながらどっかに走っていくってのがテンプレだろが!!…………)
汗が止まらない。
演技で無表情を、続ける守の額から大量の汗が流れ出る。
(ちょっ。ちょっと待って。…これはまずい!
マズすぎる!!…チェリーが!俺のチェリーが!!!)
「守?ヤらないの?」
朝田栞が口を開いた。
ゴクリと生唾を飲む守は、無意識のうちに壁ドンを辞めて後退りをしていた。
(畜生!俺の考えが甘かった!テンプレなんかに賭けるんじゃなかった……………いや!まだ諦めるな!まだ手はあるはずだ。
こんな女にチェリーを奪われてたまるか!)
顔を赤くした朝田栞がジリジリと近寄ってくる。
「守…………」
(まずーーーい!本格的にまずーーーい!!なんかこの人やる気満々なんですけどー!!
考えろ!守は俺はできる!いい作戦を………)
キーンコーンカーン。
キーンコーンカーン。
その時、学校中に大きなチャイムの音が鳴り響いた。
テスト終了の合図だ。
「…え?まじ?」
あまりの突然のことに顔を青ざめさせる守。
「あ、あら。チャイムが鳴ってしまいましたね。続きは持ち越しですね。さっ。教室に戻りましょ。あなた」
朝田栞が名残惜しそうにそう言う。
だが、今の守にそんな事聞いている余裕はなかった。
(俺、退学……じゃん。………嘘ー。……)
プレハブ内のトイレ前で守はただ呆然とする事しか出来なかった。
週一のペースで絵の練習してます。
液晶タブレットとかも買ったのですが、慣れなくてアナログでばかり描いてます。
≪みてみん≫っていうサイトに載せてます。
まだ下手っぴですが、処刑者スモウで検索すれば出てきます。
最後に読んでくださりありがとうございました!
次回、テスト終了。
守も終了。
三条の気持ち。 の三本です。(仮)




