17.カースト最下位の少年は詰みました。
中間考査1日目は終了した。
その日の放課後、校舎裏に気絶している状態で全裸亀甲縛りにされ、木に吊るされているウン=コジールが発見され、なぜか彼の頭がハゲていた。
後頭部から頭頂部にかけてザックリと。
また、顔中に落書きをされたり、鼻をつんざくような異臭がしたりとそれは悲惨な状態だった。
そのせいか、ウン=コジールを発見した女教師や野次馬の生徒達は嗚咽していた。
事情聴取の末、記憶喪失になっている事が判明したらしく、医者の診察では相当なショックな事が起こった事が原因であるのだそうだ。
2日目。
この日は日本史と世界史、そして古典の三教科の試験があった。
ウン=コジールがテスト監督を辞退、と言うよりレート1のプレハブに行くことを尋常じゃない剣幕で拒んだため、他の先生が来た。
今は世紀末ですか?と聴きたくなるようなファッションに身を包んだスキンヘッドの教師だ。
棘のついた肩パットにツンツンのモヒカン。
まぁ、簡単にいえば北斗○拳に出て来そうな男だ。
名前は小西堅志郎。担当教科は古典である。この情報は三条穂鳥の置き手紙に記載されていたことなので、守達はその事を事前に知っていた。
そして、テストは日本史と世界史は順調にカンニングを成功させた。
しかし、古典のテストで問題が発生した。
そう、問題が変わっていたのだ。
しかも難易度も格段に上がっていた。
ウン=コジールの数学のテストと同様だった。
だが、今回は簡単にカンニングをする事ができた。
と言うのも、三条穂鳥から渡された小西堅志郎のプロフィールにエロ本好きと書かれていたのだ。
だから、教卓にエロ本をコッソリと忍ばせて置き、それに手をかけた小西堅志郎を盗撮。
あとは簡単だ。
"この動画をバラされて教師生命を絶たれたくなかったら…………分かるよな?"
と脅しをかけて、堂々とカンニングするだけ。
それ以来、小西堅志郎は青ざめた顔をしてガクガクと震えていたが、守達にとってはどうでもいい事だった。
まぁ、2日目はこんな感じだ。
3日目も順調だった。
この日は英語長文と倫理の二教科の試験があった。
テストの内容も変わってなく、容易にカンニングする事ができたのだったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして今日は4日目の最終日。
この日は、1時間目は英語。2時間目は現代文だ。
現在の時刻は8時45分。
テスト開始の5分前だ。
監督の教師はまだ来ていない。
そのため、守達は既に席につき雑談をしていた。
「なぁ、守。あのう○こ汁、大丈夫か?流石に心配になって来たわ。」
ニコニコと笑いながらそう言う山田山田。
「仕方ねーだろ?遊んでるうちに楽しくなっちまったんだからよ。
……ってか、全裸亀甲縛りはお前の案だろ。1番楽しんでたのお前じゃねーの?」
ウン=コジールの例の一件。実は守と山田山田の仕業だったのだ。
まぁ、レート1が嫌いという単純な理由から退学させ、生徒の人生が危うく台無しになるところだった、と言うことを考えれば当然の報いであると言える。
「守くん。う○こ汁先生になんかしたの?」
メアリーはナチュラルに名前のイントネーションを間違えている。本人には悪気は無いようだ。
「ガハハ!お前ら!亀甲縛りにしたのか!あのクソ教師を?ガハハハハ!いいぜ!サイコーだ!」
西野美希はガサツな笑い声をあげ、机をバシバシと叩く。
「守氏。いとワロシ!」
守の名前だけを呼んで、グッと親指を立てる鳳凰院竜司。
いとわろし……古典の単語で直訳すれば、とても悪くは無い。と言う意味になるが、恐らくこの馬鹿はその意味を理解せずに使っているのだろう。
「ま、してやったとは言っても、顔の落書きをして服を脱がして、木にぶら下げたくらいだ。他には何もしていない。随分と良心的だろ?」
守がメアリーの問いに答えるようにそう言った。
「良心的かなぁー。」と微笑するメアリーは、実に可愛らしい。
「…だが、アレだな。あいつ、バチクソ臭かったな。服を脱がした途端、空気の色が茶色に変わったもんな。」
苦笑を浮かべる山田山田。
「臭かったの?どんな臭いだったの〜?」
守に顔を押し付けらがらそう言うメアリー。
心なしか最近、守へのスキンシップが多い。
「アレはもう、まさにう○この臭いだったわ。俺らは何もしてないんだが…思い出しただけで、ゾッとするぜ。……」
顔を青くして守は語る。
「う○こ汁の名は伊達じゃ無いって事だね!」
メアリーは感心しているようにそう言う。
ガラガラガラ
その時、教室の扉が開き、1人の人物がコツコツと歩いて入ってきた。
守達の視線がその人物に集まる。
「おはようございます。私の名前は、朝田栞。担当教科は英語です。本日は、どうぞよろしくお願いします。では早速テストを配布しますので、自分の席について静かにしていて下さい」
朝田栞と名乗った女はクール系の女で、真っ黒いスーツにロングの黒髮をポニーテールで結んでおり、顔もすごく整っていた。
守はその女のちょっとした自己紹介を聞いて表情を変えずに思考を始める。
(よし。三条の置き手紙の情報通りだ。朝田栞。担当教科は英語。身長は161センチ。
26歳独身。
学校の教師の中でダントツの人気を誇っており、生徒から告白されたことなど既に200回を越している。
俺らの学校に移ってきたのが去年だから、だいたい2日に1回は生徒に告白されていると言う事になる。……まぁ。当たり前だが、一度としていい返事をしたことはないなしいな。)
朝田栞がヒールの音を立てながら、生徒一人一人にテストを配っていく。
(しかし、そんなことはどうでもいい。
問題は、三条の置き手紙に弱点が書かれていなかった事だ。
ウン=コジールの場合は、カンニングを見破ることが得意であると言うことが逆に弱点として使えた。小西堅志郎に関しては言うまでもなく、エロ本好きと言うのが弱点だ。
だが、今回は大雑把なプロフィールしか書かれていなかった。赴任して一年と言う短期間のせいか、分かることが随分と少ないらしい。
もし、もしも今日不測の事態が起こったならばまずい事に…………?)
守はある事に気付いた。
「朝田先生。俺だけテストが配られて無いのですが。」
そう。実は守の机だけテストが配られていなかったのだ。
逆に守以外の生徒には、問題が見えないようにテスト用紙が裏返しにされた状態で机に配布されていたのだ。
「あら。すみませんね。守さん。配り忘れていました。」
(配り忘れだと?あり得るはずがねぇ。クソババァが。気にくわねぇーぜ。)
守はイラついた心境を顔の表面上には出さずに、不満を心でぶちまける。
コツンコツンと音を立てて守に近づいてくる朝田栞。彼女の手には一枚の白い紙が大事そうに持たれている。
「守さん。実は貴方にだけ特別なテストを用意してきたのですよ。貴方にだけ。特別なものなんですよ。」
「は?」
朝田栞はその紙を裏返して守の机に置いた。
「おい。これ。どう見ても、他の奴らとは違うテストじゃねーか!一体どう言うことだよ!」
明らかに違うテスト。
守は一枚だけなのに対し、他の生徒は数枚のテスト用紙が薄い束になっている。
「だがら、言ったではありませんか。特別なものなんですよ。守さんだけは…」
朝田栞の整った顔がうっすらと笑みを浮かべる。
(なに言ってやがる。このクソババア。俺だけ別のテストだと!何故そんな事をする必要がある!……まさか、カンニングがバレたからか?……いや。それだとバレた時点で俺らはすでに退学になっているはずだ。だとしたら何故だ?…………)
守はニヤリと笑う朝田栞の顔を一瞥し、再び思考を始める。
(……そうか、俺が毎回91点しかとらない事に対しての嫌がらせか?だとしたら合点が行く。俺にだけ難しいテストを用意して、無理やり点数を下げにきたと言うことか。)
「ふっ。あんたの考えはお見通しだが。いいだろう。受けてやろうじゃ無いか。」
(ははは。上等だ。返り討ちにしてやるぜ!)
守は思考して一つの答えを出した。
さらに一言、守は朝田栞に向けて言葉を放った。
「受けて……くださるのですか?」
朝田栞は綺麗な目を細めて、ニコッと笑う。
そして、彼女は守にボールペンを差し出してきた。
!?
「あ、朝田先生?何故ボールペンを俺に差し出してきたんだ?」
守は何をしたいのか分からない朝田栞の行動に戸惑う。
そして、朝田栞は一言呟いた。
「間違えたり、名前を書き間違えたりしたら0点にします。気をつけて下さいね。」
山田山田やメアリー達は驚きと怒りの顔を隠せない。
「……は?いや、それは………」
キーンコーンカーン。
キーンコーンカーン。
守が朝田栞の言葉に反論しようとしたその時チャイムが大きな音を立てた。
「テストを始めて下さい。これより私語した場合は即カンニング行為と見なします。」
山田山田やメアリー達はその状況に戸惑いつつもテストを開始した。
(……チクショー。やられた。不測の事態だ。ボールペンで問題を解かせることで、間違えを出来ないようにする。
それに対する反論はテスト開始を理由にシャットアウトする。………考えたじゃねーか!クソ野郎が!)
守が朝田栞に目を向けると、顔を赤らめてニコニコしている姿が映った。
(そんなに俺が哀れかよ!………チッ。このままジリ貧だ。取り敢えず考えるのは、問題とご対面してからだ。)
守はようやくテストを手に取り表に返した。
!?!?!?!?!?!?!?!?!?
テストの問題用紙を見た守は呆然とする事しか出来なかった。
と言うのも、そこには英語など一文字も掲載されてはいなかったのだ。
英語のテストにもかかわらずだ。
しかしながら、その代わりに、たくさんの日本語が書かれており、紙の上部分には"婚姻届"と書かれていたのだった。
名前を書く欄が二つあり、一方は空白。
もう一方には朝田栞と書かれて判子まで押されている。
そして、その婚姻届を見て、現在の状況を理解できずにただ呆然とする守は朝田栞のある言葉を思い出した。
"間違えたり、名前を書き間違えたりしたら0点にします。気をつけて下さいね。"
"受けて……くださるのですか?"
(………………………………………………………あれ?コレって……詰みじゃね?………)
守は混乱の中、訳もわからず心の中で力なくそう呟いたのだった。
バイト始めたんですが、老害にブチ切れられました。