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15/24

15.カースト最下位は時には悪い笑顔を浮かべる。

翌日。火曜日の早朝。

時刻は分からないが、春特有の薄暗い朝日が空を包んでいる。

その頃……

学校内の会議室に5人ほどの教師が密会の為、薄暗い部屋の大きな円形の机に向かって座っていた。


「とうとうこの時が来た。レート1どもを駆逐する時が……」


手を顔の前で組んでそう呟いたのは男の教師だ。

時代錯誤な白い手袋に丸いサングラスをかけた黒髪の男で渋い声をしている。

室内の暗闇が彼の姿を不明瞭にしているため、顔は見えない。


「ええ、そうですわね。あの忌々しい連中を、消してあげましょう!」


窓から差し込むわずかな光で、虹色のアフロの髪のヒョウ柄の服を着ていることが分かる。声質からしてババアだ。


「ソウデース!この中間考査は、いわばゴミ掃除。張り切っていきまショー!」


カタコトのままならない日本語。喋り方からして日本人ではないようだ。


「ウン先生。声が大きいですよ。この作戦は、バレてしまってはいけないのです。静かにしていなさい。」


女の教師だと言うことは分かる。だが、これといってなんの特徴も無い。

そして、カタコト外国人の先生の名前をウンと言うらしい。


「ところで?問題の方はどうしたんじゃ?計画通りになっとるんか?」


かなり歳をとったおじさんで、世紀末のような服を着ている。

肩パットには棘が付いており、髪型も針のように固められツンツンになっている。


「あぁ。計画通りだ。奴らはもうこれで終わりだ。」


サングラスの男がそう言う。


「あらあら!お可哀想に!おほほほほほ!!」


虹アフロのババアが下品な笑い声をあげる。


「はぁ…そうですか。……で?監督の教師は誰が行くことになっているのですか?」


特徴の無い女が口を開く。虹アフロのババアの大きな声にウンザリしている事を醸し出している。


「ワタシデース!私が行くことになってマース!」


「ウン先生か……大丈夫かのう…」


「大丈夫デース!任せて下サーイ!」


「ウン先生……失敗は許されない。……分かっているな。」


ウンと世紀末ジジイの会話に割って入り込むだのはサングラスの男だ。

彼にはどこか威風堂々とした雰囲気がある。


「任せて下サーイ。今回のテストはあえて難しめに作りまシタ。あの鳳凰院と西野は確実に退学デス。それこそ、小山やステュアート、山田のテストをカンニングするしか欠点回避は不可能デス。

それを私は監視するダケ。簡単な事デース。」


窓から差し込む光が、少しずつ明るいものとなって、そのウンという男の顔が露わになる。

金髪の七三分けの生粋の外国人。

彼の頬は引きつっており、君の悪い笑顔を浮かべている。


そして首にかけられている教師用の名札には、"ウン=コジール先生"と書かれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


丁度その頃、守は学校のレート1専用の校舎であるプレハブに来ていた。


まだ朝は早い。

守にしては珍しすぎる早朝の登校で、ヒンヤリとした冷気が未だに感じられる。

プレハブ内の教室前で大きなあくびをした後、そのドアに手をかけ、ガラガラと音を出して中に入る。


「あー!守くん!遅いよ!」


「守。遅いな。早起きは三文の徳!俺は朝の3時からここに居たぜ。」


そこに居たのは山田山田とメアリーだ。


山田山田の午前3時から学校にいる発言に守は(え?こいつ馬鹿か?)と思ったが、あえてツッコミを入れなかった。


「お、すまんな。ちょっくら寝坊しちまった。」


教室内の時計の針は6時を指しており、まだ登校時間には程遠い。


「もー。守くんが誘っておいて、遅刻なんてありえないよー。お・ね・ぼ・う・さ・ん」


メアリーが守の右腕に抱きつき胸を押し当ててきた。

しかし、守はまるで聖人のように無表情でその反応を見たメアリーは"むぅーー!"と顔を膨らませている。

怒っているのか?いや、怒っているのだろう。


そして、なぜこんなに早い時間に山田山田とメアリーが教室にいるのかと言うと………

実は昨日、守は生徒会室から出た後、このプレハブに寄っていたのだ。

と言うのも鳳凰院を助けるためにはどうしても守だけの力だけでは足りない可能性があったからだ。

ただ、残っていたのはメアリーと山田山田だけで、西野美希はすでに帰宅していた。

その頃、鳳凰院竜司が保健室で血反吐を吐いて倒れていたのは言うまでも無いだろう。


それと、なぜ守がメアリーや山田山田には協力を要請して三条穂鳥には協力を仰がなかったのかと言うと、それは単純に抱えるものの大きさの違いである。


三条穂鳥には生徒会長という重々しいレッテルが貼られており、その上完璧超人として世間から注目されている。

一方で山田山田はどうだ。

山田山田には失うものは何もない。

カンニングの協力がバレたところで退学になるだけ。

世間にとっては、守と山田山田の退学など石ころ程度の価値しかないのだ。

メアリーはと言うと、わがままを受け入れてもらったと言う感じで、守としても彼女協力を仰ぐのは不本意であった。




「そうだぜー。守。遅刻は良く無い。……だがまぁ、終わった事だ。早速準備と行こうか。守、俺たちは何をすればいい?」


山田山田が自分の机の上に腰をかけながらそう言う。


「だな。んじゃ、メアリー例のブツは持ってきてくれたか?」


「持ってきたよー。ちょっと待ってねー。」


右腕に張り付いたままのメアリーが、テクテクと自分のバッグを持ってきて、その中身を教卓にぶちまけた。


そこにはピアノ線、バナナ、鏡、エロ本、スタンガン、録音テープ、ラジオ、とりもち、ローションなどが散在していた。


「サンキューなメアリー。お前のおかげで、まずはスタート地点に立てたよ。」


守はメアリーの頭をワシャワシャと撫でてやる。

その行為にメアリーは幸せそうな顔で、

「いいよ〜。いつでも頼ってね〜〜。えへへ〜〜。」

とデレている。


「なぁ、守。これは何に使うんだ?」


「ああ。これは教師の目線を鳳凰院から外す為に使うもんだ。んで、今からこれでトラップを作るっつーわけだ。」


「ふーん。トラップか。なんか原始的だな。」


守はふと自分の席に目をやる。

するとそこには一枚の手紙が綺麗に折りたたんで置いてあった。


メアリーを撫でる手を辞めて手紙に手を出す。その際メアリーがもっと撫でて欲しそうにしていたのは言うまでも無いだろう。


「おい。これ置いたのお前らか?」


手紙を手に取り、山田山田とメアリーにそれを見せつける。


「ん?なんだそれ?知らねーな。」


「うん?……はっ!それってラブレターじゃ無いの!?ハートマークのシール貼られてるし!ダメだよ!守くん!開けちゃダメだよ!!」


「は?ラブレター?そんなわけないじゃん。もしそうだとしても、俺を好きになる奴なんて、頭どうかしてるわ。お前らもそう思うだろ?」


守はケタケタと笑いながらそう言う。

どうやら本気でそう思っているようだ。

その言葉にメアリーはウルウルの涙目で、尚且つリスみたいな顔で守を睨み付ける。

睨み付けるとは言ったものの、可愛らしいと言う感じが強い為、睨み付けられたと言う感覚は無い。


「守……お前ってやつは……」


山田山田は呆れ果てて、そう呟く。


「ん?どうした?山田。」


「なんでもねーよ。そんな事よりも、ソレ開けたらどうだ?」


「そうだな。」


その間、メアリーは

「どうせ、私の頭はどうかしてますよーだ!」

と呟いていた。

もちろん、その声は守の鼓膜に届いていない。


ビリビリと手紙の封筒部分を破り中身を読む。

「………………」


守はその手紙を見てニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「守ー。何が書いてあったんだ?」


その山田山田の問いかけに守は返事をしない。


「ねー!守くん!頭のおかしい私もその手紙の内容、知りたいんだけど!」


未だに根に持っているメアリーも手紙のことが気になっていた。

だが、その問いにも応えることは無い。


そして、守は一言だけ言葉を発し、手紙を山田山田とメアリーに差し出す。


「お前ら。その勝負、俺らの勝ちだ。」


差し出された手紙を覗き込むようにして、山田山田とメアリーはそれに顔を近づける。


「……おい。守。これがどうしたんだ?」


「…ウン コジール先生?ウ○コ汁?なんか汚い名前の先生だね。」


そう、その手紙に書かれていたのは、この日守達を監視しに来る教師のプロフィールだった。


(こんな事できるのは三条だけだ。助かるぜ。)


そして、そのプロフィールがこうだ。


ウン=コジール先生

身長、185センチ。

体重、80キロ

担当教科、数学。

好きな食べ物、みかん。

嫌いな食べ物、特になし。

出身国、フランス。

テスト監督教師としては有能で、16回もカンニングを取り締まっている。

守さんたちのテスト監督です。

気をつけてくださいね。


「気づかねーか?これで対策が立てやすくなったって事だ。やっぱり、誰が来るかわからねーのとでは、ディスアドバンテージの差が大きすぎる。例えばみかんが好きだと言うことが分かっているので、その中に爆弾でも入れておけば抹殺できるしな。」


「ん?どういうこと?私わかんな……「おぉ!そうか!だとしたら、視線を外すことはなおも簡単と言うわけだ!つまり、鳳凰院のカンニングがよりやりやすくなる!」」


メアリーの言葉に被せるように山田山田が大きな声を張り上げる。


「ああ。可能性はだいぶ広がったぜ!それに事前にテストの答えを知っているから小さな紙にその答えをまとめてカンニングペーパーを作って来たから、鳳凰院にはそれを渡してカンニングさせればいいだけだ。…………………だが、2つだけ大きな問題がある。」


「鳳凰院が文字をかけるかどうか……か。」


2人の間に深刻そうな雰囲気が訪れる。

一方でメアリーは2人の会話についていけず、ずっと「どういうことなの?」と言っている。


「そうだ。あいつが文字を書けない場合、手段を変える必要がある。例えば、誰かが答案した答案用紙を教師の目を盗んで、鳳凰院の答案用紙とすり替える。みたいな感じになるな。」


「それだと、ぐっと可能性が減るな。……そこは賭けになる感じか……鳳凰院が早く登校してくれば助かるんだが……」


「だから、何が賭けなの?教え……」


その時プレハブのドアがメアリーの言葉をかき消すように、ガラガラと音を立てて開いた。


「……お!西野と鳳凰院か!早いな!」


山田山田の視線の先にはその2人がいた。

鳳凰院は昨日の事を感じさせないほど血色のいい肌をしている。


「おう!お前ら何してんだ!ガハハハハハ!」


「うむ。全員揃ってどうしたでござるか?」


外はすでに朝日が昇り、小鳥のさえずりが聞こえて来る。

プレハブにレート1の生徒が全員集まったこの瞬間、守は山田山田と目線を合わせ、一言呟いた。


「勝ち申した。……先公どもに目にもの見せてやろうぜ。」


その言葉に鳳凰院と西野はクエスチョンマークを浮かべていた。



メアリーが(ん"ん"〜)と怒っていたのは誰も気づかなかったのは…………今だけはそっとしておこう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キーンコーンカーン。

キーンコーンカーン。


チャイムが校舎内に鳴り響く。

このチャイムはテスト開始5分前の予鈴で、いつもテスト期間中はこうして鳴っている。

その音と共に守達の教室のドアが開く。


「皆サン。席に着きなサイ。」


明らかに不機嫌な態度を取りながら、外国人の教師が入って来た。

首から下げている名札には"ウン=コジール"と書かれている。


守は(流石三条だ。感謝するぜ……)と思いながらそれを見た。


「もう既に、予鈴は鳴りまシタ。テストを配布しマス。」


ウン=コジールは指にベロリと唾をつけてテストを配布し始める。

守は、メアリーがそのテストをあからさまに嫌そうに受け取っているのを見ながら思考する。


(結局、鳳凰院が字を書き写すことはできた。1時間目は理科基礎だから、そのカンニングペーパーも鳳凰院に渡した。

…………だが、カンニングがバレるか否かは別問題。それが2つ目の問題点だ。三条の調べではこのウン=コジールという教師は数々のカンニングを見破ってきた男らしい。

ふざけた名前でも、かなり手強い相手だな。既にトラップを仕掛けたとは言えやり辛いぜ。…………………………ふざけた名前?………!!…)



守は右手で笑みを隠すように、机に肘をついて口を押さえてる。


(少し試してみるか………)


守はそう思考した瞬間、右手を大きくあげ、立ち上がる。


「ウ○コ汁先生!テストの開始前に少しウ○コに行きたいので、ウ○コ汁先生!トイレに行くことを許可してくれませんか!」


守はう○コ汁と言う言葉を強調するようにそう発言する。

その発言にクラスメイトたちは、驚きの顔を隠せずに思わず振り返る。

ただ、メアリーはそんな状況下で、楽しそうに鼻歌を歌いながら足をパタパタと動かしている。


「……コ、小山サーン!!

私の名前は!ウン=コジールデース!!

その言い方だとウ○コ汁に聞こえマース!!私を呼ぶときは後ろにアクセントを付けなサーイ!!そして、あなたがトイレに行くことは許されまセーン!!!座っていなサーイ!!!」


「はーーい。」


顔を真っ赤にして怒りを露わにするウン=コジール。

それとは反対に守は涼しそうな顔をして、席に座る。まるで、元からトイレに行く必要が無かったかのような余裕な態度だ。


クラスメイト達は、(守。何やってんだよ。)と言いたげな表情をしている。

しかし、山田山田だけはすぐに感づいた。


(………まさか、あいつ、ウン=コジールを挑発したのか?あえて憎しみを自分に向けることで、心理的に視線を自分に集中させるようにしたのか!こんな大事な時に、守が無駄な事をするようにも思えないし。……だとしたら、合点が行く。チッ。全く。恐ろしい野郎だぜ。………これは、流石だとしか言えんな。)


山田山田は頬を流れる冷や汗を拭いながら考えた。その表情には若干の笑みがうかがえる。


キーンコーンカーン。

キーンコーンカーン。


その瞬間、本来のチャイムが鳴った。


「はじめなサイ!」


……………1時間目、理科基礎。開始。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


side 三条穂鳥。


(守さん。手紙に気付いてくれたのでしょうか………。昨日ミリオンに急いで盗って来てもらったのですが……)


予鈴のチャイムが鳴り、教師がテストを配布し始めた時、三条穂鳥はそんな事を考えていた。


(……心配です……本当に大丈夫なんでしょうか……)



"絶対にうまくやるからよ。"


三条穂鳥の脳裏に昨日の守の言葉が連想される。


ドクン…………ドクン…………


(こ、ここに来て緊張して来たのでしょうか。心臓が激しくなり始めました。……)


守の笑顔が三条穂鳥の思考をよぎる。


ドクン……ドクン…………ドクン………


守の言葉を思い出すたびに三条穂鳥の心音は早くなる。


(顔が熱いです。守さんの事を考えると息がしづらいです。…でも、なんか幸せな気分。…………………って、今はテストに集中しないと……)


三条穂鳥はパンパンと両手で自らの頬を叩き、気合いを入れ直す。



" 三条も明日頑張れよ。"


(……考えちゃ……ダメなのに……テストに集中しないとダメなのに……どうしてでしょうか……守さんが頭から離れません。)




彼女が自分の気持ちに気づく日は、もう近いのかもしれない。




ヴァルラブっていう漫画知ってますか?

自分。結構好きです。


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