1.カースト制度は、弱者?を虐げる。
カースト制度。
それは、古くから存在する身分による区別を行う制度だ。
身分の低いものは虐げられ、身分の高い者は自分より弱い存在を嘲笑う。
まぁ、それも仕方ないことなのかもしれない。人間という生き物は、弱い者を見つけることが得意なのだから。
そして、自分より弱い者をコケにする事で己の安定感を実感できる残酷な生き物なのだから。
これから語るのは、とある都内の学校に通う高校2年生の男の子の話。
カースト最下位の少年の話である。
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チリリリリリリリリリ!!
「!?」
今にも壊れそうな目覚まし時計の音とともにこの物語の主人公は目を"カッ"と開き、その時刻を確認した。
「おい、御袋!何で起こさなかったんだよ!」
少年は、ドタバタとパジャマを制服に着替えながら叫んだ。
「あらあら、マー君。あなたの寝顔があまりにも可愛かったから、ついつい起こすのをためらっちゃったのよ〜。ごめんね〜」
少年の母親はのほほーんとした雰囲気で言葉を返した。
「冗談じゃねぇーよ! こちとら今日は始業式なんだよ! もう8時過ぎてるじゃねーか!」
少年はリビングのボロボロのドアをドンと開き母親を視認する。
「あらあら〜。うふふふふふ。
そんな事よりもあの目覚まし時計。
壊れてるんだから大事に使うのやめて捨てなさい。毎晩時間をセットしても毎朝寝坊してるじゃない。」
少年の母親は少し呆れ顔だった。
だが正論である。
少年の目覚まし時計は毎朝起動するのだが、必ず少年の近く時間前に起動するのだ。
それはアラームを早めにセットしたとしても遅めにセットしても同じ事である。
「じゃあ、誰が俺を起こすんだよ。1度たりとも俺を起こしてくれた事があるか?」
少年は瞬間的に母親に近寄り怒りを露わにする。
「うふふふふふ。確かに無いわね〜」
少年の母親は相変わらずのほほーんとしている。
「はぁ。もういい朝飯はいらねー。取り敢えず弁当だけ頂戴」
少年は母親に何を言っても無駄だということを悟り、おおきなため息をついて話の話題を変えた。
「うふふふふふ。今日はね〜。
ちーちゃんが弁当作ってるから〜。
ちょっと待っててね〜」
「なっ! チコが作ってんの!
大丈夫なのか?」
チコと言うのは少年の11歳の妹で、この春から小学6年生である。
だがこの妹、朝は兄の顔を見ないと半日も生きることができないと言う、根っからのブラコンなのだ。
だから、8時を過ぎても家にいたのだ。
「え、ええ。大丈夫よ〜。うふふふふふ〜」
「おい。何で言葉が詰まった。そこら辺詳しく聞かせて貰おうか」
少年が母親に尋問を始めようとしたその時、ボロボロのキッチンの方からテクテクと少女が歩いてきた。
黒髪のツインテールでクリクリの目が可愛らしい女の子だ。
「はい。お兄ちゃん! チコの手料理だよ!
味わって食べてね!」
その少女チコは、満面の笑みで少年に弁当を差し出した。
「おぉー。チコよ〜。よー頑張ったなー」
少年は緩みきった顔で、ウリウリとチコの頭を撫でる。
「えへへ〜。1ポイントゲット〜」
チコが嬉しそうにしているのを見ている少年はハッと我に返った。
「まずい!もう10分しかねーじゃん!御袋!俺もう行くわ!」
少年は木造のボロボロの玄関のドアを開けて全力疾走する。
「あらあら〜。行ってらっしゃい。うふふふふふ〜」
「お兄ちゃーーーーーーん!行ってらっしゃーーーい!」
少年の母親とチコは、手を振りお見送りをした。
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少年は学校に向けて全力疾走している。
と言うわけで、ここら辺で彼らの紹介をしようと思う。
少年の名前は小山守。
先ほどにも言ったように、この春から高校2年生だ。父は子供の頃に他界し、それからは母親が女手一つで育ててくれた。
黒髪にサラッとしたスタイルは世間では、イケメンと呼ばれるに相応しいと言っても良い。
のだが、問題点が一つある。
まぁそれは、ど貧乏だということだ。
ボロボロの目覚まし時計にボロボロの家。
それらが守のど貧民さを物語っており、このご時世、お金がないということはかなり大きなバットステータスになる。
次は母親の紹介だ。
母親の名前は小山玲奈。
茶髪の髪に可愛らしい童顔。小さな背丈は、世間ではロリババアと言う称号を与えられるに相応しいと言っていい容姿を際立たせた。
そして最後は小山チコ。
まぁ。以前話した通りだ。
そんなこんな話していると、守は学校の正門に到着していた。
「うっし。今日から新学年だ! 気合い入れて行くぞ!」
時間は8時25分。意外と早く学校に到着した守は顔をパンパンと叩いて気合いを入れ歩みを進めようとすると、
「あら、そこにいるのはレート1のゴミでは有りませんの? 臭いので即行帰ってもらえませんか?」
守の背後から何者かがそのように言い放った。
その言葉に周囲の生徒達からの目線を集めた。
「あっ。あれはスクールカースト最高位の山野愛様では無いか!」
「本当だ! 初めて見た! 何と神々しい!」
「あれがレート10の輝きか!」
しかし守は背後の人物、つまり山野愛を一瞥し、(なんだろうあいつ。なんか気持ち悪いな。こう言う時は無視するとが1番だ。)と言う結論を出し興味が無いそぶりで学校に向けて歩き出した。
「あいつ! レート1のゴミの癖に山野様のお言葉を無視したぞ!」
「許すまじ!」
「死ね! 臭い! 死ね!」
周囲の野次馬生徒どもがざわざわと騒ぎ出した。
守はその周囲の囁きにも耳を傾けず歩みを進める。
すると、不意に守の背後からオニギリが飛んできて守の後頭部に直撃した。
「あらら。すみませんこと。誤ってオニギリをあなたにぶつけてしまいましたわ」
ニタニタとした薄気味悪い笑みを浮かべた山野愛は守の横を通過して学校に入っていったか。
周囲の野次馬生徒どもも
「へへっ。ザマーミロ。ゴミが!」
「死ねばいいのに」
「くっさ。まじきえろ」
などと、守のあられもない姿を見て笑いながら学校に入って行った。
キーンコーンカーンコーンと鳴り響いた学校のチャイムは、守をより一層孤独感を際立たせた。
いや、際立たせるはずだった。
守は自らの手を後頭部にこびりついたオニギリの元へと運び、そのオニギリを自分の口の中に放り込む。
「!?」
それと同時に守はカッと目を見開き叫ぶ。
「ウンマーーーーーイ!!」
さらに続けて、後頭部のオニギリを口の中に放り込む。
すると、守の目からポロポロと涙が出てきた。
「こ、これがオニギリか。チコにも食べさせてやりたかった」
守は体勢を崩し四つん這いになる。
「おやじ。俺、生きててよかった」
守がその言葉を発した時、既にチャイムは、鳴り終わっていた。
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「うぃーす! おはよー!」
守はレート1と言う立て札が掛けられている今にも壊れそうな教室のドアを開けて挨拶をした。
「おお、守! おはよー。遅刻だぜ!」
「守くん。おはよう。珍しいね。遅刻なんて」
「おはよう守氏! 今日は、学校に来るの遅いでござるな。どうかしたでござるか?」
「守! 気がたるんでるぜ! 新学年早々遅刻なんてよー!! ガハハハハハ!」
教室の中には4人の生徒がおり、どの生徒も守に友好関係があるかのようだった。
ちなみに、1番初めに守に挨拶をしたのが、
山田山田。守と同い年の16歳で、なぜ名前も山田なのかと言うと、
山田山田の父親が名前を考える事を面倒に感じたために、苗字と同じでよくね?と言う謎の結論を出したからだ。性別は、男である。
2番目に挨拶したのは、メアリー・ステュアート
16歳の女子で、純粋なイギリス人。長く伸ばしたブロンドの髪と、青色の目は、実に可愛らしい。
3番目に挨拶したのは、鳳凰院 竜司だ。
ルックスは控えめに言っても、下の下。
太ったお腹は段々畑のようにベルトの上にのしかかっており、Tシャツにプリントされた2次元の美少女キャラクターは今にもはちきれそうになっている。
そして、最後に挨拶したのが西野 美希。
褐色の肌をしており、その見た目通りスポーツ万能の元気っ子だ。
「いやー。すまねーな。ただの寝坊だ。気にしないでくれ」
守はそう言いながら自分の席に着く。
「てゆーかさー。またお前らと同じクラスかよ」
守は苦笑しながら言う。
「それも仕方のない事でござるよ。我々はカースト最下位のレート1の民なのでござるからな」
鳳凰院竜司が語る。
「そうだぜ! マジでムカつくぜ! こんなオンボロのプレハブに押し込みやがってよ!」
西野 美希が、机の上にドンと足を置く。
そもそもレートと言うのは、カーストのレベルのようなもので、1〜10に分けられておりその中でもレート1という存在はカースト最下位と呼ばれる。
そして学校内で非人道的な扱いを受ける事も多々ある。
その1つとして、学校から少し離れた場所にあるボロボロのプレハブで授業を受けさせられるのである。
またこの春から高校2年になったレート1の生徒は守も含めれば5人しかおらず、それが学校内でのレート1の総人口であるのだ。
レートの決め方はいくつかあるがまずは学業。いわゆる成績だ。
これがあまりにも低い場合問答無用でレート1に飛ばされてしまう。
次に家庭の財力。これは生徒自身でどうこう出来るような問題では無いが、やはりお金と言うものは世の理のようなもの。
よって、それを持たない者にはそれ相応の身分が決められてしまうのだ。
最後に志願する場合がある。
レート1に行くか、それとも自分に適切なレートにいくかを決めることができると言うこと、つまりは好き好んでレート1まで下がる場合がある。
大まかに説明すればこの3つだ。
「私はそんなに嫌じゃないよ。
ねー、守くん!」
メアリーが守に擦り寄るが、守はそれを無視して話を続ける。
「なぁ、今年も先生来ないのか? もうちょっとで授業始まるぞ?」
「そりゃー、俺らレート1だもん。教師もレート1に授業するなんざごめんだっつーの」
山田山田が言う。
「チッ、イラつく野郎だぜ! いつかぶっ殺してやる!」
西野美希は今にも人を殺しそうなほどの剣幕だった。
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
その時、丁度1時間目の開始を合図するチャイムが鳴り響いた。
「うっし。んじゃやるか。自習。教師の悪口を言っていても仕方ねーからな」
「しゃーねぇ。やりますか」
「守くーん。ここ教えてー」
「拙者はこれよりアニメを見るので、邪魔しないでほしいでござる」
「鳳凰院は相変わらずキモいな! ガハハハハハ!」
守の言葉にそれぞれが自分の事に取り組み始めた。
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時刻は午後8時。守は1人で下校道を歩いていた。
「あー。やっぱ、学校ってすんげー疲れるわ。ツーカ、チコの弁当。中身が雑草なんて聞いてねーぞ」
独り言をブツブツと言いながら夜道を歩く。
すると、道の脇の路地から何かもめているような声が聞こえてきた。
「はぁー。一体なんだ? こんな時間に」
守はその薄暗い路地に歩みを進めた。
すると、10人を超える不良みたいな奴らが1人の女の子を取り囲んでいた。
女の子の顔は暗闇で隠れておりはっきりとは見えない。
「今夜はいい運動ができそうだな。ぎゅへへへへへ」
「お、お頭。俺にも分けてくれよな」
「ああ、いいぜ。なんせ10人も居るんだ! さっさとヤっちまおうぜ!」
不良どもはジリジリと女の子に近づいていく。
「いやっ! やめて下さい。」
女の子は恐れのあまりか、ビクビクと体を震わせ怯えている。
(はぁ。こう言うのは、あまり得意じゃないんだがな。)
守はそう言いつつも、自分の荷物を地面に置き、不良達に向かって歩き始め、大声をあげる。
「おい! クサチンども! こっちを見ろ!」
不良達は一気に守に視線を集める。
もちろんその女の子も例外ではない。
「おい! てめぇ! 何もんだ!」
「俺らのハッスルを邪魔しにきたのか? ええ?」
「もしかして、アンちゃんも混じりたいのか? べへへへへへへへへ」
不良達は、ニタニタと笑みを浮かべている。
「全く、イカくさい連中だ! エイズ持ちのお前らには、なんの興味もない! それが、分かったのなら、とっとと帰りやがれ!」
守は、不良達を挑発する。
「な、なにを! オメーラ!やっちまえ! 骨の一本も残すな!」
「了解です! お頭!」
「ヒャッフゥ!」
不良の下っ端どもが、一斉に守にかかってきた。
しかし、守は、それを難なくかわし、手刀のみで、そいつらを気絶させた。
「!?」
下っ端どもは、バタバタと倒れていく。
流石の不良のボスも驚いているようだ。
「恐ろしく早い手刀。俺じゃなきゃ見逃してたね」
どこかで聞いたことのあるような負けフラグを立てた不良のボスは、高らかに笑い声を上げ始めた。
「フハハハハハハ! この時代にもお前のようなものがいたとはな! 嬉しいぞ! 嬉しいぞ!
久しぶりに本気を…って、ちょっと待って!」
ズトーーーーーーン!?!?!?
不良のボスは、セリフの途中で、守に投げ飛ばされた。
「あー。ごめん。今なんか言おうとしてた?」
守は、不良のボスに質問をするが、応答がない。
不思議に思った守は、不良のボスを投げ飛ばした方向に歩を進めた。
するとそこには、無残な姿の不良のボスが、泡を吐きながら気絶していた。
「あちゃー。こりゃ5時間は目、覚まさないな。ま、いっか」
守は、再び荷物を回収して、襲われていた女の子に声をかける。
「今度からは助けられねーかもしれないから、気をつけるんだぞー。んじゃなー」
守は、そう言って、その場を後にした。
読んでくださりありがとうございます!
すみません!かなり、書き換えました。
アドバイスを下さった方々。本当にありがとうございました!
これからも、ぜひ、ご贔屓に〜〜!