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どん、とおなかの底に響くような低い音で目が覚めた。眼のふちをこすりながら起き上がると、今度は三つに連なった音が空気をかすかにふるわせた。私はベッドから降りて、流しにおいてあったコップに水を注いで一気に飲み干した。喉を流れる冷たい水は、うだるような暑さに火照る体から熱を奪って滑り落ちていく。
流しにコップを放り込んで、小さなベランダに面した窓から外を覗いた。今年は花火なんて見ないと決めていたのに、いざ始まってしまったことがわかると、あのはじけては消えていく光の群れを妙に恋しく感じた。三階分の高さは十分に思えたけれど、花火は見えない。遠くに立つビルが邪魔をしているからだ。
私は失望とともにベッドにもう一度倒れこんだ。自分の体温が残った布団と、熱気をはらんだ大気に包まれてもう一度目を閉じたところで、枕元に置いたスマートフォンが着信を告げた。手に取ってボタンを操作する気になれなかった。「相良日名子」の名前とともに電話アイコンが揺れるのをぼんやりと眺めていると、規定の一分が過ぎたところで着信音が止まった。小さな画面から放たれる強い光が消えて、薄暗い闇が再び私を取り囲んだ。
部屋の隅にかかった時計を見ると、もう七時を過ぎていた。時計を眺めていると、急に現実感が沸いてきて、一つだけ思い出した。自分の能天気さに、思わず苦笑してしまいそうになる。
まだ、夜ご飯を食べていなかった。