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桃の章

 そしてある日、桃子は言いました。


 「おじいさん、おばあさん、ぼくはこれから鬼ヶ島へ行って、わるい鬼を退治してきます」

 

 桃子はおばあさんにきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました。


 桃子は汗びっしょりで、音にはならない叫びを上げて目覚めた。おじいさんとおばあさんは眠りが浅いので、桃子が声を上げると起こしてしまう。桃子は音を立てないようにそっと起き上がって外へ出た。着替えと手ぬぐいを持って近くの川まで行く。月が爛々(らんらん)と輝いているので明かりはいらない。


 桃子は全裸になった。引き締まった肉体があらわになる。その胸はなだらかなふくらみを見せている。桃子は普段胸をさらしで押さえつけていた。髪は伸ばして後ろで束ねている。着物も男の物を身につけているので、元服前の少年に見えなくもない。だが桃子は既に女性だった。その日を迎えたとき、桃子は本気で気持ち悪くなって胃の物をすべて戻した。


 桃太郎はもちろん男であるべきだ。そして桃子もまたそうだった。桃子の心は男だった。ただその肉体は残念ながら女に生まれてしまった。およそ女らしいと言われる振る舞いを嫌う桃子を、全く理解できなかったおじいさんとおばあさんだったが、そのうち変わった娘なんだとあきらめた。


 桃子の村は、鬼ヶ島と呼ばれる島に住む鬼たちの襲撃範囲にあった。鬼達の数は数十匹で大したことはないのだが、個々の鬼の強さが人間とは桁外れだった。走る速さは馬並み、力は何馬力か、と、とてつもない。刀は通じるので武士なら戦えなくはないが、いつも追い払うのが精一杯だった。


 鬼は時々里や村、城下町まで襲い、人は殺す、物は盗む、女は犯す、さらう、子供をとってくらう、火はつけるとやりたい放題荒らしていた。桃子の里には、桃子が姉のように慕っていた娘がいた。美しい娘で、庄屋の跡取りの嫁に行くはずだったのだが、鬼に犯されて自害した。


 その頃から桃子は悪夢を見るようになった。鬼に襲われる夢だ。最近は昼間でも藪や物陰に鬼が潜んでいるような気がする。桃子を狙って待ち構えている。桃子はそれらを切り払うように剣術に励むようになった。妄想の中の鬼の首をはね、足を切り、腕を落とし、胴を切り払う。桃子は剣鬼と呼ばれるようになった。そして襲撃して来た鬼の何匹かは、実際に桃子の刀のさびとなった。今では桃子が剣を構えると、剣気で鬼が震え上がると言われていた。


 日の本の国は身分制度はあるが、農奴や商人でも剣術を学ぶことはできた。女であっても、もちろん剣術を習う者もいた。桃子の通う城下町の剣術道場は繁盛した。道場で腕のある剛の者程桃子に惚れた。というか、道場の男はすべて桃子に惚れていた。ほとんど桃子ファンクラブと言って良いだろう。桃子は女にももてたが、男どもの熱狂ぶりは異常だった。特に桃子の身近にいる男程おかしかった。道場が鬼と戦う上で、大きな戦力となっていたのは言うまでもない。


 ある日桃子はおじいさんとおばあさんに告げる。


「おじいさん、おばあさん、俺、鬼が島へ行って鬼を退治してくるよ。お姉さんの仇を討ってやるんだ」


 おじいさんとおばあさんはもちろん必死で説得したが、桃子が聞き入れるはずもない。おばあさんに好物のきび団子をたくさん作ってもらって、道場の腕利きを10人従えて出かけた。この物語において、きび団子は桃子の好物という以上の意味はない。でも好きな人の好きなものは好きという理屈で、この物語の登場人物の多くはきび団子が好きだろう。領主に挨拶あいさつした桃子は、さらに30人程の精鋭をつけてもらった。これなら鬼とも戦えるだろう。鬼ヶ島へ向かう途中で桃子達は一人の少年に出会った。


「よう。桃子。まさか俺を置いていくつもりだったのか」


 桃太郎って何で戦うんでしょうか。絵本とか見る限り剣士なんでしょうね。今昔物語等だと、鬼も刀で殺せることになっています。当時も妖怪変化や鬼は昔はよく出たけれど、みたいなことになっているのはお約束です。

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