小学生らしからぬ生活
俺としての意識が戻りしばらく経った。
ほぼ家に篭りきりの生活は働いていたころは憧れていたがやってみると退屈だ。
情操教育に良くないとTVやネットは与えられていない。
人口比といった知識は教育範囲だから知れたことでこの世界のことは全然知らないのだ。
時間の潰し方が見つからなかった、文明の利器が有っても触れないのは無い前提よりきつい。
余りにもやることが無いので開放された未来を妄想してみた。
鍛えたい、もやしのような今より細マッチョなイケメンのが確実にモテる、ハズだ!
庭先で体を解し軽く走っていたら普段は見かけない黒服が近づいてきた。
「……走るな」と呟くと俺は片手で持ち上げられ部屋まで運ばれてしまった。
「離せ」と言いながら暴れてみたもののびくともしない。
前世では学生時代剣道をしていて悪ふざけで友達とリンゴを握力で潰すアレ試したのはいい思い出だ。
左手なら潰せたんだけど……。
黒いスーツの肩幅は広く腕はスーツ越しではわからないが確実に鍛えられているだろう。
髪は短く刈り上げに近い。巌のような顔は、ただでさえ厳ついのに傷が走りそれが更に堅気の人間ではない感じを増させている。
元警察官か元自衛隊員が仕事を辞めSPをしている感じだ。
胸が辛うじて女性だと認識させる程度には女を辞めていた。
なんというか存在感が違うあだ名は決まった叩き上げ下士官「軍曹」だ。
いやあれ胸がなきゃ間違いなく男だろ……。
軍曹殿と遭遇してびくともしなかった自分が更に嫌になった。
隠れて筋トレの時間に決めた!
今度は腕立て伏せにしよう……。
「筋トレやめるよろし、やるならストレッチにするアル」
「ッ!!」
驚いた、若干涙が出ているかも知れない。
側にいるのに入ってきた気配すらしなかった。
似非中国人風の口調に糸目の細身で気配がしなかったことから暗殺者をイメージさせる。
薄っすらと開かれた目からはこれ以上問題を起こすなという怒気が感じ取れた。
筋トレは辞めたストレッチすらする気が起きない。
決してビビって涙が溢れてない、ホントだよ?
「そうネ、大人しく寝るよろし」
麻里に聞いたらこの人達は護衛と監視を兼任しているみたいだ。
運動は怪我をさせないため筋トレは自分より細くて、身長の低い男のほうが庇護欲を引き立てられるから義母が止めたのだ。
一族の汚点である俺が子を産ませるために飼っているという現実が突きつけられるのはこういった所だろう。
だから、本が欲しいと強請れば大人しくしているならと次の日に軍曹殿が持ってきた。
彼女が持ってきたのはハードカバーで前世では映画化されていたアレに似ていた。
魔法使いの少女の冒険物語が海外翻訳の物と原文が与えられる。
女性作家だというのは知っていたので作者の名前も一緒だった。
読んでみるとストーリーの違和感が酷いが内容も少しずつ違っていて気がつけば寝る時間になっていた。
男性の身体能力低下は社会問題になるくらい顕著だ。
男性の保護という理由で運動する機会は減っていった。
男性に限れば野球やサッカーのようなある程度人が必要な運動は人が集まらず廃れてしまった。
やるとすれば武道やテニス、卓球といっものが自然と主流になった。
決定的な問題になったのは女性教師が部活の遠征中男子生徒への性的暴行事件を起こしたことだ。
全国の新聞の一面を飾る事件となったのは言うまでもない。
また、貴重になった男の子供は怪我をした時に生徒の親からのクレームが頻発しこれらが重なって男性が運動するのは自己責任となり学校ではやらないことが決まった。
一時期は全く運動をさせなかったのだが健康面への悪影響から適度な運動をしようという声が大きくなり自己責任の範囲で運動したい生徒は好きなように運動できるようになった。
女子生徒が体育をしている間は男子生徒はラジオ体操をすることになった。
でも、自宅学習の生徒は果たして自宅で運動しているのか疑問だ。
そもそも俺はできないのだが……。
麻里は昔からそうだが季節のイベントを俺に体験させたいらしい。
今はクリスマスが近くサンタの話しを俺によくする。
これがなければ四季を感じさせるのは窓から見る景色と料理くらだろう。
好みは前世とあまり変わらないようだ。
だから相変わらずトマトは嫌いだ。
「坊ちゃま、サラダのトマトを残さないでください」
「嫌だ!」
「いい子にしてないとサンタさんが来ませんよ?」
「食べたよ、その上で嫌いなの!別にサンタなんて……」
「サンタさん楽しみじゃないんですか?」
「だってトマト不味いから……それでサンタが来ないなら諦めるよ」
しょうがないって顔に少し寂しそうな感じだ。
普段キリッとた彼女が寂しそうな表情は罪悪感を感じさる。
去年の俺はクリスマスに大はしゃぎだったからな……。
彼女は食後には普段の彼女に戻っていた。
いやより一層決意に燃えていたのかも知れない。
トマトを残した翌週だった。
いよいよクリスマスが近づいてきた。
夕食が終わった時に彼女は爆弾を落とした。
「坊ちゃま実はこの料理トマトを使ってるんですよ。
よくトマトを食べれましたね……これでサンタさんが来ますよ!!」
どうしても俺にクリスマスを楽しんで欲しかったらしい。
少し涙を流しながらネタばらしする彼女を俺は愛おしく思った。
この人が家族なんだと――
「お母さん、ありがと」
恥ずかしさは有ったけど素直に伝えたかった。
言えなくなってしまってからじゃ遅いから。
ツーっと麻里が鼻血を出してて笑ってしまった。
基本見切り発進です。
文字数増やさなきゃとは思うのですが……難しい。
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