ふたつ。
ひとしきり幼馴染との会話が終わった後、私は厨房に戻って、新商品のメニュー開発をはじめる。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………………………」
アイデアが。
ないっ………………………!!!
「は………………」
はる、と幼なじみの名前呼びかけて、口をつぐむ。
今頃彼は大好きな桜団子を堪能しているだろうし、何より人に頼りっぱなしなんて、団子屋の女主人としてのプライドが───
「わふぅっ!?」
考えながら歩いていたからか、真正面から食器棚にぶつかり手に持っていたきな粉を被ってしまったのだ。
1週間前に買ったばかりの着物なのに。
腰まである黒髪もきな粉色に染まっている。
そしてさらに酷いことに。
「すみませーん。誰か、いますかね?」
滅多にこないお客さんが、こんな時に限って来るのだった。
「はいっ!いますいますいます!」
頭にかぶったきな粉のことなど忘れて、入り口へ走る。
「…………………?」
やっとたどり着いて挨拶をしたのだが、目の前にいる彼は唖然とした顔でこちらを見ている。
……そういえばまだお皿も持ったままだった。
誰だって入った店にきな粉まみれで大きな皿を持った女の子がいたら引くだろう。ちゃんと事情があったとしても。
「ア…ハハハハ、ハハハ………………ド、ドウゾハイッテクダサイ……」
苦笑いを浮かべながら片言で接客をする。
背中に幼馴染からの痛い視線が刺さっている……あとでこっぴどく叱られるな。これは。
彼は一瞬躊躇こそしたが、その後は気にしていないように店に入ってくれた。
他の店に行かれても仕方がないとは思ったのだが、カウンターの席に座った彼を見て少しほっとした。
「あ!え、えと、メニューですね!!!」
カウンターに座ったまま注文もせずきょろきょろとしていたので、どうしたのかと思えば、メニューを渡し忘れていた。
ほんっと駄目だな、私…………。
「苺大福ってありますか?」
渡されたメニューに一通り目を通したようだが、どうやら彼の好みのものがなかったらしく、少し申し訳なさそうに彼は言った。
今度は私が唖然とする番だった。
───────苺大福、て。
「あの…………………?」
「あ、いや、無かったら良いんです……」
私が聞き返すと、その人は焦ったようにぶんぶんと手を振った。
こんな時に考えるようなことじゃないんだろうけどこの人、手、大きいなぁ…
今は残念なことに苺も大福の原料もないので結局作ることはできないが、なんだか久しぶりのお客さんだし、これで失ってしまうのも残念なものだ。
幼馴染には「馬鹿じゃん」とかけなされている私だが、自画自賛できる良い案を思いついてしまった。
目を輝かせていう。
「じゃあ、明日作っておきます!明日も来てもらって良いですか!?」
これで、明日も幼馴染以外のお客さんが来る。
もしかすると、明後日も……!
そんな希望を胸に、にこにこと返答を待つ。
一瞬首を傾げたような気がしたが、その後すぐに「はい。」と言ってくれた。
しっとりとした、重く響く声。
「あ、えと、有り難うございます。 じゃあ、また明日来ますね……!」
「はい、お待ちしてますっ!」
「あ……じゃあ。」
彼を見送りに久しぶりの店の外へ出る。
あっという間に日は暮れていて、随分と涼しくなった風が腰まである私の髪を撫でた。
吹楽さんと共同執筆させていただいてます。
花より君に。
雨より君に。