ひとつ。
雨は嫌いだ。
着物濡れると気持ちが悪いし、癖のある私の髪はすぐに広がってしまう。
雨傘のせいで動きにくいし、前が見にくい。
何より店にお客さんが来ないし。
あ、でも雨宿りには来るかな。
───雨宿り、か。
思い出すなぁ。
あの日のこと。
雨の嫌いな私が、雨に恋した物語。
五月雨に降ってきた恋の詩。
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「いらっしゃーい!」
澄み渡るような晴天で、朝から雨のにおいはかけらもしない。
気持ちのいい、私の好きな空模様。
16歳、この齢では私のように学校に行っていない人のほうが多いし、もう婚約を済ませているような人もいる。
微妙な年齢だ。人それぞれで生きる道が全く違う。
人生の説明書なんて、あるはずもないし。
暗闇の中手探りで、未来を引き寄せている感じ?
ううん、実際のところそれもよくわかんないんだ。
今日を、昨日を生きてさえいればいい。
「ってあんたかー…」
満面の笑みを振り返った先にいたのは、かれこれ3年ほど通ってくれている、常連さん──というより幼馴染だ。
まあ不細工じゃあないけれど格好良くもない、といったところ。
「なんだその残念そうな態度は。俺も一応客だかんな?他のお客様にそんな対応したらこの店一瞬でつぶれんぞ?!」
昔っからの饒舌で、それなのに相談事に乗る時だけはきつい口調もさっぱりと消え、やさしく話を聞いてくれる、いい友人だ。
悩み事をいつも聞いてもらったりしていたのが懐かしい。……いや、今でも。
「はいはい。入り口で騒がない。さっさと席ついて。」
ぱんぱん、と手を叩いてまくし立てる。
入り口にこんなのがいたらお客さんも来なくなっちゃうし。
「はぁ…………」
なにか言いたげな様子だったがそのあたりは気づかないふりをしてお茶を出す。
このお店を受け継いだ頃から変わらない、美味しい緑茶だ。
そこらの団子屋では緑茶ではなく抹茶を出す所が多いのだが、私はずっとこのまま緑茶で通している。
いろいろと深い訳が…………あったりなかったり。
「で?今日も?ご注文は?」
「桜団子3つくーださーい。」
大通りから少し外れた、呉服屋の集まる『霧雨通り』。
その中に紛れ込むように団子屋がひとつ。
『団子屋 雨の花』、今日も小さく開店中です。
この小説は、吹楽 奏さんと共同執筆をさせていただいてます。
花より君に。
雨より君に。