決着、そして食す
決着。一瞬で決まるその勝負に奇跡的にも俺が勝った。
ケルベロス・ロードは途中でかくんと何かにぶつかるようにして転がり、そこに俺のロングソードが一閃した。胴体を真っ二つにする軌道を描いた刃はケルベロス・ロードの内蔵を抉り、致命傷を与えた。ロングソードがナイフに変わる。どうやら時間制限があるらしい。
気が抜けてふらつき、俺は倒れるようにして気を失った。
気がついた俺は真っ先にケルベロス・ロードの生存を確認したが息をしていなかった。倒せた喜びや生き残った安堵などをよそに俺はどうやってこれを食べるかを考えていた。これとは即ちケルベロス・ロードである。
「せっかくの食料だしな。うまいかまずいか知らんけど」
先程の恐怖などなんのその。俺は黙々とそしていそいそと解体を始めた。
まず首を斬り落とす。そしてそこを基点に皮を剥ぐ。そして肉を切り取り焼く。実に単純だ。もちろん焼くのは魔法で直接でだ。火を起こす過程を思い浮かべながら魔力を捻り出すとぼっと火が灯る。それを肉に近づけながらじっくり炙っていく。ある程度焼けたら頂きますだ。
さっそく一口を口にする。味はまずまずだ。臭みはなく、食感も悪くはない。強いて言うなら味が薄い。食べれなくはないだけマシと思い次の肉へと手を伸ばした。
よほど腹が減っていたのかケルベロス・ロードの肉が半分ほどなくなっている。というかそんなに食えたのかよ俺。自分で自分にびっくりする。どうやら俺は知らぬ間にお腹の中がビックリ箱になったようだ。残りは明日以降の食料にしようと決め、切り取った皮で包む。そして俺は眠りについた。地獄はまだ終わってなのにも関わらず。
次の日、俺はステータスが気になったのでさっそくステータスを開くことにした。
アキト・ユウキ
性別 男
年齢18
Lv.17
・スキル一覧
異世界言語・剣術4・鑑定神の眼・採取1
・称号
・ただの雑草の鑑定士・ロードキラー・魔王を復活させし者・魔王殺し
うん。なんだこれ。待て待てもしかして昨日のケルベロス・ロードは魔王だったのか?つか、ゾンビ全部倒す前に復活したのかよ。マジあり得ない。予言の意味がないよ。宛のない予言だったし外れてもしかたない……のか? いや、よくない!
そして俺悪者になっちまったよ。復活させたけど、殺したから罪にはならないだろうけどね。
それにしても九死に一生を得た訳なんだがぶっちゃけ余裕はある。魔王を倒したお陰なのか身体能力がかなり上がっている。というわけで今なら魔王を二、三体くらいなら余裕でぶっ倒せる。やりたくはないけどね。命懸けだし。
「まぁ何せよ平和だろ。魔王倒したし」
俺はその時油断をしていた。慢心していたのだ。ここは異世界。自分の常識は通じないのだ。そして脅威は俺に向けられた。
突然、痛みがはしった。鏃みたいなものが左腕に刺さっていた。俺は痛みのあまり声を出せずにいた。鏃が飛んできた方を見ると俺は絶句した。
「なっ! マジかよ……」
目の前には緑が一面に見える。周りが森だから当たり前だって?違う。その緑は人の形をしていた。そしてニヤリと笑った。そうそれの名は……。
「ゴブリン・ロード」
俺が呟くと同時に鑑定神の眼は発動した。
・ゴブリン・ロード・アルマ
ゴブリン・ロードの変異種。Sランク危険指定種。その特徴は数にある。百を越えるそれらはゴブリン・ロードに匹敵する力を持ち、標的を跡形もなく消す。ただ強いがゆえに繁殖力がない。稀少種ゆえにめったに現れないが特定の条件でのみ現れる。以下がその条件。
・魔王討伐されし時討伐者が覚醒していた場合
なお、覚醒が何を意味するのかは神の権限により表示不可。
いやいやいや。ここにきてさらに脅威はねえだろ。勘弁してほしい。ナイフはロングソードにはならない。おそらく二日はこのままだろうと思う。そしてこの状況を打破するには打ち勝つしかない。しかし、あの幼女神俺のこと便利屋と勘違いしてんじゃねぇか?俺は普通の元一般人だってのに。
「やってやるか。もうちょい穏やかに暮らしたかったんだがな」
そうして俺の三日三晩の死闘が始まら……なかった。
結果的に言えば楽勝だった。レベル17に上がっていたからなのかは知らないが一方的に蹂躙することができた。ナイフを振れば首が飛び、蹴りを入れれば吹き飛ぶ有り様。死闘というより楽闘?新しい文字を作れるくらいに簡単に捻り飛ばせた。明らかに成長速度がおかしい。俺はこんなチートは望まないんだが。主に面倒事的な意味で。
「強くなったものは仕方ない。隠す方向でいこう」
こういうのをフラグって言うんだとか言わない。俺は思ってても気づかない振りをする。いやだって、俺そういうのとは無縁の世界の人だし。
とにかく気にしても仕方ないので俺はゴブリン・ロード・アルマ共の死体を一ヶ所にかき集め炎で燃やすことにした。気分的に燃やしたくなったから燃やす。ただそれだけだ。
死体っていうのは当然動かないので凄く重い。日が暮れる頃にようやく集め終わった。
「アンデッドになってもう一回教われても困るからな」
ちゃんとした理由もあったのだよ。
使い慣れてきた炎を出し、火をつける。勢いよく燃え上がり数分もしないうちに灰になってしまった。これぞファンタジー。
その場から離れて新たに焚き火を起こしてから俺は眠りについた。いい加減街に降りるかな。