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ゾンビの群れvsアキト

 今、俺の目の前にはゾンビの群れがいる。ノロノロと歩くだけの能無し共だがこうしてみると中々に恐怖心を煽られる。おそらく百以上はいるだろうゾンビに俺一人だけで戦えるのだろうか。

 そんなゾンビの群れは俺の心なんてお構いなしにノロノロと歩いてくる。これじゃあまるで聖者の行進ならぬ死者の行進だ。

 まぁゾンビとはいえ、所詮雑魚。楽に倒せると思ってたはずなのに俺の目の前にはいるのは少しだが意思があるゾンビ。その後方には統率者らしき女のゾンビ。俺はもはやため息しか出なかった。


「本当なんなんだよ。俺に何か恨みでもあんのかよ!」


 俺は叫びたくなった。否、叫んだ。

 だって百対一とか理不尽だし、そもそも俺には剣術スキルがあるとはいえ、戦いは素人だ。その俺がこの数を前にしてビビらないはずがなかった。死に対する恐怖を思い出して身震いする。こんな所では死ねないと思いつつもどこかで死んでしまうのでは?と思ってしまう。恐怖が拭い去れないまま死者たちが迫り来る。

 そして目の前の群れは非常に危ない表情をしてこちらに迫ってくる。何といったって恍惚とした表情だ。こいつら全員ドMだったのか?俺の疑問は増えるばかりで群れはどんどん俺に近づいてくる。ちょっと恐怖したのを後悔したじゃないか。

 俺は右手に持っている可変式のロングソードを強く握り締める。覚悟は決まった。多分こいつらの目的は山を下ること。このまま進まれたら街や村は大被害を被るだろう。俺には責任が無いのかもしれない。でも、それでも俺はこいつらを倒してみようと思う。勇者にはなれないけれど、えせ勇者にはなれると思ったから。


「さぁかかってこいよクソゾンビ共。えせ勇者の俺が相手をしてやる」


 目の前のゾンビの群れに眼をとばしながら俺は前に一歩進む。本当は怖いけれど、仕方ない。俺がこの山で安寧に暮らすためには仕方ないんだ。しかし、途中で俺はこう叫んだ。


「どうしてこうなった」


 と。



 俺がゾンビと出くわす数時間前。俺は寝起きの頭を総動員して何とか起き上がった。焚き火が消えていたので火を付け直す。山の上は地上よりも気温が低い。寒いと思った俺はとりあえず枝を火にくべながらぼんやりとしているといきなり後ろから声が聞こえた。その声にはエコーがかかっており、何だか不気味だった。


『数時間後、そなたはゾンビの群れに襲われるであろう。それを乗り越えし時、魔の王は復活する』


 そんな声が俺の後ろから聞こえた。後ろをすぐに振り返ったがそこには誰もいなかった。幻聴かと思ったがやけに心に残るセリフなので良く覚えている。しかし、中二病なセリフにも程がある。なんだよ魔の王って。普通に魔王って呼べよ。しかもなんで俺がゾンビの群れを倒したら魔王が復活するのかが聞きたい。その前にゾンビ群れに負けたら魔王は復活しないのかよ。俺は朝からため息を吐いた。


「あーもうめんどくせえ。魔王復活するけど、死ぬのやだし倒そう」


 決意を決めたのはいいがどこに出るとかは聞いてないのでとりあえずホーンラビット狩りをしようと決めた。

 ホーンラビットを何度か狩りをしていて分かったことなのだが雄よりも雌の肉の方がうまいということだ。言葉に表せと言われると難しいがほんの些細な差で雌の方がうまいのだ。そして雌を狩るのにもコツがいる。コツとも言えないけどな。ただの雑草を食べているのが雌だ。うん、それだけ。ちなみに雄は何を食べているかと言うと雑草だ。違いは何か。雑草とただの雑草の違いだ。この形容詞があるか無いかの違いで雄か雌かがわかるのだ。なんてくだらないファンタジー。


「鑑定がなかったらまず気付かねぇよ」


 主に独り言が多い俺はそのまま森の中を彷徨い、ホーンラビットを探す。そうしてやっと見つけた。だがそこには先駆者がた。

 なんと、ゾンビがホーンラビットを食べているのだ。初めて見る歩く以外のゾンビの行動に俺はなんとなく感嘆の息を漏らす。


「ゾンビでも食うのかよ」


 俺の独り言は森に消えていったがゾンビはむしゃむしゃとホーンラビットの腑をむしゃぶりついている。おそらくだが臓物を食べているんだろう。栄養素が高いのは大概臓物のはずだ。間違ってたら知らん。俺のせいじゃないからな。

 それから少し観察しているとゾンビは満腹になったのか、食べることをやめて再び歩き始めた。まるで今までの悲惨な出来事がなかったかのように。


「あれだな。人間だとこうはできないよな」


 あれは魔物だ。心がない。瞳に意思の欠片が見てとれない。魔物は敵に対して攻撃するだけの狂物だ。他の所は知らないが多分どこも同じだろう。

 今まで何の意識もなしにゾンビを殺してきたがここにきて急に背筋が震える。一歩間違えれば俺もまた人の成れの果てのゾンビになり、再び天国行きだ。そんなことを考えると油断はできないと思える。恐ろしいことだ。


「死は隣にいると言う言葉もあながち間違いではないかもな」


もちろん俺が適当に考えた言葉だ。分かっているのか分かっていないのかはさておき俺は目の前のゾンビを見過ごすことしかできなかった。

 ゾンビが去ってから俺はその場で立ち尽くした。

 死の妄想を幾度としているうちに怖さはなくなった。これも異世界補正か?と思ったがきっとそうではないと自分で口に出し、一層に戒める。それほど死は唐突にやってくる。俺の両親は交通事故であっさりくたばったのだ。俺だってそうならないとは限らない。

 そうしているうちにまたゾンビが現れた。最初は一匹だったゾンビが二匹、三匹と増えあっという間に百に増えた。まるでゴキブリのごとく増えていくゾンビに唖然とした。そうして冒頭に戻るわけだ。


 俺はまず、手近なゾンビの頭を切り落とす。考えることをやめてひたすら斬り落とす。意思があるとはいえ、ゾンビはゾンビ。難なく首を刎ね飛ばせる。だが、奴らも意志をほんの少しだが宿している。十を倒した辺りから回避行動をとるようになった。


「まじかよ」


 思わず呟いた。ゾンビの回避行動は磨きがかかり、俺の攻撃が当たらなくなってくる。

 何とか二十を倒したところで、それは唐突に現れた。


「おいおい、マジかよ」


 それは日本で表すなら犬だ。ただし、首が三つついていて尻尾も三つある。

 俺は無意識に鑑定神の眼を発動していた。初めて目に痛みがはしるがすぐに収まった。


・ケルベロス・ロード

ケルベロスの中の王。本来のケルベロスは尻尾が一つしかないがケルベロス・ロードには三つある。王の名にふさわしい膂力、スピード、反応速度を持ち、眼前の敵を喰らう。喰らわれた者は冥界の深奥にあると言われる深海へと誘われ、永久の苦しみと痛みを与えられるという。


 何とも壮大な説明文なこって。俺はケルベロス・ロードのプレッシャーに耐えかねて慌ててバックステップ。動き一つも見逃さないようにとケルベロス・ロードを見据える。こちらに視線を向けてからケルベロス・ロードはゆったりと歩きながらゾンビを食い殺していく。まるでお前は最後だと言わんばかりに。


「ヤバイな。マジ詰んだ」


 そうやってどうするか悩んでいる間にも着々とゾンビは切り裂かれ、あるいは噛み砕かれて最後に残った女王らしきゾンビすらもあっさりと踏み潰した。俺はただ見ていることしかできなかった。

 圧倒的な過ぎた。それはまさに王と言える存在だった。

 あいつは俺を餌としか考えていない。だからこそあいつはまた魔物だ。俺はそこまで考えると思考を断ちきり、無心になる。勝負は一撃なる。そう、殺るか殺られるかだ。可変式のロングソードをケルベロス・ロードに見てないように構える。


「グルルルゥゥ」


「……………………」


 ケルベロス・ロードは唸り声をあげる。俺はそれを無心で迎える。そして、一瞬の勝負が始まった。強者の実力ある戦いと弱者の運任せの戦いは双方の距離が縮まり、ぶつかり合う。


 ケルベロス・ロードは噛みつき、俺は居合い。タイミングがシビアなその技に全てをかける。


ーーそして、決着は……。


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