異世界の始まりは山奥にて
気がつくと俺は草の上で仰向けに倒れていた。空には二つの月とその真ん中に黒い点が一つあった。何だか不吉だなと思ったが今はどうでもいい。
俺は立ち上がって周りを確認してみることにした。辺り一面木、木、木、木だ。後ろを振り返ると山脈のようだ。ただの岩山とも言えるがまぁ一応山脈としておこう。
ここまではまぁいい。とりあえずステータスの確認だな。心の中でステータスと唱えると頭の中に情報が表示された。ステータスであってたし……。
アキト・ユウキ
性別 男
年齢18
Lv.1
・スキル一覧
異世界言語・剣術1・鑑定神の眼・無属性魔法1・治癒魔法1
・称号
なし
まぁ最初だしこんなもんだよな。この世界はどうやらスキルはレベル制らしいな。となると自身のレベルによって肉体は強くなることになるな、たぶん。
とにかくレベルを上げて生きるために強くならくなちゃな。というわけで。
「魔物退治だな。魔王も出るとか言ってたし」
魔物といえば定番のスライムだよな。まぁこんな山奥にスライムなんているとは思えないけどさ。むしろ狼系の魔物が出そうだな。とか言ってると後ろからカサカサと音がした。フラグがっあなこりゃ。
「げっ、いきなりか?」
後ろに振り返り、腰にあったハンティングナイフをロングソードに切り替える。つか、これ便利だなおい。
そして出てきたのはボロボロの服に手を前に垂らしながら歩いてくるゾンビだった。
「ゾンビ!? いやここはリビングデッドというべきか? いやそれなら知能があるだろうからゾンビか」
ますます独り言が酷くなった俺だが気にしない。それよりも魔物だ。ゾンビの身長は俺と同じ160cm代で特に攻撃を加えてくる様子もない。目が虚ろで何だか怖いが俺はとりあえず剣で頭を跳ねることにした。いきなりグロいよ。
「………」
ゾンビは何も言うことなく、膝から崩れ落ちて死んでしまった。うん、実に呆気ないな。俺はただ剣を水平に振っただけなのにな。普通なら剥ぎ取りとかするんだろうけど、ゾンビにはきっと剥ぎ取れる部分なんてないだろうからな。そんなことを思ってゾンビを眺めていると鑑定神の眼が発動した。
・ゾンビ(人間が魔物になったもの)
ゾンビに噛まれて解毒が間に合わなかった者の末路。ゾンビは簡単に倒せるが力が強いため、一旦しがみつかれると剥がすのも困難を極める。初心者がよく命を落とす。
・命を失いし者の名前
アルカス・バーン♂
うわーなんか嫌な表示が出たよ。人間がゾンビになったとかどこのバイオハザードだよ。つまり、俺も噛まれればゾンビになるってことだよな? 気を付けないとあっさりあの世行きか。あの幼女神なんて所に送ってくれたんだよ。全く酷い目にあってばっかりだ。
俺がぐちぐち言っているとゾンビが不思議な光に包まれて空に昇って行った。
「あーあれか。死者の魂がどうちゃらこうちゃらって奴か」
俺はこの日初めて魔物を倒したが何だかやるせない気持ちになった。というよりなるしかねぇよ。元人間だしな。まぁ思ってる程抵抗はないんだけどさ。たぶん人を殺したとしてもこんなもんだろうと思う。やりたくはないけど。
「さて、魔物は倒せると分かったけど、次は食料だな」
一番の課題だな。腹が減っては戦はできぬとも言うしね。森の中を歩いてみることにしよう。
あれから数十分後。歩けど歩けど食料らしきものは見当たらない。ゾンビ二匹を倒しただけだ。本当にそろそろ腹が減ってきた。本当に食料なんてあるんだろうか?
「あー腹減った。どこかに都合良く食料なんてあるもんだろ普通」
異世界人補正を当てにしすぎるとダメだと分かっただけでも儲けものと考えて根気良く探すしかないか。そう考えた時、ついに都合よく食料が現れた。
それはウサギだ。頭に一本のツノがあり、体毛は白と黒の斑点で覆われている。まるでパンダみたいなウサギだ。とりあえず鑑定神の眼で見てみるか。
・ホーンラビット
頭に一本のツノと体に黒の斑点があるのが特徴。普通のウサギと違い、警戒心がものすごく薄く、ツノを触れると怒る。ツノを一撃で破壊すると即死するので食料にはもってこい。但し、ツノは硬い。
やっぱしツノだし硬いよな。まぁでもやるだけやってみよう食べないとやってけそうにないし。
俺はハンティングナイフモードに戻し、ホーンラビットに近づく。その間もホーンラビットはこちらを一瞥しただけで逃げようとはしない。ホーンラビットに跨り、刃を下に向けてツノに向けて思いっきり振り下ろす。ぱきっという音と共にツノが割れてホーンラビットから生気が消えた。脈を測ってみるとどうやら死んだようだ。
「うーん。食料はゲットしたけど、なんだか呆気なかったな」
ホーンラビットを適当に剥いで食べれそうな所を木の棒に引っ掛ける。と、そこで有ることに気が付いた。
「火が起こせないと焼けないじゃん」
一番肝心な所だよな本当。ああ魔法でも使ってみるか。イメージで何とかなるだろ。というわけでさっそく指先にライター程の大きさの火を思い浮かべる。一分程そうしてみるが中々出ない。
「まぁそう簡単にできるわけがないわな」
引き続きライターの火を思い浮かべる。あ、そうだ火が起こる行程を思い浮かべてみたらどうだろうか? するとぼっと火が出た。あーやっぱり異世界人補正すげーな。感心するしかねぇよほんと。俺はその辺にあった木の枝を集めて火をくべて肉を焼く。焦げないように回しながら炙っているとじゅうじゅうと音がなり始めたのでさっそく食べてみる。
「うめぇな。意外だわ」
生焼けだったが味は普通だ。強いて言うなら甘い味だな。ホーンラビットだけで暮らすのは一ヶ月が限度かもな。嘘です……。
普通こういうのはまずいのが定番なんだが最初から味がついてる。まぁその味も微妙なのですぐに飽きるかもしれないけど。
食料の確保はこれで目処がたった。後は……。
「今後の活動、か。大きい街に行くのもありだけど、しばらく引きこもるか。めんどくさいし」
俺はいつの間にか夜になった空を見上げる。双子の月の間には相変わらず黒い星が光っている。相変わらず不吉な色だ。そんな空を見ているとやはり異世界に来たんだなという実感が湧く。
星が全然知らないものばかりなのだ。それは少し俺の孤独感を強くさせる。
「特にやることもないしな。好きなように生きてみるか」
前世では高校の進路で悩んでいた俺が今は異世界で好きなことをしようと決めている。何の不思議でこうなったのか。ある意味ではあの幼女神に感謝しないとな。まぁこんな所に落としてくれたのは最悪だったが生きる目処はたったのだ。文句は言うまい。
「さてと、寝床でも探すか」
幼女神への愚痴を程々に何処か寝れそうな場所を探す。日本暮らしの俺がまさか野宿することになるとは夢にも思わなかったけど、この世界はそういう世界だし慣れないとな。
少し歩いてみたがそれらしい所がない。仕方ないので焚き火の前で寝ることにした。
こうして俺の異世界生活一日目は終わった。