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プロローグ1

『あなたの将来の夢はなんですか?』


こんな問いをされたことはないだろうか? 少なくとも考えたことくらいはあるだろう。俺はこの問いに答えを出すことができなかった。いつも適当に生きてきたし、勉強も特にしてこなかった俺に答えられるはずもなかった。

そんな俺がもう高校三年生という年齢になった。それはもう大変にやばい時期だ。先、未来、進路。いろんな言葉で現されるであろう俺の人生(みち)だが未だに決まっていない。なんで決まっていないかって? そりゃあやりたいことが見つからないからだ。やりたいことがなければ何をすればいいのか分からない。強いて言うなら遊びたい。俺はそんな子供みたいな男だ。

そんな適当な考えをしていたら幼馴染が声をかけてきた。


「アキくん、まだ決まらないの?」


「ああ、まぁな。やりたいことなんてねぇし」


水早水城。ゆるふわした髪型にのほほんとでも聞こえそうなほんわか笑顔な彼女はいつも俺の心配をする姉的ポジションだ。つい数日前に転校してきて再開したのだ。

ちなみに転校してきてから一度告白された経験もあるのだけど、丁重にお断りしている。というか、そのあとも何かあれば言ってくるので諦めが悪いのが玉に瑕だ。

おっと話が逸れたな。水城は俺の所まで来てから前の椅子に座った。


「アキくんは何だか奔放だね」


「まぁ言わんとしてることは分かるが意味が違うぞ」


決して奔放なわけではない。行き当たりばったりなだけだ。それにその方が何とかなる気がするし、解決できなければ自分のせいだ。

水城は席を立ちながら、俺に言う。


「さぁ帰ろうよアキくん」


「わかったよ」


放課後だというのに教室には人が多い。これにはきちんとした理由がある。何と言っても俺の隣にいる幼馴染である。彼女はいわゆる学校のマドンナ的な存在で女子からも人気が高い。もちろん男子からも。そんなテンプレのようなカリスマを持った彼女を堕とそうと何人も告白という名のゲームに挑んだがあえなく撃沈。理由はもちろん……。


「私は、アキくんが好きだからごめんね」


だ。

その言葉のせいもあり、俺は幼馴染が近くにいる時は特に視線が痛い。別に俺は視姦されるのが趣味なわけでは決してない。そこは勘違いしないように。まぁ結論を言うと少しでも長く水城を目に収めていたいからと言った所か。目の保養にもなるしな。

そんな状況もとある一人が入って来て一変する。まぁ悪い方に。言わなくてもいいと思うが視線が更にキツくなる。ああ、何とも言えない疲労が俺の心にたまっていく。


「お、いたいた。アッキー」


一言で表すなら清楚か。黒い髪は肩あたりに揃えられていて全体的に細いシルエットのせいもあって庇護欲をそそられる。

その美人の名を山城真美という。これまた数日前、不良に絡まれている所を偶然助けただけのはずだったのだがいつの間にか周りにいた女の子。もちろん告白されたが断った。

が、こいつもまた諦めの悪い奴である。本当にどうなってんだか。呆れるばかりである。


「またお前か。お前も飽きないな真美」


「うちかて諦め悪いんや。堪忍しいやアッキー」


「うふふ。アキくんたらいつも通りね」


怖い顔を浮かべる幼馴染。頬を赤く染めながら目がハートマークの真美。お分かり頂けただろうか。いわゆるモテててるという状況である。俺自体特別名字が凄いとかではない。結城明人というごく普通の名前だと思う。顔も普通、やること適当なただの娯楽好きの十八歳。いわゆるオタクに分類される系の男子だ。だというのにこやつらはどこが好きになったのか全く分からない。

俺は溜息を吐きながら廊下に出る。美女二人を連れて歩いているのだから注目度も当然上がる。俺への視線がきつい。慣れてるのでもはや気にしないが。

そんな俺に突如どこからともなく妙案が浮かんだ。ああ、全くもって天才的だ。俺は心の中でほくそ笑んだ。悪役じゃないからな。


「あー悪い。俺用事あるんだった。先に帰ってくれ二人とも」


「わかったよ、アキくん」


「えーなんでや! まぁいっか。今日はうちもいそがなあかんかってん」


チョロいなこいつら。初めて嘘をついたことに罪悪感を覚えつつ俺は廊下を引き返した。


まぁ用事がないのだが折角だし、悪友の所にでも顔を出そう。そう思い、体格館でバスケをやっているであろう田中総司の所へ向かう。

田中総司は俺が高校に入ったときからの付き合いだ。特に特徴はない奴だがこいつとは色んな意味で繋がりが深い。

体育館の前まできて俺はそこで違和感を覚えた。


「む?」


ぐらり。それは突然だった。魂が揺さぶられる感覚。


「は? そんな……わけ」


心の中で思ったのはそれだった。そしてそれが消えていく。命の灯火とも言えるそれが小さくなっていく。


「あ、ああ……」


痛みはない。苦痛でもない。快楽でもない。ただ喪失感が俺の中に駆け巡る。そうしてついになくなる時がきた。


「か、な、で……」


視界が暗転、俺は深い闇に溶け込むように意識がなくなり死んだ。


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