表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死人の沙汰も金次第  作者: 闇★菊
第一章 黒い女編
8/28

確信

投稿が遅くなりましてお詫びいたします。

しばらくは3日に1回の更新となりそうです。


 こちらシローク、神父の執務室に侵入した。

 見張りの姿は見えない。

 鍵も掛けていないとは随分と無用心なことだ。

 言っておくが、これは隠密(スニーキング)工作(ミッション)だ。

 くれぐれも戦闘は避けて、見つからないように行動しなければならない。

 シローク了解、任務を開始する。


 なんか簡単過ぎて拍子抜けだな。

 人の苦労も知らないで!!

 執務室に侵入する計画を考えていたら、作業に身が入っていないって怒られたり。

 執務室まで移動する時に身を隠せそうなものを見繕っていたら、マープルさんに可哀想なものを見る目で見られたり。

 ピックやらランタンやらを拝借しようと倉庫に行ったら、消毒用蒸留酒を取りに来たシスターに倉庫整理を手伝わされたり。

 照明油を貰うために食堂の手伝いをしたら、油が切れかけで補充を手伝わされたり。

 夕食後に皆が寝静まるのを待っていたら、自分が寝静まっていたり。

 点けっぱなしのランタンを寝ぼけて触ってなかったら朝まで寝静まってたよ!


 何はともあれ、潜入には成功した。

 あとは何か、日記とか手紙とか無いだろうか?

 大概は机の周りにあったりするもんなんだが。


 応接机の上、あるわけ無いよな。

 執務机の上、んー、暗くて分かりにくいが金銭出納簿か?

 1ヶ月前と半月前、少しだが寄付が入ってるな。

 クレアとジョシュの養父母からか?

 うーん、それにしても経営かなり苦しいみたいだ。

 他に目ぼしいものは……無いかな?

 執務机の引き出し、おっ、鍵が掛かってる!

 用意しておいたピックが活きるってもんだね。

 昔パクった空き巣のプロから聞いた技術が役に立つ日が来たか。

 ピックを鍵穴に差し込んで、テンションを噛ませてから左右に──ポキッ──回し、て……。


 ……うん、分かってた。

 せめても鍵穴に詰まらなくて良かったよ、結果オーライ結果オーライ。

 逆に考えよう。

 鍵を使って開ければいいんだ。

 部屋の鍵はともかく、机の鍵を持ち歩く奴はそういないだろう。

 つまり、この部屋の中に机の鍵はある筈だ。


 花瓶の下、ない。

 敷物の下、普通置くか?

 いや、しかし探し物ってのは見つけにくいから、鞄や机の中も探さなきゃいけないからな。

 本のページをくりぬいて隠してあったりしてな。

 この辺の一番ホコリ被ってない本の中とか。

 って漫画かよ、あるわけ無いっつーの、ってあった!!

 引き出しの鍵穴にも合った!

 神父ェ……。


 1段目は、徽章やらペンやら耳かきみたいな棒やら雑多な小物ばっかりだな。


 2段目は、手紙か?

 開封済みのものばかりだが、……文面的に養子に出た子供達や養父母、治療院の患者からが殆どだな。

 聖教会の偉いさんっぽい感じの手紙もちらほら、……あの神父も俺と同じで窓際族か。

 クソ爺なんて、悪いこと言っちまったな。


 さて、最後の3段目は?

 おお、孤児院の運営資金か?

 数枚のゴールドと僅かばかりのシールがそれぞれ袋に詰められて納められている。

 しかしまた随分とスカスカだな。

 経営が厳しいからとかそういうことじゃなくて、収納品自体が少なすぎる気がする。


 あ、分かった。

 この引き出し二重底だ。

 引き出しの底の位置が内と外で違うから、多分間違いない。

 いつだったか家宅捜索(ガサ入れ)の時に同じようなのを見た覚えがある。

 多分この辺に、……あったあった、穴見っけ。

 1段目に入ってた耳かきみたいな棒で底板を引っ掛けて、よし持ち上がった。

 ガサの時は底板を持ち上げたらいきなり発火して証拠隠滅されそうになったが、これは大丈夫みたいだな。


 底板の下には、本だ。

 2冊ある。

 なんか真っ黒地に魔方陣みたいな模様が描かれた装丁の本と、何の飾りもない簡素な青い装丁の本。

 真っ黒の方は魔術書か何かか?

 普通に考えれば飾り無しの方なんだろうが、そう思わせる罠かもしれない。

 魔術書の方を見てみよう。


『風が哭いている。

 一体何時からだろう?

 俺の心と同じ、冷たく悲しい風を感じるようになったのは。

 この風は何処から来て、何処へ行くんだろうか。

 無論、訊いても答などある筈もないが……』


 ペラ


『闇の声が聞こえる。

 目を瞑れば其処にいる。

 誰も奴からは逃げられない。

 此処にも、彼処にも。

 俺の中にも。

 誰も奴からは、逃げられない』


 ペラ


『俺は道化。

 或る時は神のように生者を救い。

 或る時は神のように死者を送り。

 或る時は神のように不死者を刈る。

 神になど成れる訳もなく。

 神の真似事に興じるのみ。

 俺は道化。

 生死で戯れる、神の道化』


 パタン


 イヤアアァァぁぁ!!

 これは魔術書なんてちゃちな物じゃあ断じて無い!

 禁書指定だ、すぐに封印しなければ!!

 あの初老の神父がこんな、あ痛たたたたたた。

 仕掛け作っとけよ!

 正規の手順以外で開けたら発火して証拠隠滅出来るように仕掛け作っとけよ!

 もうダメだ、これ以上は俺の精神力が保たない。

 これは見なかったことにしよう。

 ちゃんと元あった場所に直して、オレハナニモミテイナイ。


 気を取り直して、もう1冊の方は、ビンゴ!

 こっちはちゃんとした日記だ。

 こっちは?

 ちゃんとした?

 何を言っているんだ、俺は。

 日記は1冊だけだった(・・・・・・・・・・)

 1冊しか、なかったんだ。

 夜更かしやはよくないね。

 シロー、俺きっと疲れてるのよ。


 先ず1ヶ月前の日記は、と。


『今日も実に佳き日です。

 クレアが新しい父母との縁を結ぶことができました。

 エリザが彼女を見つけてきたのはもう3年も前のことでしょうか。

 父母に捨てられ、暴漢に襲われそうになっていたところへ颯爽と救いに現れる。

 フフ、まるで絵物語の王子のようではないですか。

 おっと、あれほどの女性を王子とは失礼ですね。

 流石は元聖堂騎士です。

 思えばグレアムやアーシェも、エリザに助けられてここへ来たのでしたね。

 しかし、あの子達は……。

 いえ、やめましょう。

 クレアはきっと幸せになってくれる。

 彼女はその為の努力を惜しまなかった。

 人を愛し、己を高め、なるべくして幸せになるのです。

 神よ、どうかクレアの未来に幸多からんことを』


 しばらく日々の当たり障り無い出来事や、神への感謝を綴る日記が書かれている。

 内容が変わったのはクレアが院を出てから10日後の日記だった。


『おお、神よ!

 何故このような仕打ちをなさるのですか?!

 レンフィールド氏から手紙が……!

 クレアが、クレアを乗せた馬車が消息を断ったと!

 これではまるであの時と、グレアムの時と同じではないですか!

 ああ、なんということでしょう。

 いえ、嘆いていてはいけません。

 直ぐに動かなくては。

 伯爵に掛け合って捜索隊を出していただきましょう。

 ああ、神よ!

 どうかクレアをお守りください』


 レンフィールド、確かクレアの養父母の家名だったか。

 片道5日の距離を2日待っても3日待ってもやって来ず、早馬を飛ばして確認に来たのだろう。

 神父、随分と慌てているな。

 そりゃ俺だって、こんなことを聞けば動揺するだろうが、「グレアムの時」って何なんだ?

 疑問は更に3日後の日記で解消された。


『伯爵から報告がありました。

 聞きたくなかった結果でしたが……。

 クレアの馬車は発見されました。

 テバイから程近い森の中に擱座して、血に塗れた姿で。

 クレアも御者も警護の衛兵の姿もなかったとのことですが、希望を持ってもよいのか私にはわかりません。

 2週間も魔物の跋扈する森に晒されては、骨すらも残らないでしょうから。

 ああ、何故、どうしてこんな……。

 2年前と、グレアムが拐われた時と同じことがまた!

 行方不明になっているのはクレアやグレアムだけではないのです。

 シェリーもミハイルもアーシェも……、状況こそ違えど皆拐われてしまった!

 養父母に注意を呼び掛け、子供達にはひとりにならないよう言い聞かせ、衛兵隊には警戒を依頼したのに!

 犯人の素性も目的も一切分からない。

 身代金の要求があるでもない。

 ですが、少なくともグレアムとクレアの誘拐犯は同一と見るべきでしょう。

 あの子達は生きていてくれるのでしょうか?

 私達の助けを今も待っているのでしょうか?

 せめて、せめてどんな状況であっても生きてくれていると、一縷の希望にすがってもよいのでしょうか。

 おお、神よ!

 どうか子供達を、どうか、どうかお守りください!!』


 なんてことだ。

 過去にも孤児院から養子に出た子供達が誘拐されていたなんて。

 しかも何人も!

 しかし、神父の対応を不手際とは言えない。

 周囲に喚起し、衛兵を付けてまで発生したというのなら、一体どうやって防げと言うのだ。


 その後もテバイの領主である辺境伯や聖教会を通じて犯人や子供達の捜索を行っているようだが、結果は芳しくなかったようだ。

 そして、今日の日付だ。


『なんと言うことでしょう!

 一縷の望みすらも断たれてしまうとは!

 ああ、可哀想なクレア。

 せめて、せめて生きていてくれればと……。

 しかも彼女は、悪霊に堕ちていました。

 もはや浄化するより他に救う術はありません。

 シローには知られてしまいましたが、クレアのことは他の誰にも言わないでおきましょう。

 皆を、悲しませたくはありません。

 私は彼に、シローに嫌われてしまうことでしょう。

 クソ爺って言われましたし……。


 浄霊は明日、決行します。

 その為に、今日はこの日記を書き終えれば、魔力集中のため郊外の霊穴に籠ることにします。

 明日、私はクレアを(ころ)すのです。

 この手記は懺悔ではなく、無力な私自身への罰と戒めなのです。

 神よ、クレアの魂に救済を。

 クレアよ、どうか無力な私を赦さないでください』


 日記を元の通りしまうと、執務室を後にする。

 執務室を出てドアを閉めると、小さくひとつ溜め息が零れた。

 手掛かりは無し、か。

 いや、神父が限りなくシロだってことは分かったな。

 この内容を偽装だけで書けるなら、騙されても仕方ないと思う。

 もうひとつの日記?

 何をいっているのか分からないぜ。


 あれ?

 ランタンの灯り?

 廊下の向こうからランタンの灯りが近付いて来ている!

 まさか神父が帰ってきたのか?!

 いや、明日の朝までは帰ってこないと自分で言っていたじゃないか。

 となると、シスター達が警戒に廻っているのか?

 それならば問題なくやり過ごせる筈だ。

 何せ今の俺には秘密兵器がある。

 果物箱だ。

 俺の世界で一番有名な潜入工作員がこう言っていた、段ボール箱を制する者は任務を制すると。

 残念ながら段ボールは見つからなかったが、食堂裏から果物箱を拝借してきた。

 お陰でマープルさんには随分と生暖かい視線を頂いた。

 この箱、俺の体くらいならすっぽり覆ってくれるだけの大きさはある。

 正直かなり重かったが、持ってきて正解だったようだ。

 こうして箱を被っていれば、ふふふ、俺は今正に、伝説の神兵シロークだ!


「何やってるの、シロー?」


 !!


「馬鹿な! 完璧な擬装だった筈だ! 何故分かったんだ?! まさかエリザ、お前、サイコな蟷螂さんだったのか? 透視能力持ちなのか?」


「透視……何? 残念だけど私はスキルなんて持ってないわよ? 木箱がガサガサ動いてれば馬鹿でも気付くでしょ? それにシローのことは匂いで分かるのよ。それよりも、クレアが悪霊になって出てるんでしょう? 私は見廻りをしなきゃだから、早く部屋に帰って寝なさい」


 くっそー、段ボール箱じゃないからか!

 この世界に段ボール箱があれば、お前なんかに見つからなかったのに!

 箱から這い出て、立ち上がる。

 しかし、そうか。

 何もこんな事をしなくても、クレアから直接聞けばいいじゃないか。

 無駄な時間を……、クレアの悪霊?


「なあ、エリザ」


「なぁに、シロー? 私そろそろ行かないと」


「何で、クレアが死んだって知ってるんだ?」


 ぴしり、と空気の凍りつく音が聞こえた気がした。


「……それは、神父様に聞いて」


「いつだ?」


「いつって、……いつだったか覚えてはいないけれど、数日前よ。クレアが誰かに拐われて、殺されているだろうって。だから……」


 ああ、嫌だ。

 エリザ、どうして、お前は。


「神父は今朝までクレアが生きていると、疑っていなかった」


「……え?」


  一瞬の沈黙、目の動き、額に張り付いた汗、唇の乾燥に生唾。

 エリザ、どうして、お前は。


「神父が、彼がクレアが殺されたと確信を得たのは、今朝だ。今朝、クレアの悪霊を見た時だ」


「──っ!」


 嘘を吐くんだ(・・・・・・)


「エリザ、もしかして、お前が「勘の良いガキは嫌いよ」


 一瞬前まで目の前にいたエリザの姿は瞬く間に掻き消えて……。

 俺は目の覚めるような痛みを腹部に感じ──死の瞬間が脳裏を埋め尽くして、思いとは裏腹に意識を手放した。

神父=厨二(確信)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ