3-タケイの執念
ギルド戦、平均レベル99以下の部、決勝トーナメント1回戦1組目、
<春風の月>vs<桜-sakura>。
<春風の月>はあの<荒城の月>の兄弟ギルドである。
しかしながら及ばず、<桜-sakura>が勝利―。
続いて謎のギルド<闇団>に相対するのは<日本侍>。
圧倒的な力の差で<闇団>が勝利した。
そして、ギルド<TkD>vs<数学Ⅲ愛好会>。
「なんなんだ、数学Ⅲ愛好会は・・」
恐る恐るも会場の門をくぐる、<TkD>のメンバー5人。
すると、メガネをかけたギルドマスターらしき人が彼らを出迎えてくれた。
「いやぁー!諸君らか。我ら数学Ⅲ愛好会の初戦は。」
「あん?なんだその武器、なめてんのか」
タケイが眼つける。
「いいえ、なめてなどおりませんよ。これは列記とした、<学書>という武器なのですよ。」
「は?学書?なんだそりゃ」
はやくもタケイと、数学Ⅲ愛好会のギルドマスターの机上の争いが始まっていた。
「まぁ、見ていなさい。あなたは思い知るでしょう、自らの醜さと、非力さを・・」
「チッ、なめやがって・・」
「――それでは、決勝トーナメント、1回戦、第3組、
<TkD>vs<数学Ⅲ愛好会>ゴングです!!」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオン
ブロック戦の時とは大違いの、どでかいゴングが会場に鳴り響いた。
すると、さっそく、ギガ、いや、カイトのスキル「メガント」が炸裂した。
「おおーーっと、<TkD>、<数学Ⅲ愛好会>のメンバーを1人戦闘不能にさせたぁ!!
なんとそのダメージ、<2517602>!!!すごいぞギガ選手!」
「ユーヤ、お前はたっててもいずれ死ぬんだ、ダメモトで当たってみろ!」
タケイがユーヤに言うと、
「えぇ!ひどくないですか!」
とは言いつつ、ユーヤは相手4人に殴り掛かった。
みゆき、ななみも劣らず相手4人に殴りかかる。
「おいおい、どうした、学書使いさんよ!さっきの威勢はどうした!!」
タケイが相手のギルドマスターに圧倒している。
タケイの武器は、<飛燕剣>と呼ばれる、読んで文字のごとく空を飛ぶ剣である。自らでその剣の行方を操作し、相手へ攻撃する。みゆきの<ガーディアン>によく似ているところもある。
「愚かな」
相手のギルドマスターがそう呟く。
「は?何だ、お前」
「じぃつに醜いですねぇ」
「・・・は?」
―タケイがあたりを見回すと、ユーヤ、みゆき、ななみの3人が倒されていた。
「なっ」
「そして、もう一人・・・」
ギルドマスター以外の3人も、<学書>という武器を使用している。
その武器は、右手に鉛筆らしきものを持ち、<学書>を開いて何かを書いていく。そうすることによって、謎の、数式らしきものが飛び出る。そして呪文を唱えると、強力なエネルギーが放たれる――。
「チ、地味なことしやがって」
「来るなら、早く来なさい。愚かですよ・・」
「なんだと、てめぇ!」
タケイのスキルが発動されようとしていた。
「くらいやがれ!」
!「剣の舞」!
千本ほどにも及びそうな、剣の嵐が相手ギルドマスターに降り注ぐ。
「どうだ、受けれるか!」
「非力な・・」
相手ギルドマスターの<学書>から、数式らしきものが飛び出す。
「limN→∞Σk=1nf(k/n)*(1/n) = ∫01f(x)dx・・・・・」
その呪文とともに、タケイの唯一のスキルが一瞬にして無力化された。
「なっ・・・」
「これを覚えるのは、とても大変なことですが、好きなことですから。
頭がよくなると同時に、戦闘力もあがる・・・
素敵な武器だとは思いませんかねぇ?」
そして、さらなる数式が<学書>から飛び出す。
「周りも見たほうがよろしいですよ・・・」
「はっ!?」
タケイのうしろで、なんとカイトが戦闘不能になっていた――。
「カイト!?おい、うそだろ・・・」
「こっちのメンバーは残り2人。3人もやられてしまいましたが、190レベル代ならば、2人おりますから・・そう、私とこの人、です。つまり、あなたがたが倒したのはレベルが一桁の人たちだったのですよ・・。安心してはいけませんねぇ。」
タケイの目の前に、190レベル代が2人。相手ギルドマスターはなんと196レベルだった。
「戦闘不能状態の特徴・・ご存じですよね?
このように、体が動けないのですが、五感は生きています。見ることも聴くこともできます。
そして、痛みを感じることも・・・」
「おいやめろ、タブーだろ、それは・・!」
相手ギルドマスターの<学書>から飛び出していた数式が、カイトの戦闘不能の身体を襲う。
「∫ab[π{L(x)}2 - π{S(x)}2]dx ・・・・」
「やめろぉおおおおおおおおお!!!」
莫大なエネルギーが解放され、カイトの身体を押し潰す。
「痛みを声に出すこともできません・・・ただ、ひたすら痛みを感じることしかできません。
醜い、非常に醜い」
「お願いだ、やめてくれ・・・
俺を倒してくれ、負けでいい・・」
タケイの、タケイの、必死の願いだった。
「いけませんねぇ。このルールはサバイバル。どちらかの人数が0になるまで終わりません。
私はあなたを倒しませんよ。いやでもね」
そして、次々と相手ギルドマスターの<学書>から数式が飛び出す。
その<数学Ⅲ愛好会>の戦いぶりに、会場からブーイングが巻き起こる。
「死ねぇええええええええええええええ」
「生きてる価値ねえぞおおおおおおおお」
「やっちまえ、タケイィ!!!!!!!」
タケイのスキルがたまる。
「くらえ・・」
!「剣の舞」!
「おや?またそれですか。仕方ありませんねぇ・・・
limN→∞Σk=1nf(k/n)*(1/n) = ∫01f(x)dx・・・・・」
「くっ・・・」
無力化されるスキルに、もう何もできない、タケイ。
「お次はあの人の身体を破壊しましょうか。」
相手ギルドマスターの視線の先には、ユーヤ。
「おい、それだけはやめてくれ、頼む」
「頼む!!!」
圧倒的力量を前にして、タケイは土下座という手段にでた。
「おい、さすがにやめようぜ、マスターさん。」
もう一人の相手の生き残りが相手ギルドマスターにいう。
「・・・そうですね。
では、私の最強スキルで葬ってあげましょう。そう、それがいい・・・
フハハハハハハ!!」
相手ギルドマスターの武器、<学書>が赤く光る。
その輝きは、すべての武器を凌駕するほどのものであったであろう。
あたり一辺に風が舞いおこり、<学書>から飛び出た数式を天まで届かせている。そして・・・
!「limn→∞(ab± b n) = α±β, limn→∞(anb n) = αβ, limn→∞(an/b n) = α/β」!
核兵器のごとく、タケイの目の前でエネルギーの爆発がおきた――。
「ぁ・・りがとょ・・へへ、感謝するぜ」
<TkD>、決勝トーナメント1回戦、敗退。