第5話 我、嫉妬む神なり
桜お姉ちゃんの責めから開放された後。あまりに僕が悶絶するもので心配したらしく、桜お姉ちゃんが治療の術をかけてくれた。そのおかげで筋肉痛はすっかり快癒した。はじめからそうして欲しい。
混乱するリリアさんに、僕のことを簡単に話した。僕がロリババアを愛していること。地球にはロリババアはおらず、何とか自分の手で作り出そうとしたが、志果たせず事故死したこと。転生して、ロリババアの存在するこの世界にやって来たこと。特殊な技能を使って桜お姉ちゃんを『創造』したこと。ゆくゆくはこの世界でロリババアのハーレムを作り、彼女たちを心行くまで愛でたいこと──。
「……改めて聞くとひっでぇ経緯じゃなあ……」
失礼な。この世界にロリババアを愛でる以上に素晴らしいことなどないというのに。
リリアさんは長い耳をすまして、僕の話をじっと聞いていた。やがて、口を開く。
「お話は分かりました。いいでしょう、その話、お受け致します」
マジか。即決されるとは。自分で求愛しといてなんだが、僕が一番驚いているかもしれない。
「……性急すぎやせんか? もう少し考えた方がよいかと思うがのう」
桜お姉ちゃんは胡乱気な眼差しをリリアさんに向けている。リリアさんはそれに、首を横に振って応じた。僕の方を真っ直ぐ見やると、
「明日をも知れぬ流浪のこの身。逡巡して後悔を残すよりは踏み出したいのです。貴方はかなりの、変たぃ……、いえ。と、特殊な趣味の持ち主ですが」
……今変態って言おうとしなかった?
「私に向ける好意は非常に真っ直ぐで、正直な方と見受けました」
「確かに自分の欲望には正直じゃな」
失敬な。
「それに、貴方はとても、その……可愛らしいですし、私の好みです」
少し頬を染めながら、リリアさんが言う。今まであまり実感していなかったが、魅力200の効果だろうか。それとも単にリリアさんがショタ好きなのか。
「更に言えば、私は今まで求愛などされたことはありませんでした。だからこそ嬉しいし、できるだけその気持ちに答えたいのです」
「……え、ないんですか? こんなに綺麗なのに……」
驚いて、思わず聞き返した。驚くなと言うほうが無理だろう。人間離れしたこの美しさ。男なら誰しも放っておかないように思えるのだけれど。
「……理由はいくつかあります。第一に、ハイエルフ同士の結婚では、魔力の低いものと婚姻することは稀です。魔力の大きさは遺伝によるところが大きく、魔力に特化したハイエルフの集落で魔力が低い子は、それだけで生存に大きな枷を負いますから」
「ハイエルフの里はすぐに出てしまったんでしょう? 他の種族から求愛されることは?」
獣人や人とハイエルフが交配できるのかは知らないが、僕の求愛を受け入れたことから考えて、人とハイエルフの恋愛も全くないとは言えないはずである。問う僕に対し、リリアさんは、ため息をつきながら言った。
「軍人や傭兵稼業を専門にした身の悲しさでしょうか。私は日常生活の多くをこの鎧の中で過ごすのです。いつなんどき、敵に襲われても対処できるように。多くの人は、私を避けました」
常在戦場というやつだろうか。そこまで堅く考えなくてもいい気がするのだが、まじめなリリアさんらしいというか。確かに、魅力-100などというとんでもない補正が常時ついていたら、まずモテないだろう。僕だって鎧の中身であるリリアさんの姿をこの目で見るまでは、あまり近寄りたくないと思ってしまった。鎧はよく磨かれているが、関節部などに黒ずんだ血がこびり付いているのが嫌でも目に付く。見た目の圧迫感と相まって、正直かなり怖い。
「……いや、それにしたって、食事のときくらいは外に出るでしょうに」
むしろギャップ萌えで人気が出そうな気がするのだけれど。その言葉に、リリアさんは俯いてしまった。暗い声で、続ける。
「……獣人や亜人、人間種族の理想の女性像というものを、想像できますか?」
「え? うーん? 優しくて可愛い、とかです、か?」
自信なくそう答える僕に、リリアさんはがばっと顔を上げた。
「違います! 彼らの理想の女性とは! 胸や尻が大きく! 肉付きが良く! 子供をガンガン産めるような! そんな女性なのです! このような……」
言って、彼女は自分の胸に手を当て、腹まで撫で下ろす。ぺったーん↓ という効果音が尽きそうなくらい、見事に何の抵抗もなく、手は下りて行った。
「このような、絶壁など……だれも見向きもしなかったのです! かつて私が一軍の将であったころにつけられた渾名、何だか分かりますか!?」
「え!? い、いや、……」
「『絶壁』です! 『その者武芸によく優れ、一切の敵を寄せ付けず、あたかも千尋の絶壁の如くなり』。
……分かってますよ、別に私の体型や恋愛歴を揶揄してつけられた訳じゃないってことくらい! けど私の同僚なんかみんなそのネタで私のことをからかってきて! しかもそういう連中に限って奥さんは皆グラマラスな美人なんですよ!
馬鹿にして! 馬鹿にして! わ、私だって恋愛してみたいんです! う、うわああああああああああああああああん!」
とうとう泣き出してしまった。この世界の美的感覚はロリ体型に対しかなり辛辣のようだ。子供を産み育てる母親としての役割が、地球よりも強く求められるのかもしれない。
リリアさんの最初のきりっとしたイメージは完璧に霧散してしまっている。何と言うか……仕事をバリバリこなすキャリアウーマン、けれど陰では全然恋人ができなくて嘆く人というか……凄く残念なお姉さん臭がする……。いやま、嫌いじゃないですが。むしろ大好物ですが。
うなだれる彼女の手をとり、僕の頬に押し付けた。そのまま上目遣いに彼女を見やる。
「リリアさん。他人の評価なんかそんなに気にすることはありませんよ。実際、僕はリリアさんのこと、とっても綺麗だって思いますよ。それに、とっても強いし物知りだし、かっこいいなあって。
僕は武芸も学問もからきしなんです。リリアさんに、手取り足取り教えてもらいたいな」
僕の言葉に、リリアさんは潤んだ瞳を向けた。……あれおかしいな、何か恋愛ベタな年上の女の人を誑かして貢がせるホストみたいな気分になってきたぞ。僕は純粋にロリババアを愛しているというのに。
そんな僕の思惑をよそに、リリアさんはひし! と僕の頭を抱き寄せた。
「承知しました。このリリア、身命を賭して貴方を守り、貴方を愛すると誓いましょう!」
彼女はそう、高らかに宣言した。
こうして、僕はロリババアハーレムへの第一歩を踏み出したのだった。……。……。……。……。今の僕の、正直な気持ちを告げていいだろうか?
……さっきから桜お姉ちゃんが、僕のことを薄汚いゴミでも見るかのような超絶冷め切った目で睨んでいて、滅茶苦茶怖い……。
完璧超人の見せる弱みは短所ではなく長所