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日本新世界紀行  作者: 魔王
カレニア侵攻編
2/12

D-D

ここは、ムー大陸にあるアレドニア王国のカレニア辺境伯領、レープ港町 


その酒場において、その地では異国情緒あふれる服装をしていた3名が酒を酌み交わしていた。

二等書記官山本拓也と、駐在武官の鏑木誠司陸軍大尉、もう一人は、民間人の村上武。


最近何かと落ち込んでいる、山本を励ますつもりで、鏑木が酒場に連れ出したのだ。

領事館にも酒はあるが、殆どは贈答用や賄賂用の酒だし、それ以外の酒は何か祝いの時でしか飲めない。

それゆえに、自由に酒を飲むなら、外にいかざるをえない。


「山本殿は、何か気がかりの事でもありますかな。やはり例の件がどうしても心配ですかな」

「いや、師範代。彼の気がかりは、例の件の事より、こっちのことですよ」

と、鏑木が右手の小指を立てた。

「日本に残してきた彼女の事が気になっていましたか」

「いや違う。この地での重要人物の一人さ」

ようやくそれで気がついたのか、驚くように村上が言う。

「あのお嬢様でしたか。それはそれは」

「もう二人ともからかうのはよしてくれ。それより鏑木さん、本当に大丈夫なのか」

「もう何度も説明しただろう。軍の精鋭を使うだぜ。それに君の要望も取り入れたし、大丈夫、心配するなって」

「・・・・そうか。そして彼女は、二度と私の事を信じてくれないだろうな」

彼の本当の心配事を吐露した瞬間でもあった。

鏑木と村上は、お互い顔を見合わせたあと、「まあ、飲めや」と言って酒を注いだ。


村上は、民間人であるが、長野流剣術師範代で、剣術以外の武術や馬術などにも精通した人物である。

現地いる日本人スタッフや、現地で雇った警備兵などに、その術教える為に、特別に国から雇われている人物だ。

ムー大陸の世界では、銃はまだ存在していない。ゆえに銃を持っていても、威嚇にもなら無い。威力も何も知らないからだ。

駐在武官や警備官は銃も携帯しているが、同時に刀を携えていた。そうしないとこの世界では、武官とも警備兵とも見られないからだ。

刀を、ただのお飾りにならないようにする為に、剣術を教える必要もあるが、実際問題、下手に銃を使うと何かと後が面倒になるので、出来れば刀だけで、襲ってくる賊などを撃退したい。

その為にも、村上のような人物が特別に必要とされ、雇われていたのだ。

村上にとっても、ムー大陸行きは、願ったりかなったりであった。

伝統武芸といっても、現代日本においては、実際に活躍できる場が無かったからだ。

ここでなら、会得してきた様々な技も有効にに使えるし、きっと実践できる。

ゆえに彼は、喜んでこの地に来ていた。


その夜の帰り道、人気の無い路地裏に入った所で、彼ら3人は呼び止められた。

村上が持つ提灯(この地に来た日本人は、夜これを良く使っていた。)に照らされて数は6人。


その内の一人に村上は、見覚えがあった。

ついこないだ、ここレープにある日本の商館で、商談で揉めて騒いだいた連中の一人で、剣を抜いたものだったから、彼が峰打ちで倒した相手であった。

「借りは返すぜ」その言葉どおり来たようだ。

剣を抜いて迫る賊に対し、鏑木は舌打ちをした。

「D-Dも近いから、ここでは下手に使えねえじゃねえか」

と言って、ホルスターからシグザウエルP220 9mm拳銃を山本に渡した。

「うちらが駄目な時はこれを使え」

山本は、拳銃を手にして少し震えた。実際、持ったこと撃ったことも無いからである。

「今回は峰打ちなどの手加減はできそうもありませんな」

「というかマジでやばいでしょう」

「背後を頼みます」

そう言って、村上は名刀「信州」を抜いた。彼とてこのような、特に複数相手の実戦は始めてである。

心臓の鼓動が早くなる。彼はひたすら、おちつけ、冷静にと自らに言い聞かせていた。

鏑木の持つ刀は軍刀で、名刀ほどでは無いにしろ、美術品のような柔な刀では無く、より実践的な日本刀であった。

酔いも手伝ってか、ひたすら刀で暴れてやる。と意気込んで刀を抜いていた。

山本は、緊急時用に持っていた無線にて、応援を呼んだ。ただ応援が来た時には、もう勝敗は決まってしまっているに違いないが。


村上は、襲い掛かる暴漢の二人を、立て続けに切り捨てた。

一人目は腕を切り負傷させ、二人目は袈裟懸けに切り捨てた。

しかし考えて切ったというより、体が勝手に動いて切り捨てたといっていい。彼とて殺されるという恐怖と戦っていたのだから。

鏑木は威勢が良かったが、いざ打ち合いになると、相手に押さえ込まれる場面ばかりだった。

特につばぜり合いから、倒されると、山本も銃を撃つしかないと思った。

しかし、銃を手にしたときから、安全装置の位置が分からず、しかもそれを聞きそびれてしまったので、彼はとっさにその拳銃を暴漢めがけて思いっきり投げつけた。

それが運よく相手の顔面に命中、そのひるんだ隙に、山本が刀ふるって負傷させた。

暴漢連中も、村上一人に手こずってるのに、さらに負傷者を出したことに、戦意がうせたのか、「下がれ」と言って撤収していった。

後に残るは、暴漢一人の遺体である。


「助けてくれてありがとう。しかし拳銃は投げつける物じゃないぞ」笑いながら鏑木が言う。

「安全装置解除が出来なかったからな」

「いや、あのまま引き金を引けは、撃てたんだよ。あの拳銃に安全装置は付いていないのだが」

「何だって」と山本は驚いた。その事実を知っていれば、あんなに切羽詰らなかったのに。

だが、何はともあれ、銃を撃たなくて良かった。下手に撃っても当たらないし、大騒ぎになっていたら、計画にも支障が出かねんからだ。

その頃村上は、近くにあった木に手をぶつけていた。

「くそ、情けない」

手が言うことを聞かず、握った刀が手から離れなかったからだ。


そうこうしている内に、領事館から、海保の特別警備隊員と、現地スタッフが来てくれて、遺体を接収した。

何故、海保の特別警備隊員がいるかと言うと、港町の日本商館と領事館の警備と担当しているからである。

三人とも、怪我も無く済んだが、後で領事から、この時期に酒を飲みに行くとは何事か、と叱られる事になる。


翌日山本は、定期連絡として、久方ぶりに外地特務庁に勤める兄である、山本博也と通信衛星介して話していた。

この地に来て早2年。時より、仕事の話とは言え、直接肉親と話す事が出来るのは、恵まれていると思っていた。

「元気そうで何より、そっちはうまくいっているか」

「ああ、兄さんこそ、嫁さんや子供も元気かい」

「ああ、上の子がほんとにやんちゃでな、手に余るよ」

と笑いながら博也は言った。

「ところで、例の件、聞いたぞ。何も直接お前が関わる事も無かろうに」

「いや、兄さん、自分としても作戦成功に、何とか役に立ちたいんだ」

「警察の特殊部隊は、使えなくなってしまったからな。」

「いいんだ。もう気にしなくて。それよりもう一つ頼みごとの件どうなっている」

「あれか、調査中だが本当に良いのか」

「ああ構わないんだ」

「そうか。外務官僚は、遠く離れるからな。俺には向かないよ」



外地特務庁とは、新世界に着てから作った新しい部署である。

表向きは、新しく得た領地運営を担当する部署との事であるが、同時に、この新世界に日本の覇権を進める為の部署でもあった。


日本から一番近い、ムー大陸にあるアレドニア王国を日本の支配下に置く案が、秘密裏に2年間、国防省と協議の場で検討されていた。

幾つかの案が、政府に提出されて、その内の一つ、Dプランが採用された。

その第一段階である、カレニア上陸作戦の決行日は、D-Dと呼ばれ、6月6日に定められた。

この案を昼食を食べながら見ていた石田首相は、一言。

「ふむ、よい出来た」

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