【―それぞれの想い―】
【我が子の死】
昨日、警察から連絡があった……。
娘が死んだと言う電話だった……。
私は、娘を目に入れても痛くない程愛していた……。
なのに、その娘はもうこの世にはいない……。
現実逃避したくなる現実を、必死で受け入れながら私は娘の葬儀を見届ける……。
この30年間……愛する妻と愛する娘がいたから、仕事も頑張ってこれた……。
でも、もう娘はいない……。
今の私の心境を体の障害で言うなら……もう、手も足も動かない状態だろう……。
それほど私は娘を愛していた……。
私は、今年で59歳……。
もう、定年を迎えてもいい歳だ……。
そして、男性が死んでもおかしくない歳である……。
だから、待っていてくれ……。
もうすぐ……
「もうすぐ……そっちに行くからな……」
【友達の死】
昨日、私の親友が交通事故で命を落とした……。
原因は私……ふふふ、いい気味……私の好きな人に手を出すから……
手を出すからいけないのよ……
カッとなった私は、あの子を車が行きかう道路に突き飛ばした……。
勿論、誰も見ていない……
そしたら、あっけなく死んじゃうなんて……
人間なんてモロいのね……ふふふ
でも、安心して……? あなたの好きな彼氏は私が幸せにしてあげるから……
私はあなたの彼氏と幸せに……幸せに……っ!
どうして? どうして、私涙がでるの?
あの子が憎かったのに……っ! 殺意を抱く程憎かったのに……っ!
憎いのに罪悪感で一杯……っ! 私だけ幸せなんて無理よっ!
ごめん……っ! ごめんね! 私、あなたの事……憎くて妬ましかったけど……
でも、好きだった……
本当は……殺すつもりなんてなかったっ!
道路に突き飛ばしたら、怪我くらいするかなって思ってやったのに……っ!
なんで……
「なんで、死んじゃうのよっ!!」
【最愛の人の死】
昨日、俺の好きだった恋人が死んだ……。
突然だった……
その日の前日に冗談であいつは、こう言っていた……。
「もし、私が死んでもずっと愛してくれる……?」
それが現実に起こったのだ……。
もう、これは「もし」なんかではない……現実なんだ!
受け入れたくないっ! こんな現実っ!
でも、あいつの死体を見て現実に引き戻された……。
無残にも形が残っていない死体……。
最悪な事に俺は、あの日あいつが車に轢かれるのを目撃してしまったのだ……。
今日、葬儀が行われている……
遺族の人は、黙ったままだ……。
俺は見ていられず、逃げ出した……。
最愛の人の死を、ちゃんと看取ってやれない男なんて……彼氏失格だ……。
でも、俺弱いから……お前がいないと弱いから……
同じ場所に行ってもいいかな? お前と一緒の場所に行ってもいいかな?
そんな弱音を、心の中で吐いているとある事に気づいた……。
この町、学校、公園、商店街……全てがあいつとの思い出の塊だ……。
そんな思い出が沢山詰ってる町から……
あいつとの思い出から逃げるなんて、絶対無理だ……。
なら、現実を受け入れるしかない……っ!
そう、思った俺はなぜか葬儀場じゃなく、あいつといつも待ち合わせした……ボロいバス停の待合室に来ていた……。
一番思い出があり、一番今の俺にとって苦しい場所……。
このバス停で俺達は出会った……。
このバス停で俺はあいつに告白した……。
このバス停で俺達は将来を誓い合った……。
だけど、もうそこにあいつはいない……。
ただ、思い出だけが通り過ぎて行く……。
あいつは、もういない……。
俺が悲しんでる姿を、あいつが見たらどう思うだろうか……?
きっと、自分を責めるだろう……。
私のせいで落ち込んでるって……
なら、あいつを安心させたい……っ!
あいつには、いつも笑っていてほしいっ!
だから、俺はもう泣かない……っ!
俺は涙を力強く拭うと、立ち上がった……。
俺……絶対お前の事忘れない……
そして、ずっと愛し続ける……っ!
お前は、もう存在してないけど……
俺がお前を愛している限り、ずっとお前は俺の想いの中で生き続ける……っ!
だから、俺の中でずっと生きていてくれ……っ!
俺の想いと共に……っ!
俺は……お前が……
「大好きだからっ!!」