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半竜娘は異界の空に  作者: 名知 あやめ
谷間の半竜娘
4/13

2 はじめての人間と半竜娘

 2話目にして1000近いPV! 皆様本当にありがとうございます。

 ストックが尽きるまでは、1~2日に1話ずつ投稿していく予定です。

 今日も今日とて谷の入り口を目指す。私は飛んでいくより歩いていくほうがいいので、いつも奥の住処からてくてくと歩く。以前はほとんどベッドの上だったからか、足の裏に感じる地面の感触が好きなのだ。

 その途中で黒竜のおじい様のところに寄る。この方は神竜の谷の長老の一体で、私に魔法を教えてくれた竜。血のつながりはないけれど、私を孫のように可愛がってくれるのだ。本当は「長老様」と呼ばなければならないんだろうけど、私は彼をおじい様と呼んでいて、おじい様もそれを許してくれた。

『おじい様ー、こんにちはー』

 おじい様の住んでいる洞窟の入り口で、私は言った。この洞窟は広いので、ちょっと大きな声を出さないといけない。

『おお、リスティアージェ、よう来たな。入っておいで』

『はい、失礼します』

 奥から若干しわがれた声が聞こえて、私は洞窟に足を踏み入れる。中は暗いけれど、竜の目にそれはたいした障害にはならない。それに、ここはいわゆる「勝手知ったる他人の家」という奴だ。

『ふむ、今日はどこからじゃったかな?』

『ええと、竜語と精霊語の魔力に対する作用の違い、あたりからです』

『おお、そうじゃそうじゃ。では始めるとしようかの』

 というわけで、これから昼の時間まで、ここでおじい様に魔法を教えてもらうのも日課だ。これがかなり面白い。流石、おじい様は物知りだ!




     *     *     *



 魔法の勉強を終えて、今日も岩の塔の上。今日は珍しく父様と一緒だ。

 父様は、名をアルフェンストラウドという。それほど年を取っているわけではないが、光の精霊に愛され、光の魔法を使わせたら谷でも父様に敵う竜はいない。私にとっては、優しい自慢の父様というのが第一だけどね。ただ、いつも外の世界へ行っていて、なかなか谷には帰ってこないのが少し寂しい。

『…それで、おじい様に教わって、精霊の皆と花を咲かせたの! 今年は真っ白の花で、とっても綺麗だったんだよ』

 毎年恒例となっているそれは、母様のお墓の周りに花を咲かせること。この辺りは、若干日本人の風習が残っているせいかな? お墓参りなんて、前は一回行った記憶があるくらいしかないけれども。

『そうか。…リスティアージェ』

『?』

『エルディアスに聞いた。外へ出たいか?』

 私は首をかしげた。確かに外へは出たい。が、百歳になれば自由に出られるはずなのだ。半竜の寿命はよく判らないけれど、現在私は五十歳、外見十五歳くらいということを考えると、単純計算しても三百年くらいは生きれそうな感じがする。二百年あれば、それなりに満足いくまで外へ行けるんじゃないのかな?

『出たいけど、百歳になってからだよね? それまでは魔法を練習しようと思ってるの。私には爪も牙もないけど、自分で自分を守れるようになりたいしね』

 幸い、魔法に関してはそれなりに才能があると言われている。きっとそれくらいはできるようになるだろうし、できるようにならないと、と思って練習中だ。

『黒の長老から聞いている。精霊たちとも仲がいい。あるいは、我ら以上の魔法の使い手となるやもしれん、と言っていたぞ』

『ええ!?』

 父様の声は冗談には聞こえなかった。本当だったらお世辞でも嬉しい、けど…恥ずかしいですおじい様。

 顔を赤く染めた私をなだめるように、父様のしっぽが頬をくすぐる。ひんやりした鱗に頬を寄せて、私は呟いた。

『皆、使えるのに使わない魔法多いんだもの…失われた魔法も多くて、もったいない』

『今使ってるのは、それは何だ?』

『今は…外を見るのに視力強化使ってるだけ。結構遠くまで見えるようになるよ、ええと…』

 どこまで見えるか伝えようと、私は外を見た。目を凝らして、なるべく遠くまで見ようとして…

『あれ…父様、あれ!』

 私は慌てて立ち上がって、外をまっすぐ指差した。

 強化された視界の中、点々と見えた赤い色。それを追えば、谷から少し離れたところに、何かがある。

 人の形だ。金色の髪に、赤い色がまだらについていて、背中もべったり赤くて…

『人みたいな形してる、怪我してる!』

 父様は、既に首をもたげてそれを視界に捉えていた。

『何者だ…すまない、少し行ってくる』

 体を浮かそうとする父様を、私は慌てて呼び止めた。

『まって父様、私も行く!』

『リスティアージェ…しかし』

 言葉を遮って、私は言った。

『父様、治療の魔法、使える?』

 竜の皆が使えるのに使わず、忘れ去った魔法の中に、治療魔法もある。竜は総じて魔法で傷つくことはなく、竜の鱗を貫けるような攻撃なんてほぼ皆無。もし万が一傷ついても、回復力が強いため、放っておいても魔法並みの速さで治る。そのため、わざわざ治療に魔法を使うことがなくなったのだという。

 案の定、父も治療魔法を知らなかったらしい。しばらく考えた後、私に背を示した。

『乗りなさい』

 父様の背に飛び乗るや否や、父様の体が宙に浮く。ほとんど時間を置かずして、私たちはそこにたどり着いた。

『これは…』

 男の人、だと思う。うつぶせに倒れているから、多分、だけど。うっすらと覚えている記憶から言葉を借りるなら、「ファンタジー小説に出てくる騎士みたいな格好」と言えばいいかな? 金属の鎧を着ているけれども、その背中の部分が見事に砕けて、真っ赤に染まっていた。

 流石に、ちょっと怖い。前の「私」の病気は特に血を見るものではなかったし、竜の皆は怪我をしない。せいぜい自分が転んだり、落ちたりした傷くらいしか見たことはないから…でも。

『治す、ね…』

 きっと私は今真っ白な顔をしているだろうけど、私が治さないと…死んでしまう。怖くても、頑張る。そのために父様に無理を言ってついてきたんだから…。意を決して、傷口の上に手をかざした。

 「るる…るぅ…くる…」と、喉を震わせて魔法を紡ぐ。傷をふさぐものと、本来あるべきではないものを消す魔法。鎧の破片とか、感染症とか、怖いし。いつもは自分の怪我にしか使っていなくて、こんな大怪我を治すのは初めてだけど…多分これで大丈夫だと思う。かざした手から、青白い光がはらはらと落ちて、傷口に染み込んでいく。やがて光が全て傷口に染み込んだ。一旦出た血は戻らないから、見た目は相変わらず真っ赤だけれど。

『これで大丈夫、だと思う』

 思っていたよりはっきりとした声が出た。父様を見上げて、首を傾げる。

『治したのはいいけど、この人間どうしよう?』

 父様は、少し悩んでいるようだった。まあ、私たちの住処には連れて行けないし、なら何処に持って行けばいいのかなんてわからない。放置かな? ここはあまり居心地よくなさそうだけど。

『うむ…少々距離はあるが、人の住む場所まで運べばよいか』

『なら、私は先に帰ってるよ。外にいたなんて、知られたら大変だ』

 神竜の谷の方角はあっちだから…私が飛んでも、そう長くはかからない距離で、ちょっと安心した。できれば誰にも見つからないように帰りたいところだ。

 と。視界の端で、何か動いた。

「う…うぅ…」

 ひ、人っ!さっき治した人、動いてるよっ!!

『と、父様父様! 起きたかも、どうしよう!?』

 お前一応人間だろう、といわないで欲しい。私の意識としては、自分の種族は竜に近いと思ってるし、そもそも母様以外の人間は始めて見たんだから。

 思いっきり慌てふためく私の前で、彼はゆっくりと身を起こしていった。


 感想、批評、誤字脱字やおかしな文章の指摘など、心よりお待ちしております。

 なるべく文章内で全ての説明をしようとしていますが、後々あとがきに若干説明が入るかもしれません。

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