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04 - 解と終

――発動。

 ゆっくりゆったりと落下していくカードに向かい念を、心を飛ばす。

 瞬時に飛ばされた心は落下するカードと共鳴し合い、私の想いに反応し”幻想が現実を侵食”し始める。

 ”心の壁”、心壁(しんへき)を崩す。

 遮られた物が消えて、もちろん二体のイブツが、こちらに向かってきた。

「えぇ? ちょ、うわああ、か、壁が壊れた!?」

 後ろに立つ夏目拓海と名乗った彼は、腰を抜かして驚いた。

 喜ばしい歓声と反応。うん、やっぱり恐怖する声は最高の特効薬だわ。

 でも、夏目拓海に恐怖心を与えるのは危険だから、

「大丈夫よ。みてなさい」

 と頭を下げて感謝して欲しいくらいに、私は珍しく優しい声で彼に言う。

――想像。

 幻想が現実を侵食し、幻想は幻想でなくなる。

 そう、幻想を現実する。

 粉々に壊れた壁の破片一つ一つが、一斉に動いた。

 それはまるで意志がある(ぜん)で一つの生き物のように、二体の異物に襲いかかる。

 その数は約百個。

 大小も姿形もさまざまな百個もある破片を一度にコントロールするのは至難の業。

 だけどプログラム内にアルゴリズム……つまり手順やルールを設定すれば、一番楽で確実な戦術。

「す、すげ……」

「まだまだ」

 もう一枚、カードを口に加えて飛ばす。

――発動。

 左手に持つ私が愛用する大鎌は真っ赤な炎に包まれる。

 無の属性の鎌に属性を追加した。

 これで決める、一閃斬殺!

「てやああああ」

 地を強く蹴り上げ、宙を駆ける。

 二体の敵に向かい――、

 殆ど刹那。

 一瞬で距離を縮める。

――炎斬っ!

 横に一振り。

 たったそれだけで、全ては終わった。


――――――――


 加藤綾香と名乗った彼女は、一瞬で異物の目の前に迫ると二体を同時に斬った。

 直後、斬られたイブツたちは蒼い色の炎に包まれたと思ったら、灰となって消えたのだ。

 そして――

――衝撃っ!

 小さく爆発した。

「……た、倒したのか?」

「ええ。安心した?」

「あ、い、え、う、うん……あ、ありがとう」

 本当はなぜかそこまで喜べないでいる。

 なぜか妙に虚しい感じがするんだ。

 助かったはずなのに何故か嬉しくない。

 救われたはずなのに何故か安心できない。

 大きな穴がポカリと空いたみたいな感じ。

 心のどこか。

 後味が悪い……もしかして、さっきの二体のイブツが僕の心の化身だったから?

 彼女が僕の心の化身を倒したから……つまり僕の心の一部が消されたから、こんな気持になったのかな?

「嬉しくないの?」

「そ、そんなことないよ! 加藤さんには凄く感謝してる!」

「ふぅ~ん。でもアレはアンタの心から生まれた魔物よ? つまりアンタの心の一部。私はそれをいとも簡単に消し去った。だから虚無感はあるはず。それも嬉しさや喜びなんか比にもならないくらいの虚無感が」

「う、うん……実はまったくいい感じはしないんだ」

「やっぱり」

「なあ……消えた僕の心ってどうなるの?」

「知らないの?癒えない傷なんてない」

「良かった」

「けど」

「?」

「アンタは危険だわ」

「はい?」

「だーかーらー。アンタは危険なの。今の今までだけで有り得ないことだらけだったんだからさ」

 刹那という短い時間で、加藤綺華は僕の目の前に現れた。

 視界いっぱいに広がる日本人形のように整った方。

 まるでキスをするかのように顔を近づけられて、ドキドキするぜ……。

「全てを忘れてもらう」

「……はい?」

「ひれ伏せ」

「ぐは……っ!」

 体が勝手に動いて、彼女に土下座をする。

 動かない。動けない。

 自分の体なのに自分の体じゃないかのように言うことを聞かない。

 助けてくれたのに……なんで恩人に襲われなきゃ行かないんだ。

「威圧する。全て忘れなさい」

「あ……っ」

 意識が遠のいて行く……。

 なんだろうか。

 苦しいのに気持ちがいい。

 否。楽になっていく。

 もしかして……僕ってマゾだったのか……。

 そんなどうでもいいことを思いながら僕の意識はここで途切れた。

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