02 - 異と心
「え……っ!?」
スパッと綺麗な音が車両内に響いた。
次の瞬間。目の前で巨大な口を開けていた異物が真っ二つになり倒れていく。
唖然として、その光景を首を傾げて眺める。
一体何が起こったのか?
そして、二つに別れた異物の間から少女が舞い登った。
床から、ドロロンと緊張感の欠片もない効果音を出し。
両手でガラスのように透明で美しい大鎌を持ち、現れた。
翡翠色の長い髪をとこからともなく吹く風に靡かせて、自身の身長の倍の大きさはある大鎌を軽々と振り回している。
「退いて」
振り向きざまに大鎌を僕に向ける。
死んだ魚のような目をした少女は、イラついた口調で言った、
「――一ようやくアキラとカケルが性別の壁を超えた瞬間だったのにさ。バケモノ、アンタの体で全力で罪を償いなさい」
「ちょっとまってええええ! 何でそこでボーイズラブ!?」
「ダマレ。邪魔って言ったでしょ。キサマモコロスゾ」
「はい、すみません……って、あれ?」
何故か僕は頭を下げた。
――威圧!
彼女に睨まれるて不思議な感覚に襲われた。
痛くて、苦しい……。
彼女にギロッと睨まれると僕という一個の存在は、彼女の存在に飲み込まれて潰されてしまう、そんな感覚。
僕より頭一つ小さな少女。
だけど、隣に立っているだけで息すら出来なくなるくらいの威圧感。
否、存在感。
何者なんだ、このボーイズラブ少女は?
「アンタ、何で倒れないのさ?」
「……え?」
「そういえば。何で、ここにいるわけ?」
「……質問の意味が分からないのだが」
なぜ僕が倒れなくてはいけないのか。
なぜ僕がここにいるのか。
前者はともかく、後者のほうは知りたいのは僕の方だ。
少しまて、何でここにいるというのはどういうこと?
ここは電車の中だよね?
いてもおかしくないはず。
おかしいのは消えた人と、現れた異物。
しかし彼女の質問は、まるでおかしいのは僕の方ではないか……。
「きみ……もしかして、何が起こっているか、分かっているの?」
「まあ、いいわ。私は初めてだけど、聞いた話じゃ稀にいるらしいから」
「いったいぜんたい何が起こってるんだ?」
「しかし今だに信じられないわね。私の気合を受けてなお倒れないなんて」
「他の人達は? あのバケモノはなに?」
「……ウザ。何なのさアンタ? 私に惚れてるわけ? うわ、キモい。マジで引くわ。っつか、ダマレの意味が分からないのかしら。もしかして一から日本語を教えなきゃならないわけ。うわ、メンドイ。なにこのキチガイ。人間としておしまいじゃない」
「……」
何なんですか、この少女。普通、初対面でそこまで言いますか。
こっちは何がなんだか分からなくて不安でどうしようもないと言うのに、この少女……否、この女……。
僕がいつまでもおとなしくしていると思ったら大間違いだぜ。
大人をからかうとどうなるのかを教えてやる。
僕が「助けてくれてありがとう。だがな、一言二言三言と多いんだよ。僕だって好きでここにいるわけ」と、きつく説教を初めてすぐに「そこ危ない」と僕を突き飛ばす。
「イテッ! な、なにする……え?」
二つに斬られた異物が……文字通りに二つに別れた。
それぞれ半分の体を再生させて、二体に分裂した。
巨大な異物が二体。
グルルと二体の異物は唸りをあげて、まっすぐと僕を見据えている。
「うそ? な、な、なんで? もしかしてこのバケモノの狙いは……僕?」
「そうみたいね。しかもアンタといい、異物の再生力といい……アンタはかなりの使い手と見ていいわね」
「いい加減にしてくれ。一人で勝手に話を進めやがって。いったいぜんたい何がどうなってるのかくらい教えろよ! アイツは何だ? テメェは何だ?」
僕は彼女に怒鳴りつけた。
バケモノ?
そんなの知らん。全力で逃げればいい。
彼女は何か不思議な力を持っているみたいだから、さっきみたいにバケモノを倒してくれるはずだし。
恐怖?
ありまくる。早くそれを取り除きたい。
だから教えてくれ。
「……誰に口を聞いてるわけさ、アンタ。もう一度、言うわ……ダマレ」
「ハイ、スミマセンでした……っ!?」
――威圧。
まただ。
押しつぶされそうな感覚。
何故かまた頭を下げる。
「けど、私にも非はある。だから特別に話してあげる。ここは現実と同じ空間に存在するけど、現実より上の次元に存在する空間。私たちは異空間と呼んでる。そして、あれは異物。人の心から生まれた化身」
「人の心から生まれた……化身?」
「そう。正確には、あのイブツはアンタの心から生まれたイブツ」
「え?」
「最後に私は……加藤綺華。イブツの力を自在に操ることができる者――」
彼女は言う、
「――心士」