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バタ足の罪びと  作者: 輪っかパパ。
2/8

悪人修行

 小学5年生の頃に『おニャン子クラブ』のファンクラブに入っていた経歴のある輪島政義です。(因みに会員番号14番の富川晴美が私のイチオシだ!)


はぃ、皆さんコンニチワ!


これは、私が最も無邪気で幼稚だった頃の残念なお話。


自宅に中学校の校長が卒業証書を届けに来てから、既に一年近くが経過していた。

今は親友の隆に誘われて清掃業者から賃金の良い建築関係の会社にドューダしたのだが、職場でのガキならでわの馴れ合いを封印する為に別々の親方についていた(それ大事)。


卒業後の一時期は結構幅広く同級生とも遊んでいたが、やはり周波数が少し合わなかったのかも知れない。

それで私と隆の二人で遊ぶ事が多くなった頃に、武広という一つ下の後輩にあたる奴が仲間に入った。


この日も三人で居酒屋で散々飲んで機嫌よくふらふらと歩いていると、それをブチ壊す迷惑な怒鳴り声のような雑音が大きな幹線道路を挟んだ向こう側から聞こえてきた。

どうやら酔っ払ったタチの悪い大学生風の男達が十人ぐらいで大合唱していたようだ(むむむ)。

せっかくの余韻を侵された私は思わず叫んだ。

「じゃっかましいんどいっ!コルァッ!!」

すると、それに触発されたその内の数名が肩をイカらせて、我々を挑発しながら道路の途中まで近寄ってきた。

隆と顔を見合わせて一つの答えを出す。

 いくか!(怒)

しかし、今回はいくら何でも人数的に分が悪過ぎるので、私は道端に転がっていたブロックを地面に叩きつけた(ここがポイント)。

思い切り振りぬきやすい丁度良いサイズになったそれを握り締めて、いざ戦闘開始だ。

「コラァッ!死にたい奴から一歩前ぇ出てこんかいっ!」

威嚇いかくしながら私が近付いて行くと、一瞬怯んだ相手のリーダー格の奴に隆がベストタイミングで渾身の力で顔面に頭突きを放り込んで一発KOだ(超ナイス!)。

私も遅れまいと一番近くにいた眼鏡男にブロックの欠片を振り下ろすと、頭から血を噴き出して倒れ込んだ。

ここでトドメとばかりにサッカー選手並(気分はね)の豪快なキックを顔面に御見舞いする(トーッ!)。

「うわぁぁっ!目がぁぁっ!!」

砕けた眼鏡の破片が刺さったのだろうか、のた打ち回るそいつももう戦力にはならない。

こうなると先程までやる気満々だった相手方も急に戦意を喪失して、全員が勘弁して欲しいと訴えてきた(なぬー)。

「ワジーさん(あまり登場しないが一応私のニックネームだ)やヴぁいっすよ!これ以上はやヴぁいっす!」

それでも納まらずに畳み掛ける我々を武広が必死に止めに入ってくる。

流石にこのままでは収拾がつかないので、仕方なくリーダー格の反省の態度を見届けた上で終了としといた。


見事に騒音公害の元を成敗して(えっへん)立ち去りながら冷静になって考えてみると、交番から300Mほどの場所でのトラブルだったのに気づく(ハッ!)。

しかし、弱みを見せる訳にはいかない我々は、余裕の素振りを演じながらなんとか角を曲がると、急いであの号令を久しぶりに発することになる。

「風のように逃げろぉぉぉっ!!」


それから20分後ぐらいに、どうも隆の様子がおかしいのに気づく(どした?)。

ずっと自分の頭を摩りながら

「なんか、頭のこの辺が凹んでんねん・・・。痛いわぁ 痛いわぁ・・」

更に摩り続けていると数mmの小さく出来た頭の窪みからポロリと落ちた何やら白っぽい小石のようなものを発見する。

遂に痛みの原因を突き止めた(おぉ!)。

「あれ?これアイツの歯やんけっ!」

「がーーっはっはっは」」

頭突きによってしっかりとお土産まで持って帰って来る隆の可愛い一面を垣間見た事件であった。



 ヴァンボボ ヴァンボボーッ

近頃この閑静な住宅街に暴走族が入り込んでくる事が増えてきた。

別に他所でいくら爆音をとどろかせながら暴走行為をしようが知った事では無いし存分にエンジョイしてくれれば良いのだが、自分達が直接迷惑をこうむったり目障りになるような場所での行為は放置しておけない。

そこで、たまに3人で族車が幹線道路を走っているのが聞こえたら、角材を持って道路の真ん中で検問をしたり、コンビになどの溜まり場になり易い所を重点的にパトロールをする事があった。

パトロールの内容としては、地元の極限られたエリアに知らないヤンキー共がたむろをしていると問答無用で襲撃するという非常にシンプルな任務だ。

成敗している最中に通報されると、駆けつけた警官は毎回一応は周囲の手前こちらを責めてくるので私も反論する。

「オドレらが頼ん無いからワシらがやっとんやろがい!事が起こってからやないと動けん奴ぁすっ込んどれやっ!!」

そうなると警官は、決まって一旦たむろしていた連中の方に矛先ほこさきを変更してから、こちらを無難に言いくるめようとした。

「わかった!こいつらすぐ散会させるから、もう許してやってくれ!俺らが悪いんや!!」

そうやって単車を蹴り倒されたり鼻血をぶっ垂らしてる奴らの方が、最後には警官に説教されて帰らされるなんて事もよくあった。


このパトロールで我々が傷害等で逮捕される事が一度も無かったのが不思議に思われる事もあったが、その理由はこの期間中の我々のパトロールエリア内における少年犯罪率の著しい低下に裏付けされていた。



 織姫おりひめ彦星ひこぼしがロマンティックでみだらな夜を演出して間もなく、17歳になった私は人気コミック ”ナニワ金融道” などの影響で少し法律に興味を持ち始めたので六法全書なるものを購入してみた。

法律の勉強と言えば聞こえは良いが、こんなどうでも良い動機で得た知識をロクな事に使うつもりなど初めから更々無かった。

法の抜け道なんかを発見出来たら楽しそうだと何となく思っただけだ。

そして、「なんやったら、これ持って出るとこ出てもエエんやで?」というお決まりのこのフレーズを無性に発してみたくなったからだ。


ほんの僅かに調べただけで私の悪戯心いたずらごころがさっそく騒ぎ始める。

昔から思いついた事はとりあえず何でも即実践してみたくなる性分だった私は、その衝動を抑えられなくなっていた。


そこで、私が最近単車を売った相手である隣の中学の番長だったA君を実験台に使用する(A君のこの日の運勢は凶ですね)事にした。

手口は至って単純だ。

こちらが単車の購入代と同額の現金を貸した形にし、借用証書しゃくようしょうしょにサインをさせてから鉛筆で書いた金額をボールペンで書き換えるだけだ。

そして当初の満額を支払わせた後に、書き換えた差額を改めて請求しに行くのだ(ぶっちゃけただの詐欺です)。


満額を集金し終えて、数日後に電話で追加の支払義務が発生した旨を伝えて集金に行くも、納得のいかない本人(いく訳が無いですけどね)は当然自宅にもおらず逃げ出した。

ここで借用証書の出番だ。

それを持って今度はA君の親に集金に行く。

母子家庭で貧しいながらも苦労して育てた息子が借金を踏み倒している(ガセ情報ネタですが)のを知り、いきどおりを隠せない母親と返済方法の打ち合わせをして帰った。


なんとか期日に返済を続けていたA君の母親から4ヶ月目辺りに今回分の入金を少し待って欲しいと連絡があったので、私は少し声を荒げて改めて返済方法の段取りを立てるべく某喫茶店で落ち合う事にした。

あくまでも金を支払う必要が無いと言い張っている息子に対しての愚痴を零す母親に追い討ちを掛ける。

「なんやったら、この借用証書を持って出るとこ出ても宜しいんやで!?」

とうとう言えた。

なんせ今回のミッションは、この一言が言ってみたかった為だけに行なったようなものだった。

もうこれ以上はこんな辛い思いをこの人にさせる訳にはいかないと感じ始める。

涙をにじませて声を震わせながら、それでもテーブルに頭をこすり付けて息子の不祥事を必死にびる母親の姿を見ていられなくなった私はたまらず席を立つ。

「これ、ここの茶代にしとおくんなはれ。」

結局、この3ヶ月間の追加集金が赤字になるほどの金額をテーブルに置いて店を出てしまった。

私はドアの向こうで感謝の気持ちを大声で何度も何度も泣き叫ぶ母親の声を聞きながら、悪人に成り切るのも難しいものだと改めて感じていた。



 それから暫く経った頃、輪島・隆・武広のいつもの三人と三つ年上の先輩の四人で居酒屋ではしゃいでいた。

すると、いきなり隣の席にいた小太りと眼鏡の中年男性二人が揉め始めて、見る見るうちに取っ組み合いの大喧嘩へと発展していった(およよ)。

すぐ横に居た我々はたまったものでは無いので、思わず先輩が注意する。

「おい!おっさんら喧嘩するんやったら外でやらんかいっ!」

口調は厳しかったが正論であった。

しかし、一向に収まる気配がないどころか益々ヒートアップしてきたところで、とうとう中年共がこちらにまで絡んできたのだ。

えて一切いっさい手は出さなかったが、もう既にこちらのテーブルの上もぐちゃぐちゃになる程荒れていた(ぶひー!)。

そこで、この中年二人組を次の私の実験台に任命する事を決意して実行に移した。

「コラァッ!おっさんら大概たいがいにせんかいっ!!」

それでも懲りずに絡む二人組に続ける。

「オドレらが暴れたせいでワシらのブレスも指輪も傷だらけになったやろがいっ!!オーッ!これ、どないするんどいっ!!」

当時、若い世代の我々のような一部の間では男でも高級貴金属を身につける習慣が流行はやっていた為に、それが丁度都合よい口実になった。

先程までとはうって変わって激しい剣幕で詰め寄られた眼鏡の方が、急に大人しくなって謝罪らしき言葉を口にし始めたが、もう手遅れだ。

「今更、びなんか要るかえっ!これらをどない弁償する気なんかを聞いとんやろがコラァッ!!」

次第に二人組の顔色が変わり始め、仕舞いには店から逃げ出したのだ(げげ)。

我々が慌てて追いかけると、歳の割にはなかなかのスピードで近所の他の店に跳び込んで扉に鍵を掛けてしまった。

それでも諦めずに表で出てくるように大声で促していると、その店の主人がどうやら警察に通報したらしい。

一緒にいた先輩というのが警察の名簿にも既に登録されていた元暴力団員で余計にこちらの状況が不利になる恐れがあったので、ここで先にお引取り願った。

暫くして事情もろくに把握していない店主からの通報を受けて偉そうな態度で駆け寄って来た警官2人にも腹が立った(む!)。

「こっちゃぁ民事の話しとんのに何を偉そうに出しゃばっとんどいっ!コラァッ!!」

確かに一切暴力も振るわず、貴金属を一方的に傷つけられた我々に対して警官はどうする事も出来なかった。

そうなると面白いもので、今度は加害者である中年二人組に店から出てくるように説得し始めたのだ。

初めは頑なにこばみ続けていたが、とうとう眼鏡の中年の方が一人で出てきた。

そこで私は2人が立て篭もっている間にうろ覚えの方式で急遽作成した 「こちらの100万円分の損害を全て賠償ばいしょうする」 という内容の書面を差し出して、警官の前でサインをさせた。


しかし、幾らサインしたとはいえ、この時点ではまだ眼鏡に助かるチャンスは大いにあった。

警官の目の前だったので一見書面が法的に有効のような錯覚におちいるが、実はそもそも民事に口を出す権利の無い奴等の前でどんな紙を見せようがそれ程関係が無いということ。

つまり、私のここからのポイントは

【警官のお墨付きがあった事からも判るように、この書面は警察に行こうが裁判所に持って行こうが必ず貴方は支払わなければならない有効な物なのですよ】

という『振り』を自信満々に堂々と押し切るというのが大切になってくるのだった。


さて、準備は整った。

まずは無理をさせ過ぎない程度にどう追い込んでゆくかが当面の課題になったが、眼鏡との数回の電話や実際に会うなどのやり取りで『支払う意思』を固めさせる事に成功する。

次は具体的な支払い方法を煮詰めていかねばならない。

これは法的な問題や破産宣告でもされて集金不能になる等のこちらリスクを軽減する為に、いかに出来るだけ少ない回数で支払わせるかが鍵だ。

眼鏡の収入やら支出のデータを全て提出させて、時には食事に連れて行ったりしながら支払い計画を進めていく内にある事実に気づく。


 なんで眼鏡だけが一人で全額支払う事になっとんや?


どうやら眼鏡も再三に渡り小太りに連絡は入れたがまったく取り合ってもらえずに、全責任を押し付けられていたようだ(ひでぇ)。

あまりにも哀れではないか。

そうなると、また私の『なんちゃって悪人』のメッキがピリピリと剥がれ出す(みゅぅ・・)。

「もう、半額の50万にしたるわ。」

元々が有って無いような金額だったものの、50%Offは私にとってもかなりの思い切った提示だった。

すっかり100万円を支払う覚悟を決めていた眼鏡が私の手にすがり付いて感謝してきた。

こうなると支払計画も一気に進展し、それから数日後には一括で全額受け取るこ事になった。


これでとりあえずは一段落だが、ここから最後の仕上げに取り掛かる。

「この紙のせいで、えらい苦労しましたなぁ。もうアンタがこれ以上は一切誰にも請求されん為に今この場で燃やしたげますわ。」

「はい、そうして下さい!ほんまに輪島さんのお陰で助かりました!」

私の事を 「50万円をくれた人」 のように勘違いしている眼鏡に、憎き書面に着火する大役を務めるように伝えると、ようやく支払いを終えて一安心した眼鏡は何も知らずに喜んでライターを取り出した。

メラメラと法的に有効だったかどうかも怪しい只の紙切れを炎が包み、今まさに我々の犯罪の証拠を真っ黒な灰に変えてゆくのだった。



 鮮やかな紅葉が並木道を縁取る10月下旬のある日。

武弘から彼女の勤める隣町となりまちのラウンジに連れて行って欲しいと頼まれたので、さっそく隆も誘って出動する事になった。


「あら~ いらっしゃぃませぇ~。」

貫禄かんろく可愛かわいらしさを兼ね備えたママさんと、若くて上質の女の子がズラリと揃った(うひょ)想像以上のなかなか素敵な店だった。

「お飲み物は何になさいますかぁ。」

「ヘネシーおろしといて!」

中学生の頃から同年代が親から小遣こづかいを貰う何十倍もの金を手にしていた私は、何処どこのスナックやラウンジに行ってもそこで一番高い酒を注文するほど既に金銭感覚が麻痺していた。

初めて来店したとは思えないほど気さくでチャーミングな接客態度で我々もどんどん酒が進み、結局ラストまで大盛り上がり(ひゃっほー)で充実できた。

それからすっかりはまってしまい、次第に頻繁ひんぱんに通い始めるようになってゆく。



そして私はこのラウンジ 「ハピネス」 で人生を大きく左右するような様々な出会いをする事になるのだった。



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